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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
2章 獣人自治区

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077 テーベ城地下室

 ファーギたちは魔導銃と魔導剣を隠し、兵士たちと対峙する。溶解したドアノブは、見えないよう背後に隠した。


「何者だ、お前たちは?」


 民間軍事会社の兵士は、ファーギたちが理解できる言葉を発した。

 ファーギとモルトは顔を見合わせる。地球人の言語ではないため、不審に思ったのだ。


 軍用ヘルメットに迷彩服をまとい、特殊な盾とハンドガンを装備した五名の兵士は、何かあればすぐにでも引き金を引く構えだ。


「ドワーフよ、我々の言葉が解らんのか? こちらは異世界の言葉を必死に学んでいるというのに」

「火ネズミの繁殖を手伝いに来た」

「……なるほど、言葉は解るようだな」

「ロスト・ローはどこだ? 話を進めねばならん」


 ファーギの嘘八百に兵士たちが惑わされ、緊迫した雰囲気が一瞬緩む。


「ロストさんと知り合いなのか? 俺は何も聞いていな――」


 兵士の身体に真紅の縦線が走り、彼は言葉を最後まで紡ぐことはできなかった。

 残る四名も同様の線が現れると、五人同時に真っ二つに斬られ、ゆっくりと崩れ落ちた。モルトの魔導剣の仕業だ。


 途端に警報が鳴り響く。

 今の光景が監視カメラに捉えられていたようだ。


「あーあ……、もう少しロストの情報を聞き出したかったのだが」

「これでロストがこの火ネズミに関与していると断定できました。あとは施設を破壊し、ロストを捕縛すれば良いのです」


 ファーギのぼやきに、毅然と応じるモルト。瞬殺した兵士のことなど全く意に介していない。二人は動き始めた。この巨大な倉庫を破壊するために。


 魔導銃に大きな魔石を装填するファーギ。引き金を引くと、強烈な火炎が吹き出した。

 モルトも魔導剣の魔石を大型のものに交換。両手に携えた魔導剣から天井に到達する炎が噴き上がった。


 灼熱の炎で、火ネズミを育てているプラントが溶解し始める。魔力の炎に包まれる火ネズミですら、高温には耐え切れず次々と焼け死んでいく。スプリンクラーが散水を開始したが、地面まで届かず蒸発するばかりだった。


 広大な倉庫内をファーギとモルトで破壊し尽くしていると、七人の兵士に率いられたドワーフ――ロストが出現した。


「兄上!!」

「ロスト!!」


 ファーギとモルトが叫ぶ。


「あいつらを撃て」


 二人の言葉は届いたはずだ。だがロストは、二人を殺害するよう指示を下した。

 兵士たちは躊躇(ためら)うことなく、携行しているケル・テックKSGを構え、次の瞬間、二人に、向けて発砲した。

 12ゲージの対人用散弾(バックショット)15発が放たれ、ファーギとモルトの命を奪いに迫っていく。


 しかし、105発の弾丸は障壁に衝突して跳弾し、周囲の施設を穿つ。


「何をしている……。地球の軍事力はそんなものか?」


 七名の兵を嘲笑うロスト。


 ファーギとモルトは、魔導銃に類似した武器から攻撃を受けたと見当を付け、崩壊した火ネズミプラントに身を隠す。


 兵士たちは筒状の弾倉(チューブラーマガジン)を取り替え、スラグ弾(一発弾)での射撃を開始した。レンガ壁をも貫通する鉛玉は、プラントを紙くずのように撃ち抜いていく。


