表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
15章 冥界の「国」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

284/341

284 劣勢

 俺はトマホークミサイルが直撃する瞬間を目の当たりにした。衝撃波と轟音に耐えるため、耳を塞ぎ口を開ける。そんなことしなくても大丈夫だと思うけれど、ニンゲンだった頃の動作が出てしまう。


 しかし、なんなのこの障壁。ミサイル十発食らって、びくともしない……。強すぎじゃないか?


 障壁は複数枚重ねているのではなく、一枚だけ。ただし、冥導(めいどう)を感じる。つまりこれは冥導(めいどう)障壁というわけだ。


 眼下には今なお赤い鉄の塊と、ヘリコプターらしき部品の残骸が散らばっている。遠くに見えるのは、大型の装甲車が二台。けつまくって逃走中みたいだ。


 どうやら、奴らが攻撃を仕掛けたものの、返り討ちに遭ったといったところか……。


 こりゃいったん、忠告入れておかないと拙いな。


『こんにちはー。ソータ・イタガキって言います。そちらの責任者と話したいんですが――』


 アメリカ軍へ電話をかけてみる。番号は分からないが、強い電波が飛び交っているので、その周波数に合わせてみた。当然だが暗号化されている。しかしそこは、クロノス(汎用人工知能)が何とかしてくれたみたいだ。


『ソータ・イタガキだと?』


 驚いた様子で、年輩の声が聞こえてきた。お偉いさんかな?


『俺のこと知ってるみたいですね。それはそうと、今のミサイルでも、帝都エルベルトの障壁は破られていません。俺が囮になるので、生き残りの装甲車を早く逃してください。では失礼します――』


『あ、おいっ! ちょっと待て! まだ話したいことが――』


 話の途中で悪いが、通話を切らせてもらった。


 何でかって、帝都エルベルトから、強大な冥導(めいどう)が膨れ上がったからだ。狙いはおそらく、逃走中の装甲車。このまま放っておけば、彼らがやられてしまう。


 俺は冥導(めいどう)の膨れ上がった場所目がけて、ファイアボールを放った。もちろん威力は弱めてある。しかしてその効果は、丁度いいものとなった。


 ファイアボールは大爆発を起こして、帝都エルベルトの障壁を破壊。俺は障壁を張って、衝撃波と爆風をやり過ごす。

 すると膨れ上がっていた冥導(めいどう)が消えた。誰が冥導(めいどう)魔法を放とうとしていたのか知らないけれど、驚いてくれたみたいだ。


 障壁が消えたので、帝都エルベルトへ侵入してみる。姿を消していないので、地上からバンバン魔法が飛んでくる。全て冥導(めいどう)魔法だ。


『どう思う?』


 板状障壁で冥導(めいどう)魔法をはじき飛ばしながら、クロノス(汎用人工知能)に話しかける。


『この都市のニンゲンは、全員デーモンですね』

『だよな……』


 地上にいる人びとはニンゲンに見える。水魔法でアンチデモネクトスを生成して飛ばしてみるも、それを浴びた人びとに変化は無い。そして、この空間には冥導(めいどう)に満ちあふれていた。


『うーん、これは色々と前提がひっくり返るぞ』

『元からデーモンのようですね』

『なるほど……?』


 元からデーモンって何だ? 奴らは黒い粘体で、実体化すると灰色のデーモンになる。弱いデーモンは実体化できず、ニンゲンに憑かなければ粘体のままだ。


 そう思っていたけれど、違うっぽいな。


『この世界に、ニンゲンと呼ばれる種は、何種類あると思いますか?』

『急にどうした……? ヒト種、ゴブリン、オーク、ドワーフ、エルフと、ニンゲンにも色々あるけど。……ああ、そういう事か』


 遠回しに言ってきたクロノス(汎用人工知能)のおかげで、理解出来た。冥界にいるデーモンも一種類だけじゃないってことだ。


 ついさっき、王都ランダルの神殿地下で、巨人のようなデーモンを見たばっかりだ。そもそも粘体のデーモンや灰色のデーモン、ワニ顔のデーモンを元から知っているじゃないか。


 つまり、見た目がヒト種と変わらないデーモンもいる。


 こりゃ厄介だ。


 この国がいつからあったのか知らないが、元からデーモンの国家だったのか?

