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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
17章 終章

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324 シベリアへ

 リリスとダーラと別れ、俺はいったん上空へ転移する。もちろん姿は隠している。レーザー光で街中が照らされているのは、俺たち三人を探しているためだ。大勢の人々が出てきて、不可解にも右往左往している。


 あの慌て様は軍人じゃない。服装は普段着で、動きも統一されていない。手に持つ銃器の扱いにも慣れていないようだ。しかし、その中にはプロの兵士もいる。彼らが主導して魔術結社実在する死神(ソリッドリーパー)の新人たちをまとめ始める。


 そんなの焼け石に水だっての。リリスとダーラはスキル〝霧散(ミストディ)遁甲(スパーサル)〟で街中を駆け巡り混乱させている。薄い霧の状態になっている上に夜中だ。プロの兵士であっても彼女たちの存在には気づけないだろう。様々な場所に姿を現しては消える。彼女たちはそんな事を繰り返し、町の人々は侵入者を確保するために混乱を極めていた。


 俺も動こう。


 海岸近くに大きな屋敷が見えている。白を基調とした金持ちの別荘っぽい建物だ。ここだけはプロの兵士で固められており、いまの騒動でかなり警戒している。明らかに重要人物が住んでいる家だ。まずはそこから調べよう。


 小銃を持ち、敷地内を警戒する兵士たち。視線は外を向いている。邸内を照らす光源は電気だ。町のどこかに核融合発電があるっぽいな。監視カメラもたくさんある。


 そうなると……。


 俺は屋敷の裏手へ回り込み、電気の供給源を探す。……さすがに丸見えになってないか。おそらく地下に電線を埋めているはずだ。


 屋敷の周囲はアスファルトの道で、隣の家もそれなりに金持ちの屋敷だ。大きさは半分以下だけど。冥界とはいえ、石油関連の物資を持ち込むのは感心しない。そんなことを考えつつ、土魔法で大きな穴を掘る。そこには外部から電気を引き込む大きなケーブルが見えていた。


 それをウィンドカッターで斬り飛ばす。すると突然警報が鳴り響いた。


「うわちゃー、スパイ映画の真似したけどうまくいかないもんだ」


 停電に備え、おそらく予備の発電施設があったのだろう。屋敷の電気は消えずについたままだった。仕方がない。屋敷を丸ごと蒼天(アイテール)障壁で囲む。そこに防音結界を重ね張りした。これで警報音は外に漏れない。障壁のおかげで電波も通じないはずだ。


 俺は姿を消して、屋敷へ潜入した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 屋敷はエリス・バークワースの住処だった。警備していたのは民間軍事会社の兵士たち。ただし、地球人で多少の魔術(・・)が使える程度だった。俺は彼らに見付かることなく、エリスが行きそうな場所を探し出すことに成功した。


 屋敷から集合場所へ転移すると、すでにリリスとダーラは戻っていた。遠くに見える町は未だ混乱の真っ最中である。


 俺の顔を確認したリリスが声をかける。


「遅かったな」

「ちょっと困ったことになった」

「困ったって、どうしたのー?」


 ゆるいなダーラ。心配してそうにない顔だ。


「エリス・バークワースは、地球を破壊するつもりだ」

「はあ?」

「どうやって?」


 リリスもダーラもキョトンとしている。まあそうなるわな。


「冷戦時代の核兵器は解体された。しかしこれは運びやすくするためであり、使用不可にすることではなかった」

「ちょっとソータくん? アメリカ軍は正式に核兵器を削減してるわよ?」

「アメリカ軍はある程度正直にやっているみたいだけど、全部じゃない。それに、核兵器があるのはアメリカだけじゃないだろ?」

「旧ロシア……」


 ロシアは国が崩壊して四半世紀経つ。治安は乱れ、暴力が蔓延り、国として成り立っていない。かつての政府は世界に対して支援を求めたが、それまで傍若無人な振る舞いを続けていたことで、周辺各国からそっぽを向かれた。


