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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
15章 冥界の「国」

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300 デーモンの国

 ニンゲンを探すのはわりと簡単だった。姿を消して空を飛び回り、魔力を感じた方へ向かえば簡単に見つかる。どうやらこの街のデーモンもデモネクトスを飲んでいるみたいで、魔力が漏れ出ていない。つまり、ニンゲンの魔力が際立っているのだ。


 デーモンはずる賢い。デモネクトスの開発時に、こんな使い方を想定できていなかったのかな。


 シュヴァルツの南側にある、刑務所のような施設。そこには強い魔力と、人間の気配が感じられる。石造りではなく、古びたコンクリート壁の二階建てで、いくつもの棟に分かれている。異世界にもコンクリートの建物はあるが、このような刑務所風の造りは初めて目にする。


 空から眺めながら思考を巡らせる。金網と鉄条網もあるし、この施設は地球との接点を感じざるを得ない。地球人が冥界へ迷い込んだのなら、喰われてしまうだろう。しかし、この刑務所のような建物を造ったとなると、技術提供を受けたデーモンから喰われずに済んだ可能性もある。仕方なく協力したのか、強制されたのか、その真相は闇の中だ。


 これに地球人が関わっているとしたら、どのような組織で、どのような人物が関与しているのだろうか。


 様々な可能性を考えつつ、頭に浮かぶのは実在する死神(ソリッドリーパー)の存在だ。その中でもやはり、過激派である魔女(カヴン)マリア・フリーマンの関与を疑わずにはいられない。


 何はともあれ、刑務所内のニンゲンを救出しなければ。


 上空から刑務所の構造を把握し、おおよその目測で最適な場所を定めると、俺は瞬時に転移した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 転移は完璧に成功した。姿を消したまま廊下を見渡す。人の気配は皆無だ。


 内部も外壁と同じく古びていて、独特の匂いが鼻をつく。掃除はされているものの、リノリウムの床材は表面が剥げ落ちている。思っていたより、だいぶん古い建物のようだ。


 気配と魔力を探ると、この棟には誰も居ないことが判明した。他の棟も同様で、敷地内部の中心部に魔力が集中していた。


 運動でもしているのだろうか。いくつか魔力の無い気配があるので、デモネクトスを飲んだデーモンがいるはずだ。刑務官のような立場かもしれない。


 慎重に移動し、そろりと窓に近づく。


 ……あ、これはダメだ。


 素っ裸のニンゲンは、食用として品種改良されていた。姿形が違っていて、かろうじてニンゲンだと分かる程度。目を背けたくなる衝動を必死に抑え、何が起きているのかしっかりと観察する。


 そして恐ろしい事実が明らかになった。彼らは、それこそ牛が屠殺されてゆくように殺されていたのだ。


「おいっ! 急げって達しが来ているのに、何をもたもたしているっ!」


 上役らしき、少しいい身なりのデーモンが入ってきて、怒鳴り散らかす。刑務官のデーモンたちは、慌ててその手を早めていく。


 胸が締め付けられるような光景に、怒りと悲しみが込み上げてくる。


 ドアを開けて屠殺場へ躊躇なく踏み入る。刑務官たちの注目が集まるが、姿は消したままなので見付かることはない。念動力(サイコキネシス)を使って、まずは首を傾げている上役の頭を躊躇なく握り潰す。刑務官たちはそれを目の当たりにして慌てふためくが、彼らも同じく念動力(サイコキネシス)で容赦なく握り潰した。


 ベルトコンベアに乗せられ、運び出される遺体を悲痛な思いで見送る。首を落とされているので、もうどうしようもない。しかし、生き残りのニンゲンたちが百人ほどいる。せめて彼らだけでも救わねばならない。


 鎖で繋がれた彼らの前で姿を現す。


「俺もニンゲンだ。敵では無い。言葉は解るか?」


「あ……う。あうあうああぁ……」


 異世界の言葉で話しかけてみると、かすかに頷いてくれた。理解はしているようだ。しかし言葉として発音できていない。その姿から察するに、声帯がまともに機能していないと思われる。


