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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
15章 冥界の「国」

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295 新たな素粒子

 ソータがもたついている一方で、ゴヤは獅子奮迅の活躍を見せていた。


 広場はラコーダの衝撃波のおかげで、だいぶ見通しがよくなっている。しかしながら更地になった訳ではない。崩れていない家屋もたくさん残っている。ヨアヴ大尉もろとも、ゴヤたちはそこへ身を隠す。


 ラコーダはすかさずその場所へ衝撃波を放った。


 石造りの家屋は当たり前のように吹き飛ばされ、背後に直線の瓦礫ができていく。


 そしてそこには、ヨアヴ大尉もゴヤもいなくなっていた。


 攻撃を読んで、すでに別の場所へ移動したのだろう。


「クソッ! テラパーツみんなやられちまった!!」

「それは後にしろ。今はあのでかいデーモンを倒すことに集中だ」


 ゴヤはヨアヴ大尉ごと、転移魔法で移動する。


 するとそこを、ラコーダの衝撃波が通りすぎてゆく。


 ゴヤとヨアヴ大尉は狙われているようだ。



 ラコーダはふと気づく。


 ゴブリンの部隊と、あれだけたくさんいたスクー・グスローの姿が消えていると。



 その時だ。四方からゴブリンたちが姿を現した。彼らはすかさずラコーダ目がけて、多重魔法陣を使った。時間遅延魔法陣と誘導魔法陣、それに認識阻害魔法陣だ。


 ラコーダはゴブリンとアメリカ兵を倒すことに意識を割き、周囲への注意を怠っていた。


 そして、全ての魔法陣を身に受けてしまった。


 ラコーダはすかさず魔法陣を解除してゆく。


 時間遅延魔法陣をすかさず解除。


 誘導魔法陣の解除には手間取った。彼は一瞬どこを向いているのか分からなくなったからだ。


 認識阻害魔法陣の解除にも手間取った。敵の存在――つまりゴブリン、スクー・グスロー、アメリカ兵、ソータ・イタガキ、全ての存在が一瞬だけ分からなくなったのだ。


 その結果、ソータが使った百の時間停止魔法陣と獄舎の炎(プリズンフレイム)の解除より、多くの時間を費やすこととなる。


 その間に、他のゴブリンから多重魔法陣が発せられ、時間遅延、誘導、認識阻害の三つの組み合わせで、ラコーダの動きを封じていた。


 そのタイミングで、隠れていたスクー・グスローたちが夜空へ舞い上がる。


『いくよー』


 念話攻撃でラコーダにとどめを刺す。彼女たちが念話を使おうとしたその時、大きな火柱が上がった。その中には、ひと塊に集まっているスクー・グスローたち。彼女たちはその火柱によって、ひとたまりもなく消し炭と化した。


 ラコーダはすでに、多重魔法陣による動きの制限に対処し始めていた。それどころかスクー・グスローの念話攻撃を警戒したのか、多重魔法陣を一気に破って火柱で反撃した。


 デーモンの天敵、スクー・グスローがやられた。


『撤退だっ!』


 ゴヤの判断は早かった。この世界においてデーモンに対抗できる存在と言えば、スクー・グスローと相場が決まっている。デーモンはそれを嫌がり、スクー・グスローに呪いをかけた。そのため彼女たちは、砂漠の民と呼ばれる存在になっていた過去を持つ。


 ラコーダが真っ先に、スクー・グスローへとどめを刺しに行くのは当然の成り行きだろう。


『了解しました』


 ゴブリンの精鋭部隊から返事があると、辺りに散らばって潜伏していたゴブリンの気配が次々に消えてゆく。間を置かず、ゴヤとヨアヴ大尉の気配も消え去った。




「相変わらず鬱陶しいな……スクー・グスロー」


 周りの気配が無くなったことを確認して、ラコーダが呟いた。それはスクー・グスローの念話攻撃がラコーダであろうとも有効であることを示唆している。


 彼の視線は遠くを見つめ、大きくため息をついた。冥導(めいどう)障壁に大きな穴が開き、そこから大量のスクー・グスローが雪崩れ込んできている。彼女たちはすでにゴヤから指令を受けているのだろう。念話攻撃で、周辺の建物やデーモンをまとめてパウダー状に変えていた。


