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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
14章 デーモンの国王

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278 前王一派

 会議をすると言って通されたのは、前国王のルドルフ・フォン・スタインが幽閉されている部屋だった。


 とても質素だが、むさ苦しい騎士たちが大勢入っても、まだ余裕のある広さがある。


 ドアが閉じられると、防御魔法陣が多重展開された。壁は厚く、中の声が外に漏れることはない。


 前国王ルドルフはベッドに腰を下ろし、口を開いた。


「手短に済ませよう。私の息子、レオンハルト・フォン・スタインを生きたまま捕獲せよ。そして、アルベルト・フォン・ベルクの殺害を命じる」


 騎士団長エドガー・フォン・ラインバッハを筆頭に、騎士たちは膝をついて勅令を拝命する。


 料理長のマリーは、しれっとルドルフの横に立っている。ふたりは、そういう間柄なんだろう。彼女がバンパイアだとしても、関係性が変わらないほど。


 ルドルフから俺に鋭い視線が飛んだ。


 それは俺に膝をつけと言わんばかりのもの。


「……」


 黙っていると、ルドルフの表情が険しくなっていく。


「おい、ソータ……」


 膝をついているエドガーが、低い声でボソリと呟く。


 いやいや。ルドルフが前国王で、高貴な人物だとは理解している。


 でも、ここで俺が膝を折れば、彼の勅命に従うことになる。


 いまいち事情が分からないまま従うことは避けたい。


「俺がここに呼ばれた理由が分かりません。それに、冒険者ギルドを通していない依頼は受けかねます」


 このルールに何度助けられただろうか。前国王の言っていることは、アルベルトを殺せというものだが、俺にはその理由がない。


 俯瞰すると、前国王がクーデターを起こそうとしているようにも見えるのだから。


 前国王ルドルフがこの部屋に幽閉されているのには、何か経緯があるはずだ。ただの権力争いでこうなった、という可能性も大いにあるけれど。


 しかし何か重大な出来事があり、前国王ルドルフが本気で国を憂いて勅命を発したのかも知れない。国王レオンハルトを捕らえ、アルベルトを殺害しろと言うだけの何かが。


 だからといって、スタイン王国の将来を左右する話においそれと乗るわけにはいかないんだよなあ。


 分かってんのか、ルドルフ・フォン・スタイン。俺は部外者だぞ、この野郎……。


 あー、やっぱり政治は苦手だわー。この部屋に入ったことが悔やまれる。


 前国王ルドルフ、騎士たち、料理長のマリーまでもが、俺に注目している。


 口を開かない俺に対し、騎士団長エドガーが苛ついた声で話しかけてきた。


「冒険者のルールが厳しいことはよく知っている。だが今は緊急事態だ。実は、この街の冒険者ギルド職員もデモネクトスを飲んでいる……。つまり、彼らもデーモン憑きだ。今となってはもう、彼らに依頼が出せないんだよ……」


 ああ、なるほど。ここ王都ランダルでは、デーモン化した住民がうろついていた。冒険者ギルド職員がデーモン化していてもおかしくはない。


 俺はエドガーからルドルフへ視線を移す。


「では陛下、謹んで申し上げます。階段の壁に大きな穴が空いてましたよね。そこから外をご覧になってください」


 俺は防御魔法陣を解除してドアを開ける。「何で解除できるんだ」などと聞こえてきたが無視。そのまま部屋から出て、階段を上がっていく。踊り場の壁には大きな穴があり、そこから城の外が見渡せる。


