表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
15章 冥界の「国」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

298/341

298 鏡の世界

 俺はゴヤたちゴブリンとスクー・グスローたちと集団転移した。行き先はベナマオ大森林の入口。草原と森の境界線がくっきり分かれている場所だ。


 長い夜が明ける。淡い紫色を帯びた夜明けの空が、まるで巨大なキャンバスに絵の具を滴らせるように、徐々に暖かな朝日の色合いへと変化していく。


 ここから続く小道は、紫色の巨大ドーム――帝都エルベルトへ続いている。


 ガサリという音に振り向くと、そこにはたくさんの、ゴブリン特製猟犬(ハウンドドッグ)が集まっていた。ひと目で分かったのは、メタルハウンドにそっくりだから。この森の中に十万体もの猟犬(ハウンドドッグ)が潜んでいるのだ。


「まずはゴヤたちからだな」


「ワシらから?」


 隣のゴヤが首を傾げ、その目に戸惑いの色が浮かぶ。強化するといったのは猟犬(ハウンドドッグ)であり、ゴブリンとは言ってない。しかし、そういう訳にもいかないと俺は心の中で苦笑する。


 こちらを監視しているアメリカ軍の無音ドローンを、念動力(サイコキネシス)で握り潰す。警告だ。覗き見はするなという。


 その上で俺は、ゴブリンと猟犬(ハウンドドッグ)へ聞こえるように、念話を飛ばす。


『ゴヤ、夢幻泡影(むげんほうえい)結晶を全員に渡しても平気?』


 そこまで言ったところで、念話がざわついた。ゴヤを始めゴブリン一同と猟犬(ハウンドドッグ)からも驚きの感情が伝わってきたのだ。


『おいおい、十五番目の魔素だぞ?』


 ゴヤの声には驚きと懐疑が混ざっている。


『結晶なんて見たことないんだが……。しかし、出来るもんならやってみろよ』


 彼は挑戦的な笑みを浮かべた。


 ゴヤの許可を得て、いちおう証拠を見せる。手のひらの上に夢幻泡影(むげんほうえい)結晶を生成してみた。ビー玉大の大きさだが、これを持つだけで魔法が強くなる。なんなら夢幻泡影(むげんほうえい)魔法を使うことさえ可能だ。取得するのに時間はかかるけど。


夢幻泡影(むげんほうえい)結晶は、とてつもない力を内包している。各自に渡していくけど、肌身離さず身につけておくように。身体から離れたら、結晶が崩れるように設定しておいたからね』


 大きなミスリル製のお椀を作り、そこに夢幻泡影(むげんほうえい)結晶を生成する。ゴブリンたちは列を作って、順番に取っていく。おどおどしながらも。


 小さなミスリル製お椀には、砂粒大の夢幻泡影(むげんほうえい)結晶を生成。スクー・グスロー用だ。彼女たちはいつものように群がってきて、なんと口からのみ込んでいた。


 その間暇なので、猟犬(ハウンドドッグ)十万体の動力源をゴヤに聞いてみる。


『魔石だ』


 やはりそうか。


『ちょっとさ、ゴヤの魔導バッグ貸してくんない? というか十万個の魔石が入る容量ある?』


『は? お前は何を言って――』


『いいからさ。これに十万個の魔石、入る?』


『あ? ああ、多分な』


 ゴヤからぶんどるように魔導バッグを借りる。あまり時間がないので急いだ方がいい。晴れ渡っていた空に、不自然な雲が発生している。帝都エルベルトのデーモンが増えすぎて、神々に見つかってしまった可能性があるのだ。


 念動力(サイコキネシス)を薄く広げて、猟犬(ハウンドドッグ)の位置を把握。魔石のある場所を確認して、全てこちらへ転移させた。ゴヤの魔導バッグの上に転移させたけど、少し座標がズレて魔石がこぼれ落ちた。


