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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
15章 冥界の「国」

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286 魔力総量

 山頂に現われた三体のデーモン。身長は約十メートル、黒い鎧を身に纏っていた。その中で隊長格の一体が口を開いた。


「あれが異世界(地球)人の基地か。アメリカ軍と言ったな。では命令通り、更地にして帰るぞ。一匹も逃すな」


 残り二体のデーモンが頷くと、冥導(めいどう)が渦巻き始める。空気は薄く、凍てつく寒さだが、デーモンたちは平然としている。


 ここはアメリカ軍基地より東、およそ百キロメートル地点。標高八千メートルの岩山だ。ここより東にある帝都エルベルトから襲来した三体のデーモンは、山の頂からアメリカ軍基地へ向けて極太の黒線を放った。


「……っ!?」


 一体のデーモンが息を呑んだ。放たれた三つの黒線が、突如現れた障壁によってはじき飛ばされたのだ。同時に、その方向から濃密な冥導(めいどう)を感じる。


 一体のデーモンが口を開いた。


「今のは冥導(めいどう)障壁だ。あちらに我らの同胞がいるのか……?」


 その言葉に隊長格のデーモンが応じた。


「おそらく、帝都エルベルトを攻撃したソータ・イタガキの仕業だ」


「……厄介ですね。奴はデーモンの天敵と言ってもいい存在。これを機に倒しておきましょう」


「いや、一度撤退して、皇帝陛下にお伝えしよう。念話だと失礼に当たる」


「それもそうですね。アメリカ軍とソータ・イタガキは繋がっていると――――」


 ――――ドン


 デーモンの言葉が途切れた。首から上が爆散して、黒い粘体へ変化する。本来なら黒い水になるはずだが、ここは標高が高く気温は低い。粘体は黒い氷のように固まってしまった。


 ガランと落ちた鎧が空気中に溶けるように崩れてゆく。冥導(めいどう)へ戻っているのだ。


「なっ!?」

「どういう事だっ!!」


 ――――ドドン


 残りのデーモンが叫ぶも、大きな音共に二体とも首から上が消え去った。


 三体の巨大デーモンは成果を上げることなく滅んでしまったのだ。


 雪交じりの突風が吹く。


 そこから少し離れた場所に、ソータたちが立っていた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 俺はテラパーツの五人を、いきなり実戦という酷い目に遭わせてみた。


 心の片隅で「ごめんなさい、ついていけません」と言われることを期待していたが、何のその。彼らは即応して見せた。彼らを完全に見くびっていたようだ。


「酷えなおいっ!」


 鼻息荒く突っかかってきたのは、ヨアヴ・エデルマン大尉。他の四人も、俺を睨み付けている。


「ちょっと実力を知りたくて」


 彼らが使った魔法(・・)は、基本的なファイアボール。


 だが、その威力は一般的なものと桁違いだった。


 魔法を使ったのはこの三人。


 ヨアヴ・エデルマン大尉。

 リサ・キンバリー中尉。

 ヘレン・フォスター伍長。


 マーガレット・ニューマン上等兵。

 ジェイ・アンダーソン一等兵。

 このふたりは、つぎの魔法を放つために構えていた。


 一撃でデーモンを滅ぼすとは思ってなかった。彼らの実力に舌を巻くしかない。


 しかし、弱点も分かった。


 圧倒的に魔力の量が少ない。魔法を使った三人は、魔力が枯渇している。


「あっ!? 隊長!!」


 ジェイ・アンダーソン一等兵はヨアヴ・エデルマン大尉に駆け寄ったが、その前に意識を失って倒れてしまった。リサ・キンバリー中尉とヘレン・フォスター伍長も同様に、膝をついて倒れる。

