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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
2章 獣人自治区

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079 大艦隊

 サラ姫殿下たちと、屋敷の使用人ご一行、それに障壁に閉じ込めたままのグレイスをテーベ城に送り届ける。迎えてくれたモルトとメリルが部屋に案内すると言って、グレイス以外を連れていった。


 ここに来るまでグレイスの障壁を解除しろと、屋敷の生き残りに何度も言われたが、俺は断固拒否した。グレイスの体調が悪いから、なんて言い訳も通用しなくなり、かなり反感を買ってしまったものの、理由を言うわけにもいかない。


 他国の貴族――つまり「グレイスが獣人自治区に通じていた」という事態を収められるのは皇帝だけ。そう考え、謁見を申し出た。緊急だと伝えると、すぐ謁見の間に通された。

 皇帝と俺でサシの話し合いは、すぐに終了した。


 獣人自治区へ攻め入るため尽力してきた修道騎士団クインテット。その中に裏切り者がいた。しかもグレイスはサンルカル王国、バーンズ公爵家の長女である。

 だから、皇帝陛下だとしても「君は悪いことをしました。処刑します」というわけにも行かない。三ヶ国の軍事同盟もあるし。

 結果、ロストと同じく、地下で幽閉されることとなった。


 屋敷の使用人も取り調べを行なうそうだ。外交問題になって同盟にヒビが入らないよう、慎重に対処すると言われた。

 異世界の政治はよく分からないので、プロに任せよう。


 謁見が終わって城の廊下を歩いていると、かなり大人数のドワーフ軍が到着していた。

 大型の多脚ゴーレムに城内の遺体を積み込んでいる。倒れて割れた石像や、血糊が付いた絵画なども運び出されていた。

 ここはもう大丈夫だ。とりあえずファーギと合流しよう。


「おう、大変だったみたいだな」

「そりゃあもう……」


 フラワーガーデンを歩いていると、シチューメイカーに声をかけられた。負傷したようで、包帯を巻いた腕に血が滲んでいる。ヒュギエイアの杯で作った水は、行き渡っていないのだろうか?


 ちょっと付き合えと言われ、ガゼボ(西洋風東屋)のベンチに腰を下ろす。


「大活躍だと聞いたぞ」

「頑張ったんですよ」

「そうか。あまり無理するなよ? それとさっき連絡があったのだが、貴様の連れが帝都を出たそうだ。何か聞いているのか?」

「俺の連れ?」

「エルフのミッシーだ」

「へ? ミッシーが? どこに行ったんですか?」

「東のトンネルを抜けたそうだ。エルフの極秘作戦だと報告が入ってな。ボリスに確認したが、そんなものは無いと言われた。母親が狼狽えていたし、黙って出ていったみたいだな……」


 あいつ何を考えているんだ?

 ファーギは皇帝の命で地球に行ってきたみたいだけど、ミッシーは誰にも言わずに姿を消している。俺にくらいこっそり言ってくれてもよかったのに。


「その顔は……、貴様も知らないみたいだな」

「そうですね……」

「分かった。そろそろエルフ軍の本隊が到着する。帝都の混乱も収まりつつあるし、休んだらどうだ?」

「はい。心配していただきありがとうございます」


 かと言って休むわけにもいかない。

 さっき出来るだけ火事を鎮火したけれど、まだ収束したわけではない。風にはまだ煙の匂いが混じっている。散発的に爆音も聞こえるし。


 シチューメイカーと別れて、冒険者ギルドに向かって走り始めた。


 到着すると、職員から上階へ行くように案内された。街はまだまだ大変だというのに、何やら会議をやっているらしい。部屋に近づくにつれ、言い争う声がだんだん大きくなっていく。職員が会議室のドアを開けると、大乱闘が起こっていた。