 すぐに夢幻泡影(むげんほうえい)結晶を十万個生成し、猟犬(ハウンドドッグ)の中へ転移させてゆく。


 まあ電池の入れ替えみたいなものだ。数が多いだけで、特に問題はない。猟犬(ハウンドドッグ)がやられた場合、夢幻泡影(むげんほうえい)結晶は砂と化す。盗難対策は万全だ。何ならこっちから自爆させることも出来るから、捕らえられた場合は爆弾として使用可能。


「よしっ! 準備完了!」


 空を見上げると、突如として雷鳴が轟き渡った。その轟音は地面を震わせ、全員の背筋を凍らせた。


「……ソータ」


 ゴヤの声と同時に、極太の雷が落ちた。


 ――――――――バリバリ

 ――――――――ドン


「ぬおっ!? なに!」


「どうする?」


「どうしよう……」


 雲は急速に広がってゆく。


 帝都エルベルトの冥導(めいどう)障壁は簡単に破壊され、街中を感電させながら地面の裂け目を通り抜けてゆく。神聖なる気配。辺りに神威(かむい)が満ちている。されど神々の気配は無い。


 以前、ベナマオ大森林に悪魔(デーモン)ネイト・バイモン・フラッシュを召喚したときは、神々の気配を感じたというのに。


 今回の雷雲は、おそらく神が創った対デーモン用の兵器だろう。その根拠に、デーモンを取り逃がしている。初めの一発のあと、雨のように降りそそぐ雷は、少しだけ正確性に欠けている。そのせいで、帝都エルベルトの外に、デーモンが溢れ出る結果となっていた。


 状況が悪化している。このままだと、逃げたデーモンがこの世界に害を及ぼす。冥界から出てきた強いデーモンだ。対処も大変になるし、犠牲者も大勢出る。


 ――――――ドン


 雲に目がけてファイアボールを放つ。もちろん全力ではないが、これまで使ったことのない威力で放った。そして指向性を付け加えた。爆発して、こっちに二次被害なんてシャレにならないし。

 ファイアボールが雲の中に消える。


 数秒ののちに、雲が晴れ渡っていく。そこには空を駆け上がっていくファイアボールの熱波が見えていた。


 音もしなければ光もない。この使い方いいなと思いつつ、帝都エルベルトを包み込む巨大な獄舎の炎(プリズンフレイム)を放つ。これで帝都エルベルトのデーモン、及び外へ逃げ出したデーモンはすべて灰に変わった。その上で、ヒュギエイアの水を使って雨を降らせる。


 討伐完了。神の創ったシステムより、人力でやった方が確実だな。


「ふう……。とりあえず間に合ったな。行こうか、ゴヤ」


『わーっ! なにやったのソー君!』


 スクー・グスローたちが群がってくる。彼女たちにとってのデーモンは、滅ぼさなければならない敵だ。そのデーモンを一纏めに滅ぼしたのだから、喜んでいるのだろう。みんな笑顔でまとわり付いてきた。


「ソータ……」


「ぶはっ!? なに!」


 喋るのも大変なくらい、スクー・グスローに群がられている。


「お前、今何やったんだ?」


 ゴヤの声には驚きと畏怖が混ざっている。その目は、まるで未知の生き物を見るかのように俺を凝視していた。


「ファイアボールと獄舎の炎(プリズンフレイム)って火属性の魔法だ」


 俺は淡々と答えるが、自分でも驚いていた。この力の大きさに。


「……今のが?」


 ゴヤの声が震える。彼の目は信じられないものを見たかのように見開かれていた。


「そうだ」


「……」


 詳しく話さない俺を見て、ゴヤは諦めたように肩を落とした。驚くとは思っていたけど、詰め寄られるとは思っていなかった。どこかに隠れて魔法を使えばよかったと後悔しつつ、帝都エルベルトを見やる。


 廃墟になっている。生きているものは何もいない。しかしそれは地上部分だけだ。地割れは塞がっていないし、時が経てば再びデーモンが現われるだろう。神の兵器は壊してしまったので、ここはしっかり責任を取らなければ。