 そのため人道支援も滞り、大勢の人々が難民として国外へ流出した。いまはマフィアの支配する無頼国家として、各国が国境線を封鎖している。


 そしてその地には、冷戦時代の核兵器が山のように放置されていた。


 安全のため場所は公開されていないし、ネットワークにも繋がっていない。国の崩壊と共に軍人もいなくなっているため、核の保管施設がどこにあるのか分からなくなっていた。


 だが、さっきの邸宅で見つけた地図に、いくつか赤い点が示されていた。核の記号と共に。


「リリス、旧ロシアに魔術結社実在する死神(ソリッドリーパー)はいるのか?」

「当たり前だろ」

「だよね」

「何が言いたい」


 屋敷から持ち出した地図を広げる。アナログな保管方法だが、ネットワークを介さないので、隠すためには一番確実な方法である。


「この場所は……」


 ダーラが驚きの表情を浮かべる。


「何か知ってるのか?」


「そこにある核を確保するために、NATOの軍事作戦が決行されたのよ。結果は失敗。もちろんそんな情報公開されてないけど」


「この辺りって、永久凍土だよな。地下施設でもあるのか?」


「そう、地下に核の保管施設があったの。でも温暖化で凍土が溶けて、施設は水没してたの。地盤はゆるゆるで、核を取り出すどころじゃなくて、作戦終了ってわけ」


「……ふーむ。放置されてんのか」


「どうしたの?」


「いや、その作戦が失敗したのはいつの話だ?」


「えっと、一年くらい前かな?」


「場所さえ知っていれば、水没した核兵器を取りに行くことも可能ってわけだ。エリスがキャスパリーグとして覚醒したのは、ここ二ヶ月くらいの話だ。その話をエリスが知って、核の確保に向かっている可能性がある」


「え、無理よ。地下二百メートルの発射口が冷たい泥水に浸かっているの。それに腐蝕してミサイルの燃料が溶け出してるの。猛毒の水になってるうえ放射能漏れも確認されてるわ。いま取りに行っても被爆して死ぬだけよ?」


 そんなもん放置していたのかと呆れてしまう。ほんとに地球人は度し難い。


「それは一年前で、まだ魔法や魔術が表沙汰になっていないときだ。そこへエリスが赴くのなら、魔法や魔術を使って核兵器を取り出せるんじゃないかな。色々な能力をデーモンから吸収してるんだろ?」


 ずっと黙っているリリスへ目をやると、何か考え込んでいた。


「リリス、何かあるのか?」

「旧ロシアは、魔女(カヴン)マリア・フリーマンの支配地域だ」

「それを先に言えっての」


 最悪だ。しかし納得も出来た。地球に関して土地勘のないエリス・バークワースが、何故ロシアの核施設の地図を持っているのか、という疑問が解けた。エリス・バークワースと魔女(カヴン)マリア・フリーマンは繋がっている。いや、共闘関係にあるのだろう。


 眼下でいまだに混乱する町、そこの人々が魔術結社実在する死神(ソリッドリーパー)の一員だという事も、それをより一層強く裏付けていた。


「どうする」


 リリスは笑みを浮かべ茶化すように聞いてきた。


「この地図の場所、シベリアへ行く。リリス、お前も手伝え」

「ああもちろんだ。この貸しは高くつくぞ」

「ほざけ」


「あ、あたしも行くわよ。母上さま、いいですよね」

「そうだな。社会勉強だと思ってついてきなさい」

「はいっ、分かりました」


 ダーラは両手を組んで目を輝かせる。なんなら、飛び跳ねそうな勢いで喜んでいた。


「行き先はシベリア。地図の赤い点はヴォルクタとノリリスクの二カ所だ。先に西のヴォルクタから調べに行こう。核兵器が残っていれば俺たちで確保する」

「了解だ」

「分かったわ」


 ふたりの返事を聞いて、俺はシベリアにゲートを繋げた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ゲートをくぐると、こちらも夜だった。地球は夏とはいえ、北極圏でこの暖かさは恐怖を感じる。ここ数ヶ月で温暖化が加速しているように感じた。遠くに見えるヴォルクタには、ポツポツと明かりがついている。住んでいるヒトは少ないだろう。旧ロシアの人々――マフィアはモスクワに集中しているのだから。ここに残っているのは、昔から住んでいる人々か。