 ラコーダは当然それを見過ごすつもりはない。彼がその場から転移しようとしたその時、声が掛かった。


「久し振りだな、ラコーダ」


 その声は彼の足元から。


 ラコーダが下を向くと、そこにはデボン・ウィラー大佐が立っていた。


 ラコーダの瞳に一瞬の戸惑いが浮かび、そのあと喜びへ変わった。


「……デボン」


 嬉しそうな声を上げたラコーダは、目線を合わせるために身体を小さくした。その姿は灰色のデーモンではなくヒト族(・・・)へ変わっていた。デボンと同じくらいの身長になったラコーダは続ける。


「小さく愚かな存在、デボン・ウィラー。私と戦った貴様が、よもや生きていたとはな」


「相変わらずだな、ラコーダ。俺と戦い、深手を負ったくせによく言うわ」


「はっはっはっ、これは面白いことを言う。我は貴様と戦ったことなど一度もないぞ」


「へぇ……。お前さ、自分が言っていることが矛盾してるって気づいてる? 記憶の混濁か? 幻覚でも見てるのか?」


「……」


 デボンの言葉でハッとするラコーダ。彼は自分の言葉を思い返し、記憶と照らし合わせていく。


 デボン・ウィラーと、会ったことも戦ったこともない。顔すら知らない。


 それと同時に過去、冥界にてデボン・ウィラーと相対しサシで戦った。そしてラコーダは負けた。そのときデボンから約束をさせられた。異世界へ侵攻しないと。


 ふたつの記憶があることに気づき、ラコーダは愕然とする。


「ふたつとも思い出したか? 俺のことを知らないという記憶は、俺のこの目がお前に植え付けたものだ」


 デボンは自分の右目を指さして、十字に裂けた聖痕を見せつける。


「もうひとつの記憶。俺とお前が戦い、お前は俺に負けた。その記憶が本物だ。でだ、今回は警告に来た。これ以上アメリカの不都合になることをするな。三億人の人口を受け入れても、アルトン帝国には余り有る土地があるだろう?」


 それを聞いたラコーダは、がっくりと肩を落とす。肩が震えている。それはおそらく怒りから来るものだ。


「土地ならいくらでも使え。だがこれだけは譲れん。帝都エルベルトより東はデーモンの土地だ。西は好きにしてもらって構わん」


 ラコーダが折れた。それを聞いたデボンは、肩越しに後ろを見る。そこにはカメラを構えて録画するダーラ・ダーソン少尉の姿があった。


「この会話は録画させてもらった。約束を反故にすれば、アメリカもそれ相応の対処をさせてもらう。核兵器は知っているよな」


 その言葉を聞いて、ラコーダの怒りが爆発した。


 右手をデボンに向けると、前触れも無く衝撃波が発せられた。


 それはデボンとダーラの立っていた場所を一直線に駆け抜け、背後の家屋を破壊していった。


「はじめからこうしておけばよかったのだ……。我は蘇った女王キャスパリーグのおかげで、あの時より強くなっている。大戦から長生きして来ただけのデボンに、引けを取ってたまるものか」


 ラコーダはゆったりと手を下ろし、ため息をひとつ深く深く漏らした。その立ち姿は、美しさと邪悪さが同居する驚異の調和を見せている。彼の長く艶やかな黒髪は後ろで繋がれ、深緑の瞳は静かな光を宿していた。


「またしてもデーモンの進出が阻まれそうだ。しかし、冥界の指導者として、諦める訳にはいかない」


 周りの破壊された街並みは、ラコーダ自身が造り出したもの。周囲のデーモンは、万が一のために備えてあるシェルターへ避難を始めている。街は大混乱のまっただ中だった。


「アルトン帝国を乗っ取り、二百年が経つ。これまで上手く誤魔化してきたが、雲行きが怪しくなってきた。これから神々に見つからず、帝都エルベルトの復興をせねばならぬというのに……」