 帝都エルベルトは相当人口が多い。おそらくは百万人都市。これだけのデーモンが、この世界の神々に見つからず、よくものうのうと暮らしていたな。


 いや、そんなことあるわけが無い。ベナマオ大森林で、悪魔(デーモン)ネイト・バイモン・フラッシュと対峙したとき、神々の怒りを感じることができた。空は雲で渦巻き、いつ雷が落ちてもおかしくない、そんな状況だった。


 ネイトが大物デーモンだから、あの現象が起きた。

 それなら、百万人のデーモンがいても、神々は怒るのではないか。


 そうでないのなら、帝都エルベルトの住民は、ネイトのように神々に赦されたデーモンなのか……。あるいは、神々に見つからないように、冥導(めいどう)障壁を張っていたとか……。


 ふと空を見上げると、急に曇り空になってきた。以前感じた怒りの気配に、辺りが支配される。


 ほーん……。この街のデーモンは、神に赦されていない。


 つぎの瞬間、帝都エルベルトに冥導(めいどう)障壁が張り直された。そうすると、曇り空があっという間に晴れ渡って、怒りの気配が消えていった。


 ふーむ。このシステマチックな挙動は、神の意思が存在しているように思えないな。単純に、大きな冥導(めいどう)に反応しているように見える。


 神の一柱、例えばオルズが気付いているのなら、障壁を張り直しても無意味だ。神はそこにデーモンがいると察知しているのだから。


 もしかするとセンサー的なもので、デーモンを感知して攻撃する。そんな物があるのかもしれない。



 帝都エルベルトが障壁で包まれると同時に、またしても冥導(めいどう)が膨れ上がった。狙いはやはり、二台の装甲車。


 ――――ズドン


 ファイアボールで、冥導(めいどう)が発生した場所を吹き飛ばす。俺はもう障壁の内部にいるからね。というか、外部に攻撃する際、いちいち冥導(めいどう)障壁を張り直すって、かなりの手間だな。……いや、そうまでして神に見つかりたくない。そういうことだろう。


 ファイアボールの爆発で、直径百メートルほどが更地になった。石造りの建物や、道を歩く街の住人、色々巻き込んでしまったが、全てデーモンだ。一ミリも心が痛まない。


 ――――ズドン


 またしても冥導(めいどう)が膨れ上がったので、ファイアボールで吹き飛ばしておく。なんでそんなに装甲車を狙うのか意味が分からない。俺に飛んでくる冥導(めいどう)魔法は、簡単に防げる程度なのに。


 ちょっとこれじゃ帝都エルベルトを落とすどころじゃないな。


 いったんアメリカ軍を助けに行こう。


 そう思いながら、俺は転移の魔法を発動した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 眼下のアメリカ軍は、フォレストワームによって半壊状態。なんでわざわざ、危険な森へ出てくるのか意味不明だ。


 周囲にはまだまだフォレストワームが地中に潜んでいるので、倒しておこう。


 いつものウインドカッターを針の形に変えて、地中に潜むフォレストワーム目がけて放つ。地中のフォレストワームに刺さったところで、形を球に変更する。


 ――――ズン


 周囲からそんな音が聞こえてくる。フォレストワームは内部から膨れ上がって破裂しているのだ。時間をかけずに、全て討伐完了となった。


「お、お前は……、ソータ・イタガキ!?」


 隊長っぽい軍人が驚いた顔で話しかけてきた。


「あ、俺のこと知ってるんですね。初めまして。ソータ・イタガキです」


 顔を見て名前が分かるって、すでにアメリカ軍に俺のことが知られているな。アラスカや沖縄のことを考えれば当然そうなるか。この前ヒューたち兄妹がSNSで写真を拡散させちゃったから、もしかすると有名人になってるかも。不本意だがしゃーない。


