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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
15章 冥界の「国」

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288 デーモンの襲撃とゴブリンの奮戦

 話し合いをやっていたゴヤが、基地から飛び出してきた。状況は分かっているみたいで、整列している自軍に指示を発し始める。


 基地内の兵たちは再び慌ただしく動き出した。既存の兵から、新たに到着した兵まで、総員で戦闘準備に取り掛かる。


 ロボット兵、メタルハウンド、六本脚と、機械部隊が南側の門を抜けて出撃していく。


「暗くなる前の夕方を狙ってきたのかな……」


 俺の呟きをデボンが拾った。


「おそらくは。……賢いな、あのトロルたち」


 南側の傾斜は、緩やかに登っている。トロル二十体まで、まだまだ遠い。目測で約十キロメートルは離れている。


 基地内を見渡すと、トマホークミサイルの予備は見当たらない。援軍であるビショップ准将たちは、ミサイルを持ち込んでいないらしい。となると、迎え撃つのは陸上部隊か。


 基地にある航空機は、ヘリが三機と爆撃機が一機。滑走路はまだ出来ていないので、出撃できるのは実質ヘリだけだ。だからなのか、ヘリが出撃する様子はない。今日の昼間にヘリコプター部隊が全滅してるし、操縦士がいないのだろう。


 魔石駆動のメタルハウンドが隊列を組んで、傾斜を駆け上がっていく。ただ突っ込んでいくのではなく、左右に分かれていた。中央を駆け上がっていくのは、六本脚を操縦するロボット兵。


 有人でない分、気が楽だ。メタルハウンド、六本脚、ロボット兵、これらはひとつの人工知能が操っているはずで、すべて端末である。一体一体に意識のある人工知能ではない。


 その大元の人工知能は、おそらく基地の中。攻撃を受けても壊れないよう、厳重に守られているはずだ。それこそ人命より大切に扱われるくらいに。


「接敵まで少し時間が掛かるな……」


 そう言ったのは、ヨアヴ大尉。俺の横で双眼鏡を覗き込んで、機械部隊の動きを見ているようだ。


 ――――――ズドン


 榴弾砲が発射された。ゴヤたちに向けて撃った数より多い。トロルが大きいといっても、雨のように降りそそぐ榴弾には耐えられないだろう。妖精とはいえ実体があるのだから。


 そんなこと考えている間に、榴弾が全て着弾した。


 爆発による閃光のあとに、衝撃波を感じ、爆音が届く。同時にトロルたちは、黒煙で見えなくなる。結構な爆発が起きたので、ただでは済まないはずだ。


「――あ」


 思わず声が漏れる。そう来るか。


「なんだ……あれは」


 ヨアヴも驚きを隠せない。


 風で黒煙が晴れると、トロルたちは無傷。黒い障壁を張って、耐えていた。


 その障壁からは冥導(めいどう)を感じる。つまりあのトロルは、デモネクトスを飲んで、デーモン化しているってことだ。


 次の瞬間、二十体のトロルから黒線が放たれた。


 目標は左右に展開するメタルハウンド。トロルは両脇にそびえる山の岩壁を狙っていた。黒線を浴びた岩壁が溶けるように消滅して、大爆発を起こす。


 ルイーズ(ユハ・トルバネン)の放った黒線とは違うな。あれは貫通特化型だったけど、今回の黒線はまるで荷電粒子砲のように見える。素粒子である冥導(めいどう)の電荷をいじってるのか?