「どう思う?」

「ヒトが少なすぎる」

「ヴォルクタは五万人くらいの人口だったはずよ。ロシアが崩壊したあとは統計がなくて分からないけど、見た感じ千人も住んでないかも」


 俺たち三人は浮遊魔法で浮かんでいる。上空からヴォルクタを見下ろしているが、集合住宅の半分以上が崩れ去り、かろうじて残っている建物にまばらに明かりが見えているだけだった。そこまでしてこの町に残る理由はなんだ。まさか生れ故郷を離れたくないなんて言わないよな。


 風の向きが変ったところで、よくない予感が的中したと悟る。


「リリス、てめえ……」

「分かっていると思うが、私は関係ない。この地に住んでいるのは魔女(カヴン)マリア・フリーマンに与する一派だ。そいつらの動向なんて把握してないぞ」

「そうよ、ソータくん。母上さまは地球人を助けようとしているんだからね」

「……分かってるさ」


 リリスとダーラの目が鮮血のごとく赤く染まっている。風と共に流れてきた地の匂いを嗅いだからだ。こんな上空にまで血の臭いがするなんて、相当な人数が血を流していることだろう。気配察知はすでに済んでいる。この町で生き残っているのは数百名って所か。ぶ厚いコンクリート製シェルターに避難しているのだ。


「隠れてるヒトたちから、事情を聞きたいんだけど……」

「難しいだろうな。時間を優先させるなら、少し残ってい実在する死神(ソリッドリーパー)をとっ捕まえた方が早いだろう」

「エリス・バークワースはいないみたいね」

「こっちはハズレか。とりあえず核兵器がどうなったのかだけでも聞き出そう」


 俺は指示を出しているリーダー格のニンゲンをスキル〝瞬間移動(テレポーテーション)〟で目の前に引寄せた。空中なので落ちないように胸ぐらを掴んで、その男の顔を正面から見据える。


『わっ!? ソータ、いまのスキルは引寄せ(アポート)よ。私の知らないところでいつの間に!』

『すまんクロノス(汎用人工知能)。なんとなくで出来た。前さ、ミッシーが他のものを転移させて爆散させてただろ。あれの応用だ』

『今回は引寄せ(アポート)で爆散しなかった。調整もうまく行ってるみたいね!』

『まあな……』


 いつもは敬語のクロノス(汎用人工知能)が、若干興奮気味に話しかけてきた。彼女を通さないでスキルを使ったのが初めてだからだろう。


 引寄せ(アポート)で現われた男は足をばたつかせて暴れている。いまいち状況が分かっていないみたいだ。苦しいというのもあるのだろう。俺は彼に浮遊魔法を使って、宙に浮かせた。


「あ、あんたたち何者だ? 魔術結社実在する死神(ソリッドリーパー)の幹部に見えるが、ちゃんと指示通りやってるぞ?」


 早口のロシア語で男は言葉を垂れ流す。これはいい勘違いだ。利用させてもらおう。


「視察だ。俺の後ろにいるのは北米担当のリリス・アップルビー様だ。正直に進捗状況を報告しろ」

「はっはいっ! 発射管のICBMは全て取りだして、解体済みです。すでにマリア・フリーマン様の指示で、北極へ運ばれています」


 俺は顔に感情が出ないよう極めて冷静な声で問いかけた。


「リリス様担当の民が、少しばかり移住に遅れている。北極で核爆発を起こすのは少し遅らせられないか」

「い、いえ、南極の核爆発と連動して行なうので、不可能です。――――えっ、なんでその事を知らないんですか?」


 ――――ドッ


 男はいままで上司だと思って話していたのに、少しだけ疑問の表情を浮かべた途端、ダーラ(・・)の氷魔法が、男の頭部を貫いた。……疑問を持っただけで殺さなくても。とはいえ、ここで念話を使って騒がれたら面倒だ。しかし、痛みを感じることなく即死させたので、慈悲はあるのだろう。


