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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
15章 冥界の「国」

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283 米陸軍、特殊部隊テラパーツ

 俺は今、アメリカ軍が急造している基地の上空に漂っている。眼下には大型ヘリコプターと戦闘機、それに大型爆撃機が見えていた。当然だが、燃料は石油由来のものである。


 以前はベナマオ大森林にメタルハウンドを持ち込んでいたしな。アメリカ軍の行動は、異世界温暖化の危機を招きかねない。地球があんなことになっているのに、何考えてんだよ、マジで。俺は苦々しい思いで眼下を見つめた。


 北方面には緑濃いベナマオ大森林が広がっている。山間部から蛇行する道のようなものが見えた。もしかするとゴヤたちを襲撃したメタルハウンドは、この基地から出撃したのかもしれない。


 だが、基地はまだ完成には程遠い様子だ。

 山岳地帯の谷間に広がる広大な平地を、ガラガラと轟音を立てながら、ブルドーザーやショベルカーが力強く切り開いていく。大型トラックの荷台が傾き、砕石が降ろされていく。大きなローラで平らにし、そこにアスファルトが敷かれていた。


 滑走路を作っているのだ。他の建物や倉庫は完成している。


 そう考えると、戦闘機や爆撃機はここに着陸したわけではないはずだ。


 オルズの言っていたゲート装置によって、この世界に運び込まれたのだろう。


 その驚くべき光景に衝撃を受けながら、俺はオルズに頼まれたことを思い返した。あいつは俺に、アメリカ軍と協力して帝都エルベルトを陥落させて欲しいと頼んでいた。納得できる理由を聞いて承諾したはずなのに、今や早くもやる気が失せかけている。


「あーあ。この世界に石油関連の物なんて持ち込んで欲しくなかったのに」


 思わず漏れた声に自分でも驚いた。不快感からつばを吐きそうになるのを堪えつつ、俺は上空へと舞い上がっていく。


 シュヴァルツからだいぶん東へ移動したせいか、こっちはまだ昼どきといった陽気だ。天気は上々で、澄み切った空気のおかげで視界は遮るもののない地平線まで届く。この世界の空気が汚染されていない証だろう。


 北東の方角に豆粒ほどの街並みが見えている。たぶんあれが帝都エルベルトだろう。その先にも幾つかの小さな町が点在しているが、それらの名前までは分からない。


 この基地は山岳地帯にあるので、帝都エルベルトからは目視できない。ちゃんと場所を選んで基地を造っているみたいだ。


 アメリカ軍とアルトン帝国は、軍事衝突が起きていると聞いた。しかしこの基地には、数えるほどしか航空機はなく、装甲車など陸軍もほとんどいない。少し南の方には海が見えているけれど、軍艦らしきものもない。


 基地の建物こそ立派だが、兵士たちもほとんどいない。


 アルトン帝国と、どうやって戦ったんだろう?


 そう思いながら、北東の帝都エルベルトへ視線を移す。何かがチカチカと光って見える。


 ――もしかして戦闘中?


 基地内でミサイルを積んだ十台の車両が動き始めた。気配は感じられないから無人機だ。


 あ、ミサイル発射した。


 クロノス(汎用人工知能)に聞いてみよう。核兵器だったら、どんな手段を使っても着弾を防がなくては。


『放射能は?』

『感じられません。通常のトマホークミサイルのようです』


 ほっとする。しかし、トマホーク十発か。ニュースで見聞きした程度なので、今回のように肉眼で見たことはない。正直どんな威力かすら分からない。


 撃ち落とすべきか迷ったが、結局は見送ることに決めた。アメリカ軍がこれほどのミサイルを必要としているのなら、それなりに理由があるはずだ。


 俺はミサイルの標的である帝都エルベルト方面へ転移した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 帝都エルベルトの南、三十キロメートル地点。アメリカ軍は撤退戦を行っていた。十二機のヘリコプターは全て撃墜され、三十両の戦車は真っ赤に溶けていた。生き残った兵士たちは、装甲車に乗り込み、街道を西に向かって突き進んでいた。