 ただ、彼らにも思考する知能があることは明白だった。


 ――死にたくない。


 そんな切実な気持ちが方々から伝わってくる。


 彼らは涙を流して、膝をついた。その姿に胸が痛む。


 ならばと、念話を試してみた。


『会話できるか?』


 ――助けてほしい。


 念話での会話もできない。そして気持ちが直接伝わってきた。


『事情は察している。助けるから、君たちの先祖のことを聞かせてほしい』


 そう伝えると、様々な声が聞こえてきた。これは念話でなく、念話でもある。上手く喋れない彼らが、何とか伝えようと、必死に頑張っているのだ。


 一斉に伝わってきた彼らの言葉をまとめる。彼らの先祖は地球人で、魔女にさらわれてきたという。この地に閉じ込められ、実験を重ねられた。そののち、彼らはこのような姿となって、綿々と繁殖させられていたのだ。デーモンの食料になるために。


『分かった。もう死ななくていい。助けるから――あ、でもちょっと待っててね』


 彼らにそう伝えて、念話を切り替える。


『シビル、ちょっといいかな?』


 魔女(ハッグ)シビル・ゴードンへ念話を飛ばすと、すぐに返事があった。まだ月面基地で何かやっているみたいだ。


 俺は目の前にいるニンゲンたちの事情を説明する。その上で、実在する死神(ソリッドリーパー)の誰がこの件に関わっているのか問いただす。


 彼女は知らないと断言した。そんなむごいこと想像も出来ないとも。そして彼女も俺と同じく、魔女(カヴン)マリア・フリーマンの関与を疑った。


 これから月面に行って、シビルを問い詰める訳にもいかない。だから、彼らを安全に保護できる場所が無いかと聞く。すると彼女は是非とも月面基地へ避難させてくれと熱心に言ってきた。


 念話を切って、彼らへ問いかける。


『環境がだいぶん変化するけど、君たちを保護してくれる場所がある。移動する?』


 ――つれてって。


 ほとんど同時に同じ返事が返ってきた。俺としては是非も無い。すぐに彼らの鎖を断ち切って、月面基地へゲートを開いた。


「わっ!? は、早いですね――」


 元バンパイアのひとりが驚いて声をかけてきた。実験室に繋げたので、他にもメンバーがいる。彼らはこちらを覗き込み、すぐに察した。品種改良されたニンゲンたちへ向かって、必死に作った笑顔を見せながら手招きをする。かわいそうに――。その気持ちが透けて見えないよう、月のスタッフは全力で気を使っていた。


 シビルの決断の早さに感謝しながら、俺はこの場に居るニンゲンたちを送り出した。


 品種改良されたニンゲンたちは、みな涙を流して感謝していた。


 ――ありがとう。


 色々な声でたくさん伝わってきた。


 たった今会ったばかりの俺を、そう簡単に信用していいのか? そんな疑問が頭をよぎる。彼ら品種改良されたニンゲンたちは、そこまで考えることが出来ないのだろう。その無邪気さに、悲しみと怒りが込み上げてくる。


「すまないが、丁重に頼む」


 最後のひとりがゲートをくぐったところで声をかけておく。月面基地の元バンパイアたちは、いい笑顔でサムズアップ。たぶん大丈夫だろう。そう思いながら俺はゲートを閉じた。


 ニンゲンも、この世界では単なる獲物に過ぎない——その衝撃的な現実が、俺の心に深く刻み込まれた。


 それに、ニンゲンも家畜の品種改良やってるしな。


 ニンゲンだけが特別な存在だと勘違いしちゃいけない。それこそ傲慢というやつだ。


 ため息が出そうになるのを堪えつつ、俺は浮遊魔法を使った。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 あれから三十カ所以上、ニンゲンの飼育所を回って救出が済んだ。彼らを全て引き受けてくれたシビルには感謝してもしきれない。