 ゴヤはずっと俺の顔を見つめている。スクー・グスローが群がっているのに。それでも、今のファイアボールの事を知りたそうにしているので、現実的な話題へ戻そう。


「ゴヤ、作戦どうする?」


 俺の言葉に、ゴヤは我に返ったように首を振った。


「そうだな……猟犬(ハウンドドッグ)の性能がどれくらい上がっているのか知りたい。そういえばお前たち、夢幻泡影(むげんほうえい)魔法がちゃんと使えるのか、指先のファイアで試してみろ。危ないから抑えて使うんだぞ!」


 ゴヤの指示がゴブリン兵へ飛んだ。彼らは素直に従い、指先に炎を灯してゆく。この感じは夢幻泡影(むげんほうえい)魔法で間違いない。


「凄いな、一発で使えるなんて」


 俺の感嘆の声に、ゴヤは誇らしげに胸を張る。


「里の精鋭だ。魔法の扱いにも長けているからな」


 俺はまだ怖くて使ってないので、コッソリ試す。うん。うまくいった。指先に小さな炎が灯った。夢幻泡影(むげんほうえい)を感じるので、とりあえずは成功だ。クロノス(汎用人工知能)が制御していると思うけど。


 猟犬(ハウンドドッグ)たちに、ゴヤからの指示が下された。各々の犬の鼻先には、夢幻泡影(むげんほうえい)の繊細な炎がひとつずつ灯されていく。まだ早朝で、森の中は薄暗く、不明瞭な光が周囲を包んでいる。十万の炎は、幻想的でありながらも、何か妖艶な雰囲気を漂わせていた。


「ソータ、お前はどう動く?」


 ゴヤの声に、俺は我に返る。


「俺はデボン大佐とダーソン少尉と合流したい」


「そうか。ワシらは、デーモンを倒すぞ。これだけの戦力が投入できれば、冥界のデーモンもビックリするだろう。とりあえずこのままだと、こっちに出てくるからな。ソータ、あの裂け目は塞げるんだろ?」


 ゴヤの問いに、俺は少し考え込む。


「どうかなー……。ゲートと似てるけど、ちょっと違うんだよね。空間魔法で何とか出来ると思うけど、やってみなきゃ分かんないな」


「そうか。どちらにしても攻め込むけどな。転移だけお願いできるか?」


 ゴヤたちは転移魔法が使えたはず。それなのに……。あ、十万の猟犬(ハウンドドッグ)か。


「ああ、了解した。おーい、出来るだけ集まってくれー。転移先でバラバラにならないようにしないと、孤立するかもしれないからなー」


 大声で叫んで、ゴブリンの精鋭部隊、スクー・グスロー、猟犬(ハウンドドッグ)を集める。


 しばらくして点呼も終わり、俺たちは冥界へと転移した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 冥界に到着して空を見上げる。そこには切り取られたような裂け目があって、冥界ではない異世界の青い空が見えていた。塞がる様子は無い。


 いったんこれを先に閉じよう。そう思ってゲート魔法を使用する。……反応無し。やはり別の方法でこじ開けた空間という感触がする。


 ならばと、空間魔法を使ってみると、冥界の空に何もなかったように裂け目が閉じてしまった。よしよし。これで強いデーモンがお手軽に異世界へ侵入することは出来なくなった。


 改めて、冥界の街並みを見渡す。

 あの極太雷は、この街にとてつもない破壊をもたらしていた。強い電流が流れたことで、街の各所で大きな火事や爆発が起きている。そこは魔石や冥導(めいどう)結晶の保管庫である可能性が大きい。それに、感電死したデーモンがそこら中で黒い水たまりと化している。


『ゴヤ、この街はもう、生き残りのデーモンはいないかも』


 すぐ隣にゴヤはいる。しかし念話を使っておく。ゴブリンの精鋭部隊やスクー・グスロー、それに猟犬(ハウンドドッグ)にも伝えるためだ。


 デーモンが蘇らないように、ヒュギエイアの水を生成。明るくなってきた冥界の空に打ち上げる。こっちの世界も朝だ。しかしながら、空気が濁っていて光もぼやけている。青い空なんてなくて、鉄サビのような赤茶色をしている。


