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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
15章 冥界の「国」

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303 仲間と合流

 空が無数の黒線に染め上げられていく。西と南から飛来する十字砲火は、その膨大な数によって避けることが不可能だ。俺とスチールゴーレムたちは、やむなく地上へ降り立った。


『無事か』


 念話を送ると、スチールゴーレムたちから『大丈夫』と返事が届いた。一体たりとも損傷を受けていなかった。これは彼らの核に夢幻泡影(むげんほうえい)結晶を使っているからだろう。いくら貫通力の高い黒線とはいえ、そう易々とスチールゴーレムを破壊できるわけがない。


 ――ズッ


「うおっ!?」


 近くの建物を貫通し、俺に迫る黒線を避ける。冥導(めいどう)障壁を張っているので当たっても問題ないのだが、不意を突かれたため反射的に身をひるがえした。


 ところが黒線はその一発だけではなかった。


 途方もない数の黒線が、街中の建物を次々と貫いていった。視界が黒に染まるほどだ。


 この街にはデーモンが多数住んでいる。俺たち一万よりはるかに多い。俺たちを倒すためとはいえ、こんな攻撃を加えてしまえば巻き添えになるデーモンも出てくるだろう。


 いったい何を考えているのか。西と南のデーモンは、同族を攻撃していると分かっているのだろうか。


 ふと思い出す。この街を統べるザラト王の言葉。


 奴は言った。地上に出たデーモンは、好きなだけニンゲンを喰らって死ぬから、討伐されたとしても構わないと。


 そこで俺はこう思った。デーモンに社会性はあれど仲間意識は薄いと。


 つまり西と南のデーモンは、この街のデーモンのことなど考えていない。俺たちを倒すことだけ考えている。そう思っておかねばならない。


 冥導(めいどう)障壁では耐えられそうにもないので、一段階強い素粒子を使う。


 蒼天(アイテール)だ。


『おい、俺たちの夢幻泡影(むげんほうえい)結晶はもう底を尽きそうだ。とりあえずニンゲンの救出は全て終わったからな。あとは頼む』


 代表して一体のスチールゴーレムから念話が入った。今生の別れのように聞こえたが、本当にそうだった。スチールゴーレム一万体は、夢幻泡影(むげんほうえい)結晶の力を使い果たしてしまったのだ。その後すぐに全ての念話が途絶えた。


 ゴーレムは脳神経模倣魔法陣で動くので、魂などはない。しかしそれでも、いい気分はしない。


 なんて考えていると、黒線が俺に集中し始めた。


 姿は消しっぱなしなので、視認されて見付かったわけではない。蒼天(アイテール)障壁を使ったことで位置がバレたのだろう。


 黒線はまるで虫眼鏡で集めた太陽光のように、俺に集中する。蒼天(アイテール)障壁でもギリギリだ。枚数を百に増やして、次々に新しい障壁を張っていく。こうでもしないと、あっという間に障壁を破られてしまう。もう少し上の素粒子を使ってみたいが、使い慣れていないから、というくだらない理由でタイミングを逸したら終わりだ。


 あの煙のような黒霧徒(こくむと)に殺されたときとは訳が違う。あの黒線によって、俺は跡形もなく消滅するだろう。おそらく生き返ることはない。


 さらに厄介なことに、黒線の数があまりに多く、転移する隙さえ与えてくれない。


 窮地に追い込まれたな……。


 そう考えていると、南方向で大きな爆発が起こった。ひとつだけではない。いくつも黒いキノコ雲が上がっていた。そのおかげで、一瞬だけ南からの黒線が途切れた。


 その瞬間、ファーギ特製ゴーグルをつけて上空へ転移。西のデーモンへ向けて、蒼天(アイテール)の光魔法を放った。ファイアボールは威力が強すぎて、この世界を焼き尽くしかねない。使用を躊躇せざるを得なかった。


 まばゆい光が空間を明るく照らしていく。微細な粒子が浄化され、空気が澄んでいく。光点は目で追える速度で進み、西のデーモンが集まる場所の中心で弾ける。熱は感じない。しかし太陽を見つめているような強烈な光が広がっていく。


「ゴーグルつけているのに、目が痛い」


 呟くと同時に視界が暗くなる。クロノスが光量を調整してくれたのだろう。西側のデーモンが、次々と細かな粒子へと変化して消えていく。中心部から輪になって広がり、西のデーモンは全て滅んでしまった。

 目測で十万単位のデーモンがいたはずだ。目先の危機は脱したかな。


 そう思いながら気になる南側へ顔を向けると、そこのデーモンも全滅していた。


 ものすごく遠くの空に、ごま粒のような点がいくつか見えている。じっと見つめると、その形がおぼろげに分かった。


 あれはエルフ軍のインビンシブル艦隊だ。真ん中の大きいのは旗艦サッドネス。


 まさか冥界へ入ってきたのか。にわかには信じられず、念話を送ってみる。


『ミッシー、今冥界に来ているのか?』


『ああ、来ている。地上の王都ランダルは、レオンハルト・フォン・スタイン国王と共に、デーモンを制圧済みだ。ソータが降らせたヒュギエイアの水で、デーモンはほぼ全滅状態だったからな』