 彼ら三人は、凍り付いた岩の上に顔面を打ち付けていた。結構危ない倒れ方だ。


「いったん基地へ戻ります。デーモンは強い。これが分かってもらえたら十分です。今後舐めないように」


 三つの黒い氷塊に獄舎の炎(プリズンフレイム)を使って、灰も残らないように燃やし尽くした。


「は、はい……」


 マーガレット・ニューマン上等兵はそんな俺を見て、力なく返事した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 集団転移魔法で基地へ戻ると、すぐに衛生兵が駆け寄ってきた。司令官のジョン・エイブラムズ中将たちに、転移するからなんてひと言も言ってなかったからな。突然俺たちが消えて、万が一に備えて待機していたのだろう。

 ご丁寧に、武装したロボット兵たちも来ていた。


「あ、お手数をおかけします。ただ、心配には及びません」


 俺はそう言って、倒れている三人にヒュギエイアの水をぶっ掛けた。


「……ここは」


 ヨアヴ大尉は真っ先に目を覚まし、辺りを確認している。状況の把握が済んだところで、彼は俺を見てもう一度目を閉じる。アスファルトの上で大の字に寝転び、ヨアヴ大尉は口を開いた。


「俺たちは失格か……」


 力のない声だ。


 その頃にはリサ中尉とヘレン伍長も目を覚まし、基地へ戻っていることを確認していた。マーガレット上等兵とジェイ一等兵が、俺を見つめている。彼ら五人から、俺の期待に応えられず残念だ、という感情が見てとれた。


「えと、実力を知りたかっただけで、諦めさせるために連れて行ったわけではありません」


 ほんとは諦めさせるために連れて行きました。


「いや、一発魔法を打っただけで魔力切れを起こすなんて、実戦じゃ使いもんにならないだろ」


 俺の声にヨアヴ大尉が応じた。言い方はそうでもないけれど、手が白くなるほど強く握りしめている。顔を見ると、その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。相当悔しいのだろう。


「それはそうですね。しかし魔力を回復できるアイテムもあります」


 そう言うと、まだ倒れたままの三人は、濡れた顔に手を充てる。


 俺はヒュギエイアの水の効能を明かす気はない。飲む量が多ければ、四肢が欠損しても生えてくるというとんでもアイテムだ。アメリカ軍が知ったら、独占しようと動くに決まっている。


 今のところヒュギエイアの杯があるのは、ミゼルファート帝国、サンルカル王国、ルンドストロム王国の三カ国。あと、ゴブリンのゴヤも持ってたっけ? 多少は他国で流通しているみたいだが、それは仕方がないだろう。ニンゲンのやることだし。


「この水か?」


 ヨアヴ大尉は直感で気付いた。


「んな訳ないでしょ……」


 ちょっとキョドってしまった。


「それじゃ何だよ。魔力が回復できるアイテムは」


「魔石ですよ。鉱山から採掘したり魔物の体内から取ったり、一般的な入手方法はそのふたつです。錬金術師に頼めば、魔力の回復薬くらい作ってくれます」


「そうなのか。せっかく魔法が使えるようになったのに、残念だ……。俺たちでは使いもんにならないことが、はっきりした」


 諦めさせるために三体のデーモンを討たせた。その結果、彼らは諦めるしかないとわかった。


 個人の持つ魔力総量は今すぐ増えるもんじゃないだろうし、彼らの身の安全のためにも、今回の同行は諦めてもらおう。


 そうこうしていると、基地内から司令官が出てきた。暗い表情である。何かあったのかな?


「ソータ・イタガキ。お前はウォルター・ビショップ准将を知っているか?」


「ええ、存じ上げてます」


 アラスカの基地司令だ。取り調べ室で話したことがある。飛行場を穴だらけにしたから怒ってたな。あと、スチールゴーレム山盛り供与した。


「その彼から伝言だ」


「はあ」


「前回の落とし前を付けてもらうから待ってろ、とのことだ」


「へっ?」


 落とし前って何だよ……。たしかに俺は、アラスカでろくなことしてない。しかしアラスカの基地に、テイマーズを監禁してただろ。あと、メタルハウンドの実験で、ベナマオ大森林のゴブリンたちに迷惑かけてたし。落とし前付けたいのはこっちの方なんですけど? それにスチールゴーレム譲渡の件で喜んでるはずだが?


