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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
2章 獣人自治区

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072 下水道

 グレイスの屋敷の前には、炊き出しの香りが漂っていた。表門の前には巨大な鍋が据えられ、長いテーブルにはワイルドボアと野菜のスープが湯気を立てている。道行く人々やスラムの子どもたちが、温かい食事に舌鼓を打っていた。


「どうした、ソータ?」

「いや、あいつら……」


 テイマーズの子たちが、我先にと炊き出しに群がっている。生活費が尽きたのだろうか?


「ちょっと様子を見てくる」

「私は先に休ませてもらうわ」


 ミッシーもその様子に顔を曇らせたが、疲れを隠せずグレイス邸へと入って行った。


「よっ、おっさん!  何してるんだ?」


 リーダーのアイミーが声をかけると、他のメンバーも気づいた。ハスミンやジェス、三人の幹部は少し離れた場所に留まったが、他の子たちが一斉に駆け寄ってきた。空腹だ、ファーギはどこだ、仕事が欲しい、と口々に訴えてくる。


 俺は彼らの保護者ではないが、さすがに痛ましい光景に胸が締め付けられた。


「……」


 炊き出しを担当するメイドさんに視線を向けると、彼女は申し訳なさそうに首を横に振った。グレイス邸の食堂を使わせるのは難しいようだ。サラ姫殿下がいらっしゃるし、警備上の問題もあるのだろう。


「はぁ……冒険者ギルドで、食事でもするか。お前たち、ついて来い」


「やったー!」「おっさんのくせに、やるじゃないか!」「腹いっぱい食うぞ!」


 はしゃぎ始める子どもたち。アイミー、ハスミン、ジェスは何故か驚いた顔をしていた。俺が食事をおごるなんて信じられない、と言いたげだ。十日間みっちり依頼をこなして、それなりに稼いでいるからね。これくらいの人数なら余裕だ。


 冒険者ギルドに到着すると、は先ほどの混雑が嘘のように落ち着いていた。依頼を受けて南の城門へ向かう者、空腹を満たすために食事を摂る者、その二通りに分かれている。職員の皆さんは変わらず忙しそうだが。


 俺たちは併設された居酒屋で食事するつもりだ。

 テイマーズの面々が、お盆に乗せた定食を次々に運んでくる。どれも非常に美味しそうだ。そして、その量に驚く。サラダ、パン、シチューの三点セットだが、どれも皿から溢れんばかりに盛られている。


「この人数でお金は大丈夫なのか、おっさん」

「大丈夫だ。だが、酒は飲むな」


 お金の心配をされるほど困ってはいない。アイミー、ハスミン、ジェスの三人は、お盆には酒の入ったグラスが置かれていた。いちおう成人しているけど、取り上げておく。


 この街は現在進行形で、デーモンの脅威に晒されている。東西の防衛は成功し、北にはスクー・グスローが向かったとはいえ、南の城門はまだ交戦中だ。こんな時に酒を飲んで判断力を鈍らせるなんて愚の骨頂だ。


「酒くらい、いいだろ?」

「ダメだ、ハスミン。緊急事態に即応できなくなるぞ?」

「……あー!  飯が不味くなった!」


 ハスミンは文句を言いながらも一気に食べ終えると、冒険者ギルドを出て行った。アイミーやジェス、他のテイマーズもそれに続く。


「はあ……」

「どうした、ソータ」

「難しい年頃だなと思ってさ」


 ギルマスのオギルビーが声をかけてきた。手には定食の乗ったお盆を持っている。休憩に入ったのだろう。彼は俺の前に腰を下ろした。


「あの反抗的な連中は、スラムで辛い経験をしているからな。人を信じないし、何か言われると反発する。依頼をすっぽかしていた件も、まともに話をしないし、困ったやつらだ」


 地球に行った件はさすがに話していないようだ。


「ファーギが面倒を見ているんですよね?」

「ああ、そうだ。彼の言うことはある程度聞くんだがなぁ。……そういえば、ファーギさんは?」

「俺も見ていないですね。どこをほっつき歩いているんでしょう?」

「見かけたら、冒険者ギルドに一度顔を出すように伝えておいてくれ」

「分かりました」


 凄まじい勢いで食事を済ませると、オギルビーは仕事に戻っていった。


「おや、ソータ様、こちらにいらっしゃったのですね」

「グレイスか……」


 冒険者ギルドに入ってきてすぐ俺を見つけ、テーブルに近づいてきた。


「失礼します」


 グレイスはしれっと俺の前に座る。何度か見かけた、あの綺麗な鎧を着込んでいた。南側のデーモン討伐に参加するのだろう。


「どうしてそんなに嫌そうな顔をされるのでしょうか?」

「え、そんな顔していました?」

「それはもう、口いっぱいにお酢を含んでいるようでしたよ?」

「気のせいですよ」


 俺がグレイスを苦手としているのを知っているだろう。


「ソータ様もこれから南の城門へ向かわれるのですよね?」


 俺も食事をしようかと思っていたが、そこまで空腹を感じない。だから屋敷に戻って仮眠を取るつもりだったが、まあいいか。


「一緒に行きます?」

「ええ、もちろん!」


 グレイスはぐいっと顔を寄せてくる。金色の髪と青い瞳、整った顔立ちの美人だけど……。鼻の穴を膨らませ、目を見開いていて、怖い。また秘密がどうだとか言われるのだろうけど、受け流しておこう。


「サラ姫殿下の護衛は大丈夫なんですか?」

「ええ、もちろん問題ありません」

「そうか。それでは行きましょう」



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 自室に戻ったミッシーは休もうとせず、装備を変えてエレノアの元へ向かった。屋敷のメイドに居場所を尋ねると、エレノアは自室にいるという。急ぎ足で向かい、ミッシーは部屋に入った。


