表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
16章 神界の「街」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

317/341

317 無謀な作戦3

 外輪山の山頂で転移を続けていると、ようやく援軍が到着した。


「よぉ」


 声をかけてきたのは、念話で呼んだ竜神オルズ。彼は飄々(ひょうひょう)とした様子で静かに立っている。どういう仕組みなのか分からないけど、居場所を教えてないのに目の前に転移してきた。


「久し振り、って程じゃないか。死者の都(ネクロポリス)はどうだった?」


死者の都(ネクロポリス)に動きは無い。それで冥界に行ってたんだが、大混乱中だ。あの世界の盟主、ラコーダが討たれたと言ってな」


 見た目は相変わらずのイケオジだが、声には少しだけ怒りの感情が混じっている。


「へぇ……」


「おいこら、目を逸らすな。ラコーダはお前がやったって聞いてるぞ?」


「不意打ちだけどね……。やつの時間を止めたからさ、もう何もできないよ」


「時間を止めた……? 時間という概念を止めることはできないはずだが。……ああ、それで他の神々が、ソータに注意しろと言ってたのか」


「え、そうなの? また裁判とか勘弁して?」


「いや、戦争が激化してるから、しばらくはそれどころじゃないだろうよ」


 ふたりで呑気に世間話をしているが、盆地からの攻撃は収まっていない。立ち止まっているため、攻撃魔法が集中して飛んでくる。ただ、お互いに障壁を張っているので問題はない。


 しかしデーモンが転移してくればその限りではない。


 オルズの背後にふっと現われた巨大デーモンを、念動力(サイコキネシス)で握り潰す。と同時にヒュギエイアの水をかけた。オルズは逆に、俺の背後に現われたデーモンへ魔法を放つ。

 デーモンの放つ黒線っぽいけど違う。オルズの魔法は黒い炎の刃に見えた。


 俺の背後の巨大デーモンは、オルズによって真っ二つに斬り割かれ、黒い炎をまき散らしながらあっという間に燃え尽きた。


「なにそれ」


 初めて見る魔法だ。


「魔法じゃない。今のはスキルだ」


 スキルか。道理で魔力を感じないわけだ。黒いからデーモンっぽいけど、そもそもオルズは黒竜だからな。


「なるほどね。それで黒なんだ」


「そういうこと。それで、どうするんだ? お前からの念話で駆け付けたのはいいけど、細かい内容を聞いてない」


 詳しい内容を話す前に念話を切ったのは君でしょう。とは言わない。いちおう神様だし。


「軍神デボンの救出作戦中なんだ。彼の生死は不明だけど、エルベの街のセレスト翁から依頼を受けて行動を起こしている」


「ほう、セレスト翁の依頼か。……それなら女神アスクレピウス陣営だ。俺が手伝っても問題ない」


 うん? なんか含みのある言い方だな。


「含みのある言い方をしてんだよ。あと、いちおうじゃなくて、ちゃんと神様だかんな?」


 オルズはぐいと顔を寄せてきた。そう言えば忘れてた。オルズも神で、俺の思考を読めるということを。あー、セレスト翁にも俺の考えが筒抜けだったのか。


 神の読心術はブロックできるようになったけど、今使うのはやめておこう。オルズからは疑われたくない。


 今の思考も読まれていたみたいで、オルズからジト目で見られる。なので話を変えた。


「……お? あれ見てオルズ」


 オルズの背後、つまり盆地で動きがあった。目を疑うような光景だ。街の中心部にある宮殿が、空に浮かび上がってゆく。敷地外の建物も同じように浮かび上がっていた。ただし、浮遊効果に範囲があるのか、宮殿以外の建物は外側から次々に崩れ落ちてゆく。


「浮遊島ソウェイルと同じだな……。あの技術、どこから盗んだ。くそっ! デーモンの分際で!」


 オルズは長いことデーモンの監視を続けている。異世界の空に浮かぶ、浮遊島ソウェイルを使って。彼はいつも、どこかチャラい空気をかもしだすが、今は違う。全身から怒りの空気がにじみ出ていた。


 うーむ。それはそうと、あの宮殿にはミッシーたち三人が突入してるんだよな。ファーギやメリルたち陽動は……、いったん引き上げさせた方がいいな。


 退却のため念話を飛ばそうとすると、先にミッシーから連絡が入った。


『ソータ、ファーギ、メリル、こちらは軍神デボンの身柄を確保した。すぐにバンダースナッチへ転移するように』


 それにファーギとメリルの念話が応じた。


『おお、さすが!! でもこっちはもう少し時間がかかりそうだ』

『私たちはファーギと一緒にいる。黒い立方体から迎魔(げいま)が大量に漏れて、何か出てきそうよ』


『ファーギ、メリル、そんなのほっといて、いったんバンダースナッチに転移だ』


 俺も念話に加わって指示を出す。あの立方体は冥導(めいどう)結晶なので、迎魔(げいま)が溢れるわけがない。つまり今の状態は、立方体がゲートの役割を果たして、神界と黒霧(こくむ)を繋いでいることになる。


