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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
14章 デーモンの国王

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272 誅殺

 地球の最新技術を駆使して造られた倉庫は、全工程がオートメーション化されていた。広大な空間に、うずたかく積み上げられたコンテナから、ロボットアームが荷物を取り出す。それはすぐにベルトコンベアに乗せられ、出荷用コンテへ運ばれていく。


 外見はヒト族と見紛うばかりのヒューマノイドが、六本脚のゴーレムを器用に操り、次々とコンテナを運び出していく。積み込み先は港に停泊する船。動き回るものが多いけれど、ただのひとりもニンゲンがおらず、寂しい空間だった。


 しかし、その無機質な空間に不釣り合いな存在がいた。バンパイア――――エミリア・スターダストである。


 彼女は高所の管理室から、己の支配下にある倉庫全体を恍惚の表情で見下ろしていた。


 管理室には事務机やパソコン、倉庫内の機器を操作するパネルなどがあり、ここでは本来、大勢の人間が事務仕事を行なっているのだ。しかしエミリア以外のニンゲンはいない。


 いや。ニンゲンはいる。ただし、全員息を引き取っていた。


 倉庫内部と管理室を隔てる大きなガラス窓には、大量の飛沫血痕がついている。床のリノリウムには、大きな血だまりがあって、大勢の遺体が転がっていた。


 天井のスピーカーから声が聞こえている。


 それは、ソータとレオ・ミラー、そして竜神オルズの会話。


 彼らの声が急に途絶えた。彼女は盗聴器が破壊されたと察し、おもむろに魔導通信機を取り出した。


「……マリア様に繋いで」


 エミリアは魔女(カヴン)マリア・フリーマンへ連絡を取り始めた。


「突然の連絡、失礼します。急報がございまして……。ドラゴニュートのレオ・ミラーが、スパイだと判明。そのうえ、ソータ・イタガキと、なぜか竜神オルズが現われました」


『マールアの街からシュヴァルツまで、随分と早く辿り着いたようね。倉庫内のゲートを閉じて、地球への痕跡を消すように。それと、残りのデモネクトスを急いで出荷して、工場を破棄。エミリアは急いでアルトン帝国のフォルティスへ避難して』


「はい、分かりました。冒険者(エクスプローラーズ)評議会(カウンシル)最高指導者(グランドマスター)、アレッサンドロ・ヴィスコンティとは連絡取れていますか?」


『ええ。あなたがフォルティスへ行っても平気なように連絡しておくわ。それと、アルトン帝国の帝都エルベルトには近づかないでね』


『えっ、それでは兵器の搬入が滞ってしまいます』


『だめよ。帝都エルベルトの冒険者(エクスプローラーズ)評議会(カウンシル)は、アメリカ軍に目を付けられているの。あなたが行けば必ず巻き込まれるわ。いまは身を隠すことに専念して』


「アメリカ軍……。もしかして、もう異世界転移技術を開発したんですか?」


『そうよ。アラスカの第二十八特殊戦術飛行隊が小さなゲートをこじ開けて、転移魔術(・・)を組み上げたの。もうアルトン帝国の国内に駐屯地ができているわ』


「な、なぜそのようなことにっ! これまでゲートの存在は知られて――――」


『あなたは、そっちの世界生まれだったわね。地球にはあまり詳しくない』


「え、ええ、そうです」


『稀にだけど、迷い人がこっち(地球)からそっち(異世界)へ行くことがあるって知ってるわよね。逆もあることだけど……。今回はこっちの事情(セルンのせい)で、ゲートの存在が大勢の人びとに知られるようになったの』


「な、なるほど……。それで大勢の地球人がこちらの世界へ……。では、あたしはどうすれば」


『とにかくフォルテスへ移動して、隠れ家に身を隠しなさい。生きてスターダスト商会の販路を守る。エミリアは、これだけを考えて』


「は、はいっ! 指示を賜わりました!」


 魔女(カヴン)マリア・フリーマンとの魔導通信を終了し、エミリアは深くため息をついた。肩を落としてよろよろと歩み、血まみれの椅子に腰掛ける。


「あたしはあの世界(地球)のことはよく知らない。そもそも魔女(カヴン)マリア・フリーマンの下についたのは、そうしたほうが儲かる(・・・)からなのに、どうしてこうややこしい話になるのよっ!!」