『全軍に告ぐ。ただいまトマホーク十発を発射した。このまま全力で基地へ戻れ』


 ヘッドセットから基地司令官ジョン・エイブラムズ中将の声が響く。その声を聞き、ヨアヴ・エデルマン大尉は装甲車の内壁を殴りつけた。


「くそっ!!」


 高硬度鋼板がへこんだ。それは、人間の出せる力を超えている。


 彼らの装備は、特殊部隊に相応しいもので、迷彩柄のタクティカルユニフォームに、体に密着する軽量で強靭な防刃ベストを着用。頭部を保護するための先進的な戦闘用ヘルメットには、ナイトビジョンゴーグルの取り付けが可能。通信を確保するためのハイテク通信用イヤーマフが装着されている。武器としては、ナイフとサイドアームの拳銃、機動性に優れたアサルトライフルを携帯していた。


 手袋は操作性を考慮した薄手で、フィット感がありながらもしっかりと保護する設計。


 それでだろうか、ヨアヴ大尉のこぶしには怪我ひとつなかった。


 彼らはアメリカ陸軍特殊部隊〝テラパーツ〟。地球で魔術の存在が明らかになる前から活動している魔術師の集団である。


 彼ら〝テラパーツ〟は、司令官ジョン・エイブラムズの命令で、王都ランダルにハラスメント(・・・・・・)を行っていたのだ。


「街を狙って、戦車で砲撃、ヘリから空対地ミサイルを撃つ。これがどうして嫌がらせ(ハラスメント)なんだ! 明らかに戦争を仕掛けてるとしか思えないだろ! それに俺たちは魔術師だぞ!」


 ヨアヴは再び内壁に拳を叩きつけた。ハラスメントではない一線を越えた戦闘行為で、彼らは反撃に遭った。そのおかげで、部隊は半壊。理不尽な状況に、彼は憤りを感じているのだろう。


