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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
2章 獣人自治区

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080 出陣

 昨日到着したエルフ軍は、帝都の獣人に即応し、彼らはドワーフ軍に負けず劣らずの練度で、あっという間に獣人を刈り尽くした。


 皇帝エグバート・バン・スミスはその後、エルフ軍の幹部を城に招き、立食パーティーというか、来てくれてありがとう的な催しを開いたらしい。


 俺は冒険者ギルドの簡易宿泊施設に泊まった。グレイス邸は、すでにもぬけの殻になっている。


 一夜明けて、帝都の惨状を見ながら歩く。


 街の人々は、瓦礫を片付けたり遺体を運び出したりと、とても忙しそうにしている。


 これが獣人がやりたいことなのか。

 建国の邪魔はさせない、という意思表示かもしれない。


 破壊された家屋は、ドワーフ職人ギルドが建て直すと聞いた。このギルドは、家屋に限らず、インフラ、武具、生活必需品、魔道具など、物作り職人たちが集まったギルドらしい。


 職人ギルドは国別で運営されており、上位組織である商業者ギルドの一員でもある。商業者ギルドは冒険者ギルドと同じく、この世界をまたいで活動する組織らしい。


 弥山(ややま)が泊まっている宿に到着。おかみさんに尋ねてみると、すでに発った後だった。弥山はグレイスと連絡を取り合っていた。だから彼女も騙されているかもしれない。そう思って来たんだけど……。


 何か連絡手段を聞いておけばよかった。



「Sランク冒険者になったんだって?」

「みたいだな」


 焦げた匂いの残る石畳を歩いていると、ファーギが声をかけてきた。


「今回の報酬もがっぽりだな!」

「……」

「……まだ立ち直ってないのか?」

「何のことだ」

「ミッシーだよ」

「俺は大丈夫だ。あいつも何か考えがあっての行動だろうし」

「そっか。それならいいんだが」


 ぼんやりしながら歩いていると、初めて見る大きな多脚ゴーレムが列を成して通り過ぎていった。俺が知っているのは二人乗りで六本脚、バイクみたいな乗り方をするやつだ。しかし今のは、大型バスより二回りくらい大きくて八本脚。操縦席は中にあるみたいだ。


「ありゃ軍用多脚ゴーレムだ。中に入って、四人ひと組で動かすんだが――」


 物資運搬用と戦術兵器運用の二種類があり、今のは後者で、大型魔導砲が装備されているそうだ。形は違うけど、超大型の戦車だと思えばいいか。


 戦争の準備は獣人の襲撃で遅れるかと思ったが、さほど影響は無いらしい。ドワーフ軍が全て戦争に参加するわけではないので、今回は帝都を守る軍が別に動いていたのだ。


 戦争に参加するのは、エルフ軍三万とドワーフ軍五万。主力の編成は既に終わっている。


 それと修道騎士団クインテットの五千。彼らは獣人自治区の西側から強襲することになっているのだが、グレイスの件があるのでいまいち信用されていないらしい。


 ゴヤ率いるゴブリン三千は、密かにベナマオ大森林を行軍していると聞いた。

 修道騎士団クインテットのマイアとニーナは、ドワーフ軍がゴヤに確認を取ったらしい。裏切りに繋がるような不審な動きはないそうだ。


 獣人の兵力は五万だと聞いている。ただなぁ、昨日襲撃してきたトライアンフの連中は二千人程度だ。ゲリラ的な作戦だったとはいえ、あの人数で帝都に大ダメージを与えるとは、ドワーフ側も予想外だったらしい。


 一抹の不安を感じつつ、ドワーフ軍の駐屯地に到着した。ファーギと一緒に手続きを済ませ、広大な敷地へ入っていく。


「ものすごい数だな」

「ワシも部品の作成を手伝ったんだぞ?」


 駐屯地にビッシリと並べられた軍用多脚ゴーレムの数々。さっき見た八本脚や物資運搬用の十本脚も並んでいる。十本脚はバスのような形で、そこに俺たち冒険者が乗り込むのだ。


 帝都ラビントンの冒険者ギルドから、傭兵として戦争に参加する冒険者は五千人。軍の指揮下に入れ、という条件の変更は認められなかったけど、当初の参加人数からそこまでの変化は無い。


