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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
2章 獣人自治区

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058 ソシオパス

 ――ニーナ・ウィックロー、貴様は何を考えている。


 短剣が俺の胸に刺さる寸前、侵入者――ニーナに向けて時間停止魔法陣を使用した。

 つい先ほど実験していてよかった。もっとも、時間停止(・・)魔法陣は魔力の消費量が大きい。時間遅延(・・)魔法陣ならさほどでもないのだが。


 そこで対策を考えた。

 神威結晶にリキッドナノマシンを混ぜ込んで、ビー玉ほどの球を作り、それを暗殺者のポケットに忍ばせておく。これでかなり魔力の消費を抑えられるはずだ。


 神威結晶は俺以外が触れると、跡形もなく分解するようにプログラムしたので安心安全だ。


 しかし、なぜこいつが俺を暗殺しに来たんだ? 宴のとき神経毒を混ぜ込んだのも、こいつが犯人だ。


「おいコラ、何か言え」


 ……大丈夫そうだ。

 時間が止まった状態なので、ニーナは微動だにしない。何も認識できないし、話すこともできない。もっと言えば、ニーナを懲らしめるため、燃やしたり潰したりすることもできない。時間が止まるというのは、そういうことだ。


 さて、どうしたものか。今日会ったばかりで一度も話したことがないのに、なぜ俺を狙ったんだ? いったい何なんだ……。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 こっそりミッシーを起こして、俺の部屋に来てもらった。また顔を赤らめていたが、俺にその気はない。マイアとグレイスは修道騎士団クインテットなので、呼ばなかった。仲間がこうなっていたら、話がややこしくなると思ったからだ。


「何だこれは?」


 ミッシーの眠そうで不満げな表情が、すっと真顔になった。なぜ不満げな表情なのかは知らない。


「そうなるよね……。時間停止の魔法陣を使ったんだ」


 ベッドの横で動かなくなったニーナ。死んではいないので、ずっとこのままにもできない。朝になったら、グレイスとかグレイスとかスレイスが大騒ぎするだろうし。


 俺がニーナに毒殺されそうになったことと、たったいま刺し殺されそうになったことを、ミッシーに話す。その上でニーナをどうすればいいのか相談した。


「この状態はいつまで続くんだ?」

「時間停止魔法陣の効果が切れるまで? たぶん年単位で持つと思う」

「はぁ~、……ソータの出鱈目さは今に始まった事じゃないけど、このまま放っておく訳にもいかないだろ? どこかで捨ててくるんだな」


 頭を抱えながらため息をついて、ご無体な事をおっしゃる。

 ん~、捨てるのはちょっとな……。でもいい考えかも? 捨てるといってもゴミ箱にではなく、この宿の裏手に置いておこう。

 仮にやさぐれたゴブリンが何かしようとしても傷一つ着かないからね。


「わかった、そうするよ……」

「しかし、何でソータが狙われたんだ?」

「さあ? まったく心当たりが無い」

「はぁ~、んじゃ私は寝る。……また明日な」

「ああ、助かった。ありがとな」


 ミッシーはもう一度ため息をついて、部屋を出て行った。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 翌朝、一階のビュッフェで朝メシを食べていると、赤毛の修道女が憤怒の形相で入口から入ってきた。顔に落書きされているのは、ゴブリンに悪戯されたのだろう。まだ気付いてないみたいだから、黙っておこう。


 俺は昨晩、魔力を押し固め、擬似的な魔石を造り出した。それをニーナのポケットに入れて、神威結晶をその場で分解。入れ替えておかないと、ずっと時間が止まったままになるからね。


 ニーナが来たところをみると、ちょうど朝のタイミングで魔石の魔力が無くなり、時間停止魔法陣の効果が消えたのだろう。


 さてニーナ、どう出る?


 俺はニーナの方に顔を向けず、黙々と朝メシを食う。この焼き魚が旨いんだ。フルーツや木の実、野菜に穀類、地下都市と思えない品揃え。もしかすると、この巨大空間で色々と栽培しているのかもしれない。


 ニーナは俺の方に向かってきそうになり、急停止。俺が知らんぷりしているので、昨晩の事を知らないと思ったのだろう。ニーナの記憶では、寝ている俺の胸に短剣を振り下ろし、次の瞬間宿屋の裏手に居た事になるのだから。


 短剣は根本から折ったので、周囲のゴブリンに危険はなかったはず。


「ニーナ、その顔どうしたの?」

「あら、お着替えはまだですの?」


 マイアとグレイスが降りてきた。ニーナは昨晩のパジャマ姿なので、非常に目立っている。ニーナの顔の落書きを見て、マイアが拭き取っている。

 ニーナは顔を赤くして、自分の部屋に駆け上がっていった。三人の言動を見ると、結託して俺を狙ったわけでは無さそうだ。ニーナの単独行動、という事になる。


 よし、このまますっとぼけよう。説明するのが面倒だ。


「ご一緒してもいいですか?」

「ソータ様、早起きですわね」


「どうぞどうぞ」


 とりあえず三人で朝メシを摂る事にした。


 ミッシーは既に朝食を済ませ、地下都市の散策に出ている。もうすぐ帝都ラビントンへ発つので、お土産を買いに行くと言っていた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 食事を済ませ出発の準備をしていると、天井から糸が垂れてきた。それを伝って流れてくる液体は毒薬。テーブルに置いた紅茶に目がけて一直線。