 ボソボソと呟くラコーダは、疲れた表情をしている。ヒト族の姿だから、そのような表情になっているのか。


 夜風の吹く彼の背後に、砂のようになった瓦礫を踏みしめる音がした。


 同時にラコーダは、少し前屈みになり、背後からの蹴りを避けた。


 彼はその体勢のまま身体を伸ばし、バネのように前へ飛ぶ。


 地面を滑りながら背後を振り返ると、そこに立っていたのはデボンだった。


「貴様……。さっきの衝撃波をどうやって」


「は? 衝撃波? いつ? どこで? 誰が?」


 デボンはわざわざ細かく区切って返事した。


 その言い方で分かったのか、ラコーダはさっき放ったはずの衝撃波の跡地を見る。


 そこは何も壊れておらず、家屋も無傷のまま。


 記憶が改ざんされたと気づいたラコーダは目を閉じる。


「お前は、ハッグ(魔女)に協力する立場だろうが」


 デボンの言葉と共に、ラコーダの側頭部にハイキックが入った。


「我はあの時とは違う。貴様は女王キャスパリーグの怒りを知らぬだろう」


 蹴りの痛みで美しい顔を歪ませながらも、ラコーダは目を閉じたままである。


「ちーっと強くなったからって、調子に乗ってんじゃねぇ!!」


 デボンの拳は残像を残すほどの連打で、ラコーダの腹部に突き刺さってゆく。ラコーダは身体をくの字に折り曲げながらも、その痛みに耐えた。


 デボンの記憶操作により、ラコーダは先ほどのソータとの戦いと比べ、明らかに精彩を欠いていた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 身体から液状(リキッド)生体分子(ナノマシン)が流れ出ても、どんどん回復していて問題ない。下半身がヒュギエイアの水に浸かっているからだ。液状(リキッド)生体分子(ナノマシン)は、蒼天(アイテール)を順調に分解し、もうすぐ外に出ることができる。まさか自分の障壁に閉じ込められるとは、間抜けすぎるだろ……。


 それはそうと、デボン・ウィラー大佐が、ラコーダと顔見知りだったとはな。ダーラ・ダーソン少尉は、経歴的に関係があるのか分からない。


 彼らの会話が聞こえるのも、俺の身体能力が底上げされているおかげだ。地獄耳っていいよな。


 そういえば、と思いを巡らせる。デボン・ウィラー大佐とダーラ・ダーソン少尉が魔術結社実在する死神(ソリッドリーパー)の一員であることは知っていた。ただしここに来て、デボン大佐が、かなりの長寿である可能性が出てきた。


 信じがたいが、彼は千年前の大戦時から生き続けている可能性もある。


 それはラコーダの言葉「大戦から長生きして来ただけのデボン」という部分だ。


 この世界の大戦と言えば、獣人(ビースト)王国(キングダム)の女王、キャスパリーグがデーモンと協定を結び、この世界を征服しようと宣言して始まった戦いで、百年にも及んだ世界大戦だ。それは千年前に起き、それ以降大戦と呼ばれる戦争はない。


 デボン大佐が千年以上生きているのなら、ハッグ(魔女)の当主、シビル・ゴードンもその事実を知っているはずだ。次に会う時に尋ねてみるか。


『新しい素粒子、星彩(せいさい)および時間誤謬(じかんごびゅう)の解析を開始します。……解析と最適化が完了しました。これにより、ソータは星彩(せいさい)および時間誤謬(じかんごびゅう)の魔法を使用可能です』


『サンキュー。星彩(せいさい)はラコーダが使用、時間誤謬(じかんごびゅう)はデボン大佐が使用ってことか』


『いえ、ふたつともラコーダが使用しました。彼は余裕がなくなっていますね。逆にデボンが使用しているのは蒼天(アイテール)です……が。魔法ではありません』


『え、魔法じゃない?』


蒼天(アイテール)の魔術版、蒼天術(そうてんじゅつ)です。デボンはそれで、記憶改ざん魔術を使っています』


蒼天術(そうてんじゅつ)……? 蒼天魔法を学問にした魔術みたいなもの?』


『みたいなものでは無く、そのものです。魔法の魔術版、それが蒼天術(そうてんじゅつ)術です』


 うへぇ……。何度か魔術を習え、みたいなこと言われた気がする。その当時の俺は無限に感じる魔力にものを言わせ、力ずくで問題解決に当たってきた。特に苦労もせずに。


 デボンを見ると自分自身が恥ずかしくなってくる。彼は蒼天(アイテール)の魔術版蒼天術(そうてんじゅつ)を使い、四つも上の素粒子を相手に戦っている。それも圧倒的にだ。


 となると……、アラスカでデボン大佐を脅したとき、奴は猫をかぶってたって事か。


 ラコーダは現在進行形でフルボッコにされている。デボンの拳によって。


『新しい素粒子の学問、蒼天術(そうてんじゅつ)および記憶改ざん魔術の解析を開始します。……解析と最適化が完了しました。これにより、ソータは蒼天術(そうてんじゅつ)以下の術が使用可能。効果順に説明します。魔術、聖術(せいじゅつ)冥術(めいじゅつ)闇術(あんじゅつ)、そして蒼天術(そうてんじゅつ)です』