 一瞬の沈黙の後、仲間からの念話が届く。ファーギたちバンダースナッチのメンツ。サンルカル王国の修道騎士団クインテットから、マイアとニーナ。ドワーフの旗艦イノセントヴィクティムより、元ギルマスのオギルビー・ホルデン。


 支援要請に行っていた仲間たちが、援軍を連れて冥界へ来ていた。


 これはちょっと想定外だ。俺が支援要請したのは、スタイン王国のデーモンが国外へ出ないよう包囲殲滅してもらうためだった。

 黒霧徒(こくむと)、いわゆるデーモンの神にあたる存在が出てくるような、冥界へ来るなんて危険すぎる。


 その辺を念話で聞いてみると、冥界へ入らざるを得ない状況になったそうだ。


 北方ではマールアの近辺、南方では海岸近くの平原、二カ所に巨大な穴が開いたそうだ。そこを調査しようとすると、穴からデーモンがあふれ出して交戦状態になったという。


 その頃すでに王都ランダルは平定され、レオンハルト・フォン・スタイン国王率いる兵で後片付けをやっている最中だった。


 王都へ入っていた、ミゼルファート帝国、サンルカル王国、ルンドストロム王国の軍は、冥界の穴へ突入し現在に至るそうだ。


 ミッシーから提案があった。情報の擦り合わせのため、いったんバンダースナッチに集まろうと。


 俺はそれを了承して、あたりを見渡す。冥界の王都ランダルには、まだ生き残りのデーモンがいる。ここを放置するわけにもいかない。


 大きめの夢幻泡影(むげんほうえい)結晶で、五十万体のスチールゴーレムを作成。街のデーモンの殲滅を命じた。追加で五十万のスチールゴーレムを作成。周辺地域で王都ランダルの守りを固めるよう命じる。そして百万のスチールゴーレムを作成。ゴヤたちゴブリンの支援に向かわせた。


 地面を埋め尽くす二百万のスチールゴーレム。

 さっきは一万のスチールゴーレムがやられてしまったので、数で対抗する。エネルギー源の夢幻泡影(むげんほうえい)結晶は、ボーリングの球くらいの大きさだ。今度はそう簡単にやられないだろう。


 物質創造における魔力の減少を感じない。


 俺はニンゲンじゃないと再認識させられる。


 気持ちが凹まない踏ん張っていると、南北から迫る各国の艦隊の姿がハッキリと見えていた。


 しばらくすると、上空にバンダースナッチが到着した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 バンダースナッチのブリーフィングルームに、仲間が集結していた。ミッシー、ファーギ、マイア、ニーナ、メリル、リアム、アイミー、ハスミン、ジェス。全員無事でホッとする。


 しかし一部のメンツからじっとりした視線を感じた。この感触には覚えがある。


「ソータ……、あのゴーレムはいったい何なんだ」


 ミッシーから質問が飛んできた。じっとりした目で。


「一万のゴーレムでは敵わなかったから、二百万作り出した――」


「ここが冥界だからといっても、やりすぎではないか?」


「いや、実はね――」


 今回俺は、調子に乗ってスチールゴーレムを創り出したわけではないと話していく。


 迎魔(げいま)という魔素を使う黒霧徒(こくむと)の存在。そいつらは神々の世界に比肩する、黒霧(こくむ)という世界の住人で、デーモンの神にあたる存在だと説明した。


 一同が息を飲む。


 ファーギやマイアから質問が来た。デーモンの神とは、女神アスクレピウスのような存在なのかと。


 俺は頷く。神界と対をなす世界。それが黒霧(こくむ)だと。その上で今回、黒霧徒(こくむと)と戦闘になり、ギリギリで討ち滅ぼすことができたと伝えておく。


 絶望の表情を浮かべる仲間たち。その中で明るい声が聞こえてきた。


「要はソータさんがデーモンの神を滅ぼしたってことっすね。そりゃ報復を考えてこんだけのゴーレム創ってもおかしくないっすよ。むしろ少ないくらいっす。もっと増やさないっすか?」


 その言葉で一同ハッとする。


 地上にデーモンが現れると、神々の怒りが明確に分かる。あの暗雲を使った落雷だ。しかし冥界にニンゲンが現れても、冥界の神、黒霧徒(こくむと)が現れるようなことはなかった。デーモンがニンゲンを喰らうから逆に都合がいいのだろう。


