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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
17章 終章

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332 地球の南極

 松本総理との電話を切り、俺はハセさん(人工超知能)に念話を飛ばした。


『ハセさん、頼みがあるんだ』

『なんじゃらほい?』

『通信網と人工衛星をハッキングして、南極に核ミサイルが落下しそうだと誤報を流してくれない? そうすれば、各国は慌てて南極から撤退するはずだからさ』

『おお~、面白いアイディアだね。やってみようか』

『マジで? 理由も聞かずにやってくれるの?』

『ソータくんがそこまで言うのなら、断る理由はないよ。今すぐ実行するから、少し待っててね』


 俺は額に滲んだ汗を拭った。予想外にあっさりとした承諾に、驚きを隠せない。それだけ、ハセさんから信頼されているということか。――――思えば、初めからハセさんは友好的だった。なぜなのか疑問が残るが、些細なことだ。気にしないでおこう。


 ハセさんの能力は、本当に凄まじい。わずか数分のうちに、世界中のニュースが、南極への核攻撃の危険性を報じ始めた。フリールームにいた人々から、悲鳴が上がる。申し訳ない。これは誤報なんだ。心の中で謝った。


 俺はもう一度、日本の首相官邸に電話をかけた。


『松本総理、大変な事態のようですね』

『板垣くん、君なら事情を知っているんだろう? 一体、何が起こっているんだい?』


 松本総理の声は、明らかに動揺している。彼もまた、ハセさん(人工超知能)が仕掛けた情報戦に翻弄されているのだ。申し訳ないことをした。俺は心の中で謝罪した。


『ニュースを見て、すぐに電話しました。日本は南極に昭和基地がありますよね。情報源は言えませんが、南極に核ミサイルが撃ち込まれる可能性があります。至急、昭和基地の人々を避難させてください』

『わ、分かった。すぐに手配するよ』


 松本総理は、慌てた様子で電話を切った。


 最悪の事態を想定し、可能な限りの対策を講じる。それが、為政者の務めだ。たとえそれが誤報であっても、疑わしい限りは放置できない以上、避難は避けられない。今は、これでいい。南極大陸に黒い立方体が出現しているのなら、核兵器よりもはるかに危険な存在だから。


 俺は状況を自分の目で確かめるため、南極大陸の上空へ転移した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 そこは、一面の銀世界だった。果てしなく広がる雪原が、地平線の彼方まで続いている。


 南極は今、真冬。地球とは季節が逆のため、極夜とまではいかないが、太陽が昇っている時間はわずかしかない。


 薄暗い世界。


 空は厚い雲に覆われ、猛烈な風が吹き荒れている。時折、視界を完全に奪うほどの猛吹雪が襲ってくる。


 俺は障壁を展開し、吹き付ける雪と風を巧みに遮断する。そして、その中で小さな火を起こし、身体を温める。大規模な火魔法を使えば、寒さは防げる。しかし、できるだけ氷を溶かしたくない。どんな小さな影響でも、この繊細な環境に影響を与えてしまうかもしれない。


 南極大陸は、日本の三十七倍の面積を誇る。千四百万平方キロメートルを超える広大な大地だ。本来なら、大陸周辺の海は凍っているはずだが、温暖化の影響でもはや冬でも凍結することはない。


 この広大な南極大陸から、一辺五十メートルしかない黒い立方体を見つけ出すのは、砂漠で一粒の砂を探すようなものだ。


 俺は冥導(めいどう)を頼りに、立方体を探そうとした。


 しかし、南極という特殊な環境が影響しているのか、地磁気の影響なのか、冥導(めいどう)の感知にズレが生じている。方角はおぼろげに分かるのだが、立方体までの正確な距離が掴めない。