 ただ、その頃には当然、俺の行動がデーモンにバレていた。そりゃそうだ。デーモンが必要とする、食糧(・・)を奪ったのだから。


 俺はこの街のデーモンを許すつもりは無い。私刑だと言われようが罪に問われようが、勝手にやらせてもらう。


 浮遊魔法で、フォルティスとシュヴァルツから十分に距離を取る。ふたつの街に生き残りの人間はひとりも居ない。


「死ね」


 ファイアボールを放った。一発だけだが、いつもより遥かに強力だ。


 ふたつの街を分ける川に着弾すると同時に、大爆発が起きた。まばゆい光と衝撃波を感じて、ふらつく。そこに、爆風と轟音が同時に届き、小さな瓦礫まで飛んできた。


 フォルティスとシュヴァルツには、雷を伴う真っ黒なキノコ雲が発生していた。


 大気は震え、その振動は遠く離れた地にも届くだろう。東の帝都エルベルト、西の王都ランダルへ。


 響き渡る轟音は、まるで天地が割れるかのよう。熱風が地を這い、草木は焦げ、建物は砂に変わる。


 光は次第に消え、しかし熱と煙は残る。空は灰色に覆われ、その中で黒い灰が静かに降り積もっていった。


 そして、黒い雨が降り始めた。


 生き残りのデーモンがいないか確認してゆく。時間をかけてじっくりと。一体たりとも逃さないし、蘇らせもしない。この世界から完全に抹消すると、強い意思を持って飛び回った。


 全滅を確認。


 俺は進行方向を変え、冥界の王都ランダルを目指した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ランダルへ到着すると、厳戒態勢な上、ヒト型デーモンたちが(いくさ)の準備に追われていた。ここも地上と変わらぬ街並みで、大都市の風格を漂わせている。そうなると誰か統治者がいるのか……。


 灰色のデーモンは、兵士とそうでない者のふたつに分かれている。ニンゲンでいうところの民間人的なデーモンってことか。鎧を着込んだデーモンと、一般的な服装のデーモンでは、どう考えても違うし。


 そういえば冥界の帝都エルベルトでも、一般家庭のような家があった。そこでは家族団らんしているデーモンがいた。ヒト族を喰っていたけど……。


 レブラン十二柱のように、デーモンには序列があるんだ。ニンゲンのような社会性もあるのだろう。


 ただし、今となっては、なにも考慮しようと思わない。叩きのめすだけだ。ニンゲンが特別でないとしても、品種改良だなんて絶対に許せない。


 上空に浮いたまま目を閉じて、気配を探ってゆく。察知できる範囲をどんどん広げてゆくと、魔力が漏れている者がひとりも居ないと分かった。これは冥界の王都ランダルに、ニンゲンの飼育場がないことを示している。


 いや、断定するのは早急すぎる。飼育場のニンゲンに、デモネクトスを飲ませている可能性もある。フォルティスとシュヴァルツでは、俺がピンポイントで襲撃していたからな。ファイアボールで吹き飛ばす前に連絡があったとしても不思議ではない。


 となると厄介だ。品種改良されていようとも、彼らはニンゲンだ。まとめて吹き飛ばすなんて言語道断。地道に探していくしか無いか……。


『おいおい、さっきの爆発はこれかよ』


 俺の声の念話が届く。夢幻泡影(むげんほうえい)魔法で創ったスチールゴーレムからだ。一万体で、街道を進軍するデーモンを滅ぼしながら進んできたとしても、随分早いな。


『そうだ。俺がやった』


『マジか……。夢幻泡影(むげんほうえい)を感じないが、どうやったらこうなる』


『俺の脳神経模倣魔法陣を使ってるんだ。ちょっと考えれば分かるだろ』


『あーね。魔力でこの威力は本当にヤバいと思うぞ。これで全力でないことも理解出来た。何があったのか聞かせてくれ』


『デーモンがな――』


 フォルティスとシュヴァルツで何があったのか、スチールゴーレムたちに説明していく。ふたつの街を吹き飛ばしたことに関して理由が分かると、彼らは納得していた。俺と同じ考え方するから、第三者の意見とは言えないが。


「んで? 空に浮いて何やってんの?」


「ぬおっ! いつのまに!」


 すぐ側で俺の声が聞こえて驚く。スチールゴーレムたちは、浮遊魔法で俺に近づいていたようだ。気配が無いのは元からだ。ゴーレムだし。それで、俺と同じように姿を消してしまえば、もう見つけることは厳しい。