 と言いそうになって、必死に耐える。




 ――――――――ブンッ


 妙な音が聞こえて、そちらへ顔を向ける。アスファルトの上空五十メートル辺りに小さな点、空間の歪みが見えた。その点は円の形に広がってゆく。そして、直径百メートルはある大きなゲートへ変わった。その先に、ウォルター・ビショップ准将、デボン・ウィラー大佐、ダーラ・ダーソン少尉、三人の姿と、背後に大勢の兵士たちが見えた。


 メタルハウンドや六本脚、その背後には航空機もある。


 エイブラムズ中将は、アメリカ軍がかなりやられていると言っていた。つまり彼らは援軍って訳か。


「やあ、久し振りだね、ソータ・イタガキ」


 アフリカ系アメリカ人のウォルター・ビショップ准将。彼は笑顔で白い歯を見せる。そして彼は躊躇なくゲートをくぐり抜けて、俺に向かって歩いてきた。


 デボン・ウィラー大佐とダーラ・ダーソン少尉もあとに続いてきた。


 その後ろの部隊はゲートをくぐり抜けると、基地の建物内へ移動していった。ゲートは開きっぱなしで、メタルハウンドや六本脚もこちらの世界へ入ってくる。どうやら航空機も持ち込みそうだな。エンジン音が大きくなって、ジワジワこちらに向かって動き始めている。


 ウォルター・ビショップ准将は俺の前で立ち止まり、握手を求めてきた。

 デボン・ウィラー大佐とダーラ・ダーソン少尉とも握手する。彼らは脅えているので、おっかなびっくり手を出してきた。


 ――――違和感。デボンとダーラ、ふたりから何かを感じた。雲を掴むような不確かで微細な違和感。気にしすぎかな。


「お久しぶりです。ビショップ准将」


「久し振りだな、ソータ・イタガキ。察しの通り、私たちが援軍としてきた」


「だと思いました。というか、バッテリー駆動はやめたんですね、メタルハウンドと六本脚」


 メタルハウンドと六本脚、双方ともに魔石で駆動していた。そしてこれらは、スタイン王国で見たものとは違う。おそらく元からあった、日米共同開発のものだろう。六本脚に関しては、六義園(りくぎえん)の地下で、リバースエンジニアリングやっているところを見たし。


「……詳しくは言えない」


 俺の問いにビショップ准将は口をつぐむ。それくらい教えてくれてもいいじゃん、とも思うけれど、准将って立場だから、軍事機密を易々と話せないよな。


「ですよねー。というか、西にあるスタイン王国で、メタルハウンド、六本脚、それに四本脚を見かけました。特に四本脚は、人工知能では無くニンゲンの脳を使った兵器でした。地球でニュースになってませんでした?」


 こういう聞き方なら、情報提供だとは思われないだろう。


 ジョン・エイブラムズ中将は、少し離れた場所でテラパーツの五人と話している。ビショップ准将の持ち込んでいるメタルハウンドと六本脚を見てもスルーしているし、デモネクトスの効能を知らなかったし、彼らはスタイン王国で何が起きていたのか知らないのだろう。


「……詳しくは話せん。しかし、四本脚の製造元を捜索中だとは教えておこう」


「へぇ……。今の時代、アメリカが本気で探せばすぐに見つかると思うんですが。四本脚の製造なんて、特殊な技術が必要です。それを大量生産してるわけですし、大きな工場がどこかにあるでしょ」