「うーん、これは簡単には見つかりそうにないな……」


 俺は独り言を呟きながら、雪原の上を浮遊魔法で移動していく。


 白く凍りついた大地に、長く黒い影が伸び始めた。夜明けが近いのかもしれない。低い位置にある太陽が、斜めから光を投げかけ、不気味なコントラストを生み出している。


 風は、弱まる気配を見せない。むしろ、ますます強まっているようだ。


 このままでは、立方体を見つけるどころか、俺自身の現在地さえ分からなくなりそうだ。


 そう思った瞬間、周りの景色が大きく変化した。


 強風がぴたりと止み、厚い雲の隙間から青空が覗く。


 雲間から差し込む太陽の光は眩しく、白い雪原がキラキラと輝き始める。


 吹雪が止んだことで、視界は大きく開けた。これなら、黒い立方体もすぐに見つかるだろう。


 俺は浮遊魔法で高度を上げ、広範囲に冥導(めいどう)を感知する。


 すると、遥か眼下に、一点の黒い影が見えた。白銀の世界に浮かぶ、異質な存在。


 俺は急降下する。


 黒い影に近づくにつれて、それが立方体であることがはっきりと分かってきた。


 四角い黒い塊が、静かに雪原の上に佇んでいる。


 黒い立方体の側面には、人が出入りできるほどの大きさのドアがあった。そして、その周辺を数体のデーモンが警備している。


 上半身は裸で、黒い冑を被り、手には様々な武器を持っている。人型デーモンか。もはや、見慣れた存在だ。


 俺の姿に気づいたデーモンたちが、一斉にこちらを向く。


 鋭い目つきで睨みつけながら、武器を構える。


「貴様、何者だ?」


 デーモンの一人が、低く唸るような声で問いかけてきた。


「お喋りする暇はねえんだよ」


 俺は間髪入れずにイビルアイを展開した。


 黒い立方体の上空に、巨大な目玉が現れる。


 次の瞬間、立方体と周囲のデーモンたちが、イビルアイの中に吸い込まれていった。


 悲鳴が聞こえる。しかし、それはすぐに静寂へと変わった。


 俺は、ためらうことなくイビルアイの中に飛び込んだ。


 どこまでも続く漆黒の空間。そこに、吸い込まれたデーモンたちがいた。


 彼らは苦しそうな顔で、もがき苦しんでいる。


 単純な物理的ダメージは受けていないようだ。しかし、イビルアイの中に閉じ込められたことで、精神的に追い詰められているのかもしれない。ここは永遠に続く闇の牢獄。転移系の魔法やスキルを使わなければ、脱出は不可能だ。


 俺はデーモンたちに獄舎の炎(プリズンフレイム)を叩き込んだ。


 一瞬で彼らの肉体が燃え上がり、灰と化していく。


 デーモンたちはイビルアイから解放され、次々と消滅していく。ヒュギエイアの水を使う必要もないだろう。


 残るは、冥導(めいどう)結晶でできた立方体だ。これを、どうにかしなければ。


 ……どうすればいいんだ? あの大きさの冥導(めいどう)結晶を破壊したら、どれほどの被害が出るのか見当もつかない。核兵器並みの爆発が起こるかもしれない。俺は、慎重に考えを巡らせた。そして、閃いた。無限空間魔法陣を初めて使ってみよう。ファーギ特製の魔導バッグを開き、その中に無限空間魔法陣を展開する。


 ……何も起こらない? 俺はバッグの中を覗き込んだ。すると、収納している物の奥に、黒い穴が開いていた。


「おお?」


 その穴は、他の物とは隔離されており、俺の私物を吸い込んでいない。まるで、魔導バッグに新たな機能が追加されたかのようだ。


 俺は念動力(サイコキネシス)で黒い立方体を掴み、手元に引き寄せる。そして、魔導バッグの口を開けて黒い立方体に近づける。すると、まるで最初からそこに存在していなかったかのように、黒い立方体は消え去った。うまく魔導バッグに収納できたようだ。これでひと安心だな。


 よし。この空間から脱出しよう。


 イビルアイの中から転移すると、南極の雪原には何の痕跡も残っていなかった。


 浮遊魔法を使って空へ舞い上がり、白銀に輝く世界を見下ろしながら、俺は自問自答する。


 地球はこれで安全と言えるのだろうか。南極に出現したデーモンたちを殲滅し、黒い立方体を消し去った。これで、俺の役目は終わったのだろうか。


 しかし、異世界の仲間たちも、まだ戦っているはずだ。リリスも、シビルも。そして、あの激しい戦いが繰り広げられていた神界は、無事なのだろうか……。


 不安が尽きない。だが、俺は地球人の移住先である異世界が、何よりも安全で平和な場所であってほしいと願う。長く辛い戦いの果てに、真の平和が訪れることを。


 大きく深呼吸をし、俺は再び異世界へ向けてゲートを開いた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 異世界の南極大陸上空に、エルフのインビンシブル艦隊が到着した。空一面に広がる巨大空艇(くうてい)は、五十隻を超える。旗艦サッドネスに搭乗するミッシー・デシルバ・エリオット。彼女の隣には、母であるエレノア・デシルバ・エリオットが立っている。