 参加を諦めた冒険者の代わりに、退役軍人が冒険者として参加したからだ。


「なんだあれ?」

「シチューメイカーの専用機だ。あれ作るのにワシも手伝ったんだぞ? お、ちょっと挨拶してくる」


 ファーギがシチューメイカーを見つけて駈け寄っていく。近くの黒い八本脚を見ながら二人で何か話し始めた。

 あの黒いのは八本脚。つまり戦術攻撃機ということだ。兵站部隊でも役割分担があるんだろうね。


 まだ早朝だけど、もうすぐ出陣となる。陸軍に組み込まれた俺たちは、移動するのに時間がかかるのだ。

 故に、これから出発して、できるだけ距離を稼がなければならない。

 エルフ軍の巨大空挺と、ドワーフ軍の空挺は、時間をおいて出発する。攻撃のタイミングを合わせるためだ。


 作戦に参加する冒険者たちが続々と集まってきた。そろそろ時間かな。


「配置は連絡があったとおりだ。冒険者は、十本脚に乗り込んでくれ」


 壇上に立ったのはシチューメイカー。兵站部隊の指揮を取るみたいだ。ここにいる五千人の冒険者全員に聞こえるよう、拡声機のような魔道具を使っている。少し不満の声が上がるのは仕方がない。俺たち冒険者は、兵站の運搬に従事することになったのだから。


 ドワーフ軍五万は、空に二万、陸に三万と分かれている。その半数以上が兵站部隊だそうだ。こういった物流の一元管理が出来なければ、前線に食糧や武器が届かない。でないと、前線の兵士が死んでしまう。


 だから重要な任務だけどなぁ……。グチグチ文句を言いながら、運搬用十本脚に乗り込む冒険者たち。昨日あれだけ帝都を破壊されたのだから、やり返したい気持ちは分かる。だけど、俺たちがしっかり任務をこなさないと、たくさん死人が出るんだぞ?


 もちろん主導するのは、本職の兵站部隊。俺たちは、お手伝いとなる。


 十本脚が三機連結され、これに五十人が分散して乗り込む。既に物資が積み込まれており、俺たちはこれを護衛するのだ。兵站部隊の護衛多脚ゴーレム三機が付きそい、総勢六十名で一小隊だ。


「そんなに構えるなって。疲れちまうぞ?」

「緊張しない方がおかしいだろ?」


 ファーギは堂々たる偉容だ。俺はまだまだ経験が足りないようだ。


 シチューメイカーが号令を出し、巨大魔導砲装備の八本脚と、軍用六本脚が駐屯地を出ていく。そこに混じるように兵站部隊が続く。


 俺たちの小隊は最後尾。石畳を進んでいると、帝都の人々が声援を送っていた。後片付けの手を止め、生きて帰ってこいと言う。彼らの中には、ここに居る兵士や冒険者の親御さんもいるのだろう。

 両親がいない俺は、少し淋しい気持ちになりながら前を向く。


 南の門を抜け、三万五千人が帝都を出てしまう頃には、太陽が真上に昇っていた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 あれから十日経った。ベナマオ大森林の行軍は計画より少し遅れている。専用の多脚ゴーレムで森の木を伐採して道を作りながら進むというのもあるけど、魔物の動きがかなり活発だからだ。縄張りを荒らしているのはこっちなので、文句は言えないけど。

 それに、これだけの軍事行動が獣人にバレないわけが無い。先頭の部隊は獣人との激しい戦闘が起きていた。


 ただ、後方から押し寄せる圧倒的な物量で、全ての獣人を撃退。あと半日、約六時間で、獣人自治区に届く距離まで迫っていた。ここからでも、獣人自治区の巨大な城壁が見えるくらいだ。


「この先で宿営みたいっす。今日もお疲れさん!」


 操縦席から出てきたのは、リアムという若いドワーフ兵の軍曹だ。彼を入れて四人のドワーフ兵で、十本脚を操縦している。小隊長なので、依頼を受けている冒険者たちの上司だ。この戦争が終わったら結婚すると公言しているので、非常に気がかりな存在でもある。