 天井に居る人物の気配はニーナ。こいつまだ諦めてないのか。


 とりあえず天井に向けて時間停止魔法陣を飛ばすと、ニーナの気配が消えた。ちゃんと時間が止まったようだな。面倒くさいから、俺たちが発つまでこのままにしておこう。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「ソータさん、昨晩三人で話し合ったんですけど、あたしはここに残る事にしました」


 宿を出ると、マイアが改まった顔でそう言った。話を聞くと、エルフとの同盟は成ったので、手薄になっているゴブリンとニーナの手伝いをしたいそうだ。

 本当は一緒に行きたいんですけど、と言ってポロポロ涙を流している。


 ……こんな子だったっけ? エルフの里では毅然とした態度でかっこよかったのに、なんだか女子っぽくなっている。


「ほら、マイア」


 グレイスがハンカチを出して、マイアの涙を拭き取った。


「ニーナは?」


 ミッシーがそう言うと、マイアとグレイスがハッとなった。キョロキョロして探しているけど、奴はまだ天井裏で時間が止まっているのだ。ふははは。

 ミッシーが俺をチラッと見たけど、シカトシカト。俺たちが地下都市を出るまで、そのままにするし。


「おーい、ソータ!! 慌ただしいな、もう発つって聞いたぞ!」


 部下を引き連れたゴヤが、こっちに向かってくる。俺たちが地表に置いてきた多脚ゴーレムとほぼ同じ形なので、あれはたぶんドワーフ製の物だ。

 この通りは割と広めなので、道行くゴブリンたちに迷惑はかかっていない。里のトップが住人の前に姿を見せても、特に驚いていない。これが日常なんだろうな。


「乗っていくかソータ? 訓練場までなら乗せていけるぞ」

「おっ、頼んでもいいか?」

「もちろんだ。そっちの修道騎士団と、エルフの族長も乗っていくか?」


 おや? 四人とも首を横に振った。……ああそっか。この多脚ゴーレムは、バイクのような乗り方をするので、女子的には後部座席に座りたくないのだろう。何とは言わないけど、押し付けたくないって事だ。


「んじゃ俺は先に行ってるぞ。ゴヤ、頼む」

「分かった。しっかり捕まってろよ?」


 え、置いていくの? みたいな顔をしている女子を残し、俺はゴヤと一緒に出口へ向かった。




「ソータ」

「なんだ」


 前で操縦するゴヤに返事をすると、昨日は言えなかったという話を始めた。

 ニーナ・ウィックローはイーデン教のシスターであるのにもかかわらず、暗殺者の部隊を百名ほど引き連れているそうだ。

 今回は同盟を組んで獣人自治区を叩くという同じ目的があるので、ゴブリンたちに害を与えてないらしい。


「何でそんな事を教えるんだ?」

「イーデン教のシスターが、暗殺部隊を連れているなんておかしいだろ? お前には教えとこうと思ってな」

「そっか……」


 もう少し早く教えておいて欲しかった。今回は対処できたからよかったけど。

 グレイスとマイアには悪いけど、やっぱりここを発つまでニーナの時間は止めておこう。



 結局ゴヤは地上まで送ってくれた。だいぶ遅れてミッシーたちが到着。ニーナの姿はもちろんそこに無い。少し探したらしいけど、見つからなかったそうだ。屋根裏に居るとは思ってもないだろう。


「達者でな、ソータ」

「そっちこそ」


 次に会うのは戦場だ。握手をして多脚ゴーレムに乗り込む。魔石の補充と食料を都合してくれたので大助かりだ。


 ミッシーとグレイスも準備が出来たようだ。えぐえぐ泣いているマイアを残し、俺たちは一路、帝都ラビントンを目指した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ハッと我に返るニーナ。屋根裏の梁の上で四つん這いになったままの姿勢だ。ゴーグルをかけてマスクをつけ、毒が顔に付かないようにしている。


「まただ……何が起こっているの?」


 隙間から見える部屋にソータの姿は無い。ニーナの記憶では、真下に紅茶のカップがあったはずなのに、それも消えている。毒の糸は天井すれすれで切られていた。


 まるで記憶が飛んだように感じるニーナ。


 さっきは顔に落書きをされていたので、手鏡を出して薄暗い中で確認をする。何も描いてないと確認を済ませると、マイアは屋根裏から外に出た。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 シェルターの出口へ向かおうとし、ニーナが通りを走っていると声がかかった。


「ニーナ?」

「マイア!? えっ? もしかしてもう……」

「グレイスたちは発ったよ? まったく薄情なんだから~」


 ニーナは口をキュッと結び、ぎこちない笑顔を見せる。ニーナの行動を何も知らないマイアは、また一緒に仕事が出来るようになって嬉しそうだ。


「ニーナ? どうしたの?」

「い、いや、何でもない!」

「……何か隠してるの?」

「な、何でもないって!!」


 マイアとニーナは二人寄り添ってスラムを生き抜いた幼なじみであり盟友でもある。長い付き合いなので、マイアはニーナのウソを見抜き、敏感に反応した。


「ソータはあたいも危険だと思う……マイアに近付く男は許さない」

「え? なんて言ったの?」


 ニーナの消え入るような声は、マイアに届かなかった。


「と、とりあえず、あたいがいつも寝泊まりしてる寮に連れて行く」

「それっ! 昨日は宿屋に泊まったから、いつもどこに居るんだろうってちょっと気になってたの!! いこいこ!!」


 上手い事マイアの気を逸らしたニーナは、少し申し訳なさそうな顔をしている。しかしその眼には、ソータが感じ取った負の感情が浮かんでいた。

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