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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
15章 冥界の「国」

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296 後悔

 蒼天(アイテール)障壁。中にはヒュギエイアの水。冥界に落ちて、俺はまたしても障壁の中でグルグルと回転していた。しかも落ちた場所が悪かった。坂道だったため、ころころ転がって民家のドアを突き破ってようやく止まった。障壁の外を見ると、灰色のデーモンが一家団らんで食事中だった。


 ――――――ヒト族の丸焼きを。


 やはりニンゲンとデーモンとは相容れない存在だ。ラコーダの殊勝な言葉が嘘だったと完全に裏付けられた。サンプル数が少ない? そんな事はどうでもいい。デーモンが人を食う場面なんて腐るほど見てきた。


 いや落ち着け俺。今はやることがある。障壁の中の俺を見て、デーモンの家族が驚いている。しかしそれもつかの間。四人家族のデーモンは舌なめずりを始めた。俺を見て。


 念動力(サイコキネシス)で四体の口を塞ぎ、頭を握り潰す。黒い水たまりへ変わったところに、ヒュギエイアの水をかけて討伐完了。


 窓から外を見ると、ここは帝都エルベルトと同じ街並みだった。先に見える噴水が同じで、水は抜けていない。周りを囲む建物の形も同じ。


 うーむ。冥界の街に来て、こんなにも人間らしい姿のデーモンを見るのは初めてだ。街で生活しているとは思いもしなかった。


 冥界はだいたい廃墟で、人っ子一人いない。いるのは黒い粘体だけ。たしかあれがデーモンの本体だったはずだが、この街ではヒト族の形をしている。肌の色が灰色ってだけで、ワニ顔でも無い。


 これが、種の違いってやつか。俺とゴヤの見た目はまったく違う。しかし、同じニンゲンだ。冥界にも、デーモンという枠の中に様々な種がいるのだ。


 変わらないのは、奴らがニンゲンを喰うという点。


 蒼天(アイテール)障壁を消して、窓の外をよく観察する。ここで住人に見つかれば、また大変なことになる。


 それと、ラコーダとデボン・ウィラー大佐。それにダーラ・ダーソン少尉、三人の気配が無くなっている。冥界へ来るとき、違う場所に落ちたっぽいな。


 家々のデーモンが出てきて、心配げな顔で上を見つめていた。


 つられて空を見上げると、異世界と同じ姿の月が浮かんでいた。


「あれ?」


 さっきの地割れが閉じてない。俺が見た月はこの世界(冥界)のものではなく、元の世界(異世界)の月だ。空の裂け目からは、いまだに瓦礫が落ちてきている。不思議なのは、瓦礫が地面に近づくと、大小関わらずその速度が落ちる。まるで鳥の羽のようにふわりと着地していた。


 冥界へ落ちると同じ現象が起きる。落下死するような落ち方はしない。これは多世界の裂け目が無くなったとしても、世界に大きな衝撃が起きないよう何か法則があるのかもしれない。


 そんな事をぼんやり考えていると、割と近くでスクー・グスローたちの念話攻撃の音が聞こえてきた。

 て事は、ゴヤも近くにいるはずだ。


『ゴヤ、無事か』


 試しに念話を飛ばしてみると、すぐ返事があった。


『ああ、無事だ』

『冥界に来てる?』

『ああ。さっきの地割れに、スクー・グスローたちが、ソー君がーとか言いながら飛び込んでしまってな、それで追いかけてきた』

『スクー・グスローには義理堅いのな。俺を見捨てて逃げたくせに』

『お前は死ぬ玉じゃ無いだろ?』

『そりゃそうだ』


 俺はゴヤのことを少しも疑っていない。レブラン十二柱の二体と戦って負けたとき、命を助けられている。彼の判断は正しかったのだ。あの場で逃げなければ、彼らは全滅していただろう。


 デボン大佐というイレギュラーが現われたことも運がよかった。互いにそれが分かった上で話している。


『それと、ヨアヴ大尉は無事?』

『……ああ。罪悪感と喪失感で使い物にならんが』

『……だよな。いったん合流しよう。ヨアヴ大尉だけでも地上へ戻さないと。あと、ヒュギエイアの水もたっぷり補充しておかなきゃ』

『そうしよう』


 いったん念話を切って、気配を探る。椅子に座り目を閉じて集中。探知範囲をゆっくりと広げていく。


 やはりこの街には、たくさんのデーモンが住んでいる。


 ゴヤたちを発見。スクー・グスローたちはムキになってデーモンを滅ぼし回っている。彼女たちは呪いをかけられていたから、相当な怨みがあるのだろう。一切の慈悲を加えず、たちまちパウダーに変化させていた。それとヨアヴ大尉。彼の気配が薄い。ゴヤが一緒にいると言わなかったら、見つけられないくらい気配が薄い。