 原理はとりあえず置いといて、その爆発で岩壁が崩れていく。その範囲は広く、メタルハウンドは避けきれなかった。


「全滅かよ……」


 隣のヨアヴはゴクリとツバを飲む。今やられたメタルハウンドは、およそ五百体。ビショップ准将が持ち込んだメタルハウンドは約千体。今の一撃で、半分近くがやられたことになる。


 トロルたちはゆっくり動き始め、正面から向かってくる六本脚とロボット兵を見据える。


 そして再び、黒線が放たれた。


 六本脚とロボット兵は、トロルへ辿り着く前に、穴だらけとなった。そしてその黒線は、減衰することなく基地へと迫っていた。


 貫通特化の黒線だ。そう思った瞬間、俺は基地全体に冥導(めいどう)障壁を張る。


 着弾部分の角度を変え、黒線を空に向けて跳ね返そう。


 二十の黒線が着弾すると、太鼓のような音と共に冥導(めいどう)障壁全体が衝撃で揺れた。うまくいった。反射された黒線は、オレンジ色の空へ駆け上がっていく。


 そばにいる七人から、じっとりとした視線を感じる。今の障壁が俺の仕業だと思っているのだ。隠すつもりはないが、わざわざ言うほどのことでも無い。


 それは放っておくとして、榴弾砲を撃ちまくっているので、地味に面倒だ。アメリカ軍は障壁の特性を知らないのか……。


 障壁の内側から実弾を発射すれば、同然それに阻まれる。榴弾は爆発を起こす実弾なので、障壁に当たれば基地内に大きな被害が出てしまう。そうならないように、俺は細かく障壁を張り直している。


 これはなかなか面倒だぞ。


 かと言って、榴弾砲の攻撃を止めろと言って聞いてくれないだろう。


「スクー・グスロー! いつまでソータに引っ付いている! デーモン化したトロルを討ちに行くぞ!」

「はーい!」


 ゴヤの大声で、俺にくっ付いていたスクー・グスローたちが離れていく。彼女たちはゴヤの部隊と合流し、南門を抜けて移動し始めた。


 そのときだ、ゴブリンの動きを察知したのか、ようやく榴弾砲の攻撃がやんだ。


『手伝おうか?』


 ゴヤに念話を飛ばす。


『ははっ、ありがとなソータ。しかし、ワシらを舐めてもらっちゃ困る』

『舐めちゃいねえけど。……んじゃ俺は観戦しとくぞ』

『ああ、安心して見ててくれ。すぐに終わらせる』


 フラグっぽい言葉を残し、ゴヤたちは障壁の外へ出ていった。


 うおおっ、黒線を弾いた。ゴヤたちが使ってるのは、神威(かむい)障壁だ。いつから使えるようになったんだ……。


「あのゴブリンって種族、俺のイメージと違うな。映画やゲームで見るものとまるで違う」


 そう言ったのはヨアヴ大尉。彼はいまだに双眼鏡で観察している。ほかの隊員たちもみな同じだ。


 この双眼鏡は、驚異的な倍率と手ぶれ補正機能を備えている。しかも、ネットワークに接続されて、常時録画されている。人工知能が画像をリアルタイムで分析し、必要な情報を隊員たちに提供する。