「よかった……私の娘が無事で。そろそろ冒険者は辞めてくれないかしら?」


 家具の位置や窓の場所も、ソータの部屋と同じだ。バーンズ公爵家の来客用宿泊部屋だ。


「そうもいかないわ。母さん……実はさっき、冥導を見たの」

「本当?」

「本当よ」

「クソッ、獣人共め!  冥導を使ったのは一人?」

「いいえ、十人以上いたわ」

「……デーモンを完全に制御しているということか」

「おそらく」

「心当たりは?」

「エリス・バークワース」

「でしょうね……イーデン教の書状にも、エリス・バークワースの殺害が協力の条件だと記されていたわ」


 エリオット親子はその場で考え込む。エリスが召喚したデーモン、アリスは、獣人に憑依したデーモンの中でも上位の強さを誇る。


 デーモンを呼び出す魔法陣の使用は禁忌とされ、使える者も限られている。それなのにエリスは自分でデーモンを呼び出すことができる。この意味に、まだエリオット親子は気づいていない。


「とりあえず母さん、南の城門を抑えれば、デーモンの件は落ち着くと思うわ。寝ようと思っていたけど、もう一度行ってくる」

「あんたねぇ、族長だったからって、そんなに頑張らなくてもいいのよ?」

「……分かってるわ」


 母親の心配をよそに、ミッシーは部屋を出て行った。そしてこの時、エレノアは自身が所有する祓魔弓ルーグが無くなっていることに気づいていなかった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 南の城門に到着すると、城壁の上に誰もいなかった。戦いの気配はもっと遠くにあり、冒険者とドワーフ軍が獣人を押し返しているようだ。隣にいるグレイスと一緒に、城壁の上から南の砦を見ている。あそこも焼け落ちているが、すでに制圧されつつある。


「来るまでもなかったかな」

「そのようですね」


 ブレナクラスの獣人はいない。デーモンを完全に制御し、冥導を使える者もいないようだ。あとは軍に任せて、戻って寝よう。


 ――ドン

 ―――― ドドドン


 背後から、つまり街の方からの爆音で振り返る。街の至る所から煙が上がっていた。爆発はまだ収まっていない。あちこちで炸裂音と新たな煙が立ち上る。逃げまどう街の人々は、みな疲れ切った顔をしていた。


 昨晩は火ネズミ、夜が明けたらデーモン、挙げ句の果てには街中で無差別に爆発が起き始めたか。


「どういうことだ?」

「ソータ様、急ぎましょう!」

「急ぐって?」

「……」


 先走ったみたいだな、グレイス。爆発は誰か敵対勢力の仕業だと分かるが、帝都のあらゆる場所から煙が上がっているのだ。俺たち二人でどうこうできる話ではない。


「冒険者ギルドに行こう。あそこなら情報が集まるはずだ」

「わっ、分かりました」


 冒険者ギルドは相変わらず空いていた。Aランク以上の冒険者は、ほとんどが南の城門にいるのだろう。依頼を受けることができないランクの冒険者は、ここに来てすらいない。もちろん依頼を受けられないからだ。


「オギルビー様、状況は把握できていますか?」

「いえ、グレイス嬢……さすがにまだです。職員が魔導通信で連絡を取り合っているので、じきに解明すると思いますが」


 爆発を見て冒険者ギルドに来るまで約十分。情報が揃うまで、まだ少し時間がかかりそうだ。この爆発は明らかに街を狙ったテロ行為だ。爆破されていたのは民家や倉庫で、無差別に感じられた。


 俺は椅子に座り、気配を探るために集中する。

 冒険者ギルド内にいる人間の気配を排除。表通りからの気配を排除。デーモンの気配を探るため、さらに範囲を広げていく。この区画一杯に広げても、何の気配も感じない。次はゴブリンの里でやったように立体的に気配を探るため、球体を思い浮かべた。


「っ!? オギルビーさん、下水道に獣人たちが侵入しています!」


 知覚できただけでも、二十人以上の獣人が帝都の下水道を移動中だ。この街の下水道はかなり太く、入り組んでいると聞いた。だが、獣人の動きがおかしい。迷わずに移動しているように感じるのだ。


 ギルマスは俺の言葉を疑わずに受け止めた。帝都の冒険者ギルド、ドワーフ軍、街の人々に至急連絡するように、職員に指示を出し始めた。


「ソータ様?」

「今はちょっと勘弁してくれ」

「……はい」


 こんな時に俺の力について追及しそうになったので、グレイスに釘を刺す。


「オギルビーさん、下水道の地図はありますか?」

「おう、ちょっと待ってろ」


 俺はカウンターへ移動し、すぐに戻ってきたオギルビーから地図を見せてもらう。


「うわぁ……、エルフのみなさん、こんな広い場所でゲート閉じてたんだ」

「うちの冒険者も手伝ってるぞ?」

「……ですよね」


 火ネズミの件があったので、地図はすぐに出てきたが……。下水道はまるで迷路のように入り組んでいる。もちろん帝都全域に広がり、冒険者ギルドの下にも大きな下水道が通っていた。


「下水は垂れ流しではなく、一旦地下の人工貯水湖にためて浄化する。主にスライムの役目だがな。そのあとは砂漠方面とベナマオ大森林へ流している」


 スライム、……何を食べているんだ?


「ということは?」

「獣人たちは山越えの部隊と、ベナマオ大森林側の下水溝から入ってきている。しかも、……あまり考えたくはないが、下水道の地図を持つドワーフが手引きした可能性がある」

「それでか……」


 オギルビーの顔が曇った。何か思い当たることがある、そんな風に見える。


「っ!? まずい!」


 気配は探っていたはずだ。しかし、冒険者ギルドの下で大きな爆発が起こった。

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