 よし、転移するか。


 そう思ったとき、真逆の方向にラコーダの気配を感じ取った。デボン・ウィラー大佐とダーラ・ダーソン少尉の気配もある。


 よしよし。そのまま戦っててくれ。


 俺はゴヤの元へ転移した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ゴヤたちと合流。ゴブリン兵にひとりも犠牲者無し。スクー・グスローたちはまたしても俺にまとわり付いてきた。場所と状況をもう少し考えてほしい。ヨアヴ大尉は仲間を失ったことで、視点が定まっていなかった。


 話す時間も惜しい。冥界にいれば何が起こるか分からないから。以前、とんでもない数のデーモンが押し寄せてきてヤバかったし。


 点呼が終わったのち、俺は集団転移魔法を使った。


 アメリカ軍の基地へ到着し、まずはスクー・グスローたちに発光しないようにお願いしておく。月夜とはいえ、万単位で発光されると目立ってしょうがない。


 落ち着いたところで、俺とゴヤは話し合っていた。ヨアヴ・エデルマン大尉をどうするかと。彼らテラパーツの五人は、俺たちが戦場へ連れて行った。その結果四人が死亡。元からそんなとこに連れて行くなよって話だ。


 ゴヤはこの世界の住人として、アメリカ軍の手助けを申し出た。仮にそれが許されるとしても、俺は許されないだろう。日本人であり、内閣官房参与という立場がある。アメリカ軍の兵を連れて行ったと分かれば、何かの咎を受けるだろう。


 彼らを連れて行くと決断したのは俺だ。どういった罪になるのか知らないけれど、それを受け入れなければならない。


 念の為、ボロボロのアメリカ軍基地を中心に蒼天(アイテール)障壁を百枚重ねで張る。

 俺たちは茫然自失のヨアヴ・エデルマン大尉を休ませるために基地内部へ向かった。


 基地の電源が落とされているからなのか、ドアが開かない。

 いや、ドアは生体認証でロックされていた。ヨアヴ大尉がドアに手を充てると、ロックの開く音がした。どうやら電源が落ちている訳では無さそうだ。発電機は地下にあるのか……?


「そっちの格納庫から入ってくれ。ゴブリンのみなも。全員分の食事もある」


 そう言ったヨアヴ大尉はひとりでとぼとぼと基地へ入っていった。LEDの白い明かりが廊下を照らしているが、彼の背中は暗かった。


 ドアが閉まると、右の格納庫の大型シャッターが上がっていく。明かりは無しだ。外に明かりが漏れないようにするためだろう。マラフ共和国で見た大型倉庫より天井が高くて広い。地球準拠の軍用倉庫だと一目瞭然だ。


 あれは……ステルス爆撃機。


 大型シャッターの奥に立っているヨアヴ大尉が手招きをする。食堂へ案内するそうだ。


 ゴヤたちゴブリン兵はキョロキョロしながらも、シャッターを抜けていく。


 俺はひとり立ち止まり、爆撃機を眺める。見るのはもちろん初めてだ。童心をくすぐるかっこいい形で、どうしても目がいく。


 それと、外にあるヘリや大型爆撃機は放置で、これだけちゃんと格納されていることに興味を持った。


 なぜこれだけ隠すように置かれている……。


 黒くてつるんとした三角形。兵器の類いは見えない。ステルス性能を上げるために、全て格納されているはずだ。タラップも乗り込み口も窓も無い。


 ――これは大型の人工知能爆撃機( ドローン )だろう。


 こんなものまで持ち込んでいたのか。


『なあ』

『微量ながら放射線を感じます』

『核兵器?』

『おそらくは』


 ()る気満々のアメリカにクソ呆れつつ、俺はゴブリン兵の列に並んだ。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 食堂は広く清潔に保たれていた。天井が高いので開放感もある。LEDの明かりがフロア全体を照らしているが、窓にはシャッターが降りていて、外に光が漏れることは無い。


 千人まとめて食事が出来るとなると、俺としては大学の学食を思い出してしまう。それでもまだ席が空いているのは、もっとたくさんの兵士が食事が出来るようになっているからだ。二千人くらいまとめて食事が出来そうだ。


 ヨアヴ大尉は、居残っているロボット兵に指示を出して、全員の食事を提供した。全て行き渡るまで小一時間しかかからない素早さだった。


 パンはこちらの世界にもあるが、ビーフシチューはゴブリンたちも初めて食べたようだ。ゴヤを含め、みなで美味いといって舌鼓を打つ。調理担当のゴブリン兵が食べ終わると、ロボット兵に詰め寄っていた。ビーフシチューのレシピを教えろと言って。


