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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
15章 冥界の「国」

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304 平定

 光魔法の効果が失われると、一瞬の輝きを放っていた空気はたちまち薄汚れていった。この世界の一角をきれいにしても、周囲から汚れた空気が入ってくるのは当然のこと。時を経ずして、遠くまで見通せない元の濁った世界へと変貌を遂げた。


 冥界の王都ランダルは、ミゼルファート帝国、サンルカル王国、ルンドストロム王国の三カ国連合軍によって占領された。デーモンは全て滅ぼされ、黒霧徒(こくむと)の姿を見ることもなかった。


 俺たちのパーティーは、ドワーフの旗艦イノセントヴィクティムへ呼ばれ、軍議に参加させられている。


 今すぐにでもゴヤの元へ駆け付けたいのだが、この場を放置していく事も出来ない。焦燥感を押し殺しながら、俺は会議室の片隅に身を沈めた。


 列席しているのは、オギルビー・ホルデン、テッド・サンルカル、エレノア・デシルバ・エリオット、三カ国の司令官とおつきの者たちだ。


『おいこらおっさん、なんでアタシたちがこんな会議に引っ張り出されてんの?』


 アイミーから念話が届く。口調は相変わらずだが、パーティーのメンツにだけ聞こえるよう気を配っていた。どう返事しようかと迷っていると、ミッシーの念話が聞こえてきた。


『西のオーステル公国から連絡がないからよ』


 彼女は前を向いたまま、凛とした面持ちで答える。援軍を要請した三カ国は、地理的条件で南北からデーモンを封じていた。西へ逃げ出すデーモンもいるはずなので、オーステル公国へ警告を発していたのだ。


 ――――国境線を守れと。


 会議を聞いていれば分かる話だ。


 地上のスタイン王国は、北、西、南の三方向を完全に封鎖されていた。デーモンが国外へ流出しないように、防衛線を張り巡らせていたのだ。北はサンルカル王国とミゼルファート帝国。南はルンドストロム王国。そして西は、オーステル公国が防衛戦を担っていた。


 生き残ったデーモンたちが、スタイン王国の運命を見限り、他国への逃走を図ったのは予想通りのことだった。南方海域では、エルフのインビンシブル艦隊が海岸線に砲火を浴びせ、逃げ場を塞いでいた。一方、北方のマールアの街周辺では、ドワーフのサイレンスシャドウ艦隊と、修道騎士団クインテットの巨大空艇オプシディアンが陸上の国境線を堅固に守備していた。


 緊迫したその最中、密蜂(みつばち)のモルト・ローからの緊急連絡が入る。西のオーステル公国が、不可解にもデーモンを匿っているというのだ。


 自国にデーモンを招き入れるなど、自滅行為に等しい。三ヶ国の司令官たちは、何度も警告を発していたが、突如として彼らとの連絡が途絶えた。


 その時はすでに、南北のデーモンは既に掃討されていた。急遽、テッドを含む修道騎士団クインテットが西のオーステル公国へ出動を試みるも、叶わなかった。


 それは、地下に巨大な穴が開き、無尽蔵にデーモンが溢れ出てきたからだ。倒しても倒しても現れるデーモンたちは、まるで何かに操られているかのようだった。


 穴の直径は約二十キロメートル。奥底には冥界の景色が見え隠れしていた。地上に突如として現れた巨大なゲートは、誰も閉じることができなかった。だが、放置する訳にはいかない。彼らはやむなく、穴に突入し、デーモンたちとの壮絶な戦いに身を投じざるを得なかったのだ。


 南北から冥界へ突入した三ヶ国の艦隊は、フォルティスとシュヴァルツ方面で、巨大な爆発を観測。デーモンを倒しながらそっちへ向かっていたそうだ。しばらくすると冥界の王都ランダル上空で大爆発。彼らは何が起こっているのか確かめるために、冥界の王都ランダルを目指していたそうだ。


