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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
2章 獣人自治区

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081 デーモンルーラー

 俺たちが守る十本脚三機には、一応の武装がある。屋根の上に半身を出す形で使う据え付け型の魔導銃が二つあり、銃座に座って攻撃するのだ。それと、ドワーフ兵が操る六本脚が三機。連射出来る魔導銃が九つあることになる。


 既に十本脚の銃座に冒険者が座っており、草原と森の境目に狙いを定めている。近くに居る小隊も同じく、森の中から来る獣人たちに備えていた。

 肝心のドワーフ軍はまだ到着していないので、俺たち護衛で何とかしなければならない。


「あの気配、帝都に来てた獣人と違うな」

「でも獣人は獣人だろ?」


 冒険者たちが不審がっている。俺も同意見だ。

 邪悪な気配をむき出しにするのは、デーモンを完全に制御出来ていない獣人の特徴なのかもしれない。

 ジーンとシェールの気配に似ている。


「おいっ!! 待てって言ってるだろ!!」

「ガキの子守はウンザリなんだよっ!!」


 別の小隊で騒ぎが起こった。あの小隊は退役軍人が集められており、兵站部隊の若い兵士を見下した言動が目立っていた。今回は少し様子が違うな。

 十本脚を守れという兵士を振り切って、退役軍人たちが森の中へ入っていったのだ。


 軍人を勤め上げた彼らが、命令を聞かないなんてあり得ない事態だ。ただ、彼らは獣人に身内を殺されたと聞いている。気持ちは分からないけれど、理解は出来る。命令違反をしてでも獣人を倒したいのだろう。


「リアム、どうすんだ?」

「待機っす。奴らが森から出てきたら一斉攻撃っす」

「そ、そうか」


 うちの冒険者が、あいつら助けに行かなくていいのか、という意思を込めてリアムに問いかけるも、冷たくあしらわれた。


 退役軍人の勇み足は、最悪の結果となった。森に入った老ドワーフたちの叫び声が響き渡る。森の中で本領発揮する獣人たちが、ドワーフを皆殺しにしたのだ。


 森の中からせせら笑いが聞こえてくる。


「全員構えるっす」


 ゴーグルをつけて魔導銃を構えるドワーフたち。俺は魔法で攻撃するので手ぶらだ。


「来ないっすね……」


 しばらく経っても、森の中から出てこない獣人たち。蜂の巣になると分かっているのだろう。あのタイプのデーモン憑き獣人は判断力が低いと思っていたけれど、そうでは無いのかもしれない。


 すると、他の場所でも同じ騒ぎが起こった。退役軍人たちの勇み足だ。結果は同じく、森の中で全滅となる。そしてそれは、夜通し続くこととなった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 夜が明けると獣人たちは波が引くように姿を消した。


 魔導通信機で確認を取るリアム。話の内容からすると、ドワーフ軍全体に、獣人からの嫌がらせ(ハラスメント)があったらしい。


「確かに嫌がらせだな」「獣人マジで殺す」「しかし被害も大きいぞ?」「獣人自治区を朝から攻撃するって言ってなかったか?」


 冒険者たちも耳聡くリアムの言葉を聞いていた。八本脚がいる先頭付近では、獣人たちの攻勢がかなり激しかったらしい。


 一日くらいの徹夜ならそうでもないけど、みんな疲れ果てている。暗い森で動き回る獣人たちの気配で神経を尖らせていたし、明るくなるまでずっとドンパチが続いていたからなあ。


「無事だったかー!」


 真っ黒に塗装された八本脚、ミートグラインダーから顔を出すシチューメイカー。この草原に居るドワーフ軍は一万人強、その半分以上は兵站部隊なので、大佐の彼が指揮を任されているのだ。

 シチューメイカーは「様子を見に来たついで」と言いながら水筒を配り始めた。


 一口飲んだ冒険者の目がバキバキになる。

 水筒の中身はヤバい薬ではなく、ヒュギエイアの杯で作った水だった。汎用人工知能のお墨付きなので、問題は無い……はずだ。

 だけどこれで、獣人の嫌がらせ効果は半減。俺たちは元気いっぱいとなった。


 リアムたち正規兵が敬礼して指示を仰ぐ。

 シチューメイカーは、昨晩の被害は軽微、作戦の開始時間が遅れたが、これから総攻撃を行なうと言っている。


 言われてみれば確かにそうだ。草原の人数が半分近く減っているので、すでに宿営地を発っているのだろう。


「ファーギ、ソータ、お前たちも頼むぞ」

「お前も程々になー」

「了解です」


 いい笑顔で去って行くシチューメイカー。

 あの八本脚は、ドワーフ特製の先鋭的な武装があると聞いている。どんなものなのかは、例のごとく詳しく教えてくれない。兵站部隊だから、そんなに大仰なものでは無いと思うけれど。