 気が滅入る光景だ。


 打ち上げたヒュギエイアの水が破裂し、ざっと雨が降り出す。雨粒が落ちると粉塵が舞う。それくらい乾燥していた。


『ソータ、この街は二百年ほど前からあるのは知っているか?』


 ゴヤから唐突に念話が届く。隣にいるのに。彼もまた、自身の兵に伝えておきたいのかもしれない。


『冥界のこの街がってこと?』


『そうだ』


『それは知らなかった。地上の帝都エルベルトが、二百年前から乗っ取られているって事と関係あるのかな?』


『ある。冥界はな、ワシらの世界の鏡とも呼ばれているからな』


『鏡?』


 俺の問いに、ゴヤは深く頷いた。


『そうだ。ワシらの世界がデーモンの支配地域になると、冥界に同じものが出来る。森や側も同じだが、生育できなくて枯れてしまう。しかし石造りの街は、こうして残る』


『ほーん。まったく理解不能だ。けど実際に起こってる現象なんだよね』


 獣人自治区の冥界は、確かに同じような街並みだった。多世界解釈で片がつく話だ。


『ああ。それでな、ここから一番近い街、街でなくてもニンゲンが住める場所といえばどこだ?』


 ゴヤの質問に、俺は少し考えてから答えた。


『一番近いのはアメリカ軍基地。次はここから東。冒険者ギルド世界本部のある、エルベの街だよね』


『そうだ。地上のアメリカ軍基地がデーモンに落とされてしまうと、冥界にアメリカ軍基地が出来上がる。そこは当然、ロボット兵などの兵器も使用されてしまう結果になる』


 ゴヤの言葉に、俺は愕然とした。


『え、ちょっと待って。そっくりになるのは、街とか森や川だけじゃないの?』


『いや、ニンゲンが作った家は、中まで同じ作りになる。それも精巧に』


 ああ、ヤバい情報だ。アメリカ軍基地には、新型のステルス爆撃機があった。どんな武装してるのか知らないけど、最低でも核を積んでいる。


 デーモンは動かすことが出来ないと思うけど、賢いやつもいる。さっきの黒線を放つデーモンは倒した。そのあと見てないから、しばらくは出てこないと思うけど……。アメリカ軍基地がデーモンの支配地域になるとヤバいな。


 そんなことを考えながらも、辺りに雨音しかしないことに異変を感じる。そういえばと、全員に聞こえるように念話を飛ばした。


『ラコーダと、デボン・ウィラー大佐とダーラ・ダーソン少尉、三人の姿が見当たらない。あの程度の落雷でやられる玉じゃないからさ』


 俺の言葉を受けてゴヤが忠告する。


『全軍そのまま待機、周囲の警戒を怠るな』


 ――――ズドン


 ここから西へおよそ一キロメートル、猟犬(ハウンドドッグ)たちの張った障壁に、黒線が命中した。


 夢幻泡影(むげんほうえい)結晶が動力源に切り替わっているので、猟犬(ハウンドドッグ)たちの障壁はびくともしていない。黒線が次々と飛んできているが、たった一枚の障壁で耐えている。それどころか、他の猟犬(ハウンドドッグ)が前に出て、泡パーティーの泡のようなものをぶちまけていく。


 泡パ本来のものであれば、噴き上がって観客に降りそそぐ程度。しかしこれは魔法だ。ふんわりではなく、勢いよく飛んでいった。そこにデーモンがいるのかどうか、山なりになっていて視認できない。


 クロノス(汎用人工知能)の声がする。


夢幻泡影(むげんほうえい)を使用した魔法、泡影幻想(ほうえいげんそう)を感知。解析します……。改良と最適化が完了。これ以降ソータにも使えます』


『さんきゅ。てか、あの泡どんな効果があるの?』


『泡の中に敵を映し出し、泡が消えると同時に敵も消えます』


『はあ? いよいよ魔法が理解出来なくなってきたな。夢幻泡影(むげんほうえい)魔法って十五番目の素粒子だっけ……』


『魔法ですから、感覚で使えますよ。……ソータなら』


『うん、まあいいや。いつもありがとね』


『どういたしまして~』


 魔法について考察をやっている暇はない。猟犬(ハウンドドッグ)たちは障壁を張りながら、西へ進んでゆく。デーモン発する黒線は完全に封じられている。その隙を見て、猟犬(ハウンドドッグ)たちの泡が飛んでいく。


