表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
17章 終章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

333/341

333 ネクロポリスの南極

 凍てつく風が吹き荒れる死者の都(ネクロポリス)の南極大陸。暗闇の中に、巨大な氷の山がいくつも浮かび上がっている。


 その荒涼とした景色の中、金色の髪をなびかせる女性が立っていた。真祖(オリジン)リリス・アップルビーだ。透き通るような青い瞳は、遠くの地平線を見据えている。


 彼女の隣には、娘のダーラ・ダーソンと、魔女(カヴン)マリア・フリーマンの姿があった。三人は、静かに黒い立方体の出現を待っている。


 やがて、遠くから複数の足音が聞こえてきた。振り返ると、リリア・ノクスとエドワード・シャドウフレイム、そして六炎影(りくえんえい)の六人が、歩いてくる。彼らは、リリス直属の部下たちだ。


「ご苦労様でした」


 リリスが静かに言葉をかけると、リリア、エドワード、そして六炎影(りくえんえい)の六人は、深く頭を下げた。


 その後、短い作戦会議が行われた。魔女(カヴン)マリア・フリーマンだけがバンパイアではない。そのためか、彼女だけが寒さに耐えかね、歯をガチガチと鳴らしていた。


「さあ、行きましょう。あの黒い立方体へ」


 作戦が決まったようだ。リリスの指示に従い、リリアとエドワードは六炎影を引き連れ、ゆっくりと立方体へと近づいていく。


 彼らの身体は、スキル〝影渡り(シャドウシフト)〟によって影と化し、スキル〝霧散(ミストディ)遁甲(スパーサル)〟によって霧に包まれる。極寒の地でも、凍えることはない。音もなく、完全に姿を消しながら、立方体へと近づいていく。


 その時、立方体の側面にあるドアが、不意に開いた。


 そこから姿を現したのは、黒いスーツを纏った男。


 アダム・ハーディングだ。死者の都(ネクロポリス)の神であり、リリスを生み出した創造主だと、彼は言っている。しかし、実際はリリスがそう信じ込まされているだけで、彼女はアダムの子ではない。


「愚かな娘よ、よくぞ参った」


 アダムは不敵に笑い、静かに呟いた。


「スキル〝肥大化(ハイパートロフィー)〟」


 アダムの足元から黒い影が溢れ出し、白い雪原をみるみるうちに覆い尽くしていく。次の瞬間、リリアたちのスキルが暴走を始めた。


 影と霧が大きく膨張し、轟音と共に爆発する。まるで、意思を持った影や霧が、彼らの命を奪おうとしているかのように。


 南極の夜空に、悲鳴がこだまする。リリアと六炎影の姿が、次々と影と霧に飲み込まれていく。七人の配下は元の姿に戻り、もがき苦しみながら灰と化してしまう。あまりにもあっけない最期だった。


「まさか、あの影でスキルを暴走させるとは……」


 かろうじてスキルの効果範囲から逃れたリリスは、愕然としていた。アダムのスキルは、彼女の予想を遥かに超えていた。


 エドワードはとっさに炎の盾を展開する。しかし、影の浸食は止められない。抗うように炎を燃え上がらせるが、やがてそれも影に飲み込まれ、エドワードの身体は灰となって崩れ落ちてしまった。