 一刻も早くあの場から離れなければならない。立方体からは黒い霧が吹き出しているし、間もなく黒霧徒(こくむと)――――デーモンの神にあたる存在が現われるはずだ。そんなもん相手にしないで、神の軍勢に任せておけばいい。


「おいおい、ありゃいったい何なんだ」


 ついたばかりのオルズは、黒い立方体を初めて見たようだ。彼は神の軍勢と別行動取ってるし、ここに来たのも初めてなんだろう。


黒霧(こくむ)と神界を繋ぐゲートだ。たぶんね」

冥導(めいどう)結晶なんて、神界に持ち込めるはずがないだろ?」

「いや、あそこ見て。実際にあるからさ」

「だよな。……これはいったいどういうことだ」


 おや? オルズは立方体を見つめたまま考え込んでしまった。なんでだろ……? 俺はここで冥導(めいどう)結晶くらい作れるぞ?


「おいソータ、それは本当か?」


 また思考を読まれた。


「え、ああ、作れるよ?」


 オルズの剣幕に押され、手のひらに冥導(めいどう)結晶を創り出す。


「……あり得ん」

「いや、本物だからよく見て」

「ああ、分かっている。だからこそだ」

「ちょっと何言ってるのか分かんない」

「ああ、ソータは知らなかったか。この世界はな――――」


 異世界、神威(かむい)の世界、そして神界と、順番に繋がっているそうだ。しかし、冥導(めいどう)は冥界の魔素(・・)だ。つまりデーモンの世界。繋がりの順番は、冥界、異世界、神威(かむい)の世界、神界となる。


 それは俺も経験則で分かっている。建物の地上階と地下階で簡単に説明できるからな。


 オルズが言うには、冥界と神界は繋がりが遠すぎて、本来なら干渉できないという。物質も同じく冥界のものが神界に存在することは叶わない。


「ならば何故、デーモンは神界で存在できているの?」

「それなんだよ。本来はデーモンは神界で存在できない。しかし今回、冥界からデーモンが入り込んでいる。……その原因は不明で、現在調査中だ。いやあ、参ったな。あんなに巨大な冥導(めいどう)結晶が存在できると、神界に影響が出そうだ」

「影響はもう出てると思うよ?」


 本来ならデーモンは蒼天(アイテール)の風で滅ぶはずだ。


「まあ、そうだけどよ」


 神々の戦争は、エンペドクレスから聞いている。詳しくは聞いていないから、分からないことも多い。けれど、異常事態が起きていることは分かった。それがおそらく、デーモンや黒霧徒(こくむと)の仕業であるとも。


 原因はあの冥導(めいどう)結晶だろう。じゃなきゃデーモンやバンパイアは神界に存在できない。


 ――――ドン

 ――ドン


 ふたりして唸っていると、街の方から立て続けに爆音が聞こえてきた。


「ソータお前、呑気に構えてていいのか?」

「ああ、大丈夫。あれくらいどうってことない」


 ファーギたちがいる場所に火柱が立っている。黒炎がキノコの形へ変化し、また別の火柱が立つ。


 それは、宙に浮かんだ宮殿からの攻撃だった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ファーギはメリルとテイマーズと合流し、黒い立方体にハラスメントを行なっていた。重要施設なので守りは堅い。それに加え、周囲から続々とデーモンが集まってくる。ドワーフの五人組は、各々の武器と能力を駆使してそれらをはね除けていた。


「おーい、じじい、さっきソータのおっさんが撤退しろって言ってなかったかー?」


「ああ、そうだ。できればあの施設を壊したかったが、厳しそうだな。転移リング(トランスポーター)でバンダースナッチへ戻るとしよ――――」


 ファーギがアイミーに返事をすると、周囲が真っ白に輝き始めた。ドワーフたち五人は、その瞬間、目を閉じた。全員がゴーグルを装着していたが、強烈な光はゴーグル越しにも眩しいほどだ。彼らは両手でゴーグルを覆い、なんとかその光に耐える。しかし、その直後、轟音と爆風が彼らを襲った。


「うおおっ!」


 ジェスの声が遠ざかってゆく。メリルはジェスが爆風で飛ばされたことをいち早く察知し、スキル〝影渡り(シャドウシフト)〟で追い始めた。このスキルは、身体を黒い影に変化させて高速移動できる。本来はバンパイアのスキルだが、ダンピールとなったメリルはすでに使えるようになっていた。


 他のメンツは障壁を張って耐えている。しかし追い打ちとばかりに、次々と爆発が起きていく。建物の影に潜むデーモンも等しく、爆発によるダメージを食らっていた。


「おいおい、無差別攻撃か?」


 ファーギは障壁の中で、夜空を見上げる。そこには崩れ落ちながら浮かび上がっていく宮殿があった。宮殿の壁から、魔導砲の砲身がたくさん見えている。それらは全てファーギたちに狙いを定めており、次々に火を吹いていた。