 ふたつとも俺が起こした爆発だ……。


『で、結局蓋を開けてみりゃ、おっさんがやられそうになっていたってわけか』


 念話でずばっと物申すハスミン。


『いやはや申し訳ない。正直命拾いしたよ。助けに来てくれてありがとね』


 軍議が進んでいくと、魔導通信で連絡が入った。


 モルト・ロー率いる密蜂(みつばち)は、オーステル公国へ潜入していた。現在は三ヶ国が地上に残してきた部隊と連絡を取り合い、調査中とのこと。


 モルトは淡々と判明したことを報告していく。オーステル公国内の村や町は、全てデーモン化しているそうだ。姿はヒト族で、冥導(めいどう)が漏れていない。そのため、デモネクトスを飲んだものと推定される。


「ライル、そっちの艦隊でオーステル公国との国境を封鎖できるか」

『ああ、やってみる』


 報告を聞いたテッドは、兄のライルへ連絡した。どうやら地上に艦隊を残してきたようだ。サンルカル王国の正規軍を指揮しているのがライルである。


 しかし、ここ冥界なんだけど、魔導通信繋がるのは何でだ? 中継地点を造ってきてるのかな。


「ボリス、オーステル公国の海上を封鎖せよ」

『了解。しかし、海岸線はとてつもなく長いですぞ。全てのデーモンを逃さないようにするのは難しいかと……』


 エレノアが連絡したのは、ボリス・リントン。サラのおつきをしていた長老だ。久し振りに声を聞いたな。


 てか、モルト・ローの話が本当なら、オーステル公国はデーモンに乗っ取られている可能性大だ。スタイン王国はギリギリで防げたけれど、西のオーステル公国も同じような状態だったのか……。


 にわかに会議室が騒々しくなる。ドワーフ軍のオギルビー・ホルデンも魔導通信機を手に取った。


「グラニット、状況を聞かせてくれ」

『マラフ共和国でも、主都トレビ近郊にクソでかいゲートが開いた』

「おいおいマジか!?」

『マジだ。しかし、北極圏から連絡があって、援軍を出すと言ってきている。ソータとはまだ連絡つかないのか?』


 グラニット・ルピナス。ルピナス社の代表で、ラグナの街を収めているドワーフだ。彼は俺が北極圏へ行ったことを知っている。それで聞いてきたのだ。


 ニューロンドンは敵か味方かと。


 会議室にいるほとんどの人物から注目されている。


「ルピナスさーん、北極圏の連中は味方です。デーモン関連なら信用して大丈夫」


 魔導通信機を持つオギルビーに向かって、大声で話した。


『ソータか!? お前、ストローマ公爵(デューク)って知ってるか? ニューロンドンの兵を挙げるらしいが、本当に信用して大丈夫か?』


「あー、ヒューの実家が動いたみたいですね。(イクリプス)の助力もあるだろうし、大丈夫です」


(イクリプス)?』


「北極にある巨大ダンジョンのコアですが、もう攻略したのでニンゲンの味方です」


『そうか。それなら大丈夫そうだな。しかし七連合は瓦解して、いまは四連合だ。ホムンクルス騒動もまだ落ち着いてないのに、たまったもんじゃねえな。情報助かった』


 ルピナスはそう言って魔導通信を切った。少しばかり声に張りが出たので、北極が敵ではないと認識してくれたようだ。


 会議室のみなから注目されっぱなしだと気づく。


 仲間たちと、ドワーフ軍のオギルビー・ホルデンには詳しく説明していたので、そうでもない。しかし、修道騎士団クインテットや、エルフのインビンシブル艦隊から来た人たちはそうもいかなかった。


 テッドとエレノアから詰め寄られ、結局、巨大ゲートの噂があった北極圏で何があったのか、一通り説明する事となった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 北極での出来事を話し終わる頃には、すっかり夕暮れ時となっていた。心の隅にはいつもゴヤのことがちらついている。

 東の帝都エルベルトに、百万のスチールゴーレムが進軍中だ。だから、僅かながら心に余裕がある。本当に僅かだけど。


 軍議の途中モルト・ローからの連絡で、オーステル公国の首都までデーモンに占拠されていると判明。そのため明日の早朝から、地上と冥界の両面で攻撃を仕掛けるそうだ。三ヶ国の連合軍は、この地で一夜を明かし、西へ向かうという。


