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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
2章 獣人自治区

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060 未来回避

 こんな場所に転移させやがって……。巻き込まれる前に、さっさと逃げよう。


 雨が降っていてなお、血臭が漂う戦場。俺は空を飛んで離脱しようとする。


「……」


 今のは? 声が聞こえたような……。

 見渡してもここは瓦礫しか残っていない。石造の建物は全て破壊され、街の景観は欠片も残っていない。ここが何処なのかすら分からないのだ。


 だけど、今の声はどこかで聞いた覚えが。


 声のする方へ歩いて行くと、うつ伏せで倒れているヒトがいた。両脚と右腕が何かに食い千切られたようになっている。



 ――銀色の血液?



 慌てて駆け寄って、顔を確認する。


「……おい、くたばってんじゃねえぞ!!」


 それは瀕死の佐山(さやま)弘樹(ひろき)だった。


 止血するために、回復魔法と治療魔法を使う。


 ……魔法が通じない!?


 溢れ出るリキッドナノマシンが、水たまりを銀色に染めていく。それも束の間で、すぐに出血が止まった。そして、佐山は俺の目の前で息を引き取った。


 だけどまだ間に合うはず。

 遺体の背中に手を添え、回復魔法、治療魔法、解毒魔法、再生魔法を意識しながら、まえに汎用人工知能が唱えた呪文を口にする。


「ハハラマ、ヤハス、ミコイレリアン…………レヴィア」


 ――――何も起こらない。


 いったい何が起こっている?


 む……。また転移させられた。


 次は伊差川(いさかわ)すずめの遺体を見せられ、また転移。鳥垣(とりがき)紀彦(としひこ)弥山(ややま)明日香(あすか)。最後には俺のじーちゃん、板垣(いたがき)兵太(ひょうた)。立て続けに五人の亡き骸を見る事になった。


 全員魔法が通じない。


 みんな死んでしまった……。




「……」


 アスクレピウスの神殿に戻された。目の前にマカオがいるし、奥の方にアスクレピウスが座っているので間違いない。


「これから起こる未来を見て、どう思いました?」


「……へっ? 転移させたんじゃないの?」


「ええ、わたしが見せたのは、未来の世界。ソータに近しいヒトたちの最期です」


 なるほど……。それで魔法が通じなかったのか。それはどうでもいいや。今回ここに呼んでまで、アスクレピウスが言いたい事は分かった。


「本当ですか? ソータの厭戦(えんせん)思想は、この世界で通用しませんよ?」


 本当だ。戦争を嫌って目を背けると、どうなるのか分かったよ。


 どうせ心を読んでいるのだから、口に出さなくても分かるだろ。


「口に出して下さい」


「あの戦場で見た未来を変えればいいんだろ? その為には、俺が戦争に参加する必要がある」



「よろしい。未来を見た事は他言無用ですよ?」



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「――――お客さん」

「ふがっ!?」


 カウンター越しに伸ばされる腕が見えた。顔を上げると、マスターが俺の肩に手を置き、心配そうな表情で見ていた。


「えっと、……寝てました?」

「ええもう、凄い勢いでカウンターにおでこをぶつけるくらいに」


 おでこが痛い。マスターが言う事は本当なんだろう。

 周囲を見渡すと、何が起こったのかと、お客さんから注目されている。アスクレピウスの神殿にだいぶん長い時間いた気がするけど、どうやら一瞬だったみたいだ。

 窓からの日の光で出来た影が動いていないし、夢でない事も確か。


「お会計をお願いします」

「はい。またのお越しを」


 冒険者証でお会計を済ませると、レシートを渡された。感熱紙かこれ? 何なの、この謎技術は……。


 高い酒を飲んだので、店を出て確認をする。


 げっ!! 二十三万ゴールド!! 二十三万円!! グラス一杯で!!


「……戻って寝よう」


 あの未来がよぎる。こういうのは目を逸らせば、必ず悪いほうへ転ぶ。必ず回避しなければならない。しかし、戦争に参加しろと言われても、どうすれば……。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 グレイスの屋敷に到着すると、サラ姫殿下がダッシュしてくる。


「ソータくん、おかえりっ!!」


 そのまま三段跳びをして両手両足を広げ、俺に抱きついてきた。避けようと思ったけど、怪我されちゃボリスに何言われるか分かったもんじゃない。


「ただいま戻りました」


 ものすごい格好で抱き合ってるな……。ちびっ子だから、抱っこになるのかな?