 しばらくすると森が開け大きな草原に出た。


「あれ? 少なくなってない?」

「そうだな?」


 隣にいるファーギも首を傾げる。三万五千人の行軍だったけれど、草原には三分の一くらいしか居ない。


「ああ、獣人自治区が近いんで、三つに分散したっす。エルフとドワーフ空軍がこの草原に物資を運んで、オレたちは兵站線を確保しつつ、前線とピストン輸送するんで、忙しくなるっすよ。とりあえず今日はここまで。宿営の準備を始めるっす」


 リアムに聞こえていたようだ。

 俺のような末端の冒険者が、軍事作戦の詳細を知っているわけが無いし、教えてくれるはずも無い。今回のような形で、断片的に耳に入るだけだ。何度か詳細を聞き出そうとしたけど「軍規違反になるっす」と言って教えてくれない。


「ありがとうございます。んじゃ準備にかかりますね。ファーギ、頼む」

「おお? またワシの家に泊まるのか?」

「野宿しろって言いたいの?」

「冗談だよ」


 三分の一になったとはいえ、一万人強の宿営だ。広い草原はあっという間に、魔導バッグから出されたテントで埋め尽くされた。

 俺もファーギから魔導バッグをもらったけど、食い物くらいしか入ってない。だから毎回ファーギの自宅兼工房(あばら屋)に泊めさせてもらっている。


 補給物資を無駄に消耗しないようにと、食事は現地調達を推奨されている。俺たちの小隊はほとんど冒険者なので、ベナマオ大森林での狩りはお手のもの。小隊は毎日豪勢な食事を摂っていた。肉ばっかりだけど。


「リアム小隊は敬聴。連絡事項っす。明日の早朝、総攻撃っす。獣人自治区にあるベナマオ大森林側の門、あそこは空爆で破壊するっす。オレたちは正面から侵入っす。もちろん空爆の援護もあるっすよ」


 肉を頬張りながらリアムが言う。


「かーっ、やっとか!」「ようやくかたき討ちができる」「今日は酒を飲まないでおくかー」


「オレたちは、兵站部隊っす。攻撃には参加しないっす」


 殺る気満々の冒険者たちに、釘を刺すリアム。勘違いしてもらっちゃ困る、そんな表情だ。話し方はあれだけど、結構しっかりしているんだよな。先走りそうになる年上の冒険者にビシッと言うリアムを、これまで何度か見てきた。


 兵站部隊が攻撃に参加しないのは、食糧と魔石が山盛り積んである物資を守らなくてはいけないから。仮に食糧が奪われたとしても、魔石は死守しなければならない。奪われでもすれば、獣人の戦力向上に直結する。


 戦えないと分かって通夜状態となる冒険者たち。

 兵站部隊なんだから、分かっていたはずだ。


 食事が済んで、ファーギのあばら屋へ移動。ここには大きな神威結晶から小さな神威結晶を作り出す装置があるけど、ファーギの自宅でもある。

 一人暮らしとはいえ生活の三大要素、衣食住が出来る場所だ。


 行軍初日に発覚したのだけれど、ここは家電製品など無い代わりに、土魔法陣、火魔法陣、風魔法陣、水魔法陣が使われていた。汎用人工知能が勝手に解析して使えるようになったのは、……まあ仕方がない。


 温水シャワーを浴びて、寝る準備をする。

 ファーギはベッド、俺はカウチ。起きると首が痛くなっていることもあるけど、野宿するより全然いい。


「ソータ……」

「ああ……。どうする?」


 今晩は見張り当番でなので早めに寝ようとすると、ファーギも気付いたようだ。宿営にデーモン憑きの獣人が接近している。数はかなり多い。それにこの気配は、エルフの里で感じたものと同じ。帝都に来たトライアンフの連中と違い、獣人と完全に一体化していない不完全なデーモンだ。


 半鐘が響き渡る。ドワーフ軍も気付いたようだ。俺たちの小隊は一番外側に位置しているので、真っ先に戦闘になりそうだ。


「幸か不幸か分からんが、あいつら張り切ってるな」


 月明かりに照らされながら、窓際に立つファーギ。小隊の冒険者たちだろう、やっと戦えるという声が聞こえてくる。

 俺たちは寝るときも装備を外していないので、すぐに工房を飛び出した。

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