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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
2章 獣人自治区

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062 忍びよる獣人

 帰りの道すがら、両脇の建物の上で戦闘が起きていた。俺たちを護衛する黒い影と、ヒュギエイアの杯を狙っている一味で。


 しばらくすると、戦闘はある程度片付いたみたいだ。護衛たちが勝ったみたいだけど、生き残っている気配は十を切っている。殺し合いまでしなくてもいいのにね。こっちに手を出さなきゃ何もする気はない。


 工房に到着して、ようやく一息つける。


「ソータ、ほれっ」

「おっ? 何これ?」

「魔導カバンだ」

「おおっ!! って高いんじゃのこれ?」

「色々世話になったしな、気持ちだ気持ち」


 気持ち悪い顔で笑うファーギ。いつもムスッとしてるから、落差が大きすぎる。ファーギが投げ寄越した魔導カバンは、ワイバーン狩りのときに見たものより小さく、腰につけるポシェットくらいの大きさだった。だけど、これは見た目の大きさでは測れない容量がある。


「ありがと、遠慮なくもらうよ。これどれくらい入る?」

「そうだな……この工房の体積くらいか」

「すっげ! じきに戦争だし、食い物詰め込んでいこっと」

「それとこれも」

「うぉっと、さんきゅ!」


 追加で投げてきたのは、紙に包まれたサンドイッチ。繁華街にある、ホットサンド店のやつだ。魔導カバンから出したので、買いだめしていたのだろう。


 晩飯食べ損なったし、まだ熱々なので、さっそくファーギと一緒に食べはじめる。


 工房の真ん中にある機械は、動きっぱなしだったようだ。受け皿に小さな神威結晶がいくつか転がっている。


「この機械で、神威障壁の多重展開できるよね」

「多重魔法陣を知ってるのか……。出来るぞ」

「三枚くらい重ねてみ」


 ファーギがモグモグしながら機械をいじると、外の音が聞こえなくなった。三枚の神威障壁を張れたようだ。


「声が外に漏れない、そういう事でいいか?」

「そうそう」

「……なるほど。さっき強引に話を進めた訳が聞けそうだな」

「その前に、拡大鏡あるか? 百倍くらいに出来るやつ」

「どこかにあったな」


 工場の隅っこを探して持ってきたのは、顕微鏡? ドワーフの謎技術で、拡大鏡でもいけるかと思ったけど違ってたみたいだ。


 それは三脚がついてて、上から覗き込むようになっている。対象から離れても見えるっぽい。


 今のうちに製図で埋め尽くされた机に置いてある箱を空け、中にあるヒュギエイアの杯を手に取る。おや? この杯は魔力が流れるのか。


「どうした?」

「この金属は何?」

「そりゃミスリルだ。直にさわると魔力が流れるのが分かるだろ?」


 ミスリルか。翻訳が間違っていなければ、創作物に出てくる金属が現実に存在していることになる。


「そうだな。とりあえずここを拡大鏡で見てみ」


 杯の縁を指差しながら、ファーギに渡す。


 拡大鏡の下に置いてしばらくすると、驚く声がする。しかし、拡大鏡から眼を離さないファーギ。縁に彫られた魔法陣をじっくり見ているのだろう。


 たっぷり時間をかけて諳記したのか、目を離すと凄い勢いで魔法陣を書き写しはじめる。こんな反応をするのは、ヒュギエイアの杯に描かれた魔法陣を知らなかったということか。


 回復、治療、解毒、再生、四つの魔法陣を書き終えたファーギは、一息ついてすぐに実験を始めようとする。


「待って待って」


 目的を忘れてる。ヒュギエイアの杯と同じ効力を持つ魔道具を作らないと。


 だから四つの魔法陣の効果を説明し、同じものが出来るのか尋ねる。


「こんな小さいもの彫れるかああっ!!」


「ここまで小さくなければ出来ると思うけど?」


 訝かしげな顔になるファーギ。俺はゴーレムがどうやって自律運動できるのか気になっている。街中を走る馬型ゴーレムは、人工知能と同程度なはずで、相当な数の魔法陣が必要になると思う。


 つまり、古代ドワーフ並みの微細加工が出来なくても、それに近いことは出来るはずなのだ。


「……出来るな」

「でしょ?」


 見通しが立ったところで、ファーギに確認を取る。四つの魔法陣は、この世界に広く知られているのかと。


 首を横に振るファーギ。以前、魔法陣の文献を調べた事があるそうだ。それには、過去そういった魔法陣があったかもしれないと示唆されているだけで、実在は否定されていたらしい。


 ほーん。意図的に歴史から消された可能性もあるな。回復、治療、解毒、再生の魔法陣があれば、イーデン教のシスターも必要なくなる。つまりアスクレピウスも不必要になる。あ、ヤバい。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ――――と思ったけど遅かったみたい。