 ファーギの障壁にスラグ弾が命中し、衝突した箇所にひび割れが生じた。プラントに身を潜めていなければ、ファーギは撃ち抜かれていただろう。


「おいおい、マジかよ……」


 障壁を張り直しつつ、驚愕を隠せないファーギ。


「ファーギ、囮になってください!」

「はあ?」


 傍らにいたモルトが障壁を蹴り飛ばし、ロストたちの前にファーギの姿を晒す。

 兵士たちは、この好機を逃すまいとファーギに狙いを定める。ファーギは連続で障壁を張りながら疾走し、鉄骨に身を隠した。


「……」


 ファーギがムッとした表情で見やると、そこにモルトの姿はなかった。


 次の瞬間、一人の兵士が真っ二つに斬られ、鈍く湿った音が連続して響き渡る。ファーギが鉄骨から顔を出すと、モルトが兵士七人を全て斬り伏せたところだった。


 それを目の当たりにしたロストは後ずさりする。妹の鬼気迫る形相を見て、脱兎のごとく逃走を開始した。


「兄上……修行をサボっていましたね?」


 あっという間に追いついたモルトが、足を引っ掛けてロストを転倒させる。

 すぐさま馬乗りになって、ロストの顔面を殴打し始めた。


「兄上」

「……ぐっ!」


 モルトの(こぶし)が、ロストの骨を砕く。


「どうして裏切ったのですか?」

「ごはっ!!」


 モルトの拳は血塗れになっている。


「何か仰ってください」

「……」


 モルトの拳から骨が飛び出した。


「よせ。……死んでしまうぞ」


 モルトの手を掴むファーギ。ロストは既に意識を失っていた。呼吸も浅く、死ぬ一歩手前まで殴られたのだ。

 ファーギは魔導カバンから自作のヒュギエイアの杯を取り出し、水魔法を発動させる。

 そしてヒュギエイアの杯に溜まった水を、ロストの顔に注ぎかけていく。


 グズグズになったロストの顔は、瞬く間に元通り。ファーギはついでとばかりに、その水をモルトにぶっ掛けた。


「ワシも付き合いは長いからな、気持ちは分からんでもない。だが、こいつを殺しに来たわけではないぞ?」

「承知しています……けれども」

「けれども? 今はこいつを連れてテーベ城に戻るのが先決だ。殴るのはその後でいい。ワシも殴る」

「……了解しました」

「よっしゃ! 最後に一暴れするか!」


 モルトは魔導カバンからロープを取り出し、ロストを拘束している。

 その間にファーギは魔導銃を無差別に乱射し始めた。


 火ネズミの飼育プラントは既に半壊している。ファーギはそこを完全に破壊。火ネズミを全て殲滅することに成功した。

 そして魔石爆弾を置いてきた方向に狙いを定める。


「モルト、ゲートを開いてくれ」


 モルトは魔導カバンから大型の魔石と魔道具を取り出し、ゲートを開く準備に取り掛かる。


「はい。いつでも結構です」


 その声を聞くと、ファーギの魔導銃が再び火を吹き、通ってきた通路を焼き払っていく。

 魔導爆弾が爆発する瞬間、ファーギたちはゲートをくぐり抜けた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ファーギの仕掛けた魔導爆弾が爆発すると、焼け死んだ火ネズミや飼育プラント、倉庫内の全てのものが吹き飛ぶ。

 巨大な火炎と黒煙を巻き上げ、キノコ雲が発生。それは遠方からも目撃され、写真に収められた。


 この出来事はその日のうちに、ウォルター・ビショップ准将の耳に入ることとなる。


「クソッ!! アラスカで一体何が起きているんだ!!」


 准将は激怒していたという。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 テーベ城は、広大なカルデラの中心部に位置する。かつて火山があった場所は、ドワーフたちの手で削り取られ、平坦になってしまった。

 そうなった理由は、火山から溢れ出るマグマが、高品位な魔石となるからだ。


 そしてそれは、現在も変わりない。


 床も天井も全て魔石で構成されたドーム状の広間は、魔石の岩盤をくり抜いて造られたものだ。奥には二つの大きな部屋がある。

 一つは魔石の採石場。もう一つは帝都ラビントンへ魔石を運び出す集積場となっていた。


「陛下、申し訳ございませ――」


 広間で最後の近衛兵が息絶える。

 五十名の護衛は二名の獣人によって皆殺しとなり、彼の退路は断たれていた。


「ブライアン、ドワーフの豊富な魔石資源は、ここが源泉なのか?」

「多分な。ここ魔石だらけじゃねえか。そこの皇帝を屠った後、ここに爆裂魔法陣を彫り込むとしよう」

「賛成だ。これだけの魔石鉱床があれば、帝都の半分は吹き飛びそうだ」


 フィリップ・ベアーとブライアン・ハーヴェイだ。彼らは最後の一人――尊大な態度で玉座に鎮座するドワーフに鋭い爪を向ける。


「……言い残すことはあるか?」

「何もない。さっさと殺せ」


「そうか。ならば苦しまずに殺してやろう」


 ブライアンがスキル〝牙突(がとつ)〟の(やいば)を振りかぶったその時。


「待て! ブライアン!」


 フィリップの声が響いた。


「ここまで来て何だ。こいつさえ()れば、軍事同盟は瓦解するというのに」


「いや……こいつ、さすがに(いさぎよ)すぎないか? 皇帝エグバート・バン・スミスは、妖精に近い存在で、相当な切れ者だと聞いている。何か策があるように思えてならない」


