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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
2章 獣人自治区

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071 冥導とブレナ

 トライアンフの副団長、狐獣人のブレナ・オブライエン。


 エリス・バークワースの友人である彼女は、エルフを強く憎悪している。


 それはまだ記憶に新しい。

 ミッシーたちがトライアンフの本部を襲撃したことで、多数の死傷者が発生したからだ。


 ブレナはミッシーに抱きついて、執拗に短剣を振り下ろした。


 俺がブレナを殴り飛ばすまでの数秒で、ミッシーの首や肩に十回以上も短剣を刺したのだ。


 血まみれで崩れ落ちたミッシーは、意識がもうろうとしている。俺は神威障壁を解除し、ミッシーに回復魔法と治療魔法を使ったが、すぐには起き上がれないようだ。


「ソータ、久し振りだねぇ」

「……」


 ブレナは口の中の血と一緒に折れた歯を吐き出した。

 最後に見たときは、ブレナそっくりのデーモンを連れていたのに、その姿はどこにもない。憑依させているのだろう。


「何か言えよっ!!」


 ブレナは言葉と同時に、素早い動きで青い短剣を繰り出してきた。何だこの短剣は。デーモンに似た禍々しい気配を纏っている。

 あっという間に距離を詰められたのは、何かのスキルを使っているのだろう。


 突き出されたブレナの右腕を、俺の左手で右へ払う。


 体勢を崩したところで、足を引っ掛けて転ばせた。


 泥まみれになった顔で睨みつけてくる。やっぱりおかしいな。


 ブレナの体内にあるデーモンの気配に変化が無い。


 獣人たちはエルフの里で、もれなくワニ顔に変貌していたのに。


 やはり、デーモンを完全に制御している?


 転んでいるブレナの姿が消えた。


「おぶっ!?」


 次の瞬間、彼女の右中段回し蹴りが俺の左腕をたたき折る。


 その圧力で吹っ飛ばされてしまった。


『左腕の回復を開始します』


 痛みを感じる間もなく、汎用人工知能が骨をつなぎ、打撲した箇所を回復させる。


 着地すると同時に、打撃が飛んでくる。


 魔法を使う余裕が無い。


 一瞬でも気を逸らせば、致命傷を食らいかねない速さで動くブレナ。


 俺は必死でブレナの攻撃を避けまくる。


 青い短剣は使わないのか?