「会議じゃないだろこれ。ガキの喧嘩かよ……」


 魔法や魔道具を使っていないので、一線は越えていない。

 職員はスッと下がり、ドアを閉める。巻き込まれたくないのだろう。その中から、顔の腫れあがったオギルビーが出てくる。


「おう、きたきた、なんとかしてくれソータ!」

「そう言われても……」


 ファーギ対冒険者、という構図だ。だからあいつが何かやらかしたというのは分かる。


 オギルビーに話を聞くと、Sランク冒険者なのに依頼も受けず今までどこに行っていたのか、ということが原因らしい。

 会議中にそれを追及され、頑として口を割らないファーギ。それに苛立った冒険者の一人が、野次を飛ばしてこうなった。


 そりゃそうだ。皇帝の勅命で地球に行っていたのだから言えないだろう。


 しばらく観戦していると、ファーギがぶっ倒れた。この会議室にいる冒険者は五十名近くいるので、仕方がない。全員と殴り合っていたので、体力が尽きたのだろう。


 ファーギに回復魔法だけ使って起こす。治療魔法を使うと腫れあがった顔が治ってしまうので、そのままにしておいた。完全に治すと、第二ラウンドが始まりかねない。


「いつつ……」

「我慢しろ。ほら、他の冒険者たちも殴り飽きたみたいだぞ?」


 会議室の冒険者たちは各自席についている。オギルビーが壇上に上がり、会議の続きをするようだ。

 ファーギを立たせ、俺たちも席につく。


「帝都内の獣人と虫型デーモンは、あらかた片付いた――」


 今現在はドワーフ軍が対応しているそうだ。どうやら演習に出ていた部隊が戻り、一気に形勢逆転となったらしい。それで冒険者に、別の依頼が出たそうだ。


 エルフ軍が到着(とうちゃく)次第(しだい)、獣人自治区に反転攻勢をかける。Aランク冒険者以上は、任意で参加。


 この件で話し合っていたようだ。

 そんなのはじめっから分かっていただろう? とも思ったが、少し条件が変わったそうだ。


 冒険者はドワーフ軍の下について、指示通りに動け。


 依頼書にこの一文があったことで、冒険者たちが反発しているのだ。

 傭兵扱いされるとは聞いていたけれど、冒険者は臨機応変に遊撃する予定だったはず。そこが変更されているということは、それなりの理由があるのだろう。


 まあ、臨機応変を言い換えれば、出たとこ勝負だしなあ……。冒険者がバラバラに動いて、同盟軍の作戦に支障が出る可能性も捨てきれない。

 依頼を出しているミゼルファート帝国にも一理あるってことだ。


 だけど、俺は軍規なんて知らないし、割と自由に動いてきたから、ちょっと不安になる。長年冒険者をやっているドワーフたちが、軍規に縛られて本来の能力を発揮出来るのかと考えると、そうではないのだろう。彼らの反応を見ればそれくらい分かる。


 国の考えと冒険者の考え、一長一短だな。


 俺はこの世界に来て二十七日目の小童(こわっぱ)だ。意見を出すこともなく時間が過ぎていく。議論が煮詰まってきたので、オギルビーが結論をまとめ始めた。


「帝都の冒険者ギルド全体で、遊撃に変更するように要望書を出してみよう。しかし変更は無いだろう。俺たちは冒険者だ。依頼を受ける受けないは自由、よく考えてくれ」


 そこで解散となった。


 すると待っていましたとばかりに、職員が会議室に入ってきた。

 どうやらエルフ軍が到着したらしい。

 どうやって来たのだろう? たしか三万人も居るはずなので、トンネルを通ってくるには相当な時間がかかるはず。


 会議室の冒険者たちは、ファーギを中心にして引き続き話し合っている。今回の依頼を受けるかどうかと。俺は参加すると決めているから傍観だ。


「ソータ、ちょっと付き合え」

「えっ?」


 オギルビーは俺を会議室から連れ出して、カウンターまで連れて行く。何事かと思っていると、オギルビーが冒険者証を差し出してきた。


「何ですかこれ?」

「見て分かるだろ? 今持ってるやつを出せ」


 Sランクの冒険者証を渡されたのだ。


「早いと思うんですけど」

「何を言ってる……。お前がSランク冒険者にならなきゃ、他の冒険者がやる気を失くしちまう。ソータみたいに活躍してもランクが上がらない、ってなるだろうが」

「そうですか……」

「そうなんだよ。何だそのシケた面は? 報酬が格段に上がるってのに」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」


 顔に出ていたか……。

 オギルビーの、他の冒険者がやる気を失くす、という言葉に引っかかりを覚えたからだ。


 ――ミッシーはおそらくそれで姿を消した。


 Sランク冒険者という看板で見ていたが、ミッシーが危ない場面は何度かあった。俺が出しゃばって何とかしてきたけど、それがいけなかったのかもしれない。

 だからと言って、今から追いかけて俺が何か出来る話でもない。


「待つしかないか……」


 併設されている酒場に移動し、フルーツジュースを注文する。

 気持ちを切り替えようと思ったけれど、なかなか上手くいかない。思えば初めて冥界に行ったときから、ミッシーとほとんど一緒にいたもんな。


 あまり美味しくないジュースを飲んでいると、冒険者が駆け込んできた。


「エルフ軍が到着したぞ!!」


 えらく興奮しているな。外に出て見てみろ、と促している。

 俺も釣られて外に出てみると、周囲の冒険者は全て空を見上げていた。


「すげえな……」


 空を進んでくる半透明な戦艦、いや空母だ。はっきり見えないのは、たぶん何かの魔法陣だろう。


『隠蔽魔法陣と、防御魔法陣が使われています』

『さんきゅ』


 全長四百メートル、全幅六十メートルってところかな。

 それが十隻。はるか上空にいるので、サイズが間違っているかもしれない。それでも大迫力の船団(・・)だ。


 エルフ軍三万だと聞いているので、一隻平均で三千人も乗っていることになる。


 それがどんどん大きくなってくる。帝都に降りてきているのだ。

 しばらくすると十隻の巨大空挺は、ドワーフ軍のドック(船渠)の中に消えていった。

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