 ゴヤを含め、彼らは強い。特に精神面。


 一緒に居ると分かる、地球人の弱さ。特に精神面。


 いや、そうじゃないだろ。豊かな感情あってこそのニンゲン。


 仲間がやられてしまえば、凹むし後悔するし悩むし悲しいだろう。


 俺にはその辺りの感情が欠落している。


「ごちそうさま」


 俺はパンとビーフシチューを食べ終えた。目の前に座っているヨアヴ大尉は、ナイフとフォークを持ったまま一点を見つめて動かない。俺の右隣に座るゴヤが心配そうに声をかけた。


「ヨアヴ、本当に大丈夫か?」


「えっ、あ、ああ、大丈夫……」


 そう言ってまた動かなくなる。涙こそ流してないが、その瞳には強い悔恨の念が感じられた。


 その時だ。館内アナウンスから、ウォルター・ビショップ准将の声が聞こえてきた。


『ヨアヴ・エデルマン大尉、ソータ・イタガキ、ゴブリンの(おさ)ゴヤ、三人とも司令室に上がってきてくれ』


「あれ? 地球に帰ったはずですよね?」


 俺はヨアヴ大尉へ問いかけた。


「実はな……」


 テラパーツの五人は、急きょ人事異動がなされていた。着任先は第二十八特殊戦術飛行隊。司令官は、ウォルター・ビショップ准将。そしてテラパーツの五人は、デボン・ウィラー大佐の指揮下に入っていたそうだ。


 彼らは地球に帰ることを拒否し、命令違反して異世界に残った訳では無い。ウォルター・ビショップ准将の指揮の下、命令に従って動いていたのだ。


「命令って何?」


 そう聞くとぼかした返事が返ってきた。


「目的は明かせない。しかしソータ・イタガキ。テラパーツのみなは、お前に感謝している。ゴヤ、俺の命を助けてくれてありがとう」


 そう言ったヨアヴ大尉は、立ち上がってエレベーターへ向かう。司令室に行くってことだろう。ゴヤと目を合わせ、ふたりでヨアヴ大尉のあとを追った。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 基地内部には地球人こそいないが、ロボット兵が数多くいた。スタンドアロンの人工知能を積み、各ロボット兵がリンクして動く。当時ニンゲンを殺せるロボットとしてニュースになり、世界中で反発が起きた。しかし、人が戦場で戦って死ぬより全然マシだという機運が徐々に高まり、最終的にはロボット兵の製造が認可された。


 最初にその声を上げたのは、戦争を経験し四肢を失い精神を病んだ兵士たち。彼らが体験した戦争の酷さが伝わると、世論はロボットに戦わせればいいと変化したのだ。

 温暖化が進む中、食糧不足や燃料価格の高騰で、世界各地で紛争が起きていたことも後押しした。


 今や兵士の数はロボットの方が多いとさえ言われている。


 それでこのロボット兵は残されたのか……? アメリカ軍は全て引き上げたと思っていたのだが。


 考えているうちにウォルター・ビショップ准将の部屋に到着した。


 ヨアヴ大尉がノックすると「入れ」という声がしてドアを開けた。


「ビショップ准将、ふたりを連れて参りました!」


 ビシッと敬礼するヨアヴ大尉。


「こちらへどうぞ」


 秘書らしきヒューマノイドが俺たちを招き入れる。ロボット兵とは違い、ヒューマノイドはニンゲンを殺せない。人工知能の倫理値が高く設定され、物理的な安全装置までついている。額を軽く叩けばスリープモードになるし、首の後ろのスイッチを押せば電源が切れる。体重も軽く設定されて力も弱いという、厳しい基準が設けられている。


 正面の机に向かっているのはビショップ准将だ。


「座ってくれ」


 彼の前にあるカウチに三人で座ると、ヒューマノイドがすかさず紅茶を持ってきた。それを見てビショップ准将が話し出す。


「ソータ・イタガキ、騙すような真似をして悪かった。以前からアメリカ軍は、お前の特殊能力に興味を持っていたんだ。そして今回、ソータ・イタガキは他人にスキルを付与出来るという事実が明らかになった――」


 ウォルター・ビショップ准将の話によると、俺が基地に現われたときから作戦が進行していたという。異世界うんぬんではなく、俺の能力や正体を明らかにすることへ大きく舵を切ったそうだ。


 テラパーツの五人、デボン・ウィラー大佐とダーラ・ダーソン少尉、彼ら七人はその作戦に志願して俺についてきたという。


「リサ・キンバリー中尉、ヘレン・フォスター伍長、マーガレット・ニューマン上等兵、ジェイ・アンダーソン一等兵、四人のテラパーツが死にました……」


 怒りを堪えながら俺はそう言うしかなかった。

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