 日本のメーカーが開発したこの双眼鏡は、あまりにも高性能だったため、輸出規制の対象になっていたはずだが……。


 日本とアメリカの蜜月関係はいまだに続いている。その一端を垣間見た気がした。


「おおっ! 倒したぞっ!?」


 ヨアヴの興奮した声で、俺は戦場へ顔を向ける。



 ゴブリン千人と、精霊スクー・グスロー。対するは、身長五十メートルのデーモン化したトロル二十体。


 距離は十キロメートルほど離れていたはずだが、ゴヤたちとスクー・グスローは、すでに接敵している。転移魔法でも使ったのだろうか。


 トロルに対してゴブリンはあまりにも小さい。それを逆手に取ったのだろう。トロルの足元でゴブリンが動き回り、かく乱している。


 トロルたちは、黒線を放つ余裕も無さそうだ。


 スクー・グスローは上空へ移動してゆく。


 トロルは障壁を張りたそうにしているが、彼女たちスクー・グスローの距離があまりにも近い。障壁を張ってもスクー・グスローはその中に入ってしまう距離だ。


 そして彼女たちは、至近距離で念話攻撃を行なったのだろう。


 トロルの上半身は、血煙へ変貌した。


 そのトロルはゆっくりと膝をついて倒れ込む。


 その場は真っ赤な煙に覆われたが、あっという間に風に吹き飛ばされていく。


 トロルたちは、仲間がやられて色めき立つ。中身はデーモンだが。


 足元にいるゴブリンたちは、その隙を逃さなかった。


 トロルのアキレス腱を斬り飛ばし、次々と膝をつかせてゆく。


 両手をついて四つん這いになったところで、トロルの腕を斬り飛ばす。


 そして最後には、首を斬り落とした。


 凄まじい練度と、精密な連携。


 獣人自治区を落としたときと比べると段違いだ。


 ゴヤのゴブリン部隊は強い。とんでもなく強くなっていた。


 残りのトロルも、時間をかけずに倒してしまった。


 デーモンが甦らないよう、ちゃんとヒュギエイアの水をかける念の入れようだ。


 でも、よくよく考えると、ベナマオ大森林という魔物てんこ盛りの地で暮らしているんだ。そこの強力な魔物を倒さなければ生きていけない。彼らが強いのは必然とも言える。


 それに比べ、地球人たち……。


 アメリカ軍の精鋭部隊、テラパーツの五人。

 アメリカ軍でかつ、実在する死神(ソリッドリーパー)のふたり。


 君たち双眼鏡を覗き込んだまま、固まってんじゃねえよ。


 そうやって彼らを観察していると、基地内のアナウンスが聞こえてきた。


『ソータ・イタガキ、至急司令室に出頭するように』


 エイブラムズ中将の興奮した声だ。おそらくゴヤたちの無双を見て、俺から話を聞きたいのだろう。


「めんどくさ……」


 テラパーツと実在する死神(ソリッドリーパー)の七人から視線を浴びつつ、俺はコンクリートの塊へ向かった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 その日の夜。俺は基地の敷地内で夜空を眺めていた。澄み切った空気のおかげで、プラネタリウム並みに、はっきりと星々を見ることが出来る。地球ではあり得ない幻想的な星空だ。


 そんな中で、人工知能が動かす重機たちは、休まずに整地している。化石燃料の使用で排出されるガスが臭い。ふとした拍子に、ファイアボールを放って壊したくなる。この世界のきれいな空気を守るために。


 だけど仕方がないことだ。この世界と地球とでは、エネルギーの使用方法が根底から違っている。メタルハウンドや六本脚は魔石駆動になっていたが、重機はまだ先になりそうだ。


「どうした、そんなところに寝転がって」


 基地から出てきたゴヤに話しかけられる。彼は近くまで来て、俺の顔を覗き込んだ。


「考え事だよ。……ゴヤがアメリカ軍に協力するって、マジなの?」


「マジだ。ワシらからアメリカ軍に技術供与を行なう。その対価として、ベナマオ大森林を荒らさないように、と約束してきたからな」


 ゴヤはこの短時間で、正式な条約を結んでしまった。アメリカ大統領のサイン入り書面を、どうやって発行させたのか知らないけど。まあでも、ゴヤも色々考えて行動してるんだな。


 この基地は北側へ下って行くと、ベナマオ大森林だ。そこの森林伐採なんて始めたら、ゴヤだけでなく、どこかに新設されたエルフの里の住人や、魔物たちが怒るだろう。地球があんなことになっているから、森林伐採しないとは思うけれど。……しかし地球人は、何度も同じ過ちを繰り返すからな。


 そのために約束して線を引いておくことは重要だ。


 ゴヤは俺の隣に腰掛け、夜空を仰ぎ見る。


「ソータ、地球人の入植をどう考えている?」


「んー、この世界の人たちに迷惑をかけている、かな……」


「それはない。この世界の人口が少ないからな。それに、ニンゲンがこの世界で一番強い生き物ではない。喰われることもあるだろ?」


「ニンゲンと敵対するのは、魔物やデーモン、バンパイア、古代人、色々いるよなー」


「まだ他にもいるぞ?」


「そりゃいるだろうよ。俺はこの世界に来て百日ちょっとだ。まだまだ知らないことだらけだし」


「いや、そうじゃない。お前はこの世界で神と呼ばれる存在を知っているだろ……。有名なのは三大宗教」


「……ああ」


「あいつらはこの世界の(ことわり)を曲げる(すべ)を持ち、ニンゲンの上位者として君臨している。魔力や神威(かむい)冥導(めいどう)闇脈(あんみゃく)、そんなもの、どうでもいいくらいの蒼天(アイテール)を使ってるからな。どう足掻いてもニンゲンに太刀打ちは出来ない」