 ここへ来て外を見るようにと、俺は合図する。


 前国王ルドルフや騎士たちは、怪訝な顔で階段を上がってきて俺の横に並ぶ。この穴から落ちれば死ぬ高さだ。つまり、遠くまで見渡せる。


「これは……」


 誰かの声が聞こえてきた。それを皮切りに、騒々しくなる。


「デーモンがいるのに、街の人びとが外に出てる?」

「こんな土砂降りなのに、わざわざ外に?」

「お、おいっ、あれを見ろ!」

「黒い水たまり……?」

「あ、あそこを見ろ!」

「街のヒトから、憑いたデーモンが飛び出してるぞ!」

「デーモンは、雨を浴びて死んでいるのか……。黒い水たまりは、デーモンの死骸か」


 最後に言ったのは、騎士団長のエドガー。彼は厳しい視線を俺に向ける。


「何が起きている……?」

「誰かが、アンチデモネクトスの雨を降らせたんでしょうね」


 空は灰色で大粒の雨が降っている。たくさんの屋根は雨が跳ねて煙り、街全体が色を失ったように見えていた。やったのはもちろん俺だけど、明かす気はない。


「……アンチデモネクトス?」


 エドガーは何だそれ、という顔で俺を見る。彼を始め、この場の一同はアンチデモネクトスの存在を知らなかったようだ。俺もついさっき知ったばかりだし、仕方がないだろう。


「あー。えっとですね――」


 エミリア・スターダストは、バンパイアだ。


 その上司に当たる魔女(カヴン)マリア・フリーマンは、ヴェネノルンの血を飲んで、バンパイア化していると聞いた。


 奴らの買収した地球の製薬会社が、デモネクトスを作成。しかしそれには危険な効果があった。つまり憑いたデーモンを従わせる効果があったが、時間が経てばその効果がなくなりデーモン化する。


 それを治療する薬が、アンチデモネクトスだ。


 こんな薬を作った魔女(カヴン)マリア・フリーマンの本意が、どこにあるのか分からない。


 しかし、デモネクトスが失敗作という可能性もありうる。理由としては、こんな回りくどいことをする必要がないからだ。デーモン化させるためなら、ただデーモンを憑かせるだけでいい。


 俺がそんな話を聞かせると、ルドルフと一同は目を見開いて驚いた。別の言葉に。


魔女(カヴン)だと……? この世界から追放された一族が関与しているのかっ!?」


 騎士団長エドガーは、俺の胸ぐらを掴んで詰め寄る。


 そうなるのも仕方がないか。前国王ルドルフが幽閉され、元から付き従う近衛騎士団と料理長のマリーは、外部の情報を遮断されていたのだろう。


 そうするように指示を出したのは、現国王レオンハルト。そう仕向けたのは、アルベルトだろうね。


「関与しています。レオンハルト陛下に聞けば、もっと詳しく分かるでしょう」


「なっ!?」


 エドガーは驚いて頭を抱える。魔女(カヴン)が絡んでいるとは思っていなかったのだろう。


 城に来てレオンハルトとアルベルトの姿を見ていない。これだけの戦闘があったのにもかかわらずだ。彼らを探して話を聞かなければ。


「あ、おいっ! 待てっ!」


 浮遊魔法で壁の穴から飛び出そうとすると、エドガーに呼び止められた。


「何でしょうか」


「ソータ・イタガキ。この穴が空いた理由を言っていなかったな。これは俺たちと、レオンハルト国王、そしてアルベルトとの戦闘の結果だ」


「……」


 ほーん……。すでに一戦交えたあとだったのか。


 話を整理するために考え込んでいると、エドガーは追加で話してきた。彼は壁の穴から下を覗き込んでいる。


「レオンハルト陛下とアルベルトは、さっきの戦闘でここから落ちた。……しかし、遺体も何もない。逃走したと考えていいだろう」


「……指名依頼を出しても、受けるつもりはありませんからね」


 いきなり指名依頼、という手を何度か食らっているので、先手を打っておく。確か断られたはずだ。


「おいっ、ちょっと待てよ!」


 もう一度飛び去ろうとすると、またエドガーに呼び止められた。


「……」


「レオンハルト国王陛下を探すなら、神殿へ行け」


「……情報提供ありがとうございます」


 エドガーはまだ何か言いたそうな顔をしていたが、あまり時間をかけたくない。しかし前国王ルドルフがこれまでの経緯を話し始めてしまった。さすがにこれは邪険にできず、一通りの話を聞かざるを得なかった。


 ようやく話が終わり、俺は一礼だけして転移した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 冥導(めいどう)結晶のある部屋へ転移した。しかし誰もおらず、冥導(めいどう)結晶が置きっぱなしになっていた。これは危険なので、とりあえず拝借しておく。