「も~、おっそい!! グレイスもミッシーも戻ってるのに、何やってたの? それとこれ何?」


 首にかけたゴーグルを引っぱられる。


「えっと……、ファーギんとこに行ってこれ貰ったあと、一杯引っ掛けてきました」

「ファーギ? 聖人と噂の!!」

「ぶっ!?」


 なんだあいつ、噂になってるし。


「ソータ?」

「あっ、いや、これは……」


 ボリスが出てきて俺を見咎める。言い訳できないな、サラ姫殿下を向かい合って抱っこしている状態だし。

 なかなか離れようとしないサラ姫殿下を引っ剥がすと、ボリスがあごをしゃくって付いてこいと合図してきた。


 通されたのは前回使った会議室。そこでは、ミッシーたちエルフの皆さんとグレイスで会議を行っていた。

 一人だけ軍人っぽいドワーフがいるので、何か起こったのかな?


 俺とサラ姫殿下、ボリスが席につくと、グレイスが話し始めた。


「エルフの軍、三万が二日後に到着します。ドワーフ軍が五万、修道騎士団クインテットが五千、ゴブリンが三千、合わせて八万八千の兵を編成し、獣人自治区に攻撃を開始する事になりました。敵の兵はおよそ五万。こちらが兵数で上間っていますが、デーモンの存在を考えると、簡単に勝てる相手ではないです」


 グレイスの視線は俺に向いている。これまで聞こえてこなかった話を、あえて聞かせている。俺を信用したという事なのか。それとも試しているのか。

 どちらにしても、俺は戦争に参加する。


 戦争参加に迷う俺を、アスクレピウスが呼んだ。戦争に荷担しなければこうなるぞ、という未来をわざわざ見せられたのだ。じーちゃんが死ぬ未来なんてあってたまるか。


「……迷いが消えましたね」


 俺の意思を確認したのか、グレイスは次の話を始めた。


「ゴブリンの軍に、スクー・グスローが同行する事になりました。ゴブリンたちはベナマオ大森林で待ち受け、デーモンが憑依した獣人を叩きます」


 会議室がざわめく。胸ポケットにいるグローエットを見ると、ニッコリ笑顔を返してきた。知ってたなこいつ。スクー・グスローは、デーモンをめちゃくちゃ嫌ってたもんな。ゴブリンの里で、すっごい増えてたし、念話攻撃は頼りになるだろう。


 マイアは大丈夫かな……? 俺を殺しに来たニーナの存在がどう影響するか。


 ドワーフとエルフが主力軍となり、その中に修道騎士団クインテットが組み込まれるそうだ。軍仕様のゴーレムと空艇で、陸空同時に攻撃をするらしい。


「はい!」


 手を挙げてグレイスに確認する。


「何でしょう、ソータ様」

「俺はどうなるんです?」

「……」


 おや? なんで呆れた顔するの? するとミッシーから声がかかった。


「ソータ、冒険者ギルドに寄ってこなかったのか?」

「え? 行ってないよ?」

「はぁ~」


 ミッシーにも呆れられた。……つまりあれか? このボケナスは冒険者ギルドで戦争に関する情報を得てないのか、そう言いたいのだろう。

 冒険者証を使うときに気付けばよかったな。


 ミッシーが言うには、Aランク以上の冒険者は、今回の戦争に傭兵として参加するかどうか、任意で決める事が出来るそうだ。既に依頼が出ており、ミッシーはエルフ軍ではなく、冒険者の傭兵として参加するという。


 だけど、あくまで傭兵扱い。軍に同行し、臨機応変に遊撃する。生死に関しては完全に自己責任。冒険者だしそこに異論はない。

 つまり俺は冒険者として戦争に加わるわけだ。


 臨機応変かぁ。悪く言えば出たとこ勝負。戦争なんて情報の分析と作戦の立案、そんな計画をこねくり回して戦術、戦略的に動くんじゃないの? 経験ないから知らんけど。


 考え込んでいると、ドワーフのおじさん( 軍人 )が話し始めた。


「陸軍大佐、ニコラ・ニコラスだ。仲間にはシチューメイカーと呼ばれている。さて、戦術を語るのは素人だ。我々プロは兵站(へいたん)を重視する。人口百五十万の都市なら、こちらの物量で圧倒できる。まずはその話からだ――」


 あれ? いや、なんか聞いた事あるな。あっ! え? 何でこのおじさん( 軍人 )、アメリカ軍の言葉を知ってるの?

 兵站を重視するからなのか、変な呼ばれ方してるし。


 彼が言うには、ここミゼルファート帝国から兵站線を伸ばしていくそうだ。主な輸送は空挺。

 サンルカル王国何やってんの? と思っていると、いまは別件で忙しいらしい。俺の方をチラッと見たのは何でだ?


 この話、前もあった気がするけど、いつだっけ?