 現時点で、部隊隊長エドワード・ミラー中佐率いる戦車部隊は壊滅し、アリシア・フェルナンデス少佐率いる支援ヘリコプター部隊も全滅していた。


 高熱で溶けた戦車が地面を焼き、空中で爆散したヘリの部品が周囲に散乱している。その光景はまさに惨憺(さんたん)たるものだった。


 生き残った歩兵部隊は、わずかだ。それがヨアヴ・エデルマン大尉たちの歩兵部隊である。彼らは後方待機をしていたため、六十名全員が無事であった。


 そんな中、ついに発射された十発のトマホークが、着弾して大爆発を引き起こす。


 ヨアヴ大尉は、その光景をモニターで確認して肩を落とす。トマホーク十発をもってしても、帝都エルベルトを包み込む障壁に、傷ひとつ付いていなかった。


「奴らの魔法(・・)は俺たちの魔術(・・)を超えているって、事前情報があった。しかし、これほどまでとは!」


 ヨアヴは、またしても内壁を殴りつけた。


『ヨアヴ……。暴れるなら、通信切ってちょうだい?』


 ヘッドセットから聞こえてきたのは、輸送部隊隊長のリサ・キンバリー中尉。彼女はもう一台の装甲車に乗っている。生き残りは二台の大型装甲車だけだ。


「あ……、すまん」


 我に返ったヨアヴは、車内を見わたす。三十人弱の隊員たちは、心配そうな顔で彼を見つめていた。


「いまのは丸聞こえだったでしょうね。司令官に……」


 ヨアヴに話しかけたのは、兵站(へいたん)部隊隊長のオハド・ハルツ中尉だ。そして彼はそのまま続ける。


「ミラー中佐とフェルナンデス少佐は戦死しました。現時点で、テラパーツの指揮官はヨアヴ大尉、あなたです!」


「あ? ああ、そうか。そうなるんだよな……」


 応じたヨアヴの声に、車内の隊員たちが敬礼をする。


「指示をお願いします!」


 オハド中尉の声が響く。その目は、このまま撤退していいのかと問いかけていた。


「仲間が大勢死んだ。このまま逃げ帰るわけにもいかない。そう言いたいんだな? 俺も同じ気持ちだ。しかし見ただろう今の」


 トマホークミサイル十発を浴びて、びくともしない障壁。


 彼らの部隊は、あの障壁の内側から魔法(・・)で狙い撃ちにされたのだ。


 街道の脇に広がる森林に潜んで待機。準備が整ったところで、後方からやって来たヘリコプター部隊とタイミングを合わせて攻撃開始。


 だがしかし、帝都エルベルトの障壁は硬かった。


 轟音と共に炸裂する戦車の砲弾。空から降り注ぐ空対地ミサイルの雨。アメリカ軍が誇るこれら最新鋭の兵器たちも、透明な障壁の前では無力に等しかった。


 ヨアヴの言葉は、隊員たちに凄惨な光景を思い出させるに十分だった。仲間が大勢死んだ。やり返したい。そんな気持ちは、圧倒的な魔法の力によって打ち砕かれていた。


 ――――ズドン


 その音とほぼ同時に、装甲車が跳ね上がる。シートベルトを付けていなかった隊員たちは、座席から浮かび上がって天井に頭を打ち付ける。三十人の隊員たちは、重なり合うように床に落ちた。


「ぐっ……。何だ。何が起きた!! いまのは、トマホークミサイルどころの衝撃じゃなかったぞ!?」


 ヨアヴは床に這いつくばって大声を上げる。モニターがブラックアウトして、外の状況が分からなくなっていた。


「後方で大きな爆発があったようです!!」


 操縦席の方から返事があった。一時的な不具合だったようで、モニターはすぐに回復した。


「なっ……!?」


 その画像を見てヨアヴは絶句し、他の隊員たちも息を呑んだ。


 モニターには、障壁が破壊された帝都エルベルトの姿が映し出されていた。まるでシャボン玉が弾けるかのように、透明だった障壁が虹色の破片となって消え去ってゆく。立ち込めていた黒煙も徐々に晴れ、その向こうに街の輪郭が浮かび上がってきた。


 そして、その混沌とした光景の中心に、ごま粒ほどの小さな人影が浮かんでいるのが見えた。


「おいっ! 宙に浮かんでるあの人影を拡大しろ!」


 ヨアヴの声で画像が拡大されると、そこには黒髪のアジア人が映っていた。すぐさま、画像検索が始まり、該当する人物名が判明する。


 画面に映し出されたのは、ソータ(颯太)イタガキ(板垣)という名前と、その経歴だった。顔認証システムの確度は九十九パーセントと表示されている。


「こいつは……アラスカと沖縄で大騒動を引き起こした例の日本人……なのか?」


 ヨアヴの声は自信なさげに先細ってゆく。他の隊員たちも囁き始めた。「あいつ、空に浮いているぞ」と。


 そこに、オハド・ハルツ中尉が声をかけた。


「ヨアヴ・エデルマン大尉」


「……なんだ」


「反転攻勢のチャンスかと」


「ダメだ。撤退命令が出ている」


 オハドの提案はけんもほろろに断られた。軍隊なら当然の対応だ。命令に背けば、軍事法違反で犯罪となる。


「しかし! あの黒い炎(・・・)で、仲間が大勢死にました。エドワード・ミラー中佐の戦車部隊、アリシア・フェルナンデス少佐のヘリコプター部隊、共に全滅です! 障壁が消えた今なら、私たちの能力も発揮できるはず!」