「母上さま! スキルを使うのは危険です!」


 ダーラが必死に訴える。リリスは娘の言葉に従い、スキルを使うのを止めた。バンパイアのスキルを使えば、アダムに付け入る隙を与えてしまう。


「ええ、魔法だけで戦いましょう」


 リリス、ダーラ、マリアの三人は、スキルを封印し、魔法のみで立方体へと向かっていく。


 リリスとダーラは、空術(くうじゅつ)を使って氷と水の魔法を生み出し、アダムに攻撃を仕掛ける。


 鋭い氷の矢が飛び交い、巨大な水の刃が唸りを上げてアダムを切り裂こうとする。


 マリアは八芒星魔術(オクタグラムマジック)を展開し、八つの頂点から強力な魔力を解き放つ。


「我が下僕よ、敵を討て! 精霊召喚(サモン)!」


 マリアの呼びかけに応じ、炎の精霊が現れる。灼熱の炎が、アダムに襲いかかる。


 一瞬にして、南極大陸が戦場と化した。轟音が鳴り響き、炎と氷が激しくぶつかり合う。


 しかし、アダムは涼しい顔で、全ての攻撃をかわしていく。


「ふん、こんなものか」


 アダムは嘲るように呟くと、圧倒的な魔力を解き放った。


「我が力を見よ。生命の源(ライフソース)!」


 眩い光が辺り一面に広がる。その光の中心で、ダーラの体が灰と化し、崩れ落ちた。


「ダーラッ!」


 リリスの悲痛な叫びが、凍てつく夜空に響き渡る。


 愛する娘を失った悲しみが、怒りへと変わる。彼女の周りに、鋭い氷の刃が無数に出現し、アダムへと襲いかかる。


「貴様、よくも……!」


 リリスは怒りに我を忘れ、氷魔法を次々と放つ。


 マリアもまた、八芒星魔術(オクタグラムマジック)を駆使する。


精霊融合(フュージョン)! 我が力を示すのだ!」


 マリアの体が炎に包まれ、まるで炎の人形のように変化する。彼女は燃え盛る炎の体で、アダムに突進する。


 アダムはリリスの氷魔法を受け、傷を負う。さらに、マリアの炎の体当たりによって、大きく吹き飛ばされた。


 地面に叩きつけられたアダムは、しかし不敵な笑みを浮かべると、すぐに立ち上がった。


「愚かな娘よ、まだ分からんのか。私の力の前には、お前たちに勝ち目はないのだ」


 アダムは再び生命の源(ライフソース)を発動させた。


 リリスは瞬時に反応し、狙われたマリアを突き飛ばす。


「っ!?」


 マリアは間一髪で攻撃を回避した。しかし、代わりにリリスの右足が、光にさらされてしまう。


 一瞬の出来事だった。


 リリスの右足が、灰となり崩れ落ちる。


「ぐっ……!」


 彼女は激痛に顔を歪める。それでも、氷魔法を撃ち続ける。


 その隙を突き、マリアは渾身の八芒星魔術(オクタグラムマジック)を放つ。


「これで終わりよ! 精霊解放(リリース)!」


 凄まじい炎の渦がアダムを飲み込む。マリアは精霊との契約を断ち切り、最大限の力を引き出した。


 しかし、炎が消え去ると、アダムは再び無傷の姿で立っていた。


 いや、生命の源(ライフソース)によって、以前よりも力が増しているようだ。


「愚か者め! くらえ!」


 アダムが放った混沌(カオス)魔法が、リリスの左腕を捉える。


 凄まじい威力によって、リリスの左腕が粉々に砕け散る。


「うわあああああっ!」


 彼女の悲鳴が、南極にこだまする。


 瀕死のリリスを守るように、マリアが必死の抵抗を続ける。


精霊砕破(クラッシュ)!」


 八芒星に宿る精霊が、アダムめがけて突撃する。


 大量の魔力の一斉攻撃によって、アダムの動きが一瞬止まった。


「まだよ!」


 その一瞬の隙を逃さず、リリスは残されたすべての魔力を込めて氷魔法を放つ。


 巨大な氷の剣がいくつも出現し、アダムに降り注ぐ。


 しかし、アダムは、その全てを受け止めてしまう。


「無駄だ。私の力が分からぬか」


 アダムは嘲るように言う。


 マリアの心に、絶望がよぎる。


 しかし、彼女は諦めない。


精霊転換(コンバート)!」


 八芒星に宿るわずかな精霊の力を、炎から風へ、風から水へと次々に転換させ、アダムを倒そうと試みる。


 だが、アダムは依然として無傷だ。不敵な笑みを浮かべている。


「ならば、これで終わりだ」


 呟きと共に、彼の周囲に凄まじい魔力が渦巻く。


 再び発動される生命の源(ライフソース)