 しかし、黒霧徒(こくむと)がニンゲンによって滅ぼされたとなると、また話は違ってくる。


 リアムの言うとおり、黒霧徒(こくむと)による報復があったとしても不思議ではない。


「二百万のスチールゴーレム。核は魔石や神威(かむい)結晶ではないんだ。たぶんこの戦力で大丈夫だと思う。万が一があったとしても、俺がまた創りに来るから平気だ」


 そのため俺は、試金石として二百万のゴーレムを創り出した。


「ゴーレムの核が違うって、何使ったっすか?」


「いや、実は夢幻泡影(むげんほうえい)結晶ってのを核にしてね――」


 魔素、神威(かむい)冥導(めいどう)闇脈(あんみゃく)蒼天(アイテール)迎魔(げいま)など、魔法を使う根源がたくさんあると話していく。


 ゴヤから聞いた十五種類を話し終えると、ミッシーとファーギから声が掛かった。


 残りの魔素は影絵遊戯(かげえゆうぎ)永遠回廊(えいえんかいろう)根源(ソースコード)だと。


 さすがSランク冒険者。いや、二人とも長生きだから知っているのかもしれない。その三つで魔法が使えるかと聞いてみると、さすがに無理だと返事が返ってきた。


 ファーギとミッシーは、知識として知っているだけで使うことはできなかった。そうなると、ゴヤって凄いんだな。あいつ十五まで使って見せたし。


 できれば十八番目の素粒子まで使えるようになりたかったんだけど、まあそこは追々考えていくか。


『……もう使えますよ』


 クロノスからの言葉が届く。


『マジで?』

『はい』

『これまでは見なきゃ解析できてなかったよね。今回は聞いただけで使えるようになったの?』

『……はい』

『……そっか。助かる』

『いえいえどういたしまして』


 凄いことやってのけたのに、歯切れの悪いクロノス。彼女も頑張っているんだと思っておこう。


 そう考えているとミッシーから声が掛かった。


「ソータはこれからどうする」


「いったん東の帝都エルベルトへ向かう。そこにゴヤたちがいるから合流したいんだ。それにレブラン十二柱序列一位のラコーダと、地球人のデボン・ウィラー大佐とダーラ・ダーソン少尉を探したい」


「そうか。私たちもついていくぞ」


 そう言って俺をじっと見つめるミッシー。それは「置いていくな」という瞳だ。他のメンツを見るとまったく同じ目をしていた。


 厳しいな。ラコーダや黒霧徒(こくむと)は、これまでの敵とは格が違う。何か理由を付けて、俺ひとりで行こう。


「とりあえず、この地を調査してほしい。モニターに映っているあの場所は、神殿が崩れて陥没しているんだ。地下に黒霧(こくむ)へ繋がるゲートがあった。閉じてきたけど、そこが開けば神に匹敵する力の持ち主たちが冥界へ現れかねないからな」


 実際にはもう閉じているので、掘っても何もないけど。


「断る」


 ミッシーは即座に返事した。その目は真剣だ。他のメンツも同じだった。


「いや、俺の話聞いてた? 神の力、蒼天(アイテール)に匹敵する、迎魔(げいま)の使い手が相手になるかもしれないんだぞ。仮にさ、女神アスクレピウスと戦って、どうにか出来ると思う?」


 俺はそう言って仲間たちを軽く睨み付ける。危険すぎるという警告を込めて。


「その蒼天(アイテール)だが……」


 そんな中、ファーギが口を開いた。そして彼は魔導バッグから武器を取り出した。


 蒼天(アイテール)で作られた神器で、ガルム(狼牙の鎚)と言うそうだ。


 他のメンツも、各々で新しい武器を見せてきた。


 ドワーフの六人はちゃんとした武器だが、マイアとニーナに関してはよく分からない。手のひらに白い針をてんこ盛り乗せていた。だが、その針からも蒼天(アイテール)の力を感じる。

 ミッシーはいつもの祓魔弓(ふつまきゅう)ルーグを見せていたけど、何か雰囲気が変わっていた。


 俺の仲間たちはその武器をもって、デーモンや黒霧徒(こくむと)と戦うという。


「ワシらは冒険者だが、今回は依頼を受けているわけではない。ソータ、お前についていきたいから、ワシらは準備してきた。その結果どうであれ、気にしないでほしい。置いて行かれる方が嫌だってことだ」


 これから向かう東の帝都エルベルトは、俺たちの死地となるやもしれない。それは分かっているはずだ。それなのについてくるってどういう了見だ……。


 理解に苦しんでいると、ミッシーから声が掛かった。


「私たちはずっとソータに無理をかけっぱなしだ。命がけで成し遂げようとするソータを見逃せない。ただそれだけだ」


 何を言っても聞きそうにないな……。置いていって無茶をされるより、一緒に行動した方がいいのか。あるいはこの場で転移して姿をくらますか。


 ……やっぱ、仲間が死ぬ場面なんて見たくもないな。


 ――ゴッ


「痛たっ!」


 しれっと転移しようとすると、何かに頭をぶつけた。


「お前のことだ。ワシらを置いていこうとするのは目に見えている」

「逃さないっすよ、ソータさん」


 頭をぶつけたのは、ファーギが張った障壁。転移魔法を阻害(そがい)したのは、……リアムが持っている杖か?


「どうしても同行するって言うなら、もう何も言わないよ」


 自分でも分かるくらい嫌そうな顔で言う。諦めよう。何を言っても、絶対についてくる。


 そんな気持ちを知ってか知らずか、仲間たちは武器を見せつけてドヤ顔をしていた。

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