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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
17章 終章

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329/341

329 時の支配者

 千五百メートルの空の中、眼下に広がるのはヘルシンキの街並み。


 時間停止魔法の発動と共に、再び太陽系全体の時間が止まったかのような感覚に襲われる。デストロイモード中とはいえ、二度も太陽系全体に時間停止の効果が及ぶとは考えにくい。俺の体内にある根源(ソースコード)がそれほどのものかと疑念を抱かずにはいられないのだ。


 だがしかし、これなら核兵器の無力化は元より、地球の温暖化も根本から解決できるのではないだろうか。


 デストロイモードの長時間維持は不可能だ。それは感覚的に理解できる。やるならば、いまのうちに事を運ばなければならない。


 まずは核ミサイルの無力化に着手しよう。


 脳内にある地球のマップには、たくさんの核ミサイルが表示されている。現在飛行中のもの、発射前のもの、そしてすでに爆発を起こしてしまったもの。それらすべてが手に取るように把握できる。


 ここでひとつ試してみたいことがある。冥導(めいどう)を使用する大魔法、イビルアイだ。これは以前、神界のエンペドクレスによって使用不可能にされた。しかしデストロイモード中の現在なら、その枷を打ち破れるかもしれない。


 核兵器をすべて対象とする。


 そのイメージでイビルアイを展開する。一点に留まらず、地球上の至る所を覆うべく、宙に浮かぶ巨大な目玉を千個創造し、均等に配置していく。


 成功だ。イビルアイは問題なく展開され、千個の巨大な目玉が地球を覆い尽くす様は圧巻だった。


 脳内地球儀からの操作は容易い。そう感じながら、イビルアイの効果を発動させ、核兵器の時間停止を解除する。


 おお、これはすごい。


 イビルアイは、ミサイルの推進力を上回る吸引力を有していた。飛行中のミサイルが徐々に軌道を変更し、直径五十キロメートルの目玉に吸い込まれていく。

 その中は計り知れない空間が広がっている。核爆発が発生しようとも、放射能が放出されようとも、地球上に影響が及ぶことはない。


 脳内地球儀に映し出されるのは、世界中の核ミサイルが、千個のイビルアイに次々と取り込まれていく様子だ。やがて、十五万発を超える核兵器は、すべてイビルアイに取り込まれた。


 月面基地と魔女(ハッグ)シビル・ゴードンの時間停止を解除し、彼女に念話を送る。


『シビル、地球の核兵器の行方を調査してくれ』


『えっ……? 何が起きたのかしら……。ああ! ソータさん、地球上の核兵器が跡形もなく消失しています。どのような手段を用いたのですか? いや、地球上に複数の冥導(めいどう)反応が……。これはイビルアイの仕業……、しかも膨大な数……。まさか、すべてがそこに』


『その反応を見ると、地球上の核兵器はすべて消滅したようだな』


『はい、イビルアイでなければ、こんなことは不可能ですし――ああ、これは……』


 核兵器はすべて消え去った。シビルが言葉を失ったのは、恐らく十二刃(トニハ)の者たちや、俺の仲間がすべて命を落としたと悟ったからに違いない。現在、時間の流れているのは、俺とシビルだけだ。彼女はモニターを通じて、時間が停止した仲間たちを見守っているのだろう。


 何か慰めの言葉を掛けたいが、時間は待ってくれない。デストロイモードが解除される前に、事を済ませなければならない。


 次の課題は、地球温暖化の解決だ。


 地球温暖化の直接的な原因は、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの増加にある。その数値は産業革命以降、右肩上がりに増加し続け、今や人類の存亡を危ぶむレベルに達している。


 地球温暖化を即座に回避するため、最も効果的な手段は大気の組成を変更することだ。ただ、魔法で一気にやってしまうと、どんな影響が出るのか分からない。


 どうする……。


 勘で行動し、失敗してしまった。そんな結果になるやもしれない。これは博打と同じで、リスクが高すぎる。


 以前、俺が調子に乗って地球温暖化を止めようとしたときは、魔法を使った感覚すらなかった。あれから数ヶ月が経過し、太陽系全体に影響を及ぼすほどの力を手に入れたが、それでも魔法で地球温暖化を止めることはできないのか……。


 ――――パキッ


 いまの音は……?