 マリアは全力で後退する。しかし、アダムの狙いはマリアではなかった。


 傷だらけになったリリスへと、容赦のない攻撃が放たれた。


「がはっ……!」


 魔力の奔流に飲み込まれ、リリスの体は一瞬で灰へと変わってしまう。


 リリスが倒れた。


 マリアの心は、絶望に打ちひしがれる。


 それと同時に、リリスからかけられていたスキル〝絶対服従(ドミネーション)〟が解けた。


「ざまあみろ、この裏切り者!」


 マリアは涙を流しながら、灰になったリリスを罵る。


 そして、彼女はアダムと対峙した。リリスに支配されていたとはいえ、彼女の記憶は鮮明に残っているようだ。


 マリアは最後の八芒星魔術を放つ。


精霊砕破(クラッシュ)!」


 しかし、それもアダムには全く効果がない。


「くそっ! ここでこのスキルを使ったら、私がダンジョンになってしまう。でも、(イクリプス)と連絡が取れれば、まだ可能性は残っている」


 マリアは雪の上に膝をつき、呟く。そして、彼女はスキル〝|ダンジョンコントロール《ダンジョン・マスター》〟を使った。


 マリアの身体から、まばゆい光が放たれる。次の瞬間、彼女は姿を消した。


 そこに残されたのは、小さなダンジョンコアだけ。風に吹かれ、ダンジョンコアがコロコロと転がる。しばらくすると、ダンジョンコアは不自然な動きを見せ始め、雪原に沈んでいく。それと同時に雪原が硬化し始め、乳白色へと変化していく。ダンジョンでよく見る、あの独特な材質だ。


 乳白色の大地は急速に広がり、アダムの足元まで迫る。


 ――バクン


 地面から勢いよく飛び出した、巨大な嘴のようなものに、アダムは飲み込まれてしまった。


(イクリプス)の力を思い知れ!」


 マリアの声がどこからともなく響く。


「この世界最大のダンジョンコアの力か。ふふふっ、ふははは、あーっはっはっはっはっ!」


 アダムは高笑いと共に、巨大な嘴の中で最後の生命の源(ライフソース)を放った。


 光に包まれた嘴は、干からびた枯れ枝のように、ボロボロと崩れ落ちていく。


「ははははっ! 愚か者め! 愚か者め! 愚かすぎる! あははははははははははは!」


 嘴の中から現れたアダムは、高笑いしながら周囲を見回す。


 しかし、彼の高笑いは、突然途絶えた。


「……何!?」


 アダムの胸から、短剣の切っ先が突き出ている。


 彼が振り返ると、そこにはリリスの姿があった。


「……まさか、お前!」


「甘いわ、アダム。あなたはバンパイアの王を気取っているけれど、スキル〝魂の叫び(ソウルコール)〟を忘れたの?」


 リリスは冷たく笑いながら、ソル・エクセクトルを強く捻じった。かつて、ソータはこの短剣によって、命を落としかけている。


 短剣の刃が生み出したゲートに、アダムの身体が吸い込まれていく。


「ば、馬鹿な……! こんな、こんなことが……!」


 アダムは信じられない、と言いたげに叫ぶ。


 しかし、もう手遅れだ。


 ゲートの向こう側は、太陽の中心。超高温、超高圧の世界。


 どんな力を持つ者であろうと、一瞬でプラズマと化し、消滅してしまう。


 アダムの身体が、ゲートに飲み込まれていく。


 奥深くから、彼の断末魔が聞こえてきた。


「ぐわあああああっ!」


 やがて、ゲートは閉じた。


 アダムの姿は、跡形もなく消え去っていた。


 静寂が戻った南極大陸。リリスだけが、そこに立っている。


 彼女は膝をつき、荒い息を繰り返す。傷だらけの身体から白煙が立ち上り、ゆっくりと再生していく。


「……私の勝ちね」


 リリスは呟くと、よろよろと立ち上がった。


 これから、仲間たちを蘇らせなければならない。彼女は無言で、スキル〝魂の叫び(ソウルコール)〟を使う。娘のダーラ、リリアとエドワード、そして六炎影(りくえんえい)の六人が、灰から蘇生する。彼らが身につけていた装備も、元通りだ。以前、ソータはこの現象を不思議に思っていた。


