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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
2章 獣人自治区

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068 火ネズミ退治

 日をまたいでいるというのに、帝都ラビントンでは冒険者やドワーフ軍の往来が激しい。そんな中、テーベ城の入り口で誰かを待つファーギは、暗澹(あんたん)たる表情で佇んでいた。


「お待たせしました。何の用でしょう? さっさと火ネズミ退治に行かなくていいんですか?」


 跳ね橋まで出てきたモルト・ローは、開口一番ファーギに辛辣な言葉を浴びせかけた。それを柳に風と受け流し、ファーギは口を開く。


「お前の兄はどこだ?」

「……はて、何のことでしょう?」

「とぼけるな。お前の双子の兄はどこにいるんだと聞いているんだ!!」

「声が大きいです……こちらへどうぞ」


 ここはテーベ城の前だというのに、ファーギは構わず大声を張り上げた。本来なら人通りもない時間帯。しかし今晩は火ネズミの件で、ラビントンの人々の多くはまだ起きている。


 モルトは他の人に聞かれると面倒なことを叫ばれたようで、ファーギを城の中に連れ込んだ。


 テーベ城内にあるフラワーガーデン。そこにある温室の中で、ファーギとモルトは椅子に腰を下ろした。


「皇帝陛下は知っているんだろうな?」

「……知っています」

「そうか。お前の兄が密蜂(みつばち)を裏切ったのは確定でいいんだな?」

「……その通りです」


 モルト・ローは唇を強く噛み、うつむいてしまう。


「そんな予感はしていたんだよな……。ドワーフ軍の研究者イオナ・ニコラスと、皇帝陛下の直属部隊、密蜂(みつばち)のロスト・ローが行方不明になっているとは聞いていた。ワシらがヒュギエイアの杯を借り受けたとき、モルトの部隊とロストの部隊が争っていたよな?」

「ちゃんと始末しました」

「そういう事じゃねえ!! もうすぐ戦争だってのに、ドワーフ軍から裏切り者が出たなんて公になったら、同盟関係にヒビが入るだろうが!」

「……」

「いつからだ。いつ裏切ったんだ?」

「一年ほど前です」

「はぁ~。何でワシに相談しなかった……」

「皇帝陛下のご意向です」

「……まあいい。そっちはどうしたいんだ?」

「兄を生きたまま捕らえることと、獣人自治区に潜伏しているイオナ・ニコラスの殺害です」

「は? イオナが獣人自治区に?」

「ええ、ソータ様が獣人自治区で遭遇した多脚ゴーレムは、イオナ・ニコラスが研究していたものです」

「なんだそれ?」

「……やはり、シスターの救出はソータ様お一人で成されたのですね」


 口を滑らせた、そんな顔で黙り込むファーギ。

 しかしモルトはそこに言及せずに、苦虫をかみ潰したような顔で話を続ける。


「私に一歩及ばず、常に負け続けていた兄は性格が歪んでいきました。狂気の研究者イオナ・ニコラスは、禁忌を犯しました。二人とも秘密裏に投獄されていましたが、一年前に脱獄して行方知れずとなりました」

「それが今頃になって姿を現した? 二人とも何がしたいんだ?」

「陳腐な理由ですが、復讐でしょうね……。ドワーフに対して」

「二人は協力関係にあるのか?」

「おそらく……」

「よし、最後に一つ確認だ。ロスト・ローは地球に行ったことがあるよな?」

「はい。ご存じだと思いますが、地球から転移してきたヒト族を帰すために、私とロストが同行していました」


 ロストが偶然ワシの屋敷にゲートを作り、たまたまテイマーズを地球に送り込んだ? あり得ないな。ソータはあの場所に、地球の軍隊はいなかったはずだと言っていた。ロストは昔の記憶で、つまりあの場所に地球の軍が居るとは知らずに、ゲートを開いた。

 奴が復讐心に駆られ、ラビントンで何か企んでいるとしたら?


 ファーギは眉間を揉みながら思考の渦に巻き込まれた。


「火ネズミの発生は、ロスト――私の兄が関与しているかもしれません」

「やっぱそうなるか……。実はな、地球に行ってきたんだが、そこでワイルドボアや火ネズミと遭遇した」

「……兄が繁殖させていると?」

「さあな? しかし、この件は皇帝陛下に伝えるべきだ」

「……」

「おいっ! ここまで来てロストを庇ったら、お前まで反逆者になってしまうぞ!!」

「……ええ、分かっております」

「お前が逃げないように、ワシもついて行くからな。すぐに謁見させろ!」


 一気に百歳くらい老け込んで見えるモルトを引きずりながら、ファーギは城の中に入って行った。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「参ったなこりゃ……」