 地球の時間は停止し、動けるのは俺だけ。空気の動きさえ止まっている。唯一動けるシビルは月にいるのに、なぜ音がする。そう考えながら辺りを警戒していると気配を感じた。


 リリス、ダーラ、それとエリス・バークワースの三人だ。


 魔女(カヴン)マリア・フリーマンだけは、時間停止の状態を保っている。しかし三人の時間停止はあっという間に解除されてしまった。


 今回はエリスに効いたと思っていたんだけど、甘かったか。あと、リリスとダーラも時間停止を解除しやがった。こいつらは一体何者なんだ。


「ソータ・イタガキ、その力は何だ」


 真っ先に口を開いたのはエリス・バークワース。語尾がいつもの「にゃ」ではなくなっていて、雰囲気まで変わっている。

 ああ、もしかすると人格がキャスパリーグへ切り替わったのかな? 奴は俺の前方、約五十メートルの距離で浮遊魔法を使っている。


「力? 何のことだ」


「はっ、とぼけるな。貴様の存在は蒼天(アイテール)なのに、もっと上の魔素を使っているだろう?」


 もっと上の魔素……? あ、エリスもキャスパリーグも、生粋の異世界人だ。素粒子という考え方がないのだろう。つまり時間停止を行なった素粒子、根源(ソースコード)を指しているのか。


「ソータ」


「おう?」


 五メートルほど背後から、リリスの小声が聞こえる。キャスパリーグに聞こえないように話しているみたいだな。これまで共闘してきた仲なので、後ろにリリスとダーラがいても気にならない。


「さっきも言ったが、キャスパリーグは星彩(せいさい)界の住人だ。神界の住人であるお前に、どうにか出来る相手ではない」


「それはもう聞いた。何が言いたいんだ?」


「助力してやろうか?」


「……俺たちは共闘中だ。確認する必要があんのか? さっさと手伝えボケが」


「ふっ……。その言葉、忘れるなよ?」


 言質は取ったぞ、みたいな言い方、やめてほしいんだけどな。口には出さないけど。

 なんて考えていると、リリスが大声を張り上げた。


「エリス、いや、キャスパリーグ! お前にはここで退場してもらう! 私とサシで勝負しろ」


 凍り付くような冷たい声だ。というか、リリスが戦うんかーい、とツッコみたくなった。いや、ここで「エリス・バークワースを倒すのは俺だ」なんて意地を張る場面ではない。そういうのは正義の味方がやることだ。今はリリス単独でキャスパリーグを倒せばよし。難しそうなら手を貸す。


「何だ貴様、裏切ったのか」


「裏切る? 何を言っている、キャスパリーグ。お前は私が仲間だと思っていたのか?」


「……」


 リリスの突き放す言葉で、キャスパリーグの表情が変わった。表に出さないよう、静かに怒りを湛えている。


 ――――ギイィ


 まばたきをすると、リリスは五十メートル先のキャスパリーグにリリスが襲いかかっていた。速い。魔力の動きは無かったので、転移系のスキルか?


 リリスの両手から爪が伸び、十本のカミソリのように変化している。


 それを鉤爪で防いだキャスパリーグ。彼女はリリスの攻撃に、特に驚いてはいない。


 身体能力は互角と言ったところか。


 キャスパリーグの鉤爪がリリスに届くことはなく、一進一退の攻防が続く。


 ふたりとも器用だな。浮遊魔法の扱いに慣れている。細かいフェイントを交えて、しこたま剣戟(けんげき)が鳴り響くも、決定的な一撃が生まれない。何という速さだろう。デストロイモード中なのに、目で追えなくなってきた。