「そういやそうだな……。おい髭ジジイ、テメエ何を企んでやがる」


 ブライアンが声を荒らげていると、背後のドアからドワーフの援軍が突入してきた。


 獣人の二人を見咎め、メリルは怒りを露にした。


「ここまで来たのに、残念だったな、獣人ども」


「クソッ!!」


 チャンスを逃すまいと、ブライアンは目の玉座に座るドワーフの首を斬り落とした。その首は、不気味な笑みを浮かべたまま床を転がる。


「全員防御だ!!」


 メリルの絶叫が轟くと、ドワーフ軍は盾を構え障壁を張った。


 そして、ブライアンとフィリップの前にいる首無し死体が大爆発を引き起こした。


 こんな至近距離での爆発なら、巻き込まれた者は死ぬだろう。

 だが、ブライアンは瞬間移動で柱の陰に移動。

 フィリップはスキル〝取替(チェンジ)〟で隣の部屋に移動した。


「フィリップ! 無事か?」

「問題ない! そっちは?」

「こっちも平気だ! つかさっきのは何だ?」

「おそらく、影武者だ。精密に作られたゴーレムだろう」

「ちくしょう!! やりおったな、ドワーフ!!」


 魔石の集積場へ逃げ込んだフィリップと、ドーム状の広場に残ったブライアン。

 二人が離れた隙を、メリルたちドワーフは見逃さなかった。


 ブライアンが瞬間移動で攻撃を回避すると、別の場所に姿を現す。

 だが、そこで待ち構えていたドワーフが斬りかかってくる。


「こいつら、対策してきやがった」


 ドワーフたちは、均一な間隔を保ちながら広がっている。どこに移動しても、一息で斬れるような布陣となっていた。

 ブライアンは連続で瞬間移動するしかなくなった。留まることのできない状況を強いられ、舌打ちをしながら打開策を探る。


 しかし彼らの背後にフィリップが現われた。


「俺のこと忘れてんのか?」


 たった一撃でフィリップに殴り殺されるドワーフ兵。それを見たメリルたちは動揺する。


「助かったぜ、フィリップ!」


 その声と同時に、ブライアンはスキル〝足留(あしどめ)〟を発動させた。


「うおい! てめえ!!」


 ブライアン以外、この場に居合わせた全ての者が動けなくなった。巻き込まれたフィリップが抗議の声を上げる。ブライアンはそんなのお構いなしに、ドワーフのリーダー格――メリルの首を落としにかかった。


 ブライアンの爪を避けようと、必死にもがくメリル。だが、スキル〝足留(あしどめ)〟の効果を解くことはできなかった。


 メリルは死を覚悟し、目を閉じた。

 しかしいつまでたっても死の瞬間は訪れない。

 メリルが目を開けると、ソータの(こぶし)がブライアンの顔にめり込むところだった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 危ねえ、間一髪だった。ドアの奥の気配が変な動きを始めたところで、ブライアンのスキルを思い出した。以前トライアンフ本部前で、獣人たちがみんな動けなくなったあのスキルだ。


 ドアを蹴破って駆け込むと、メリルが殺されそうになっていた。

 その瞬間、時間が引き延ばされたので、容易くブライアンをぶん殴ることができた。


 ブライアンのスキルが解除され、途端に動き始めるドワーフたち。


「あ、ありがとうございます!」

「大丈夫そうでよかった。俺も手伝う」

「はい、よろしくお願いします、ソータ様」


 後になって、勝手に入ってきたから罰を与える、なんて言われないよう、一応確認を取っておく。


「状況は?」

「現在は、皇帝陛下の影武者ゴーレムが自爆。しかし、獣人二名の殺害には至りませんでした。こちらの兵力はソータ様を含めて二十二名です」


 ゴーレムの影武者? アンドロイドみたいなやつかな?