「母上さま、これは一体……」

「あのスキルと魔法、黙っていてごめんなさいね」


 アダムに勝つことはできた。しかし、作戦会議では、アダムの持つスキル〝肥大化(ハイパートロフィー)〟や、魔法の生命の源(ライフソース)については、一切説明がなかった。


 リリア、エドワード、そして六炎影(りくえんえい)の六人。彼らは疑問に思いながらも、真祖(オリジン)であるリリス・アップルビーに頭を下げる。感謝の気持ちを込めて。


「本来なら、何をやってもアダムには勝てなかったわ。でも、予想通り、魔女(カヴン)マリア・フリーマンが、いい仕事をしてくれたのよ。私たちはバンパイア。灰になっても、対策を講じなければ、必ず蘇るでしょう?」


 リリスの言葉に、一同は愕然とする。


「母上さま……。マリアが必要だと仰っていたのは、八芒星魔術(オクタグラムマジック)を使うためではなく、単なる時間稼ぎだったのですか……?」


「フフフッ、そうとも言えるわね。アダムと互角に戦えるだけの力を持つ者は、ソータ・イタガキだけ。今回の役割は、彼が適任だったわ。でも、彼に今死なれては困るでしょう? だから、彼の代わりにマリア・フリーマンを使ったのよ。それだけのこと」


 リリスは涼しい顔で言い放つと、極寒の風に長い金髪をなびかせた。神々に復讐するという、魔女(カヴン)マリア・フリーマンの悲願は、真祖(オリジン)であるリリス・アップルビーの策略によって、潰えたのだ。


 娘のダーラ・ダーソン。エドワード、そしてリリア。六炎影(りくえんえい)のメンバーたち。誰もが、リリスの手の上で転がされていたということに気づく。


 しかし、リリスは気にする様子もない。彼女は静かに、暗い夜空を見つめている。これは終わりではない。新たな戦いの始まりなのだ。


 南極の夜空の下、リリスは真剣な表情で、仲間たちに指示を出す。


「ここには、ラコーダとディース・パテル、そしてペルセポーネは来なかったわ。となれば、奴ら三柱は、地球か異世界、どちらかにいるはず。手を貸しに行ってあげましょうか、ソータ・イタガキに」


 その言葉に、ダーラは嬉しそうに微笑んだ。


 エドワード、リリア、六炎影(りくえんえい)の六人。彼らは以前、ソータと敵対していた。しかし、その後、リリスの命令により、ソータへの攻撃は禁じられている。そのためか、ダーラ以外のバンパイアたちは、複雑な表情を浮かべていた。


 それでも、ソータを助けることに異論を唱える者はいない。彼らにとって、真祖(オリジン)であるリリス・アップルビーの命令は絶対なのだ。


「さあ、準備をしなさい。ソータのところへ行くわよ」


 リリスの言葉に、一同は頷いた。


 南極の極夜を後にし、一行はソータのもとへと向かう。


 皆が転移しようとした、まさにその時だった。


「フハハハッ! 舐めるなよ!」


 リリスたちの目の前に、突如としてゲートが開く。そして、アダム・ハーディングが姿を現した。しかも、彼は一人ではなかった。彼の背後には、混沌界の住人――つまり、バンパイアの神々が、ずらりと並んでいた。


 アダムはリリスを鋭い視線で見つめる。そして、彼らは躊躇することなく、死者の都(ネクロポリス)の南極へと進軍を開始した。万の軍勢を引き連れて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