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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
15章 冥界の「国」

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285 巨大デーモン

 景色が切り替わり、俺たちは整地された平地へ移動した。足元にはアスファルト、そばにはコンクリートの建物がある。さっき空から見たショベルカーやブルドーザーは、変わらず作業を続けていた。


 ここはアメリカ軍の基地である。


「……」


 ヨアヴたちテラパーツの皆さんは、呆けた顔のまま固まっている。転移魔法を経験したのは、初めてだったようだ。生き死ににかかわらず、約六十名の隊員と大型装甲車が二台、基地へと戻ってきた。


 辺りを見回していると、三体のロボット兵士が現われた。金属ボディに迷彩塗装がされたヒト型である。彼らは建物の頑丈そうなドアから出てきて、俺たちを警戒している。


 そして、ライフルを構えて一発撃った。


 着弾したのは俺の足元。


 跳弾が俺に当たりそうだったので、障壁ではじき飛ばす。もちろん誰もいない方に向けて。


 こいつら以前、ニュースで報じられていたロボットか。


 軍仕様のロボット兵士で、ニンゲンを殺す事が出来る。とうとうロボット工学の倫理破壊がなされ、一線を越えてしまった。

 そんな報道がされて、世界中で話題になっていた。もちろんアメリカ軍は正式に否定して、報じた出版社を相手取って裁判を起こしていたはずだ。


 しかしこのロボット兵は、その実在を証明してしまった。


 ロボット兵を制御しているのは、もちろん人工知能である。


 ただしその人工知能は、ニンゲンを害することはできない、という禁忌事項が適用されていない。


 あの報道はやはり本当だった。禁忌事項が適用された人工知能ならば、俺に向けてライフルを撃つはずがない。足元を狙ったとはいえ、今のように跳弾でヒトを害する危険性が残るからだ。


「何者だ」


 ロボット兵士は俺に向かって、こちら(異世界)の言葉で話しかけてきた。えらく流暢なのは、すでに事前学習が済んでいるからだ。


「ソータ・イタガキだ。貴軍を救助し、ここへ連れ戻した」


 英語でそう言うと、ロボット兵の動きが止まった。顔にも迷彩塗装され、鼻と口は無い。ふたつの目がチカチカと点滅している。俺の言葉で色んな情報を検索しているのだろう。


「失礼致しました。司令官のジョン・エイブラムズがお待ちになっています。こちらへどうぞ」


 お、こりゃ都合がいい。ヨアヴたちテラパーツを帝都エルベルトに連れていかなくて済みそうだ。俺はアメリカ軍の人間じゃないし、ついでに松本総理の適当な言葉も無しにしてしまおう。


 振り向いてみると、ヨアヴ・エデルマン大尉たちは、ようやく再起動したところだった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 通された部屋は、まるで取調室だった。既視感しかない。


 小さな事務机がふたつ、向かい合わせになっており、それぞれに椅子がひとつ。卓上にはデスクライトがあり、壁に大きなマジックミラーがはまっていた。


「いやいや、取調室じゃねえかよ!」


 思わず前に立つジョン・エイブラムズ中将へ文句を言ってしまった。年の頃は五十前半。落ち着いた灰色の短髪に青い瞳。細身の身体で制服姿だ。アラスカのウォルター・ビショップ准将は砕けた印象だったが、こっちは生真面目な雰囲気である。


「まあまあ、そう怒るな。こちらが本気なら、君はアメリカ軍の回線をハッキングして基地内への不法侵入と、ふたつの罪を犯したとして、ミスター・マツモトに圧力をかけることもできるんだぞ」


 ぬおおっ! 汚え! 汚えぞアメリカ軍! 助けてやった恩を仇で返すとは!