 ただ、黒い立方体にだけは攻撃を加えていない。


「やはりあの施設は重要みたいだな。しかし――――」


 そう言ったファーギは、まるで魔法の杖のように、大きな魔導ライフルを取り出した。


「なにそれ?」

「いつの間に作ったの?」


 障壁越しに、アイミーとハスミンが問いかける。まるで子供が悪戯を見つかったかのように、ファーギはばつの悪そうな顔でスッと目を逸らした。その手には、鏡面仕上げの大きなライフルが握られている。彼はライフルをおもむろに構え、未だ攻撃を続ける宮殿(・・)へ銃口を向けた。


 ――ドン


 その音は周囲の爆音に比べ、あまりにも小さかった。だがしかし、銃口から放たれた白いエネルギー光線は、真っ白な線となって力強く突き進んでいく。


 防御するために、宮殿の底の部分に障壁が展開される。しかし白いエネルギー光線は、障壁をものともせずに突き破り、あろうことか宮殿をも撃ち抜いた。


 それだけなら、巨大な宮殿に対して、さしたるダメージを与えることはできない。ただし、白いエネルギー光線は、ファーギの銃口から夜空の雲にまで届いていた。


「よいしょ!」


 そのかけ声と共に、ファーギはライフルをグルグルと動かす。銃口から伸びた白線は、夜空に浮かぶ宮殿を渦巻き状に斬り刻んでいった。


「おいおい……、それマイアねーちゃんの収束魔導剣と同じ原理かよ」

「オレたちにも作ってくれよぉ」


 アイミーとハスミンは、空を見上げながらおねだりをしていた。周囲にはスライムが数体いて、彼女たちを守っている。


「お前たちの短気が治れば作ってやってもいい。しかし、ソータに永遠回廊(えいえんかいろう)結晶を作ってもらわなくちゃいけないが……」


 ファーギの声は尻つぼみに細ってゆく。アイミーとハスミンはそれを見逃さなかった。


「おいこらじじい……」

「そのライフルに、永遠回廊結晶を使ったな?」


 その鋭い指摘に、ファーギは再び目を逸らし、言葉を濁した。


 その頃には、空に浮かぶ宮殿はなます斬りにされていた。すでに空に浮かぶ力はなく、バラバラと崩壊が始まっていた。


 地上にいるファーギたちはたまったものではない。空から巨大な岩石が落ちてくるのだから。


 それらを器用に避けていると、メリルの声がした。


「ジェスを助けてきたわ」


 彼女の肩にジェスが乗っている。彼はどうやら爆風をまともに受けて意識が無いようだ。


「よし、あの立方体は放置する。あんまり嫌がらせ(ハラスメント)すると、反応して爆発、なんて事になれば、この盆地丸ごと吹き飛ぶからな。全員バンダースナッチへ転移するぞ」


 依頼は達成したし、ここにいても仕方がない。そう言いたげなファーギの声で、仲間たちは次々と転移していった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 今の白い線はなんだ……? 地上を攻撃していた黒い宮殿がバラバラに斬り割かれてしまって、思わず念話を飛ばす。


『みんな無事か?』


『全員無事に帰還したっす』


 いつもの調子でリアムから返事があった。どうやら地上には誰も残ってなかったみたいだ。謎は残ったが、全員無事でよかった。リアムにそのまま宇宙空間で待機するように伝え、竜神オルズと向き直る。


「なあ……」

「ああ、分かってる……」


 黒い立方体から紫電が走って、周囲を焼いている。護衛のデーモンたちは、逃げる間もなく黒焦げにされていた。何かが出てくる。黒い立方体から。


 次の瞬間、時間が止まったような気がした。


 ――――いや、時間が止まっている。


 未だ崩れ落ちている宮殿の残骸は空中で停止している。隣にいるオルズは、目を見ひらいたままぴくりとも動かない。


 ただし、黒い立方体から出てくる何かは別だ。側面が丸ごとドアになっている部分から、ひょいと軽やかに人影が現われた。大きなドアだけど、出てきたものはニンゲンと変わらない大きさ。姿形はヒト族と同じ。


 しかし、その雰囲気は深い闇のように暗かった。あれは黒霧(こくむ)から現われた黒霧徒(こくむと)だ。


『貴様がソータ・イタガキか』


 脳内に響く念話。あまりにも大声で、頭にピリッとした痛みが走る。スクー・グスローの念話に似ているが、根本が違う。それからは憎しみや怨みといった、負の感情が強く感じられる。


『ああ、そうだよ』


 そう答えると同時に、黒い立方体前で佇む黒霧徒は、俺のいる山頂へ視線を向けた。


 ヤッべ、見つかってる。背筋に冷たい戦慄が走る。ゴーグル越しに見えている黒霧徒が、ニヤリと笑みを浮かべていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