 俺に掴まれたままだらりとしている男。一欠片も命は残っていない。こうなったら仕方がない。俺は獄舎の炎(プリズンフレイム)で男を灰に変えた。


「義理深いんだな、ソータは」


 リリスの呆れた声が届く。


「せめてこれくらいやらせてくれよ。実在する死神(ソリッドリーパー)とはいえ、地球のニンゲンだぞ」

「足元をすくわれんようにな……」

「ニンゲンが汚いって事も、最近身に染みて分かっているつもりだ」

「それならいいが」

「母上さま、この地の放射線量は核兵器があるとは思えません。いまの男が言ったとおり、すでに運び出されていると思います」

「どうするソータ、選択肢が増えたぞ。北極と南極、それに当初の目的地ノリリスク、どこへ向かう?」

「ノリリスクだ。まだ核兵器が残っている可能性があるからな。それとリリスは魔女(ハッグ)シビル・ゴードンと連絡を取って、南極と北極の状況を探ってくれ。俺はハセさん(汎用人工知能)に聞いてみる」

「あたしは~?」

「周囲を警戒してろ」

「え~、つまんない」


 ダーラはふくれっ面で、俺をつつく。ごねても、ダーラはやることないから待機だ。


 それより状況を把握したい。ハセさん(汎用人工知能)に連絡してみよう。


『ソータくん? 繋がっているかな?』


 ビックリした。ハセさん(汎用人工知能)から先に念話が飛んできた。


『はい。通信は良好です。いまこっちから念話しようとしていたんですよ』

『それなら状況は分かっているね。いまどこだい?』

『シベリアに来てます。というか状況ってなんです?』

『大至急避難してほしい。異世界へ行くなら安全だ。もう時間がない。エリス・バークワース主導で、魔女(カヴン)マリア・フリーマンが、世界中の核ミサイルを発射した』



 核ミサイルを発射した……?



『はあ? そんな時間はなかったはず。……いや、エリス・バークワースはこれまで姿を現さなかった。彼女は地下へ潜って当局の目を逃れ、世界中の核兵器を使用するつもりだった。そういう事かな……』

『今となってはそうとしか言えない』


 全身から力が抜け、膝から崩れ落ちそうになる。旧世紀の遺物とはいえ、核兵器は眠れる獅子のごとく、いまだ最強クラスの破壊力を秘めている。人口密集地を狙われれば、人類は壊滅だ。いきなり全滅はしないと思うが、放射能を帯びた灰が世界中を回り、徐々に生き物を殺していく。


 エリス・バークワースは、俺への復讐心に駆られ、地球人類を道連れにするつもりか。その狂気に、背筋が凍る。


『おいソータ!! 月面基地のシビルから連絡が入った。世界中の核ミサイルが発射されたと言っているぞ。原潜にも正式な命令が出て、反撃の核ミサイルが発射されている』


 なんてこったい……。もうお仕舞いだ……。


 こうなったらせめて異世界へ移住している人々だけでも救わねば。


 突然左の頬に激痛が走った。リリスから殴られた。


「なんだその顔は! 腑抜けてるんじゃない!! 貴様はすでに神や黒霧徒以上の存在だとは知っている。上位の素粒子を駆使して、この世界に飛び交う核兵器を制御しろ。でなければ地球人が死に絶えてしまう。その中にはお前の家族や友人もいるんじゃないのか!」


 リリスの言う俺の家族なんて、魔王(カオスブレイカー)とか言うふざけた存在だ。死ぬわけがない。一方で、無数の罪のない命が――。ふとよぎる。戦争ばっかりして地球温暖化を加速させた地球人なんて滅べばいいと。


 ……しかしそれを俺が決めてもいいのか。


 俺は今や根源(ソースコード)魔法を操れる。十八番目の素粒子で、俺の知る中で最強のものだ。それに、空間魔法と時間停止魔法を組み合わせれば、範囲内の時間を止めることも学んだ。


「ふう。ありがとなりリス。気合入ったよ」

「ソータくん、キリッとしてかっこいいけど、その……鼻血が出てて、ちょっと」

「俺はだいたい、こういうとき締まらないんだよ」


 袖で鼻血を拭き取り、素粒子の根源(ソースコード)を意識する。空間魔法の範囲は地球。時間停止魔法の範囲も地球。座標は関係ない。地球を思い浮かべるだけで、使用可能になった。


「リリス、ダーラ、次の瞬間には、全て終わってるから安心してくれ。核兵器から地球を救う」


 そう言って俺は魔法を発動させた。地球の全ての時間を止めるために。

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