 獣人自治区はサンルカル王国の領土内なのに、出兵しないのはおかしい。別件で忙しいくらいで、国内の問題に対処できないのなら……。


 ――つまり、それ以上の問題が発生しているという事だ。


 たしか、佐山、鳥垣、伊差川がサンルカル王国の王都に向かってると言ってたな。この会議が終わったら、弥山に聞きに行こう。




 会議が終わる頃には、とっぷりと日が暮れていた。

 この時間に行っても平気かな? 外を見ると、まだ人通りはある。


 よし、行こう。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 乗り合い馬車に揺られ、街の中心部を目指す。弥山が泊まっている宿を聞いておけばよかった。

 弥山とこの前話した広場で馬車を降り、酔っ払いドワーフに聞き込みを始める。


「すいませーん」

「おん?」

「俺とそっくりな奴、ここらで見ませんでしたか?」

「おーん? お? おお見た見た! ありゃお前だったよな? ぎゃははは!」


 そんな酔っ払いばかりかと思っていると、以外と目撃情報が多い。中にはシラフのドワーフもいたので、弥山が泊まっている宿はすぐに分かった。


 教えてもらった宿に到着すると、意外とボロ宿だった。そういえば、あいつ倹約家だったな。

 路地裏にある木造平屋の建物。日当たりが悪そうな立地だけど、看板が出ているので間違いない。この街では石造建築物しか見た事がないのに珍しいな。


「どうしたのソータ君」

「ぴゃっ!?」


 振り返るとすぐ近くに弥山が立っていた。武器は無し、シャツとパンツは黒、薄暗い路地裏に溶け込んでいる。黒髪の中にある顔が強調され、闇に浮かんでいるように見えてビックリした。


「ぷっ! 気付かなかった?」

「な、なかなかやるじゃねえか」


 警戒はしていたけど、まったく気付かなかった。


「んで、何の用なの?」

「ああ、ちょっと話せるか?」


 この前話した広場に移動し、佐山たちが何と闘っているのか聞いてみた。すると弥山は、俺が何も知らない事を知り、笑い始めてしまった。

 忙しかったからしょうがないだろ。そんな気持ちになりながら、何とか話を聞き出す。


「地球のどの国か知らないけど、サンルカル王国に攻撃しているの」

「……マジ?」

「マジマジ」

「王国の何処? 王都まで攻撃されてる?」

「だいぶん押し返したみたい。いまは国境辺りで膠着してるって聞いたわ。こっちが攻撃するとすぐ撤退して、別の場所を攻撃するから、サヤマ君、面倒くさいって言ってた」


 俺が見た未来は、ものすごく限定的なものだった。弥山たち四人と、俺のじーちゃんが死んだどこかの戦場、くらいしか情報が無い。戦場だったのは確かだけど、それがどこか分からないんだよな……。


「佐山たち大丈夫なの?」

「大丈夫に決まってんじゃん? そういえばソータ君さ、ゴブリンの里で鉄の猟犬部隊(メタルハウンド)見たんだって?」

「情報早いな。現物じゃなくて破片だけど」

「グレイスと連絡取り合ってるからね!」


 今回の戦争で、サンルカル王国の正規軍が動かない理由は分かった。

 だけど、未来を変えるための情報が、ほとんど無い。

 確かなのは、佐山たち四人と俺のじーちゃんが、同じ戦場で死んでいた事だ。

 ……と言う事は、弥山たち四人とじーちゃん、五人が同じ戦場にいなければいいのか?


「弥山」

「なに?」

「この国に住まない?」

「え、やだ」

「……」

「そんな目で見てもダメ。あんたのじーちゃん見つけて、問い詰めないとねっ!」


 それもそうだ。クオンタムブレインの情報を持ってこの世界に来た理由を聞かねば。国防大臣の指示で動いているのかもしれないけど、じーちゃん何がしたいの?

 わざわざ偽の遺体まで作り、俺たちをこの世界に呼び寄せた。何か思惑が無ければそんな事はしないはずだ。


 それはさて置き、やっぱり五人が揃うのは避けた方がいいな。


 アスクレピウスの事をぶちまけて、弥山に手伝ってもらいたいけど、これは無し。口止めされたのはおそらく、俺が喋る事で時間軸に影響が出ないようにするためだ。俺が未来を変えるのなら、その影響を最小にしたいのだろう。




 弥山と別れて夜のしじまを歩く。酔っ払いドワーフの姿はもうない。

 乗り合い馬車もなく、開いている店もない。このまま歩いて戻ろう。



「ソータ・イタガキか?」


 しばらく歩いていると、俺をつけている人物から声がかかった。

 ただつけているだけなので放置していたけれど、面倒い……眠いのに。振り返ると、黒装束のドワーフが立っていた。まるで暗殺者みたいだ。気配は八名。何か悪い事したっけ?


「そうだ」

「同行してもらう。ついてこい」



 ドワーフに狙われるようなことしたっけ……あ、ファーギ! あいつ口を割りやがったな!!

 まっ、しゃーない。ドワーフと争うつもりはないし、おとなしくついていこう。

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