「地理的に、私たちが一番乗りね」


 エレノアが静かに呟く。エルフの国、ルンドストロム王国は、南半球のモルトン大陸に位置している。空艇(くうてい)で少し南下するだけで、すぐに南極大陸に到達できるのだ。しかし、彼女たちエルフは無計画にここに来たわけではない。


 艦隊の指揮官であるエレノアが、凛とした声で指示を出す。


「インビンシブル艦隊に告ぐ。高度を下げ、その場で停止せよ。友軍であるドワーフ軍と修道騎士団クインテットの到着を待つ。デーモンの斥候が来ているかもしれない。警戒を怠るな!」


 外の景色は、一面の闇。猛烈な吹雪が吹き荒れている。窓から少しでも光が漏れると、たちまち敵に発見されてしまう。そのため、各艦の窓はすべて防壁で覆われていた。不規則な突風によって、巨大な戦艦が大きく揺れる。艦隊は地上から二十メートルほどの高さまで降下し、静かに停止した。


 エレノアは全艦の停止を確認すると、ミッシーを連れ、艦橋を出ていく。周囲の兵士たちには聞かれたくない話があるのだろう。彼女はミッシーを艦長室に案内した。


「で? 喧嘩した理由を詳しく聞かせてもらおうかしら」


 エレノアはカウチにゆったりと腰掛け、足を組んだ。鋭い視線は、娘であるミッシーに向けられている。


「だから、喧嘩じゃないってば。ソータが、私たちを遠ざけたのよ」

「へえ、それで大人しく引き下がるの? 随分と諦めがいいのね」

「だって、私たちは必要とされていないのよ。ソータは、何でも一人でできてしまうんだから!」


 エレノアの皮肉に、苛立ちを隠せないミッシー。いつもの凜とした口調ではなくなっている。まるで親子喧嘩のようだ。こうなることを予測していたかのように、エレノアは艦長室を選んだのだろう。


 母娘の言い争いは続く。


 エレノアは、なぜソータと別れたのか、そして、なぜソータのもとに戻らないのか、とミッシーを問い詰める。

 ミッシーは、ソータから必要とされていないから無理だ、と反論する。


 エレノアは眉をひそめ、鋭い口調で言った。


「ミッシー、あなた、私が言いたいことが理解できていないんじゃないの?」

「……?」


 ミッシーは首を傾げ、エレノアの言葉の意味が理解できない。


「私が聞いているのは、ミッシー、あなた自身の気持ちはどうなの? ということよ」

「わ、私の気持ち……」


 ミッシーは戸惑いながらも、エレノアの真意を探ろうとしていた。


「あなたを戦士として育てた私にも、責任はあるわ。それに、私たちエルフやドワーフは長命種でしょ? だから、人間とはあまり深く関わらないように、と教えた。でも……」


 エレノアは一呼吸置いてから、言葉を続けた。


「ソータは、ニンゲンでもヒト族でもないわよね?」

「……」


 核心をつくエレノアの問いかけに、ミッシーは何も答えることができない。彼女もまた、ソータがニンゲンではないと薄々気づいているのだ。


「……やっぱりね。エルフの里でソータと出会った時、彼には魔力が無いように見えたわ。なのに、彼は信じられないほどの力を持つ魔法を使い、デーモンの大軍を滅ぼした。出会った時から、ソータは私たちとは違う存在だったのよ……。今では、あらゆる魔素を使いこなす存在になっている。彼には、もはや寿命の概念すら存在しないんじゃないかしら」

「……一体、何が言いたいわけ?」

「さっさと、ソータを落としなさい」


 エレノアは、事もなげに言った。その言葉に、ミッシーは顔を真っ赤にする。


「な、なによ! 色恋の話だったの!?」

「そうよ。それに、居酒屋に置き去りにされたくらいで、拗ねないで。そんなに器が小さいと、結婚生活はうまくいかないわよ。お互いを尊重し、お互いに譲歩し、お互いを愛すること。それを忘れないで」