 なんて口には出さないけどね。


「何をお望みでしょうか? 先日のスチールゴーレムではまだ足りないと?」


 極めて平坦な声で応じる。


「スチールゴーレムは地球で活躍中だ。それよりこの世界での件だ。現状もはやアルトン帝国との交渉は不可能。そこでミスター・イタガキ、君に我らテラパーツの選抜部隊を護衛し、帝都エルベルトを落としてほしい」


「冗談はやめてください。こう見えて結構忙しいんで――」

「本気でお願いしているんだ。このままだと、死んだ仲間に申し訳が立たない」


「百万人都市を、少人数でどうやって落とすつも――」

「テラパーツは精鋭部隊だから、大丈夫だ」


「それなら俺の護衛なんて必要ない――」

「必要だ」


 会話しにくい。言ってるそばから次々に話をかぶせてくるし。それに、エイブラムズ中将から、焦りの感情が見て取れる。何だこの違和感は……。


 マジックミラーの向こうに気配がふたつ。こちらを注視しているが、怪しい行動はない。


 こうやって考えている間にも、エイブラムズ中将は俺に語りかけている。とにかく急いで帝都エルベルトを落としてほしい、という内容だ。


 ここまで焦って強引に話を進めるのには、何か理由があるはず。


「ちょっと質問いいですか?」

「何だ。言ってみろ」


「エイブラムズ中将は、魔術を使えますよね」

「もちろんだ。それより早く出発しないか?」

「ええ、分かってます。しかし確認したいことがあって――」

「そんな事か。何でも聞いてくれ」


 エイブラムズ中将の体内で、冥導(めいどう)が蠢いた。彼はそれを必死に押し止めている。


 原因はおそらくデモネクトス。彼はそれを飲んで、デーモンを憑かせたのだろう。


 そしてもう間もなく、デーモンに支配されてしまう。


 彼はそれが分かっているのだ。


「では正直に答えてください。基地内でデモネクトスを飲み、デーモンを憑かせた兵は何名いますか?」


 俺はエイブラムズ中将から眼を逸らし、マジックミラーに向けて語りかけた。その奥にいるふたりの気配が動く。その気配は廊下へ出て、この部屋に入ってきた。


「エイブラムズ中将……。やはりバレてます。ソータ・イタガキ。わたくしはニッキー・スミス少将。この基地の参謀長よ」

「俺は副司令官で少将。マイケル・ハリスだ。よろしくな、ソータ・イタガキ」


 女性のスミス少将と男性のマイケル少将ね。彼ら三人が、この基地のトップってことか。


「ども、ソータ・イタガキです。あなたたちふたりからも冥導(めいどう)を感じます。そろそろデーモン化するのでは?」


「そ、そうだ。そうなる前に、何とか帝都エルベルトを落としたい」


 応じたのはエイブラムズ中将。他のふたりも相当焦っている。


 この様子からすると、デモネクトス本来の効果を知らずに飲んでしまったのだろう。その上で、力を得るためにデーモンを憑かせていた。


 しかし、アメリカ軍とあろうものが、デモネクトスの効果を知らないのはおかしい。それにアンチデモネクトスを知っていれば、慌てること無く対処できるはず。それなのに彼らは全く知らないように見える。それこそ、スタイン王国のレオンハルト・フォン・スタイン国王のように。


「これを飲んでください」


 アンチデモネクトスを入れた小瓶を三本出す。


 それを見た三人は、何なのこれ、という目で俺を見つめる。


「アンチデモネクトス。それを飲めば、体内のデーモンが排出され、すぐに滅びます。デーモンが出る前はしんどいですけど、ニンゲンのままでいたいでしょ?」


 と言っても、飲むわけがないか。アメリカ軍で色々問題を起こした日本人って情報がある限り、簡単に信用されるわけがない。


 なんて考えていると、エイブラムズ中将が小瓶を取って、躊躇いなくあおり飲んだ。


「ぐっ……」


 エイブラムズ中将は腹を押さえて、途端に苦しみ出す。痛みに耐えきれずうずくまると、黒い粘体が彼の背中から勢いよく飛び出した。軍服は背中の部分が縦に裂けている。


 デーモンは殺風景な壁にベチャリと音を立てて張り付き、ぬらぬらと蠢く。何とも言えない不快感を抱きつつ見ていると、黒い粘体は壁から流れ落ちて薄く広がった。エイブラムズ中将に憑いていたデーモンは死んだ。