 旗艦イノセントヴィクティムの甲板へ移動し、外の空を見上げる。空は赤黒い色合いに染まっていた。その不気味な光景に、重苦しい気持ちが押し寄せる。王都ランダルを眺め渡せば、そこには崩壊した建物の残骸が広がっていた。黒線による容赦ない攻撃があったのだから、どんな都市でも抵抗する術などないだろう。


 そう考えると、この地に百万のスチールゴーレムがいたとしても……。もしデーモンの増援が来た場合、それだけで十分な抵抗ができるのかと、ふと不安がよぎる。


 そこで、南の平原に、一千万のスチールゴーレムを創造することにした。バレると叱られるので、コッソリだ。


『多いな』


 開口一番、代表のスチールゴーレムが、俺の声で話しかけてきた。ニンゲンではできない物質創造。気持ちが凹まないように気を張る。


 核はもちろんボーリング球ほどの夢幻泡影(むげんほうえい)結晶だ。


 彼らスチールゴーレムには、自分の考えに従いつつ、三ヶ国の指揮官の命令に従うよう念話を送っておいた。


 仲間はすでにバンダースナッチに搭乗している。あとはスチールゴーレムたちに任せ、俺は仲間と共に東へ向かおう。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 バンダースナッチが透明化していたとて、冥界の空を単騎で飛ぶには危険すぎる。そのため超低空飛行を行なっていた。もちろん音速など出せない。帝都エルベルトに到着する頃には深夜となっていた。


 天気は悪くない。されどモヤがかかった月夜である。空気中を漂う汚れた微粒子のせいだろう。


「ソータさん、スチールゴーレムは先に到着してるっすか?」


 リアムだ。操縦室には、もうひとりファーギがいる。他のメンツは、しっかり回復してもらうために寝てもらっている。ヒュギエイアの水を飲んで、寝ずに行動してもいいのだが、ちゃんと睡眠を取れば疲れの取れ具合も違ってくる。


「そういえばいないな……。たぶん到着していると思うけど」


 バンダースナッチから見る限り、この街へ向かったスチールゴーレムたちはいない。百万体もいるので、すぐに分かると思っていたのだが。


 まさか行き先を間違ったのか、と考えるも、そんな事あり得ない。彼らには夢幻泡影(むげんほうえい)結晶を核として使っているので、転移魔法も使えるはずだ。それに俺の記憶丸ごと使っているから、帝都エルベルトの位置も分かる。


「そっすか。でもソータさん、王都ランダルのスチールゴーレムと合わせると、二百万体も創ってるっす。相変わらず規格外の力っすね……」


 追加で一千万体のスチールゴーレムを創ったことは黙っておこう。


「ワシもそう思う。だが日中のように数で押されると、さすがのソータも危なかったがな」


 しみじみとしたファーギの声がする。彼が言ったのは、黒線の集中砲火で危なかったときの話だ。ラコーダのときもそうだったけれど、一撃必殺の攻撃を連続で受けると防御で手一杯になるからなあ……。何か対策は無いものか。


「ソータさん、あそこ」


 リアムの指差すモニターに、チカチカと光るものが見えた。戦闘などではなく、ただの点滅する光だ。


「あのパターンは、何かの信号か……?」


 ファーギの声でハッとする。光の点滅は長いものと短いものがある。あれは英語のモールス信号だ。


「ソータさん、何か分かるっすか?」


「ああ、だいたい分かった。あれは過去の地球で使われていたモールス信号って通信方式だ。送信してるのは、俺が送り込んだスチールゴーレム……かもしれない」


「かもしれないって、何すか」


「俺が創ったスチールゴーレムなら、念話で連絡してくるはずだからな。そうしないって事は、何か理由があるのか、あるいはスチールゴーレムではない別の何かだ」


「なんて言ってるのか分かります?」


「こっちへ来るなと言ってる……」


「ええぇ……」


 リアムは困惑した表情となる。隣に居るファーギはうなり声を上げた。


 来るなという信号が「帝都エルベルト上空の空艇(くうてい)は避難しろ」に変わった。


 どうやらバンダースナッチに気づいたようだ。


 信号を読み取っていくと、送信しているのはダーラ・ダーソン少尉だと分かった。俺はリアムの隣に座って、バンダースナッチのライトを操作する。光源に向けて、こちらから返信するために。