 ルドルフの話だと、神殿の地下に隠し部屋があるとのことだったが、ここではなさそうだ。


 気配を探るため、カウチに座って目を閉じる。レオンハルトとアルベルトの気配は覚えているので、すぐに見つかるだろう。


「……」


 気配が分からない……。この感じはダンジョンに似ている。けれども違う。なんだろう。気配を探ろうとすると、膜が張ったように遮られる。意識しなければ、様々な気配を感じ取れるのに。


 だが、おかげで、何か仕掛けがあることは分かった。


 部屋を出て、奥に向かって通路を進む。背後からは、様々な声が響いてくる。喜びや怒りや哀しみだ。アンチデモネクトスの雨で、デーモンが死んでしまったからだろう。あれにはデーモン化したニンゲンすら、元に戻す効果があるからな。


 正直言って、アンチデモネクトスのおかげで、デーモンはこの世界に出てこられなくなった。


 あー、そういえば、雨の範囲を広げた方がいいかも。


 いまは王都ランダル、前線の街マールア、地球人の入植地シュヴァルツにアンチデモネクトスの雨を降らせている。だが、周囲の国まで雨を広げよう。

 デーモンに対して猛毒というだけで、それ以外にはただの水だからな。洪水にならない程度の雨にしておく。


 こんなものを作った、魔女(カヴン)マリア・フリーマンの狙いを考えてみるも、断片的な情報と推測だけではっきりとは分からない。


 分かっているのは、スタイン王国の人びとにデモネクトスを飲ませ、デーモンを憑かせていたこと。その効果を偽って。それと、地球人も騙して入植させていることだ。


 だがそれは、大事になる前に食い止めた。心の中で、ハセさん(汎用人工知能)に手を合わせておく。



 マリア・フリーマンは、バンパイア化している。これはおそらく、自身の能力を高めるため。やつはすでに、魔女(カヴン)という種族を超越しているのだ。


 そう考えると何となく読めてきたが、情報が足りない。いまだマリア・フリーマンの筋書きは、ぼやけたままだ。


 考えながら通路を進んでいると、突き当たりになった。


 明らかに怪しい。


 隠し部屋はここら辺かな……?


 正面の石壁をノックしてみるも、硬い音がするだけ。右も左も同じ。んじゃ、床かなと思って踏みつけてみたけど、中が空洞になっているような音ではなかった。


 空間拡張された形跡もなし。


 つまり、ただの行き止まりということか。


 こういう状況って、だいたい罠が発動するよな。


 なんて考えていると、早速反応あり。


 もはや定番すぎて笑えない。


 通路の奥――俺が来た方から、濁流が見えた。壁の石灰岩が反応し、白いガスが噴き上がっている。おそらくあの濁流は、酸性の液体だろう。石灰岩は酸に反応して二酸化炭素を放出する。


 あの液体に触れれば、俺なんてあっという間に溶けてしまう。


 おっかないので、とりあえず神威(かむい)障壁を十枚張る。と同時に濁流が押し寄せた。万が一を考え、追加の障壁を張る心づもりでいたが、大したことはなかった。


 神威(かむい)障壁一枚さえ溶けていない。


 ふはは。侮るなよ。


 しかし俺はそこで、身体がぐらつく。床の石ごと濁流に浮かび上がったのだ。


 これはしょうがない。障壁は球体で、俺を中心に囲んでいる。つまり、床材の下にも障壁があることになる。液体が押し寄せたことで、密閉状態の障壁が浮かび上がっただけの話だ。


 ただ、障壁が張れないニンゲンだと、今の罠で死ぬ。通路の幅は、約五メートル。掴むような凹みはなく、天井までは十メートル以上の高さがある。石灰質の壁なので、鉤爪なんかで登ることは可能だけど。


 液体はどんどん増えていく。そろそろ天井につきそうだ。


 いったい何がしたいのか分からないけど、俺に反応した罠に違いない。


 障壁の中で座り込んで考えていると、徐々に水位が下がっていく。これでおしまいか……?


 なんて考えていると、落下する勢いで水位が下がり始めた。


「……」


 床が抜けてんじゃん。


 このトラップ、欠陥品? 作ったのが古すぎて壊れていたとか?


 というか、床が抜けるってことは、下に空間があるってことだ。


 俺は流れに身を任せ、障壁ごと階下へ落下していった。

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