 それを見たニッキー・スミス少将とマイケル・ハリス少将が、慌てて残りの小瓶を飲み干した。


 結果は同じく、体内のデーモンが飛び出して黒い水たまりへ変わった。


 三人とも結構しんどそうなので、こっそり回復魔法をかけておく。


「た、助かった。感謝する、ソータ・イタガキ」


 そう言ったのはジョン・エイブラムズ中将。俺が魔法を使ったと気付いたようだ。あとのふたりからも礼の言葉をもらい、場所を移して話すことになった。


 豪華な応接室で話し合いとなり、だいたいの事情は分かった。


 デモネクトスを飲み、デーモンを憑かせていたのは彼ら三人だけだった。基地内の兵に、デモネクトスを飲んだものはいないとのこと。


 そしてつい先日、デモネクトスの謳う効能が嘘だと分かり、彼ら三人は決意していたという。


 デーモンに身体を支配される前にアルトン帝国と交渉し、アメリカ国民の移住を認めさせると。残された時間が少ない中、彼らは自分の身の安全より、アメリカ国民を優先した。これがアメリカ軍人か。頭が下がる思いだ。


 ところが蓋を開けてみれば、アルトン帝国はデーモンの国家だった。何という皮肉だろうか。彼らは落胆しながらも、その決意は揺るがなかった。その決意は彼らの服を見せてもらって確認済み。体内から発生する冥導(めいどう)が一定水準を超えると、全身に電流が走り即死するというものだった。


 彼らはデーモンになることを拒み、それでもなおアメリカ国民の移住先を確保しようとしていたのだ。


「作戦は常に変わる。現状を打破するための最適解、それは君の支援だ」


 ジョン・エイブラムズ中将は俺にそう言った。


 そして結局、俺は護衛兼アドバイザーとして同行することとなった。


 さすがに断る選択肢はなかった。


 松本総理の秘書に電話して、アメリカ軍に協力することとなったと伝えておく。


 こりゃ慎重に動くしかないな。内閣官房参与という立場での協力ってことになるんだから。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 俺はいま、テラパーツ選抜メンバーの前に立っている。彼らはアスファルトの上に並んでいた。


 ヨアヴ・エデルマン大尉。


 リサ・キンバリー中尉。


 ヘレン・フォスター伍長。


 マーガレット・ニューマン上等兵。


 ジェイ・アンダーソン一等兵。


 五人とも、俺を化け物でも見るかのような目つきである。


 原因は分かっている。それは数百キロメートル離れた区間を、転移魔法で移動したからだ。


「皆さんにちょっと質問です。帝都エルベルトまでの移動手段は聞いてますか?」


「ソータ、魔法とスキルを教えてくれ」


 俺の話しを聞かずにヨアヴがせっつく。というか名前呼びになるの早いな。会ってまだ二時間くらいしか経ってないぞ。


「教えるのはいいんですけど、実戦でいいですか?」


「はあ? 実戦って、これからか?」


「ええ、そうです。そろそろ基地の哨戒システムが気付くと思いますが」


 言ってる側から、基地内に警報が鳴り始めた。


 基地の兵力は乏しかった。ニンゲンは百名にも満たず、ロボット兵はわずか二十体ほど。ミサイルは撃ち尽くしており、残るは銃火器だ。


 彼らテラパーツの五人がどうするかとみていると、不敵な笑みを浮かべた。


「この画像、デーモンか?」


 ヨアヴは左腕のモニター端末を見ている。他の四人も同じく端末の画像を確認していた。


 覗き込んでみると、大型のデーモンが三体、山頂を乗り越えてくるところだった。この画像は、基地周辺を警戒しているドローンからのものだろう。


 冥導(めいどう)が濃くなる。


 つぎの瞬間、大型デーモンから極太の黒線が放たれた。狙いはもちろんここ、アメリカ軍基地だ。


 このままだと大勢が死んでしまう。


 ――――ズッ


 板状障壁を張って、三つの極太黒線を空に向けてはじく。


「よーし、これから実戦で魔法とスキルを試します。皆さん、あの大きなデーモンを倒しましょう。俺も手伝いますので。いいですね、転移しますよ」


「えっ!? ちょ――――」


 ヨアヴ・エデルマン大尉は何か言いかけたが、そんなのシカトして俺は集団転移した。

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