「せっかく魔法陣の存在を消したのに……」


 アスクレピウス様、申し訳ないです。気付いちゃいました。


「いえ、イーデン教を守るためとはいえ、治癒の女神として、あるまじき行為でした」


「アスクレピウス様は悪くありません!! 首を突っ込んできたソータが悪いんです! 今すぐ斬ります!」


 やかましいわ、マカオ。


「む……また力が強くなってるな。お前この世界に来てどれくらい経つ?」


 二十五日目かな。いや、日をまたいでるから二十六か。


「最速じゃないか。お前のもう一つの人格と関係あるのか?」


 俺は俺だ。他に居るはずがないだろ。


「……そうか」


「マカオ、その辺にしておきなさい。ソータ、四つの魔法陣をどうするつもりですか?」


 ヒュギエイアの杯を作っても、魔法陣の存在を知られなければいいんですよね? それなら簡単にできますよ。


 ミスリルを加工するとき、日本刀と同じ折り返し鍛錬をすればいいんです。


 打ち伸ばしては折りたたみ、また打ち伸ばす。最後に折り曲げるとき、内側に来るように魔法陣を彫れば誰にも分かりません。


 十回の折り返し鍛練で千二十四枚の層が出来るので、リバースエンジニアリングは実質不可能になります。


「……いいでしょう。わたしへの信仰が無くなりかねないので、この件も他言無用でお願いします」


 了解です!!



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 窓から差し込む光は、俺の心を晴れやかにできなかった。これからファーギに騙し討ちをかけるからだ。


 いきなりぶっ倒れた俺を運んでくれたのだろう。カウチで横になり、毛布を掛けられている。当の本人は寝ていないのか、目の下にクマを作って作業を続けていた。


「起きたみたいだな。最近働き過ぎじゃないのか?」

「そっちこそ」


 ホットサンドが飛んでくる。俺が起きたので、ファーギも朝食にするみたいだ。


「なあファーギ、イーデン教の女神様って、信仰がなくなったらどうなるんだ?」

「さあな? 一応信仰してるけど、教会にはあまり行かないからな。怪我しても自作の薬で治せるし」

「四つの魔法陣が、この世界に広まったらどうなる?」

「みんな喜ぶだろうな。イーデン教のシスターもお払い箱……ん?」

「お払い箱にあるだけか?」

「いや……イーデン教そのものが無くなってしまうな」


 ああっ!! この世界で出来た友人に、誘導するような真似をしてしまった!!


 俺の罪悪感をよそに、ファーギは考え込んでしまう。


 この世界で回復系の魔法が使えるのは、イーデン教のシスターだけ。しかし、四つの魔法陣が知れ渡れば、シスターの存在意義はなくなりイーデン教は崩壊するだろう。それだけではない。信仰している神の存在があやふやになり、人々のよりどころが無くなってしまうのだ。


 そうなると、以前俺に接触してきたアルマロス教のカリスト。あの新興勢力が幅をきかせることに繋がる。信者でなければ殺害しても罪にならない、教典にはそんな物騒な事が書かれていると聞いた。


 イーデン教が無くなれば、カリストは一気に勢力拡大をしてくるだろう。


 そうなれば、不必要な争いが起きてしまう。


「ソータ……、皇帝陛下の要望に応えつつ、四つの魔法陣が分からないように出来ないか?」

「出来るよ。面倒だけど、折り返し鍛錬ってやり方で――」



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 帝都ラビントンを囲む外輪山は、平均標高が四千メートルを超えている。山頂は極寒で空気が薄く、何人であろうと行く手を阻む天然の城郭。地上から攻め入ろうとしても、山を貫通させたトンネルを通るしか手は無く、これまで全ての敵をはじき返していた。


 それゆえに、広大な敷地を誇る帝都ラビントンは持続的な繁栄を続けているのだ。


 けれども、外輪山で蠢く人影があった。


 例外はあるのだ。マイア・カムストックのような一流の戦士が、ドワーフ製の馬型ゴーレムで駆けていた場合など。


 ただし、今回の人影はヒト族ではなく獣人だ。


 防寒着は暖かさを保つ魔法陣が刺繍され、スキル〝身体強化〟を使って軽々と登っていく。本来であれば、こんな事は出来ないのだが、全ての獣人にデーモンが憑依している。そのおかげで、通常以上の力を発揮しているのだ。


「あいつ大丈夫かな?」

「四人で分担して四ヶ所を攻めるんだから平気平気。たぶんこっちが楽だよ?」


 熊獣人と狐獣人の声の後ろには、二千もの獣人がついてきている。完全にデーモンを御したレギオンは、一糸乱れず山を登り切った。


 それは、ソータとファーギがミスリルの折り返し鍛練をやっている最中の出来事であった。

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