「昨晩の嫌がらせで、兵站部隊の人員が不足しているっす。それでオレの指揮下に小隊が二つ加わるっす。冒険者の皆さんに負担がかかりますけど、よろしくっす」


 この草原には、空艇の兵站部隊が物資を運び込む手はずとなっている。

 故に、この草原と獣人自治区を繋ぐ補給路を、死守しなければいけない。それが俺たちの仕事だ。


 しかし守る十本脚が九機に増えたから大変だ。分散して乗り込んでいるけど、手薄になることは否めない。


「おっ?」

「始まったみたいだな」


 冒険者たちがざわめく。俺たちの正面、獣人自治区の方から破裂音が聞こえ始めた。別の方角から聞こえてくる破裂音は、ベナマオ大森林側の門からだ。両脇の切り立った山を崩すのだから、あそこはもう簡単には通れない。


 つまり、ドワーフとエルフ空軍が爆撃を開始、陸空で総攻撃が始まったのだ。遠くの空に半透明の巨大空母が見える。エルフ軍の巨大空艇と形が違うので、あれはドワーフ空軍だろう。



 しばらくすると、森の木を鳴らす風の音しか聞こえなくなった。


「やったか」

「やめろファーギ」


 ドワーフとエルフの猛攻で、獣人自治区が沈黙した。

 俺たちは任務を遂行すべく、十本脚を前に進め始めた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 一方、 城壁の上で話しているのは、ブライアンとブレナ。

 獣人自治区から王都パラメダへ通じる街道には、大きな城壁がある。これはサンルカル王国が獣人自治区を作る際に建設したものだ。外からの攻撃から守るためのものでは無く、獣人を外に出さないための城壁だった。


 街道の両脇はベナマオ大森林。そのなかにドワーフ軍が潜んでいた。


「昨晩の威力偵察で、ドワーフ陸軍は三万五千って言ってたよな?」

「そうね。半分くらいが兵站部隊だから、そんなに苦戦しないと思う」

「そっか。んじゃ、……始めるか」

「あたしも行ってくる。ここが正念場だからね?」

「……ああ、分かってる」


 この城壁は獣人たちによって改造され、壁面に防御魔法陣がビッシリと彫られていた。全長五百メートル、高さ六十メートル、三十メートルの厚さがあり、両脇が山になっている。

 大きな谷に建造された城壁は何人たりとも通さないと、誇らしげにそびえ立っていた。


 先ほどドワーフ軍の空艇からの爆撃があったが、城門の上に居る獣人たちが、障壁を板状にして頭上に展開。爆撃の被害は一つも出なかった。


 そのあと、八本脚の巨大魔導砲が攻撃を開始。しかし城の魔法陣が全て跳ね返した。


 ブライアンは、ブレナと共に移動していく獣人たちを思案げな表情で見送る。周囲に誰も居なくなったことを確認し、ブライアンは使役魔法を使った。

 すると、城壁の中に隠れていた虫型デーモンが溢れ出し、周囲を埋め尽くす。


「お前たち分かってるな? ……まあ分かってないか。よし……行け!! ドワーフ軍を喰らい尽くせ!!」


 ブライアンが虫型デーモンに話しかけるも、すぐに断念。気を引き締めて号令を出した。


 今回の虫は蚊と蟻。蚊は空中で黒い雲のようになり、蟻は壁面に流した墨汁のように広がっていく。


 しばらくすると、城壁を攻撃するドワーフたちから悲鳴が聞こえ始めた。最初に殺られたのは、ドワーフ軍の歩兵たち。


 城壁を壊したあと突入する予定だったドワーフの兵が、蟻に群がられて真っ黒になり、あるいは蚊に取り付かれ血を吸われている。蟻も蚊もデーモンが憑いているので、針のように細い火球が飛び交う。


「意外といけるな……。いや。そうでもないか? 何だあの水は?」


 混乱していたドワーフ兵たちが、水を散布し始めた。虫型デーモンにそれが掛かると、白い煙を上げて滅んでいく。


 回復魔法陣、治療魔法陣、解毒魔法陣、再生魔法陣、四つの効果を、ヒュギエイアの杯で付与された水は、対デーモン兵器として使用されていた。


 ドワーフ軍の建て直しは早かった。

 虫型デーモンを滅ぼしてしまうと、八本脚の巨大魔導砲が幾十も発射された。少し前の攻撃とは違い、一点集中での攻撃だ。

 防御魔法陣もこれには耐えきれず、城壁が破壊されていく。


 ブライアンは内心、この場に居てもいいものなのかと考える。もしかすると、ドワーフ軍を退けることが出来ないかもしれない。

 生き残ることに重きを置くブライアンは、強敵と出会うと逃げる。とにかく逃げて、生き残ることを優先する。今回も例外ではなく、ブレナたち仲間の獣人を見捨てて、この場から離れようと心が傾いていった。