「獣人は二人だけ?」

「はい。ですが、奇妙なスキルを使ってきます」

「動けなくなるやつと、瞬間移動か。俺はそいつを先に何とかする」

「了解しました」


 ブライアンとフィリップの姿が見当たらない。広間の奥にある通路へ逃げ込んだようだ。気配を探ると(みぎ)の通路奥に、気配が二つ。俺たちはそこへ突入することにした。


「ソータ様……恐れ入りますが、先頭を歩いていただけますか?」


「ん? いいけど、なんで?」


「いえ、先ほどのスキルであちらが動けなくなったとき、ソータ様は動いていましたよね。もう一度あの力が使われたら、さっきのように解除していただければと」


「ああ分かった」


 しかし、ここは一体何なんだ?

 床も壁も天井も全て魔石だらけ。

 まるで魔石の岩盤をくりぬいて作ったかのように見える。


 通路から出ると、魔石の入った木箱が山のように積み上げられていた。その裏に隠れている気配。ブライアンとフィリップに違いない。


「よぉソータ! 久しぶりだな!」


 姿を現したのはフィリップ。人懐っこい笑顔で俺に話しかけてきた。

 こいつ……、ここに来るまでに多くのドワーフを殺害しているというのに、どういう神経をしているんだ。


「会ったのはほんの一瞬だけどな」

「冷たいな……。エリスが心配してたぞ?」

「そうか。残念だが、お前はもうエリスに会えない」

「言うねえ……」


 フィリップの魔力が動いたので、板状の障壁を張る。後ろのドワーフたちに被害が及ばないように。だが魔力はフェイントだった。魔法での攻撃が来るどころか、俺とフィリップの位置が一瞬で入れ替わったのだ。


 おそらくスキルだ。


 背後にブライアンの気配、正面にフィリップ、その奥に障壁を張ったドワーフたち。通路にいるドワーフたちが出てこられないので、障壁を解除する。


 背後のブライアンの気配が動いた。

 振り返りざまに、ウインドカッターを放つ。


「……誰もいない?」


 気配だけが移動している。そしてそれは煙のように消え去った。

 ベナマオ大森林でやられたのと同じか。ブライアンはおそらく、自分の気配を別の位置に動かせるスキルを持っているのだろう。


 次の瞬間、通路から出てきているドワーフたちの動きが止まった。ブライアンが再びスキルを発動したのだ。しかも、通路の奥からドワーフたちの悲鳴が聞こえてくる。


 ブライアンは(みぎ)の通路ではなく、(ひだり)の通路へ逃げ込んでいたのだ。ドワーフたちは背後からの攻撃に大混乱。そこにフィリップが攻撃を開始した。

 通路から出ているドワーフを、次々と殴り殺していく。


「ふざけんな!!」


 一瞬にして三人が殺された。

 俺は全力でフィリップに殴りかかった。


「む……」


 再びフィリップとの位置が変わった。

 背後にフィリップ。正面にドワーフという状態になり、慌てて動きを止める。


 厄介なスキルだ。


 そう思いながらも、対処の手立てが見つからない。ウインドカッターを放つと、俺に向かってくる。念動力(サイコキネシス)も別のものを掴んでしまう。ならばと障壁に閉じ込めても、平然と外に出てきた。


 障壁の中には小石が転がっている。つまりあれと入れ替わったというわけか。


『あんまり使いたくないけど、ヒッグス粒子はどうだろう?』

『メフィストが使っていた素粒子ですね。いつでも発動できます』


 ヒッグス粒子を意識しながら、フィリップが水飴の中にいるようイメージする。

 すると途端にフィリップの動きが遅くなった。体重が増加したのだ。

 どんどん魔力を使ってヒッグス粒子を送り込んでいくと、フィリップは膝をついて動けなくなった。


「フィリップ」

「ぐっ! クソ、テメエ何しやがった!!」

「短い付き合いだったな」

「ぐほぁっ!!」


 ヒッグス粒子の量を増やすと、フィリップは自重で潰れていく。

 飛び散るはずの血すら、自重で地面にめり込む。


 しばらくすると、フィリップと憑いていたデーモンの気配が消えた。


「メリル、そっちはどうだ?」

「こちらの獣人は姿を消しました……」


 ブライアン……、テメエ逃げ足だけは速いな。



「ん?」


 空間が歪んでゲートが現われた。


「おっ?」

「あらっ?」


 そこから出てきたのはファーギとモルト。

 意識を失っているドワーフもいる。


「いてっ!!」

「王都は大変なんだぞ? どこ行ってたんだ!」


 俺は久しぶりに見たファーギのヒゲをちぎった。

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