「くっ! 私は――」

「それじゃあ、私は艦橋に戻るわ。やることは山ほどあるのよ」


 エレノアはミッシーの言葉を遮ると、立ち上がり艦長室を出ていった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 サンルカル王国の王都パラメダに、ドワーフのサイレンスシャドウ艦隊が到着した。こちらでも、巨大な空艇(くうてい)が空を埋め尽くしている。王都の人々は足を止め、驚きの視線を空へと向ける。


 サイレンスシャドウ艦隊の旗艦、イノセントヴィクティムの艦橋。オギルビー・ホルデンが仁王立ちになっている。彼は元Sランク冒険者であり、この艦隊の司令官だ。彼の眼下には、空艇(くうてい)の発着場がある。そこには、修道騎士団クインテットの新造艦オブシディアンの姿があった。


「よーし、回線を開け」


 オギルビーの指示を受け、通信士は地上の修道騎士団クインテットに魔導通信を繋ぐ。


「こちらサイレンスシャドウ艦隊のオギルビー・ホルデンだ。修道騎士団クインテットのテッド・サンルカル殿下に繋いでくれ」

『はい。了解しま――俺だ、オギルビー。早かったな』


 通信士の声が途中で変わる。近くにいたテッドが、通信を代わったようだ。


「ああ、急いできたからな。そっちはどうしたんだ? 遅れているようだが」

『すまない。少し身内で揉め事があってな――もう少しだけ待ってくれ』

「身内? まあいい、急いでくれ。ルンドストロム王国のインビンシブル艦隊は、もうじき南極に到着する頃だ。ワシらと修道騎士団クインテット、一緒に艦隊転移(・・・・)するまで、時間がないからな」

『わ、分かった』


 魔導通信を切り、オギルビーは椅子に腰を下ろす。隣には、不機嫌そうな顔をしたファーギの姿があった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「もう、いつまでグズグズしているのよ!」


 ハーフエルフのアイヴィー・デュアメルは、ベッドから出てこないマイア・カムストックの手を引いていた。二段ベッドの上では、ニーナ・ウィックローがふて寝している。


 そこは、修道騎士団クインテットの宿舎だ。マイアとニーナは基地に帰還後、アスクレピウスの話をテッドに報告した。緊急事態だと判断したテッドは、国王に進軍の許可を求め、許可を得た。しかし、その後の二人は、まるで別人のように意気消沈し、宿舎に引きこもってしまったのだ。原因は、居酒屋でソータに置き去りにされた事件だ。


「私はもう、必要とされていないから、いいのよ」

「あたいも、あたいも」


 マイアに続いて、ニーナも口を開く。


「はあ……。あなたたち、修道騎士団クインテットの序列四位と五位でしょう? しっかりしなさい!」

「……」

「……」


 二人は布団を頭まで被ってしまう。アイヴィーはそれを見て、最終手段に出ることにした。


「そういえば、ソータ・イタガキから連絡があったみたいよ?」

「え、本当!?」

「いつ?」


 二人は驚いた様子で、アイヴィーを見つめる。


「ああ、えっと……オブシディアンにいるテッド殿下が、そう言っていたみたい」

「ちょっと! それ、早く言ってよ!」

「まったくもう、アイヴィーったら!」


 二人は慌ててベッドから飛び起き、パジャマから戦闘服へと早変わりする。そして、まるで嵐のように部屋を飛び出していった。向かう先は、もちろん巨大空艇オブシディアンだ。


「はあ~、これから決戦だというのに、もうクタクタだわ……」


 アイヴィーは、ため息をつきながら立ち上がり、ゆっくりと部屋を出ていった。


 しばらくすると、ドワーフ軍のサイレンスシャドウ艦隊と修道騎士団クインテットの艦隊は、空に広がる巨大な魔法陣と共に転移し、全ての空艇(くうてい)が姿を消した。艦隊ごと南極へ転移したのだ。


 もちろん、ソータからの連絡は嘘だ。アイヴィーはオブシディアンの中で、マイアとニーナから怒涛の質問攻めにあっていた。

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