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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
17章 終章

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320/341

320 クリーニ

 昨晩は六義園で一泊させてもらった。深夜になると、門田(かどた)為助(ためすけ)三曹が部屋に来て、日本と他国の現況について延々と語り合った。


 日本では抗議デモが頻発し、社会は火薬庫の様相を呈しているという。


 魔力の濃度が増したこと、実在する死神(ソリッドリーパー)の台頭で、魔術を操る者が増加した。地球温暖化の問題は「我々の手による魔術で解決しよう」というのが彼らの主張である。


 しかし、産業革命以降、人類による環境破壊は臨界点を突破している。地球の平均気温の上昇に気づいた人々は、未来への危機を声高に訴え、温室効果ガスの削減に努めてきた。


 多くの国々で対策が講じられたが、結局のところ経済優先の決断が下された。


 温暖化の進行は緩やかだと声高に唱えられ、即時の危機ではないという屁理屈で、大人たちは子供たちに住むことのできない地球を残した。


 それが今の地球の現状である。今さら魔法や魔術でどうにかなるものではない。


 今更デモを行っても意味がない。既に海水面は上昇し、対策を講じていない街や国は水没しているのだ。


 誰それが悪いのではなく、ニンゲンの性質が招いた結果である。


 甘んじて受け入れろ。だが、希望の光は必ず示そう。


 洗面台で歯を磨きながら、そんなことを思い巡らす。鏡に映った自分は、どこか疲れた様子だ。十分に休んだはずなのに。二十六歳でこの有様では、年老いたらどうなることやら。


『ソータは、蒼天(アイテール)で構成された身体を持ち、寿命は考えなくて良いのです……』


 クロノス(汎用人工知能)からのツッコミが入る。そんなことくらい、わかっている。だが、精神的な疲労は容易に顔に表れるものだ。


『おーい、ソータ。そろそろ出発するぞ。準備は出来てるかー』


 部屋のモニターから門田の声がする。


「すぐ行く。待っててくれ」


 今日は心躍るドラゴン大陸の視察だ。日本の形状に沿った街づくりはスチールゴーレムの活躍で順調に進んでいる。そこは問題ないのだが、昨晩聞いた魔物の対処に当たらなければならない。


 エリス・バークワースの居場所がはっきりしたから、今すぐにでも討ちに行きたい。しかし、大事な移住先を放置する訳にもいかない。考えたあげく、ドラゴン大陸の対処に向かうことにしたというわけだ。


 さて、行きますか。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 国立競技場東京ゲートをくぐると、ドラゴン大陸で建造中の日本へ到着。一瞬勘違いするほど、異世界の国立競技場はそっくりに造られていた。フィールドはパーテーションで区切られていて、移住する人々の手続きが行なわれている。まだ早朝なのに、随分と混雑していた。


「建物や道路が日本と同じだから、土地勘がなくてもだいたい分かるみたいだ。ソータの出した指示は中々好評だぞ」


 岩崎さんが周囲を見渡しながら褒めてくる。俺は特に指示してない。やったのはスチールゴーレムたちだ。


 ここには門田と岩崎さん、三人で来ている。自衛隊の職員に混じってスチールゴーレムが動き回っていた。その中の一体が俺に気づいた。


『おおっソータ、久し振りだな!』


 ドスドス音を立てて、一体のスチールゴーレムが駈け寄ってきた。念話を使っているのは、口が無いからだ。俺以外のヒトとは筆談でコミュニケーションを取っている。


『東部海岸で魔物が上陸していると聞いてきたんだ。状況を知らせてくれ』

『ああ、分かった』


 そう言いながらもスチールゴーレムは走り去って行った。岩崎さんと門田から怪訝な眼を向けられたからだろう。仕事をほっぽり出して急に駈け寄ってきたし。


 岩崎さんは首を傾げながら、俺に話しかけてきた。


「何だったんだ、今のゴーレムは……。まあいい。ソータ、これから司令室へ向かう。そこで状況確認をお願いしていいか」


「ええ、もちろんです」


 俺たち三人は、異世界の市ヶ谷基地へ向かうこととなった。自衛隊の本部がある場所だ。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 司令室に到着するなり、モニターの確認作業に入った。色々観察する暇もない。けれど、そんなに急いでモニターを見せる訳がすぐに分かった。


 司令室には大勢の自衛官たちが慌ただしく動き回っている。


「これは自衛隊のドローンで撮影中ってことです?」

「リアルタイムだ」

「……」


 スチールゴーレムと魔物の間で、熾烈な戦いが繰り広げられていた。大型のトカゲのような魔物が、一トンもあるスチールゴーレムをまるで羽毛のように軽々と宙に舞わせていた。その衝撃は周囲の空気さえも震わせ、撮影しているドローンの画像が乱れるほどだ。


 そんな戦いが海岸線を埋め尽くしている。スチールゴーレムの方が劣勢だ。ただし、続々と援軍が到着しており、ギリギリで食い止めている状態だった。


「自衛隊幹部がミサイルを撃ち込めば一掃できると言っているんだがな、松本総理が頑として受け付けない。新天地を化学物質で汚染する訳にいかないと言ってな。私は大賛成だよ、その考え方に」