 お、俺だと気づいたみたいだ。すぐに返信があった――。


「うわっ!? 何が起こったっすか?」


 リアムは驚き顔で、俺を軽く睨む。そりゃそうだ。バンダースナッチごと、冥界の上空一万メートル付近へ転移したのだから。しかしここでも拙そうだ。俺はもう一度転移する。今度は冥界の王都ランダル上空へ。


「リアム、ファーギ! 両手で目を覆ってくれっ!!」


 その時だ。冥界の帝都エルベルト方面で、まばゆい光が放射された。クロノス(汎用人工知能)がすぐに目を保護してくれたので、俺は目を閉じていない。それでも、チクチクと痛みを感じるほどの光量があった。


 それはまるで、地上にできた太陽。


 ただし熱も音もなく、ただただまばゆいばかりの光だった。


 しばらくの後、光が収まってゆく。


 魔導通信機に、すかさず問い合わせが入っている。王都ランダルに駐屯している三国からで、今の光は何だというものだ。うす汚い月夜は、一瞬だけ昼間のように明るくなったのだ。ここは勝手の違う冥界だ。皆が皆慌てている。


 困った顔で俺を見るリアム。


「ソータさん、何が起きたっすか?」


「レブラン十二柱の序列一位、ラコーダと、アメリカ陸軍大佐、デボン・ウィラーが戦っている。その余波だ」


「ラコーダって、マジっすか!? いや、その前に、アメリカ陸軍って、レブラン十二柱と戦える人物がいるって事が驚きっす!!」


「こっちには影響ないって事と、冥界の帝都エルベルトへは近づくなって言っといて」


 俺とリアムが話している間にも、魔導通信機からは何が起きたのか教えてくれと叫び声が聞こえている。通信士たちは相当怖がっているみたいだ。


 ダーラ・ダーソン少尉のモールス信号を思い返す。


 異世界と冥界の狭間、次元断層でラコーダとデボンが戦っている。彼女のモールス信号はそう返ってきた。しかし、次元断層は変だ。地球、異世界、冥界、死者の都(ネクロポリス)、神界、これらは多世界解釈で説明できている。量子の重ね合わせになった異なる世界なのに、次元の狭間だと……? あり得ない。


 しかし、ダーラ・ダーソン少尉の打ち間違えだとも思えない。彼女がそう言うのなら、次元の狭間があるのだろう。


「何かあったのか?」


 背後からミッシーの声が聞こえてきて振り返る。操縦室のドアには、ミッシーだけでなく、寝ていたはずの仲間が全員起きていた。


 次元の狭間か……。危険極まる場所に違いない。転移すれば脱出可能だと思うけど、仲間の命を危険にさらしたくないな。やはり今回は、俺ひとりで行こう――。


「ソータさんの思い詰めた顔を見ると、また置いてけぼりになるんじゃないかと心配になります」


 マイアがぐいと顔を近づけてきた。


「おいこらおっさん、オレたち神器持ってんだけど?」


 ハスミンが武器を取り出す。


「ソータ……私たちは仲間だ。お前ひとりで何とかならないこともあるだろう? 昼間みたいに」


 ミッシーはそう言って顔を寄せてきた。マイアを押しのけて。


「みんなで行くかー。ラコーダは倒しておきたい。きつい戦いになると思うから覚悟しといて?」


「あちゃー。ソータさんもう少しかっこいい言葉で言ってくださいっす。オレたちのリーダーなんすから」


「そう言われましても……」


 何とも締まらない感じで、俺たちは再度、帝都エルベルトを目指すことになった。

15章これにて閉幕。次話より16章、神界の「街」 です。


よろしくおねがいします~‹‹\(´ω`)/››‹‹\(´)/››‹‹\(´ω`)/››

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