「おいっ……」


 ペラペラ喋っていると、ビショップ准将がずいと顔を寄せてきた。そして彼は小声で言った。


「ソータ・イタガキ、お前どこまで知っている。四本脚の事を教えろ」


「ニンゲンの脳を使った四本脚。その作成者と会ったことがあります。もう処刑されましたが」


「そいつの名前は、イオナ・ニコラスで合ってるか?」


「さすがアメリカ軍。もう調べは付いてるんですね。今回はその、イオナ・ニコラス博士の研究データが漏れたんだと思います」


「おいおい、イオナ・ニコラスは生きている。ドワーフの女性だよな」


「は?」


「正確には、ホムンクルスとしてだが」


「……マジっすか」


「マジだ」


 ビショップ准将の目をまじまじと覗き込む。目を逸らさない。笑いもしない。……冗談を言っているわけではなさそうだ。


 ルイーズ(ユハ・トルバネン)も、たしかホムンクルスに変わってたな。


 俺は獣人自治区でイオナ・ニコラスを捕まえた。そして後日、処刑されたと聞いた。イオナ・ニコラスがホムンクルスを創る余裕はなかったはず。ということは、ルイーズのように、元からホムンクルスを準備していたと考えるのが妥当だろう。


「面倒な事になってますね」


「捜索を手伝ってほしいのだが……?」


「面倒なのでお断りします。こっち(異世界)で手一杯ですから」


「……」


「睨んでもダメです。スチールゴーレムもたくさんいるし、ハセさん(汎用人工知能)なら、早めに特定できるかもです」


 そう言うと、ビショップ准将はようやく俺から離れてくれた。ヨーロッパのどこかに秘密の工場でもあるんだろうけど、細かいところまで特定しているわけじゃない。俺が探すより、ハセさん(汎用人工知能)にお願いした方が早いはずだ。


「ところで、ビショップ准将たちは援軍と聞きましたが、帝都エルベルトを落とすんですよね?」


「ああ、そうだ――――」


 そこは話してくれるんだ。なんて思いつつ、事の詳細を聞いていく。


 現在のアメリカでは、熱波により大勢の人びとが亡くなっているらしい。一刻も早く、異世界へ移住しなければならないという、差し迫った状態だそうだ。


 それならドラゴン大陸にたくさん土地がありますよと言うと、どうしても地震がダメらしい。アメリカの西海岸では度々地震が起きているが、他はそうでもない。大多数が地震に対して免疫がないのだ。日本政府から、アメリカ国民もドラゴン大陸へ移住すれば、って話もあったらしいが、断ったという。


 暑くて人が死んでいるのに、地震をそこまで嫌がるとはねえ。俺はいまだに日本人の感覚を持ち続けているため、彼らの恐怖心をイマイチ理解できない。


 しかしそういった理由で、彼らアメリカ軍はアルトン帝国と事を構えたのだろう。


「ソータ・イタガキ。お前はどうするつもりだ?」


「俺は帝都エルベルトへ潜入します」


「で?」


「落とします」


「ほう……」


 そう言ったビショップ准将は目配せする。視線はデボン・ウィラー大佐とダーラ・ダーソン少尉に向いていた。


「はっ! 御用でしょうか!」

「如何されましたか?」


 白々しい。デボン、ダーラ、あんたたち盗み聞きしてたよな……。そんな意味を込めて、ふたりをじっとり見つめる。実在する死神(ソリッドリーパー)の一員である彼らは、この世界に馴染むのも早いだろう。そしてその実力は、テラパーツの五人と変わりないかそれ以上。


「お前たちふたりに、ソータ・イタガキの支援を命じる」


 ビショップ准将、あんたもかよ。エイブラムズ中将のときと同じ流れだ。テラパーツの五人が、実戦で役に立たないと分かったばかりなのに。


「はっ! 了解しました」

「了解です!」


 こいつら……、元気よく返事しやがって。デボンとダーラをガン見する。彼らの魔力総量はテラパーツの五人より多いけれど、誤差の範囲だ。大きな魔法一発で気を失うだろう。せめて魔力を増やすことができれば、彼らも前線に出ることができるんだけど。


 神威(かむい)結晶を持たせるという手もあるけど、そんなことすれば「何これ」ってなるに違いない。無難なのはやはり、ヒュギエイアの水を渡しておくくらいか。製造方法が限られているため、地球の科学力をもってしても複製できないはず。