 岩崎さんは自衛隊職員のいる前で堂々と言い放つ。俺もミサイルには反対だ。あんなもの有害物質のかたまりだし。


 自衛隊職員がチラチラ見ているが、刺々しい視線ではない。それ以前に、岩崎さんはまるで気にしていない。自衛隊の職員たちも、ミサイル攻撃に反対する者が多いのだろう。


「そこで板垣くんにお願いだ――――」


 周りの自衛隊員に聞こえないよう、岩崎さんは声量を落とした。彼は言う。俺が現地に飛び、魔物をどうにかしてくれと。俺はそれを承諾した。せっかく造り上げている異世界の日本を魔物に襲わせる訳にはいかない。移住してくる人々が安心して眠れるように、安全を確保しなければならない。そう思った。


 こうして俺は、ドラゴン大陸東部へ行くことになった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 東部海岸の上空へ転移魔法で移動した。眼下では烈しい戦いが続いている。海から海岸へ上がってくる魔物は、モニターで見た感じよりも大きい。体長は約五十メートルで、地べたを四本足で歩くトカゲそっくりだ。形状はトカゲだが、やはり魔物だ。強大なしっぽでスチールゴーレムを吹っ飛ばし、口から吐く炎で溶かしている。


 砂浜の到るところに、鉄のかたまりが落ちていた。スチールゴーレムのなれの果てである。


『いよっ、久し振りだなソータ』


 地上から俺を確認したスチールゴーレムから、軽い口調で念話が届く。カメラに写らないように姿を消しているのに、さすがだな。


 俺の脳神経模倣魔法陣を使っているので、だいたい察することができる。あの喋り方は、ピンチなのに無理して明るく振る舞う痩せ我慢だ。


 ……スチールゴーレムを通して、自分の性格診断するって小っ恥ずかしいな。


 最初に創ったスチールゴーレムは、全てここに集まっていた。その数は十体。稼働させているエネルギー源は神威(かむい)結晶だ。あの時はこれで十分すぎると思っていたが、今となっては出力不足を感じる。


 核になっている神威(かむい)結晶を交換しておこう。


 ……チラリと空を見ると、青空の中にドローンが数機飛んでいる。魔石を電池代わりにしたもので、この世界を汚染しないように考えて作っているみたいだ。この数ヶ月でこんなもの作り上げるとは、さすが日本。


 なんて感心してる場合じゃねえ。姿を現せば自衛隊に見られてしまう。それに、ここで魔法を使えば、何かと追及される恐れがある。それを避けるため、上空に隠蔽魔法を展開する。


 よし、これで俺の姿は映らなくなった。


『おーい、神威(かむい)結晶のゴーレム集合』


 念話を飛ばすと、十体が瞬時に転移して集まってきた。俺は浮遊魔法でかなりの上空に浮かんでいるのに、器用だな。


『忙しいんだから、用件は早めに頼む』

『すまんすまん。核を交換するからじっとしてろ』


 十体のスチールゴーレムに、ボーリング玉くらいの永遠回廊(えいえんかいろう)結晶を入れていく。じっと彼らを観察して不具合がないか確かめつつ、念話を飛ばした。


『どう? 具合が悪かったら言ってね?』

『……これは。いや、全然調子いいぞ』

『魔石のスチールゴーレムを量産しても、あの魔物には敵わないよね。お前たちの他に、永遠回廊結晶のスチールゴーレムを増やしておく。連携して事に当たってくれ』

『ああ分かった。任せろ』


 百万のスチールゴーレムを創り出し、姿を隠してもらう。日本政府にはいずれバレると思うけど、今はこれでいい。怖がられたら色々不都合が起きるからな。

 その辺りを念話で説明し、スチールゴーレムたちを解散させた。


 途端に響き渡る轟音。砂浜で立て続けに大爆発が起こり、海岸線に沿って壁のような火柱が立ち昇ってゆく。海から上陸していたトカゲの魔物はたまったもんじゃない。無残にも細かな肉片へと変わり、砂浜を真っ赤に染めていった。


『……』


 これには俺も苦笑い。俺が隠蔽魔法を使っている間に、さっさと片付けてしまおう。そう考えたのだろう、スチールゴーレムたちは。


 しかし彼らの取った行動は正解だったようだ。


 次々と海岸に現われていたトカゲの魔物は、今の惨状を見て引き返してゆく。これでしばらくは寄りつかないだろう。


『ソータ』


 スチールゴーレムから念話が届く。


『なんだ』

『これでドラゴン大陸の陸海空、すべて俺たちでカバーできる。増やしてくれて助かったよ』

『ん? 海だと沈むんじゃ?』

『水魔法を使えば沈まずにいける。風魔法の応用が浮遊魔法だろ? それと同じ理屈だ』

『……分かった。頼んだぞ』


 俺も思いつかなかった魔法の使い方してやがる。永遠回廊結晶にした事で、基本性能が上がっているし、燃料切れの心配もない。予備としてあと百万のスチールを作って、合計二百万で、ドラゴン大陸を守ることにしよう。俺の脳神経模倣魔法陣だから、細かな指示はいらないし。