 これでは魔法で攻撃する余裕もないだろう。意識を魔法に向けた瞬間、真っ二つに斬られる。それほどの速さだった。


 完全に観戦モードに入っていると、ダーラの気配が俺の横へ移動してきた。


「攻撃しないんです?」


「え? タイマンでしょこれ」


「……ソータさん、意外と真面目なんですね」


「意外とって何だよ意外とって」


「ほら、ぬるいこと言ってないで、キャスパリーグに攻撃しますよ」


 そう言ったダーラが姿を消す。またしても目で追えなかった。リリスはまだ分かるけど、ダーラはいったい何者なんだ……? リリスの娘と言ってるけど、なんか違う気がする。


 改めて戦闘を観察する。一対二となった戦いは、互角から徐々に傾き始めた。


 正面からリリスの爪を受け止めたキャスパリーグ。両手の鉤爪を使っていて、背後はがら空きだ。

 そこへすかさず爪を振るうダーラ。彼女の目は赤く輝き、獲物を追うバンパイアと化していた。


 キャスパリーグはそれを察して、軽々と避けていた。


 ぶっちゃけ、あの三人の中に入れない。ダーラは俺に戦闘参加を促したが、無理なもんは無理。体術や魔法がうまくなったからと言っても、あの三人の動きは尋常では無い。刹那で攻防の入れ替わる戦闘空間に入り込めば、俺なんて瞬時にバラバラに斬り刻まれちまう。


 それに、さっきからキャスパリーグに時間停止魔法を使っているけど、まるで効き目無し。一瞬でも奴の時間が止まれば、そこで勝負ありなんだけどなぁ。そろそろデストロイモードも終わりそうだし、どうするかな。


『ソータ、スキル〝超加速(アクセラレーション)〟を使ってみれば?』


『うん? 効果あるかな?』


 クロノスの声でふと思う。こいつまた思考を読んでやがると。


 まあいいや。今に始まったことじゃないし。


「おっ!?」


 思わず声が出た。スキル〝超加速(アクセラレーション)〟を使ってみたところ、抜群の効果が現われた。


『どういう事?』


『ソータはいつも魔法ばかりで、スキルをあまり使わないですよね。それに加え、いま使っている魔素は根源(ソースコード)。スキルは魔素に影響されますので、効果が上がっているのは当然です』


『ほほー、素晴らしい』


『かっこつけてもダメですよ。忘れてたくせに』


『やかましいわ』


 クロノスは置いといてと。いやはやこれは驚いた。


 リリスとダーラ、それにキャスパリーグの動きが止まって見える。ゆっくりと徐々に動いているのだ。


 彼女たちと俺は、時間の流れが違う場所に立った気分になる。スキル〝超加速(アクセラレーション)〟の効果がここまで高いとは思いもしなかった。これからは併用するようにしよう。


 よし、俺も戦闘に参加しよう――は?


 キャスパリーグの動きが俺と同じになった。奴もスキル〝超加速(アクセラレーション)〟を使ったのだろう。


 キャスパリーグの鉤爪で、リリスとダーラ、ふたりとも首をはね飛ばされてしまった。


 ゆっくりと身体から首が離れてゆく。俺は彼女たちふたりに時間停止魔法を使った。


 これで一安心。時間停止を解除した瞬間、冥導(めいどう)魔法の魂の叫び(ソウルコール)を使用すれば間に合う。例え砂になったとしても。


「うおっ!?」


 五十メートル先のキャスパリーグが、瞬時に俺の前に現れた。鉤爪を振りかぶり、俺の首を狙っている。


 しかし。


「ぐっ!?」


 キャスパリーグの動きが止まって、苦しそうな声を上げる。念動力(サイコキネシス)で掴んだからだ。


「くそっ!」


 キャスパリーグはすぐに転移魔法で移動した。現れた気配は俺の背後。


 ――バン


 板状障壁を張り、同時に瞬間移動(テレポーテーション)でその場を離れる。追いかけるように障壁の割れる音が聞こえてきた。


 だが、移動先にキャスパリーグが待ち構えていた。


「これでお仕舞いにゃ」


 違う。エリスの人格で待っていたのだ。彼女はすでに魔法を発動させ、俺に向けて発射直前だった。


 瞬間移動(テレポーテーション)が間に合わない。


 それならエリスの魔法を封じよう。


 スキル〝魔封殺(アンチマジック)〟を使用。


 エリスの魔法が消え去り、不発に終わった。


 彼女は諦めずに次の魔法を発動させようとするが、すでに魔法は封じている。


「ソータアアアアッ!!」


 次の瞬間、エリスの絶叫と共に、スキル〝魔封殺(アンチマジック)〟の効果が消えた。


 そんなのありかよ。気迫でスキルの効果を消すとか聞いたことねえし。


 あ、デーモンの能力をコピーしたってやつか。その中にスキルを解除するスキルがあったのかもね。


 そんなこと考えても、目の前の事実は変わらない。


 エリスは次の魔法を発動させていた。


 素粒子の星彩(せいさい)を感じる。


 リリスが言っていたな。エリス、いや、キャスパリーグは星彩(せいさい)界の住人だと。俺の身体が神界の蒼天(アイテール)なら、キャスパリーグの身体は星彩(せいさい)で出来ている。つまり俺より強い力を持っているわけだ。