「お前はこんなところで何をやっている」


「えーっと。どちら様でしょうか?」


「あ、失礼した。俺はこの部隊の隊長、ヨアヴ・エデルマンだ。日本人だと聞いていたが、英語うまいな。だいたい途切れ途切れの発音なんだが……」


 ヨアヴはそう言って、握手を求めてきた。浮遊魔法で浮いたままなので、地上に降りて握手に応じる。英語の発音に関しては、クロノス(汎用人工知能)が操作してるからな。ネイティブと変わりないはずだ。


 握手したままヨアヴを見る。彼は筋肉質な大男。身長二メートルはあるんじゃないかな。右の頬に大きな切り傷が残っている。今の医療技術なら、こんなもの跡形も無く治療できるのに、わざわざ残してるって、何か思い入れでもあるのだろうか。


「どもです。この世界の森には、フォレストワームって魔物が潜んでいることがあります。気を付けてください。それと、今すぐ装甲車で基地に帰ってください。それまで護衛しますので」


「帰れだと?」


 ヨアヴは握手をしたまま手を離してくれない。それどころか俺を睨み付けていた。


 面倒だ。言うことを聞いてくれそうもない。


 森の中には、フォレストワームによって喰われた兵の遺体がたくさんある。俺が来る直前の出来事で、彼らも気が立っているのだろう。


 ――――ズドーン


 帝都エルベルトから飛んできた黒い炎が、俺の張った障壁で大爆発を起こした。五枚重ねで三枚割られた。危ねえ……。しばらくは冥導(めいどう)障壁にしておこう。


 真っ黒い煙に包まれ、一瞬暗くなった。


 それでもヨアヴは俺の手を離さなかった。


 今のうちに言っておこう。


「このように、あなたたちは狙われています。早めに撤退することをオススメします」


 そう言ってみたものの、煙が晴れて改めてヨアヴを見ると、不敵な笑みを浮かべていた。いい予感はしない。何か企んでいる顔だ。


「ソータ・イタガキ。俺たちは二百五十名からなる中隊だった。生き残りは、ここにいる二十名のみ。俺たちを護衛しながら帝都エルベルトへ――――」


「さっさと撤退してください」


 俺はヨアヴの言葉を遮った。


「まあ聞け。ソータ・イタガキ……」


 ヨアヴの魔力が動いた。と同時に、俺の身体に電流が流れる。


「……」

「……」


 得意げな顔のヨアヴ。

 俺は無言を返す。


「何も感じなかったのか……? 特別な装備には見えないが……」


 ヨアヴは驚いた表情を見せる。俺は特段、すごい装備を着ているわけでは無い。一般的な革よろいだ。しかし今回は、ファーギの黒マントが仕事をしてくれた。


「このマントは、魔道具の一種です。電流くらい防御できますよ」


「いや、しかし……。俺は今、二百万ボルトの電圧をかけたんだが……」


 スタンガン的な魔力の使い方をしたって訳か。器用だな。でも覚えておこう。


「要は、あなた達も魔法か魔術を使えるって事ですね。だから帝都エルベルトに連れて行けと」


「そうだ。お前みたいに魔力の感じられないやつが、どうやってさっきの黒い炎を防いだのか知らん。しかし、完全に防ぎきったよな」


「だから護衛しながら連れて行けと?」


「そうだ。お前は日本の内閣官房参与だろ? 首相の松本に支援要請をしたところ、ソータ・イタガキ、お前を自由に使っていいと許可をもらっている」


 うそーん。マジで?