「ビショップ准将、エイブラムズ中将、ちょっと話があります」


 アメリカ軍の高官を呼び寄せた。


 デボンとダーラ、テラパーツの五人から離れて、三人で顔をつきあわせる。


 ふたりの高官は、興味深そうに俺を見つめていた。


「ヒュギエイアの水を提供します。この世界では奇跡の水と呼ばれるもので、疲労回復、病気や怪我の治療、そして四肢の欠損まで治します。ただし、これは医療従事者の仕事を全て奪ってしまうので、取り扱いには細心の注意を払ってください――――」


 小瓶を見せながら説明をする。ビショップ准将は効果を疑っていたが、エイブラムズ中将はテラパーツの五人から、報告を受けていた。俺から何かされて、体力や魔力が回復したと。


 それでエイブラムズ中将はピンときたようで、声をかけてきた。


「試飲させてくれるか?」


「どぞどぞ」


 小瓶を一本渡すと、彼は一気に飲み干した。デモネクトスで痛い思いしたから、少しは躊躇うと思ってたのに。


「……効果は本当みたいだな」


 エイブラムズ中将はついさっきデーモンを取り除いたばかり。体力や魔力が低下していたのだろう。


「ソータ・イタガキ、それを軍に提供するとして、どれくらいの量が確保できる?」


 そう言ったのはビショップ准将だ。彼は飲んでいないけど、エイブラムズ中将の反応を見て、効果を確信したようだ。


「秘密を守ってもらえれば、いくらでも提供できます。ただし、よく考えてくださいね。ヒュギエイアの水が出回ると、何が起こるのか。……全ての医者が廃業になり、全ての製薬会社が傾きます。労働者を寝ずに働かせて、労働環境の悪化を招くこともあり得ます。闇市場に出回れば、それを巡って抗争が起き、果ては戦争へ発展するでしょう」


 ふたりから笑みが消えた。やはり目先のことしか考えていなかったようだ。だから使いたくなかったというのもあるけれど、ヒュギエイアの水を渡しておかなければ、もっともっと死者が出る。そうはなってほしくない。ただそれだけだ。


「ソータ・イタガキ。そんなもの、どうやって手に入れた――いや、追及するのはやめておこう」


「賢明な判断です。ビショップ准将」


「すぐに準備出来るのか?」


「すぐにできます。エイブラムズ中将。倉庫のコンテナに入れておけばいいですか?」


「ああ、頼む。コンテナはテラパーツに守らせる」


 とりあえず話はまとまった。エイブラムズ中将の案内で、基地内の倉庫へ移動し、大きなコンテナ一個分、ヒュギエイアの水が入った小瓶でいっぱいにしておいた。


「くれぐれも、秘密を守るようにお願いします。バレても俺は知らんぷりしますからね」


「……ああ、分かってる」


 エイブラムズ中将がそう言うと、隣のビショップ准将も頷いた。


 これで、アメリカ軍の生存率が上がる。デーモン相手だと分が悪いってのもあるけど、ヒトが死ぬのを黙って見過ごすのは気分が悪いからな。


 一段落だ。そう思って肩の力を抜いたその瞬間、基地内に甲高い警報音が鳴り響いた。緊張が一気に走る。続いて、緊迫した声のアナウンスが流れた。


『警戒態勢を取れ。基地北方五キロメートル、森林地帯に魔物と思われる集団を確認。繰り返す。基地北方五キロメートルに――』


 その場にいた全員が息を呑む。エイブラムズ中将とビショップ准将は素早く腕の端末を確認し、顔を見合わせた。俺も思わず覗き込んでしまう。そこに映し出されていたのは、紛れもなくゴヤたちゴブリンの集団だった。


「……おいおい」


 思わず声が漏れる。あんな所に現れたら、アメリカ軍は躊躇なく攻撃を仕掛けるんじゃね? 不安が胸に広がる。端末のモニターから顔を上げ、北方の森を見つめる。魔物と思われてるし、まずいぞ、これは……。

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