 エリスの魔法が何か知らないけれど、とてつもない圧力を感じて危険だ。地球が丸ごと吹っ飛びそうな予感さえある。


 そこへ俺は、スキル〝魔封殺(アンチマジック)〟を使用。


 エリスの魔法を使用不可とし、膨れ上がった星彩の行方を探る。


 このまま破裂しても、素粒子がばら撒かれるだけで問題ない。


 エリスは苦しそうな顔で耐えているが、どれくらい持つかな。


 時間をかけたくないので、さっさととどめを刺そう。


 彼女と俺の速さは同じくらい。


 いまのこの一瞬だけ、エリスが苦しそうな顔で動きを止めた。


 そこで俺は根源(ソースコード)の力を使い、エリスの周囲に質量場(ヒッグスフィールド)を展開する。すると空間そのものが粘性を帯びたかのように歪み、エリスの動きが急激に遅くなった。苦しそうだった表情は驚きへと変わっている。


 質量場(ヒッグスフィールド)は目に見えないが、その効果は明らかだ。エリスの周囲の空間が重力に引き寄せられるように歪み、彼女の動きを束縛している。これは単なる重力操作ではない。空間そのものの性質を変え、質量の概念を操作する、より根源的な魔法だ。


 メフィスト。やつの使ったヒッグス粒子がこんな形で役に立つとは。


 まあいい。例え彼女がどんな世界の住人であろうとも、質量は必ずある。いつもより重くなれば、どんなに強くても動きは鈍る。


 案の定エリスの動きは遅くなった。これは叫んだくらいではどうにか出来るものでは無い。さらにヒッグス粒子の量を増やしていく。エリスは浮遊魔法で浮かんでいるが、それも質量の増加で耐えられなくなったのだろう。吊り下げていた紐が切れたように、落下していく。地上まで千五百メートルだ。


 しかし相手は、エリス・バークワースならぬキャスパリーグだ。彼女がヘルシンキの街に落ちたとしても、そんなにダメージを与えられないだろう。


 サラ姫殿下の治療のとき、魔封陣から絶対魔封陣を取得している。この魔法陣を多重魔法陣と共に、エリスに山のように貼り付けた。これでもう奴は魔法が使えない。


 それに加え、能封殺魔法陣(アンチスキル)魔封殺魔法陣(アンチマジック)も、多重魔法陣で重ねていく。


 これらは根源(ソースコード)を使っているため、星彩(せいさい)を使うエリスではどうしようもない。彼女は落下しながらも、俺を睨み付けている。何も出来ないからだ。


 そんな顔をされてもな。


 とどめを刺すため、灰も残さず焼いてしまおう。根源(ソースコード)で、獄舎の炎(プリズンフレイム)を使う。


 エリスの周囲を六面、障壁で囲む。彼女は慌てふためくが、魔法もスキルも封じているため、どうにもならない。鉤爪で叩こうとも、あんなに細い腕では無理だ。


 そこに俺は炎を発生させた。赤い炎が白へ変わり濃い青へ変わってゆく。


 その時にはもうエリスの姿はなく、灰も残さず完全に燃え尽きていた。


 ……あとは魔女(カヴン)マリア・フリーマンを始末して、首が飛んだリリスとダーラの蘇生か。バンパイアばっか汚えよな。生き返っても、お咎め無しとか。


 そういえば……、ニンゲンの蘇生は、女神アスクレピウスから、きつく禁じられていた。その理由は、冥界の神、ディース・パテルが怒って暴れるのを防ぐため。


 そのディース・パテルは現在時間停止中で無力。


 そうか。別にもう気にする必要はないんだ。


『シビル、仲間たちがどこで死んだのか、座標を教えてくれ』


 念話を飛ばしていると、エリスを燃やし尽くした獄舎の炎(プリズンフレイム)が、ヘルシンキ元老院広場に落ちたところだった。

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