 そうこうしているうちに、ブレナの動きに追いつけなくなってきた。


 打撃を次々と食らい始める。


 腕、肋骨、骨盤、脚、様々な骨を砕かれているが、その都度汎用人工知能が回復していく。


 む……。久々の感覚。時間が引き延ばされたように、ブレナの動きが遅く見え始めた。


 危険を感じると、こうなるみたいだな。


 今はこれを活かさねば。


 ブレナの右拳を避け、顔面に頭突きを食らわす。


 鼻がひしゃげる感覚と共に、下から殺気を感じた。


 慌てて飛び退くと、ブレナの青い短剣が振り上げられるところだった。


 ――腕が増えたぞ、おい。


 ブレナの脇腹から生えた黒い腕に、短剣が握られている。


 一対二本の腕はデーモンのものだろう。


 とはいえ今は加速した意識で周りを見ているので、余裕を持って対処が出来る。



「上からコッソリ来ても、バレバレなんだよ!!」


 岩壁の上から襲いかかってきた獣人たち。ブレナほど気配を隠すのが上手くなかったので、全員障壁の中に閉じ込めた。


 けれども獣人たちは、青い短剣で簡単に障壁をたたき割ってしまった。そういえば、ブレナも青い短剣で神威障壁を破壊したな。


 今度はブレナを含めた全員を神威障壁に閉じ込め、さっき使えるようになった獄舎の炎(プリズンフレイム)を使おうとすると、これまた簡単にたたき割られてしまった。


 こいつら、さっきの獣人たちと、動きも装備も異なる……。


「そこのエルフを殺せ!!」


 ブレナは俺ではなく、ミッシーの殺害を命じた。


 まだ足がおぼつかないミッシーに、すかさず三重の神威障壁を張る。


 上手くいった。三重の神威障壁は壊すことが出来ないみたいだ。剣、短槍、鎚、斧、拳、様々な青い武器で攻撃を仕掛けているけど、全てはじき返している。


 指揮を取るブレナの意識が俺から外れたので、三重神威障壁に閉じ込めた。他の獣人たちも三重神威障壁に全員閉じ込めていく。


「ふう……神威障壁を破るなんて、こいつらどうなってんだ?」


 ヨロヨロと立ち上がるミッシーに声をかける。


「具合はどうだ?」

「大丈夫だ。また助けてもらったな……」

「さっきもらった回復薬飲んでみ?」

「……ああ」


 回復魔法と治療魔法で治療したけど、まだ具合悪そうにしているので勧めてみた。胸の内ポケットから小瓶を取りだして、ミッシーは一気に飲み干す。

 効果はすぐに現われた。青ざめた顔に血色が戻り、ぼんやりした瞳に光が宿る。


「何だこれは!」


 シャキッと立ち上がったミッシーが俺を問い詰め始めた。

 ヒュギエイアの杯もどきの効果だけど、今ここでもう一度説明するのはやめにしておく。周りには獣人たちが三重神威障壁の中に居るのだから。

 声は聞こえずとも、唇の動きで話す内容が伝わる可能性も考えないと。


「まずい、離れろ!」


 俺たちは獣人たちから飛び退いた。

 話が漏れるどころでは無い。

 奴ら、三重神威障壁まで破壊しやがった。


「あはははははっ! ソータの障壁もなかなか硬いけど、あたしたちの冥導(めいどう)のほうが強いみたいね!!」


 冥導(めいどう)って何だ? 魔力とは別物ってことか? 神威障壁を破れるという事は、神威と対をなす存在なのかもしれない。


『解析が完了しました。ソータの予想通り、神威と真逆の性質を持つ素粒子です。……神威(かむい)冥導(めいどう)、双方の関連性を理解。今後は神威(かむい)魔法、冥導(めいどう)魔法、この二つが使用可能です』


『……もしかしてさ、あの青い武器が冥導(めいどう)を帯びているってことかな?』


『そうなります。……追加情報です。神威障壁、神威結晶に続き、冥導障壁、冥導結晶の使用、及び作成が可能となりました。それに、ブレナが持つ青い短剣は冥導(めいどう)を通すことで発光しています』


 ほーん……。神威が神の力なら、やつらはデーモン(悪魔)の力を手にしたってことか。


 獣人はブレナを入れて十六人。岩壁の上に感じていた気配は全て降りてきたので、西門の戦力はこれだけか。しかし、ここには虫型デーモンを操っているはずのブライアンがいない。


「ミッシー!! ソータ!! ……お前たちには、ここで死んでもらうよ!」


 ブレナ以外の獣人にも、新たな腕が生えてくる。


「ソー君、いくよー!」

「やべっ!?」


 グローエットが胸ポケットから飛び出し、念話攻撃しそうになる。俺は慌ててミッシーを抱き寄せて、神威障壁と冥導障壁を重ねて張った。次の瞬間、障壁が振動を始め、周囲の風景が白く濁っていく。


 獣人たちは逃げる間もなく、身体がパウダー状になって粉塵をまき散らす。


「あいつ……、仲間の獣人を盾にして逃亡しやがった」

「ブレナか?」

「そそ」


 障壁の中で密着しているからなのか、ミッシーの頬が赤い。だけど今はそれどころでは無い。


 念話攻撃が終わって障壁を解除するとると、グローエットは俺の胸ポケットにいそいそと戻ってきた。褒めて褒めてみたいな顔してるけど、危うく巻き込まれそうになったのであとでお仕置きしよう。