「ははっ、ビックリしただろ」


 姿の見えないスチールゴーレムが、おどけた声を出す。


「うん。驚いたよ。……けど、これで少しやりやすくなったかな」


「この街のニンゲンを探すんだろ?」


「話が早くて助かる。この街は人口も多いから、しらみつぶしに探していくしか無い。デモネクトスを飲まされていると思うから、出来るだけ慎重に捜索するように。俺は城と神殿を探る」


「了解だ。他のゴーレムには念話で指示を飛ばしておくよ」


「分かった。あとは頼む」


 互いに姿の見えないまま会話をして、俺は地上を目指す。まずは城からだな。


 地上ではレオンハルト・フォン・スタイン国王の執務室だった場所を、外から眺める。誰もいないことを確認して、開けっぱなしの窓から侵入した。


 ……これは長い間使ってないな。執務室の内装は地上のものと同じ。しかし、うっすらと埃が積もっている。荒らされた様子は無いので、単純に放置されているだけだろう。


 そろりとドアを開けて廊下へ出る。


 衛兵っぽいデーモンはいる。廊下の突き当たりを横切っていくのが見えた。となると、やはり統治者がどこかにいるはず。冥界のスタイン王国は冥界のアルトン帝国とは、やはり別の国なのだろう。


 階段を降りて、ルドルフ・フォン・スタインが幽閉されていた部屋の前に出る。


 ドアを守る立哨がふたり。こっちが当たりか。ドアの向こうには、デーモンのお偉いさんが居ることは確実だ。姿を消したまま、浮遊魔法でゆっくり移動していく。微細な足音、少しだけの空気の動き、これらで察知されたくない。騒ぎになると元も子もない。


 部屋の中には気配がふたつ。


 俺は姿を消したまま、中へ転移した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「ハシム、まだ連絡は取れないのか」


「はっ、ザラト王陛下、いまだに連絡がつきませぬ。斥候部隊も全て……」


「ぬう……。アルトン帝国へ攻め込んでいたつもりだったが、逆に攻め込まれている可能性もある。王都ランダルの守りは十分か」


「はっ、大至急進めております」


 冥界ではこっちの方が執務室になっていた。部屋の中には国王らしきデーモンと、文官である宰相っぽいのがいた。宰相――ハシムと呼ばれたデーモンが、魔導通信機で呼びかけている。宛先はフォルティス。なんとも微妙な感じを受けた。地上と同じ都市名にするなんて。


 それはいいとして、フォルティスとシュヴァルツはすでに灰燼に帰した。連絡が取れるはずもない。


 部屋の中に防音魔法陣を張りまくって、夢幻泡影(むげんほうえい)魔法で障壁を張る。念動力(サイコキネシス)で二体のデーモンを掴んで、俺は姿を現した。


「ぐうっ……。な、何者だ、貴様は」


 声を上げたのは、ザラトと呼ばれていた国王だ。姿形はヒト族にそっくりだが、肌の色がデーモンでよく見る灰色である。顔立ちもヒト族に似ているが、白目がなくて真っ黒な目だった。赤いガウンのような王様らしき服装は、着せられた感が凄い。簡単に言うと似合っていない格好をしていた。


「ソータ・イタガキ。お初にお目にかかります。ザラト王陛下。それにハシムさんも」


 灰色のデーモンだが、見た目はヒト族。二体ともいい身なりである。デモネクトスを飲んでいるからなのか、まったく魔力を感じない。しかし、微細な動きを感じた。


 何かするつもりだと分かった瞬間、スキル〝能封殺(アンチスキル)〟と〝魔封殺(アンチマジック)〟を使う。


 これで一安心。


「私事で悪いんだけど、俺は今機嫌が悪いし苛ついている。質問するから正確に返事しろ。ウソっぽいな、と思ったら殺す」


「貴様ニンゲンの分際で、ザラト王陛下に何という口の利き方――」


 ハシムを念動力(サイコキネシス)で握り潰した。べしゃりと落ちた黒い粘体へ、ヒュギエイアの水をかけていく。


「おい、もう一回言うぞ――」

「は、はい。何なりと」


 デーモンの国王、ザラトはべらべらと俺の質問に答え始めた。

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