 隠蔽魔法はしばらく解除しないでおこう。


 俺は気になることを確かめるため、上空へ向けて転移魔法を使った。


 空から見下ろすと、海の向こうにハマン大陸の壮大な景色が広がっていた。南端にはゼノア教国があるはずだ。国境線は直接見えないが、巨大な防壁があることで、勇者たちの国、デレノア王国との境界を示している。


 ゼノア教国は今回の魔物の件と結びつきがありそうで、勇者の侵略にも屈しない強固な国だ。

 セレスト(おう)が掴んだ情報によると、この国の座標は、冥界に潜むエリス・バークワースの隠れ場所とピタリと一致する。これは偶然なのか、それとも兆しのひとつなのか。


 念話で自衛隊の通信網へ侵入し、岩崎(いわさき)一翁(いちおう)陸将補に繋いでもらう。


『板垣くん? モヤがかかって地上が見えない。天候が悪化しているのかな?』


 隠蔽魔法を使うとそう見えるのか。肉眼だと対象物が見えなくなるはずなのに。


「あははー、そうみたいですね。東部海岸はスチールゴーレムを少し増やして対処済みです。日本の領土に危害が及ぶことはありません」


『そうか。それなら一安心だな。ではいったん帰投してくれ。インフラの件で細かい打ち合わせをしたい』


「あ、それならスチールゴーレムに話してもらえば、解決できると思います」


『どういうことだい?』


「その辺りにいるスチールゴーレムは、魔石で動いているんですよね。動力源を強化して、汎用性を高めた新型のスチールゴーレムを送り出したので、間もなくそちらに到着するはずです。インフラ整備は、彼らに任せておけば大丈夫。雇用創出のことも考慮して、効率的に活用してくれると助かります」


『……なんだか、今生の別れみたいに聞こえるけど、大丈夫かい?』


「心配しないでください。ただ、ちょっと用事ができて、それで、内閣官房参与の職を辞めることにしました。正式な書面は後で送りますので、よろしくお願いします」


『えっ、あ、おい、ちょっと待った』


 昨日のウェブ会議でこっぴどく叱られたからなぁ。逐一連絡するなんて俺にはできそうにない。これまで内閣官房参与という立場で、お国のために働いていた。しかし日本という国が異世界へ移住できるよう、基礎は作った。あとは国が一丸となって細かいところまで整備すればいい。


 俺があれこれやる時期は終わったのだ。


「またいつか戻ります。その時はぜひ、日本国民として迎えていただければ嬉しいです」


 そう伝えて通信を切った。


 砂浜ではスチールゴーレムたちが、後片付けをしている。主に散らばった肉片を集め焼いている。食べる訳では無く、腐敗させないためにだ。赤く染まった海はやがて元に戻るだろう。


 体長五十メートルのトカゲとはいえ、あれは陸上で生息している魔物だった。ここから見えるハマン大陸ははるか彼方。そこから自発的に魔物が泳いでくるとは考えにくい。ゆえに何者かが意図的に魔物を送り込んでいる可能性がある。確かめなければならない。その原因と理由を。


 俺はゼノア教国を見定め、海岸近くの大きな街へ転移した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 街の名はクリーニ。海に面した都市で、人口は十万人程度だろう。ヒト族や獣人、ゴブリンやオークといった、多種多様なニンゲンが歩いている。俺みたいなアジア系の顔立ちも多いことで、目立つことなく潜入できていた。


 この街を例えるなら、チェコのプラハ。赤い屋根の建物が並ぶ美しい街並みと、歴史を刻んだ通り。その風景は絵画のように美しく、ロマンチックな雰囲気を醸し出していた。


 赤い屋根の建物は、ゴシック様式からルネサンス、バロック、アールヌーボーといった様々な建築様式だった。それぞれの建築物が、それぞれの時代の息吹を感じさせてくれる。しかしそこに違和感を覚える。


「建築様式がヨーロッパと同じ……」


 この街にはおそらく、ヨーロッパと繋がった野良ゲートがある。古くからこの世界へ迷い込む地球の人々がいたのだろう。でなければ、この建物の説明がつかない。日本はしれっとライムトン王国と国交を結んでいたし、ありうる話だ。もしかすると、どこか特定の国と交流があるのかもしれない。


「あら、ソータくんじゃない。朝早くからどうしたの?」


 背後からダーラ・ダーソン少尉の声が聞こえてきた。そんなことより「あら」じゃねえんだよ。行方不明になってると思ってたら、こいつクリーニにいたのか。


「ダーラ・ダーソン少尉、アメリカ軍には連絡したのか?」


「あっ、その事で少し話があるの。時間ある?」


「……はあ? いいけどさ」


「んじゃついてきて」


 鏡を見なくても分かる。俺はものすごく訝しんだ顔でダーラを見ているはずだ。それなのに彼女はまったく意に介さず、スタスタと歩き始めた。

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