 グローエットは抑えて念話攻撃をしたのだろうけど、それでも半径五十メートルくらいのクレーターが出来ている。


 ブレナが逃げ込んだトンネルに風魔法と火魔法を同時に使った。


『合成魔法を確認。……改良しました。今後は火炎竜巻(フレイムトルネード)として使用可能です』


『さんきゅ』


「お、おい、ソータ!?」

「ぬおっ!?」


 トンネル内の油に引火して、誘爆が始まった。火炎竜巻(フレイムトルネード)を使って大量に空気を送り込んでいるので、爆発で飛び散る破片もろとも奥に飛んでいく。

 そして、天井が崩れ始めると、あっという間に落盤が発生した。


「逃げられたな……」

「すまない、……今回も助けてくれてありがとう」


 ミッシーは目を閉じて気配を探っていた。ブレナの気配を追いかけていたのだろう。他の獣人は全て滅ぼせたけど、……厄介なやつを取り逃がしてしまった。


「ここはブレナたちだけかな。他を見に行こうか」

「ソータ、ブレナ以外もいることか?」

「や、帝都ラビントンに続く街道四ヶ所からデーモンが来てるんだろ? 他の街道にトライアンフの連中が来てるんじゃ?」

「確かにそうだが、ここを守った方がいい。冒険者ギルドに振り分けられた持ち場を離れるのは賢明ではない」

「それもそうか」


 一人だけでどうにかしようとするのは傲慢だ。他の三カ所はドワーフに任せよう。


「東のトンネルは皆殺しにしたよー!」


 胸ポケットからそんな声が聞こえてくる。集合精神(ハイブマインド)の彼女たちは、離れていても同じものを見聞きしているのだ。おっかない物言いにも慣れてきた。


「おーい! もしかして防戦に成功したのかー?」


 他の冒険者たちがここまで来たようだ。ドワーフ軍の多脚ゴーレムも来ている。


「ソータ……」

「どうすっかな……」


 トンネルが落盤で塞がってしまっているので、叱責されそうだ。お互いに顔を見合わせ、弁明を考える。


「よくやった! お前たち見直したぞ!」


 もうお馴染みになってきた衛兵さんがそんな事を言う。彼は軍仕様多脚ゴーレムにまたがって、部下たちを引き連れていた。

 衛兵さんが言うには、虫型デーモンは帝都ラビントンを囲む山を越えてくることは出来ないらしい。

 デーモンが憑依していたとしても結局は虫なので、標高四千メートル、極寒の山越えに耐えきれないそうだ。


 だからここはもう、山から降りてくる獣人を迎撃するだけでいいと言われた。軍用多脚ゴーレムが続々と集結している。


 半分近くが高射砲を装備しているので、斜面に居る獣人を打ち落とすのだろう。

 残りの半分は落ちてきた獣人を倒すため、火炎放射器が装備されている。さっき見たやつだ。


「冒険者ギルドに戻って、報酬を受け取ってくれ。他にも依頼が出てるはずだから、あとは任せるぞ!」


 冒険者たちは勝利の雄叫びをあげ、地面を踏み鳴らした。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 冒険者ギルドに戻ると、さっきより混雑していた。西と東の防衛に目処が立ったことで、冒険者たちは報酬を受け取り、すぐ新しい依頼を受けて出ていく。


 ギルマスの目がバキバキになっているのは、ヒュギエイアの杯の水を飲んだからだろう。ものすごい勢いで書類の整理をしていた。


「さて……、ん?」


 北と南は未だ防戦中。掲示板に張り出された依頼書は、南の城門へ向かえと書いてある。北はスクー・グスローが向かっているので、じきに決着が付くという見通しらしい。


「やるなグローエット」


 胸ポケットでドヤ顔をしているので、人差し指でなでなでする。

 デーモンに対してこれだけの戦果が上げられるのなら、砂漠の民と呼ばれているうちに叩きたくなるのは当然だろうな。憑依することも出来ないみたいだし。


「ミッシー、どうする?」

「……そうだな」


 なんか暗いな、ミッシー。思案しているようにも見える。攻め込まれては居るけれど、どうにかなりそうではある。今のうちに休憩でも取っておいた方がいいかな?


「ギルマス」

「なんだ」

「ファーギ見なかった?」

「……そういえば見てないな」


 いちいち確認してる暇は無いか。話しかけたけど、オギルビーは手を止めることなく書類整理を行なっている。


「ミッシー、一旦戻って休もうか」

「……」

「昨日から寝てないだろ? 少し仮眠を取ろう」

「そうしよう」


 この後、俺はミッシーへの配慮が足りなかったことを痛感する事態に陥った。

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