 松本総理、そりゃないっすよ……。


『もしもし、板垣颯太です。お忙しいところすみません。ちょっと松本総理をお願いします』


 ヨアヴの言葉だけでは信用できないので、確認を取ってみる。


『あ、板垣さんですね! 残念ですが、総理はただいま国会答弁中でして……』


 電話に出たのは、女性の秘書官だった。国会が開かれているのか知らないけれど、彼女が言うのならそうだろう。


 いったん電話を切って、ヨアヴに向き直る。確認は取れなかったけれど仕方がない。


「では、護衛という形で、お手伝いさせていただきます」


 ここで時間をかけて確認作業をするわけにはいかない。そして、ヨアヴの言葉を信じたわけでもない。


 ただし、俺を使う許可が出ているという前提で動こう。これが正式なものであれば、俺の行動ひとつで外交問題になってしまうからな。


 面倒くさい。本当に面倒くさい。


 そう思いながら視線を動かして、ヨアヴに促す。


「俺たちはアルトン帝国と接触を図っている。具体的には、アメリカ国民の移住許可を求めて使者を送り、返事を待った。しかし、使者たち一同は帰ってこなかった。その後も何度か接触を試みたが、送り込んだ使者は、すべて音信不通になった」


「見たところ、帝都エルベルトはデーモンだらけでした。あんな街の住人と交渉はできないでしょうね。喰われて仕舞いですよ」


「デーモン……か。俺たちの認識が甘かったとしか言いようがない。日本はドラゴン大陸を手中に収めているだろ? ソータ・イタガキ。お前は今、地球で何が起こっているのか知ってるか?」


「リアルタイムでは把握してません」


「世界各国で、異世界への移住が始まっている。これは知ってるな?」


「ええ、知ってます」


「アメリカが出遅れていることは?」


「そこまでは知らないです。ビッグフットが支援してるはずですが」


「大魔大陸だけだと、アメリカ単一国家ができないんだよ……。ビッグフットは様々な国から移民を受け入れているからな。それでアメリカは別件でやっと交渉を始めたところでな。異世界各国への交渉に、後れを取った」


「残った国が、アルトン帝国だったと?」


「そうだ……。しかし、この国は、ニンゲンの国家ではなかった……」


「なるほど……。アメリカの人口を考えると、それなりの土地が必要になりますからね。しかし、アルトン帝国がデーモンの国家だとしても、この世界から見れば、俺たちの方が異物です。交渉できないからと言って軍事行動を起こせば、侵略になりますよ?」


 俺はアルトン帝国を潰す気でいるけどね。


「それくらい分かっている。そのために我々は交渉を行なっていたんだ。しかし、さっき言ったように、話し合いにすらならない。そこで、軍事的な圧力をかけたところ、またたく間に全滅させられた」


「軍事的な圧力?」


「第一陣で、戦車を並べただけだ。しかし、すぐに攻撃された」


 大丈夫か、アメリカ軍。


「今日の軍事行動は何度目ですか?」


「五度目だ……。すでに千五百名のアメリカ軍人が死亡した」


 国家間の交渉ごとなんて、俺にはてんで分からない。だけど、彼らアメリカ軍がヘタ打っていることは分かる。


 無駄死にさせているのは誰だ?


 ――――ズドーン


 考えている間にも、帝都エルベルトから黒い炎が飛んできている。ヨアヴ達は俺が防ぐと思って、安心しきっている。もちろん冥導(めいどう)障壁で防いでいるけれど。


「とりあえず、現状の把握はできました。では護衛の件ですが、具体的に何か作戦でも?」


「……俺が抜てきした少数精鋭で行く。他の隊員は、は基地へ帰投してもらう」


「ふたつに分けると?」


「そうだ」


 おいおい、俺ひとりで、どうやって護衛すりゃいいんだよ……。


「いったん転移しますよ」


「転移? お前は何を言っている――」


 大型装甲車両が二台。死亡した兵が約四十名。生き残りの兵が二十名。全員転移させよう。

 説明するのも面倒なので、俺は黙ってアメリカ軍基地へ集団転移した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