『あ……。いやいや、それはさすがに申し訳ない。術がつくやつは、法のつくものより、学問的でちゃんと学ばなきゃいけないんでしょ? それこそ学校に通って何年もかけてさ』


『では、これから学校へ参りますか? それとも時間を止めて修行しますか? その間私が先生を務めても構いませんよ?』


『おわっ、ごめんごめん、そんな時間ないよな。異世界にきてすでに三ヶ月以上経っている。地球の陸地が海に沈むのも時間の問題だ。タイパ重視でいこう』


『よろしい』


 とはいえ、今の状態で俺は奴らと互角。いや、あのふたりは狡猾だ。もっと上の素粒子を見せていない可能性もある。


 とりあえず、魔法とスキルが使えない状態を解除しよう。時間誤謬(じかんごびゅう)魔法がいけるんだっけ。いや……術の方を試してみるか。蒼天術(そうてんじゅつ)能封殺魔法陣(アンチスキル)魔封殺魔法陣(アンチマジック)を自身に使用。


 ……ふむう。解けない。魔術が発動した感覚はあった。しかしそれより何かの膜に阻まれた感覚がした。

 要検証だ。ラコーダは俺に星彩(せいさい)魔法か時間誤謬(じかんごびゅう)魔法を使用している。それなら、一番強そうな時間誤謬(じかんごびゅう)魔法を使ってみるか。


 ――パチッ


 あれ? 意識しただけで、魔法とスキルが使えるようになった。


『ソータは魔法の方が使い慣れてますからね。術を取得したとはいえ、多少は練習しないとものにできません』


『そりゃそっか』


 術のサポートまでクロノス(汎用人工知能)にはできないってこった。ま、しゃーなし。


『むきーっ! 次までちゃんと勉強しておきます!!』


『え、そういうつもりじゃ……』


『そういうつもりでしょ、今の言い方は!』


 いや、また心を読まれた。俺のプライバシーはどこへ……。もう慣れたけどさ。


 とりあえず自由に動けるようになった。


 これからどうするかだが、俺がどーんと現われてもやられる未来しか見えない。デボン大佐が味方である確率は、いいとこ五割。


 だけど俺は、蒼天(アイテール)障壁で気配が外に漏れない。ラコーダにもデボン大佐にも見つからず、上位の素粒子が見つかった。


 というか、ラコーダの耐久力も半端ないな。手を出さずにずっとデボン大佐から殴られている。魔法の使えないニンゲンなら、すでに味のしない肉団子に変わっているだろう。


 お、ラコーダに動きあり。


 これまでうずくまって防御一辺倒だったが、黒い粘体へ変化した。


 それと同時に、デボンが飛び退く。


「たしかに我らは魔女(ハッグ)の言いなりであった。……しかしそれは千年前の話。当時の約束事を今さら持ち出すな!! お前たちのせいで我らはより地上へ出にくくなったのだぞ!!」


 爆音のような声でラコーダが叫んだ。地鳴りと共に地割れができて広がってゆく。その音波はこの街を囲む冥導(めいどう)障壁に反射し、枯れた噴水に直撃した。


 そこは爆発したように破壊され、破片が飛び散る。


 音波で吹き飛ばされたデボンが、耳から血を流している。鼓膜より奥の器官がやられているようだ。しかしそこに駆け寄るダーラ・ダーソン少尉。彼女は手際よくヒュギエイアの水を飲ませていた。


 うーん……。ここに来ても新たな魔法は見せないか。クロノス(汎用人工知能)が拡声魔法を見て、音波魔法にバージョンアップしたのがあるからな。今のは知っている。音波魔法だ。


 地割れが広がってゆく。


 さてデボン大佐。あんたどうする?


 そんな気持ちで見ていると、彼は抵抗せず地割れの中へ落ちていった。ダーラ・ダーソン少尉と共に。


 そうなるかー。何考えてんのかさっぱり分からん。


 んじゃ俺も巻き込まれた振りしていきますか。――冥界へ。


 俺は半分地面に埋まったまま、地割れと共に、久し振りに落ちていく感覚を味わった。

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