 黒線の数は見る見るうちに減っていき、いつの間にか飛んでこなくなった。


 どうやら黒線を飛ばしていたデーモンが全滅したようだ。


 何も言わないゴヤをチラ見すると、目を閉じて眉間にしわを寄せていた。


 ふむ……。俺たちとの念話と、別チャンネルかな。ゴヤは猟犬(ハウンドドッグ)に指示を出しているようだ。ゴヤを中心に、ゴブリン兵が隊列を変えてゆく。スクー・グスローは、数十体ずつゴブリン兵の背のうへ乗っていく。


『ソータ……。西といえばアメリカ軍基地なんだが』


 ゴヤの声に、俺は我に返る。


『うっわ、そうだった。ちょっと確認取ってみる』


 たった今、冥界の仕組みを説明されたのに。

 慌ててアメリカ軍の通信チャンネルで問いかける。


『ソータ・イタガキです。ウォルター・ビショップ准将いますか?』


『お前また通信をハッキングしたのか!』


 准将の声には怒りと諦めが混ざっていた。


『ああ、いや、そうです。いや、そうでなくて!』


『はあ~。何だ。落ち着いて話せ』


『あ、あれ? そっちにデーモン行ってません?』


『来てないぞ。その前に、お前が張っていった障壁をなんとかしろ。出入りできなくて困っている』


 そういえば、蒼天(アイテール)障壁を百枚重ねで張りっぱなしだった。あの強度ならラコーダクラスのデーモンでなければ破れまい。


 つまりアメリカ軍基地は安全だ。


『ああっと、すみません。勘違いしてました!!』


『おいっ! 何が起きている!』


『また今度説明しまーす。今忙しいんで――』


 通信を切った。さっと情報を整理しよう。


 この場所は冥界で、帝都エルベルトとそっくりな鏡の街。実際にデーモンが住んでいた。


 デーモンの支配する異世界の地は、冥界に同じものが出来る。それは森や川に街と多彩である。


 ここから西にあるアメリカ軍基地が陥落していなければ、もっと西からデーモンが来ていることになる。


 それは、フォルティスやシュヴァルツの街。更に西へ行けば王都ランダルがある。三つの街は一時的にとはいえ、デーモンに支配された。


 つまり冥界の帝都エルベルトより西には、フォルティス、シュヴァルツ、王都ランダル、三つの街にそっくりなデーモンの街が出来上がっているという事になる。


 考えていると、黒線の攻撃が再開された。猟犬(ハウンドドッグ)たちは障壁を張ってしのいでいるが、さっきより数が多い。泡影幻想(ほうえいげんそう)で反撃する間もなく、そこに留まっていた。


 すると北西と南西からも黒線が飛んできた。猟犬(ハウンドドッグ)は素早く障壁を張って耐える。


 明らかに数が多くなっている。


 仮にアメリカ軍基地がデーモンに支配されていたとしても、この数は合わない。


 敢えて念話を使わず、ゴヤに話しかける。


「ゴヤ、ちょっといいか?」


「なんだ」


 ゴヤの声には緊張が滲んでいた。


「西から来てるデーモンは、数百万に達する恐れがある。スタイン王国はデモネクトスで汚染されていたから、そこから来る可能性があるんだ」


「ほう……。楽しみだな」


 ゴヤの目が輝いた。戦いへの渇望が見て取れる。


「いや、撤退しねえのかって話なんだけど?」


「する訳がないだろ」


 俺を見つめるゴヤは、歯をむき出しにして笑って見せた。その表情には、戦いへの熱意と、何かを証明したいという決意が混ざっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