 ブライアンがそんな考え事をしていると、背後に気配を感じて振り向く。そこには、女性三人が立っていた。エリス・バークワースと、ヒト族に見える女性二人。


「ブライアン、どこに行くの?」


 声をかけたのはエリス。この街でよく見かける普段着姿だ。

 ただし、以前の姿から様変わりして、髪の毛やネコ耳、しっぽに到るまで真っ白に変っている。


「あ、ああ、その……」


 ブライアンとエリスは、ブレナを通じて知り合いになったので、付き合いはさほど長くない。以前はそんな関係だったのだが、今見ると上下関係があるように見える。


 天真爛漫だったエリスの瞳は、深く、暗く、ドブのような闇に閉ざされていた。


「新しい虫を連れてきたから、置いていくわ。凄く小さいから気を付けて? あ、それと区長からの言づけ。まだ準備が出来ていないから、もう少し時間を稼いで、だって」


 表情は無い。口だけしか動かない言葉は、冷たくて刺々しい。

 怯えた表情で首を縦に振るブライアン。


「返事は?」

「は、はい、分かりました」

「ふん。行くわよ、シビル、リリス」


 女性二人に声をかけ、城壁を降りていくエリスたち。


 ブライアンは、これまで様々な虫を使役してきているが、憑依させたのは彼では無い。

 希有な召喚師、悪魔を支配するものとして覚醒したエリス・バークワースによるものだ。


 彼女はアリスを失った後、憎しみと悲しみを極限まで膨れ上がらせて、新たなデーモンを召喚した。その結果、呼び出したデーモンは、レブラン十二柱の序列一位であるラコーダ。


 冥界を支配するレブラン十二柱が、ふたたび世に出た瞬間だった。


 エリスはソータを殺害するために、ラコーダの力を借りる。

 ラコーダは世界を手にするために、エリスに召喚される。

 互いの利害が一致した。


 希有な召喚師、悪魔を支配するもの( デーモンルーラー )は、召喚したデーモンと宿主を完全に同化させることが出来る。そのため、レブラン十二柱が地上に現われたとしても、神々は見つけることができなくなった。


 レブラン十二柱はエリスによって全員召喚されている。


 エリスは短期間で頭角を現し、冥界にいる脆弱なデーモンを呼び出し、強制的に憑依させることも出来るようになっている。その結果が虫型デーモンだ。


「おい虫ども、今すぐドワーフを殺してこい。ブレナたちは……、大丈夫か。エリスが指示してるもんな。さて……悪いけど、俺はマラフ共和国に逃げさせてもらうぜ」


 ブライアンはエリスが連れてきた、小さな蜘蛛の虫型デーモンに指示を出す。蜘蛛たちは尻から糸を出し、風に乗り城壁から飛び立った。よく見なければ分からないほど小さな蜘蛛は、気付かれること無くドワーフ兵に取り付いていく。


 ドワーフ兵の鼻や耳から入り込み、小さな牙で噛み付いた。傷口ができると、そこに黒い粘体をこすり付けていく。ドワーフ兵たちは攻撃で緊張状態、蜘蛛に噛まれたくらいの痛みなど、まったく気付いていなかった。


 そして、ドワーフ兵たちが一瞬苦しい顔をすると、これまでとすっかり様子が違っていた。蜘蛛の虫型デーモンが宿主を乗り換えたのだ。


 歩兵がデーモン憑きのドワーフに変っていく。

 そして、我を忘れたかのように同士討ちを始めた。邪悪な気配と共に。



「おいおい、……聞いてねぇぞ。これは……前に起こった事故の再現じゃねえか」


 獣人自治区でデーモンを召喚し始めた当初、経験が浅い獣人の召喚師が簡単なミスを犯した。


 獣人に取り憑いたデーモンが分離して実体化したのだ。それを慌てて滅ぼすと、宿主の獣人が泡を吹いて倒れた。

 当然その場が大騒動となったが、周りに居た獣人たちが介抱して事なきを得た。


 しかし、倒れた獣人が黒い粘体を吐き出したので、回りの獣人が水で流してしまった。

 これが大きな事故に繋がる。


 黒い粘体は下水道の中で、小動物を捕食。魔力を吸って大きくなり、次々と獣人を襲い始めた。黒い粘体は獣人の身体に体液を注入、あるいは強引に飲ませた。その結果、獣人の体内でデーモンが育ち、身体を乗っ取ってゆく。次々と増えるデーモンに、当時の獣人自治区は大パニックとなった。


 ブライアンはその事を思い出していた。


 眼下で次々と増えていく、劣化デーモン。ソータがこの場に居たら「ゾンビ映画かよ」とでも呟いただろう。


「付き合ってらんねぇ……。バルバリ、お前もそう思うだろ?」


 誰に話しかけたのか。ブライアンはその言葉を残し、城壁から姿を消した。

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