 思わず呟いてしまった。


 繁華街の空き倉庫や空き家にゲートが設置されており、そこから火ネズミが溢れ出していた。俺とミッシーでゲートを閉じまくったが、取り出した魔石の数は全部で十二個。

 しかもそれだけではなかった。普段は閉じられている下水道の入り口が開け放たれており、そこからも火ネズミが溢れ出していたのだ。


 ジェスが言ってたな。火ネズミがたくさん居るコロニーがあるって。あのときは、地球の生態系を壊すために、誰かが送り込んでいると思っていたけど、逆だったみたいだ。


 地球で繁殖させた火ネズミを、誰かがこの街に送り込んでいる。


 民間人の避難を優先しているドワーフ軍。冒険者たちは、石畳に絨毯のようになって移動する火ネズミの駆除を行なっている。だけど、全然人手が足りていない。


 火ネズミ自体は、体毛が燃えていることと、小さな火球を吐くくらいなので、そこまでの脅威はない。しかし、数が多すぎるのだ。


 冒険者たちが道を塞いで迎え撃つと、火ネズミは反転して逃げ出す。あるいは、建物の壁を駆け上がっていく。ザルで水をすくうような状態だ。


「元を絶たなきゃダメだけど、ゲートの数が多すぎるな」

「ソータ、どうしてゲートの解除ができるんだ?」

「ミッシーのを見て覚えた」

「……相変わらずだな」

「エルフの長老たちはゲートの解除できないの?」

「あっ!! 呼んでいく!!」


 なんだよ、すっかり忘れていたみたいな反応しやがって。ミッシーは慌ててグレイスの屋敷に向かっていった。


 路地裏に入り、周囲の気配を探る。誰も俺に注目していないことを確認し、空を飛んだ。


 スクー・グスローたちが住んでいる屋敷を見つけて、庭に降り立つ。この辺りはまだ火ネズミが来ていないようだ。


「わーい、ソー君だー!」


 俺に気付いたのか、屋敷からとんでもない数のスクー・グスローが飛んでくる。あっという間に身体中に引っ付いてしまい、目も開けられない状態となった。


「グローエットはいるか?」

「えー、私たち全部グローエットだよ?」


 そう言えばそうだ。集合精神体(ハイブマインド)の彼女たちは、別個体でも同じ意識を持っているんだったな。


「すまんすまん。ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ――」


 スクー・グスローを初めて見たときは、のたうつ植物の姿をしていた。そして念話攻撃で周囲を砂漠化するという、迷惑極まりない行動を取っていた。


 さらには、万のメタルハウンドを壊滅させるどころか、見渡す限りの森をパウダー状に変えてしまった。


 その力を借りたいと話すと、数千のスクー・グスローが一斉に首を縦に振った。


 その場をあとにして、近くにある城門へと向かう。

 ここから外に出ると、森が広がっている。街道が東へ延びており、その先にはあのトンネルがある。その先には少数の山岳民族が住んでいると聞いている。


 ベナマオ大森林へ抜けるには、南のトンネルを使わなければならない。

 この森はスクー・グスローの遊び場になっているはずだけど、今回はちょっと我慢してもらった。


「すいませーん」

「またお前か……」


 門番のドワーフがそんな事を言う。これまで散々槍を突きつけてきた衛兵さんだ。彼と顔を合わせるのはこれで何度目だろう。


「ははっ、お世話になっております」

「何の用だ? 火ネズミ退治をしなくていいのか?」

「ええ、その件で来たんですが、この門には何人の兵が常駐していますか?」

「あまり詳しくは言えない。ただ、今晩の騒ぎに乗じて外敵が入らないよう、警備が強化されている」

「軽々しく人数なんて言えないですよね~。これからちょっと忙しくなると思うんで、お願いしてもいいですか?」

「何をだ?」

「えっとですね――」


 その場を後にし、俺は冒険者ギルドへ立ち寄る。


「オギルビーさんいる?」

「はい。少々お待ちください」


 冒険者ギルドは閑古鳥が鳴いている。冒険者はみんな出払っているのだろう。

 しばらくすると、憔悴した顔のオギルビーが二階から降りてきた。


「ギルマス、お願いしたいことがあるんですけど――」


 ギルマスの反応は上々。その手があったか、と喜んでいた。

 冒険者ギルドを後にし、スクー・グスローが待機する森へ飛んでいく。


「ソー君まだー?」


 数千のスクー・グスローが既に待機中だ。


「もうちょっと待っててね」


 そこから歩きながら、風の魔法で魔法陣を地面に飛ばしていく。城門を抜け、帝都の街をどんどん歩いて行く。


「おっ!」

 火ネズミの集団がこっちに向かって走ってきている。たまたまだろうけど、一応様子を見てみよう。

 気配を消した俺の足元を通り過ぎて、火ネズミたちは駆けていく。


 ゴヤの里で覚えた誘導魔法陣に沿って。


「上手くいったな……」


 あの火ネズミは城門を抜け、森で待ち構えるスクー・グスローたちによって一網打尽にされるだろう。


 魔法陣の効果は確認できた、街中に誘導魔法陣を使っていこう。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 今頃ギルマスを通じて、冒険者に指示が飛んでいるはずだ。俺は火ネズミの発生地域を囲むように、誘導魔法陣を設置した。冒険者は全員、そこに火ネズミを追い込む手はずになっている。


 城門のドワーフ兵には、誘導魔法陣に引っかかった一般人の救出をお願いした。

 俺は城門の外で最終チェック。一般人が紛れ込んでいないかの確認をしている。


 足元を絶え間なく走っていく火ネズミたちは、遠く離れた場所から聞こえるスクー・グスローの念話攻撃で粉々になっている。あとは時間の問題だろう。


「おいこら、おっさん!! どういう事だよ!!」

「ん? ハスミン?」


 誘導魔法陣に沿って歩いてくるテイマーズの面々。リーダーの三人はギリギリ抗ってるけれど、他が抵抗できていない。屋敷で待機してなかったのか……。

 俺はため息を堪えつつ、十八人全員を誘導魔法陣の効果範囲から連れ出した。

 あと、俺はおっさんじゃねえ。

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