「詳しいな、ゴヤ」


「当たり前だ。ベナマオ大森林生まれのベナマオ大森林育ちだ」


 何が当たり前なのか、いまいち分からん理由だ。しかし、俺がこの世界に来てようやくおぼろげに見えてきた事を、ゴヤは当たり前だといわんばかりに知っていた。


「竜神のオルズとか、結構いいやつだぞ」


「ほう……オルズを知っているのか。竜神オルズは、この世界にあまり害のない陣営だ。問題は、ディース・パテルとアダム・ハーディング。冥界と死者の都(ネクロポリス)の二柱だ」


「デーモンとバンパイアね。その二柱を悪と見なし、エンペドクレス陣営が戦争やってるみたいだ」


「よく知ってるな、ソータ」


「俺も色々あったし」


「そうか。それじゃあ、前置きはこのへんにしておこう」


 何の話かと思っていると、ゴヤはアルトン帝国について話し始めた。


 あの国がこれまでデーモンの国だと知られていなかったのは、俺の予想通り冥導(めいどう)障壁によるものだった。しかし最近、デモネクトスが流通し始めたことによって、アルトン帝国のデーモンが神々に察知されなくなってきているそうだ。


 デーモンがデモネクトスを飲めば、冥導(めいどう)の使用効率が上がり、体外に漏れなくなる。そのためデーモンはニンゲンのフリをして、様々な地へ散っているそうだ。


 ここ最近の話で、アルトン帝国の国民全体にデモネクトスが行き渡っている訳ではない。


 しかしそれも時間の問題。デモネクトスが全ての国民に行き渡れば、この世界の国々はいつの間にかデーモンだらけになってしまう。


 今現在、静かにデーモンの侵略が続いているということだ。スタイン王国は未然に防いだけど、アルトン帝国は間に合わなかったようだ……。


「そもそもの話なんだけど、デモネクトスなんて薬はどこから出てきたの?」


 今は地球の製薬会社で作られ、アンチデモネクトスも開発されている。だからと言ってたかをくくっていれば、いつの間にかデーモンだらけという事態もありうる。仮に十億人がデーモン化すれば、ぶっちゃけアンチデモネクトスの供給が追い付かないだろう。


「アルトン帝国に、冒険者ギルド本部があることは知っているか?」


「各国の冒険者ギルドをまとめている、本当の意味での本部だっけ」


「そうだ。デモネクトスの製法は、そこから流出したようだ」


「へえ……。冒険者ギルド本部から、デモネクトスの製法が流出。間抜けな組織なのか、あるいは意図的に……」


「アルトン帝国内に冒険者ギルド本部がある。今回お前は、帝都エルベルトを落としに来たんだろ? ついででいいから冒険者ギルド本部も落とせ」


 簡単に言ってくれる。俺はそもそも冒険者本部に属する冒険者だぞ。


「実はね、冒険者ギルド本部とアルトン帝国は、アダム・ハーディングと組んでいるって情報と、帝都エルベルトの城に死者の都(ネクロポリス)へのゲートがあるって情報、このふたつがあって、どうしたものかと考えてたんだ」


「それなら尚更だろう。腹をくくるんだな」


 ゴヤが立ち上がって基地へ戻っていく。彼が連れてきたゴブリンの部隊は、一人も欠けることなく基地へ戻ってきた強者だ。アメリカ軍基地を救った友人として、ゴヤたちは手厚くもてなされていた。


 デモネクトスを飲んだトロルの襲撃があったことで、様々な作戦が前倒しになった。


 ――――明日の早朝、王都ランダルへ一斉攻撃する。ゴヤはそう言った。


 ため息が出るほど、無茶な計画が組まれていた。成果の出ないアメリカ軍によって。

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