 オハドはそう言いながら、ヨアヴの胸ぐらを掴んでいた。ヨアヴは大尉でオハドは中尉だ。つまり彼は、上官に歯向かっていることになる。


 そこへリサ中尉から通信が入った。


『あんたたち、なんで通信切らないの? 全部聞こえてるって言ったよね? 命令違反の相談が筒抜けだなんて、バカじゃないの?』


 するとそこに、司令官ジョン・エイブラムズ中将の声が割り込んできた。


『ああ、全部聞こえている。……そんなにかたきを討ちたいのか?』


「当たり前だ! サー!」


 ヨアヴは高ぶった感情のまま返事をし、慌てて「サー」を付ける。


『では確認する。陸軍特殊部隊〝テラパーツ〟。六十名全員無事だな?』


 司令官ジョン・エイブラムズの声音に変化は無い。ヨアヴのタメ口は、全く気にしていないようだ。ホッとしながらヨアヴは返事する。


「全員無事です。現在、二台に分乗して撤退中であります!」


『そうか。つい今しがた、ソータ・イタガキから通信が入ってな……。敵を引きつけるので、今のうちに逃げてください、だそうだ』


「クソッ、あの野郎、馬鹿にしてんのかっ!」


 またしても内壁を殴るヨアヴ。装甲車の内壁は、すでに凹みだらけになっていた。


『そう言うな。撤退は中止とする』


「本当ですか?」


 突然の命令変更で、ヨアヴは思わず聞き返す。


『本当だ。撤退は中止。これから隠密偵察を行なってもらう。特に奴らの魔法(・・)に関しての情報が欲しい。ソータ・イタガキの動きをドローンで追跡中だが、帝都エルベルトでかなり暴れている。実際に彼は囮となってくれているからな』


「隠密偵察……。つまり俺たちの能力を使ってもいいと……?」


『そうだ。これまでの訓練で、もはやお前たちは人間を超越している。しかし、兵器に頼ってしまえば、戦車部隊とヘリコプター部隊の二の舞を演じることになる。装甲車を捨て、徒歩にて帝都エルベルトへ潜入せよ。我々の敵対勢力、デーモンの国(・・・・・・)を探れ』


「了解しました!」


 司令官ジョン・エイブラムズとの通信が終わると、大型バス並みの大きさを誇る二台の装甲車両が停車する。出入り口からぞろぞろと隊員たちが出てくると、次々に整列を始めた。


「楽にしてくれ」


 ヨアヴの声で、整列した隊員たちが休めの体勢を取る。


「通信で聞いたとおりだ。これから徒歩にて、帝都エルベルトへ潜入する。しかし、ここにいる六十名で行くわけではない! そんなことしたら、見つけてくださいと言っているようなものだ。そこでチームを選抜する」


 ヨアヴは隊員をじっと見つめ、名前を呼んだ。


「リサ・キンバリー中尉、ヘレン・フォスター伍長、マーガレット・ニューマン上等兵、ジェイ・アンダーソン一等兵」


「はいっ!」


 四名の隊員が同時に返事する。


「俺と一緒に、帝都エルベルトに潜入だ」


「はっ! 了解しました!」


「それと、オハド・ハルツ中尉」


「はっ!」


「装甲車を隠して、この辺りで待機。残りの隊員を任せる。この世界の住人に見つからないよう徹底せよ」


「はっ! 了解しました!」


「では状況開始!」


 ヨアヴ・エデルマン大尉の指示で、テラパーツの隊員たちが素早く動き始めた。



 ――――ドッ


 ところがそこで、隊員のひとりがぶっ倒れた。


 その隊員は、首から上が無くなっていた。


 ――――ボリッ


 倒れた隊員の頭部をかみ砕いているのは、地下から伸びたミミズの魔物。目も鼻もなく、大きな口だけが見えている。


 それは体長五メートルほどで、フォレストワームと呼ばれる森の掃除人。明るいうちは地下で眠っているが、側を通ると襲ってくる。

 首の無くなった隊員は、運悪くフォレストワームの逆鱗に触れてしまったのだ。


「散開しろっ!!」


 ヨアヴ・エデルマン大尉の指示と同時に、テラパーツたちの姿が消えた。


 そしてつぎの瞬間、地下から伸びたフォレストワームの身体か細切れになって崩れた。


「うわっ!? こっちにもミミズが――」


 隊員の誰かの声が響き渡り、途中で途絶える。どうやら他のフォレストワームに襲われてしまったようだ。


 そして、同じように襲われる隊員が続出することとなった。散開した森の中で、次々に襲われていく隊員たち。叫び声は森の濃い緑に覆い隠されていく。


「装甲車に戻れっ!!」


 ヨアヴの指示が出たが、それは遅きに失したものだった。


 装甲車へ戻ってきた隊員は、半分にも満たない。三十名以上がフォレストワームによって喰われてしまっていた。


「あーあ、やられちゃってるし……。さっき司令官に伝えたんだけど、あんたたちさ、何で撤退しないの?」


 ふと聞こえた流暢な英語に驚き、生き残りのテラパーツが上を向く。


 そこには空中に浮かぶ、ソータ・イタガキの姿があった。

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