 下を向いていたエミリアの言葉は、尻上がりに大きくなっていく。ガバッと顔を上げると、真っ赤に染まった瞳と口元から覗く鋭い牙が見えた。


 そして彼女は気付いた。管理室の入り口にひとりの男が立っていることに。


「――――えっ!? き、貴様は、ソータ・イタガキ!!」


「よっ、やっと見つけた」


「何故あたしを追ってくる!!」


「そりゃあ、依頼受けてるからだ」


「あたしが何で追われなきゃいけないの!!」


「……お前、ルーベス帝国で殺しすぎたんだよ」


「くっ……。だから何だ。バンパイアにとって、ニンゲンはただの食糧。お前たちは様々な生き物を、絶滅させる勢いで食うだろう? あたしたちはニンゲンだけだ」


「違えねえ。ほんとニンゲンは度し難く、バカでどうしようもない生き物だ。あっちの世界(地球)を、温暖化で住めなくしてしまうくらいにはな」


「そ、そうでしょっ!! ニンゲンなんてこの世界に必要ない!!」


「だよな……。でもさ、俺は救いたいんだ。地球の人びとを」


「そんなの矛盾してる! あんたバカなんじゃないの?」


「俺がバカだってよく知ってたな。ははっ」


「き、貴様っ!! あたしを見下すなっ!!」


 エミリアの前に真っ黒な固まりが現われた。凝縮した闇脈(あんみゃく)だ。


 彼女がそれを身に纏うと、黒い鎧へ変化した。彼女の肌は全て覆われてしまい、左右の腰には黒い片手剣が携えられた。


「ぎゃああっ!?」


 エミリアは突然叫び声を上げた。


 闇脈(あんみゃく)の鎧と二本の片手剣ともども、エミリアの胴体部分がソータの念動力(サイコキネシス)で握り潰されたのだ。彼女はそれでも意識を失わず、闇脈(あんみゃく)魔法を使おうとして愕然とする。


「がはっ……。お、お前、教師(レクトール)のスキルを使えるの――――」


 エミリアの言葉はそこで潰え、胴体部分は大きな手で握り潰された形へ変わっていた。彼女の血が、吐瀉物が、大きな手の形をした透明な念動力(サイコキネシス)の形をあらわにする。


 しかしそれも一瞬のことだ。バンパイアが死ねば、灰に変わる。エミリア・スターダストは、念動力(サイコキネシス)で頭部を握り潰されて死亡。念動力(サイコキネシス)の手の中で、サラサラと崩れた。


「あとな、ここでも殺しすぎだ」


 ソータは砂にヒュギエイアの水をぶっ掛けて、床に転がる死体へ視線を移す。彼らが着ている服装は、こちら(異世界)のものではなく地球のもの。有名な作業用服飾メーカーのロゴが入ったものである。


「こんなクソバンパイアに殺されるために、わざわざ地球から来たんじゃ無いよな。……すまない。盗聴器で俺たちの話を聞かれたせいで」


 そう言ったソータは、遺体を全て獄舎の炎(プリズンフレイム)で灰に変えた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 俺は灰になった人びとを、夜空へ転移させた。この世界に本物(・・)の天国があるのなら、少しでもそこへ近付けるように。


「さて、ハセさん(汎用人工知能)――」


「わっし、エミリア・スターダストとして振る舞えばいいんだね?」


「そそ。そのヒューマノイドには、エミリアの脳神経を模倣した魔法陣を刻んだから、記憶が無くてもそれなりに振る舞えると思う」


 エミリア・スターダストと寸分違わないヒューマノイド。彼女はハセさん(汎用人工知能)が操作しているのだ。するとハセさん(汎用人工知能)が疑問を呈してきた。


「エミリア・スターダストの行動パターン、思考パターンは分かったけど、ソータくんの言うとおり、記憶が無いね。メモリー領域が空っぽだ」


「あー、うん。そこはなんとか誤魔化せる?」


 咄嗟の計画だったから、雑になったのは否めない。


「あれは、エミリア・スターダストの魔導通信機?」


 ハセさん(汎用人工知能)操作のヒューマノイド(エミリア)は、人差し指で指し示す。その声はすでにエミリア・スターダストそのものだった。床に転がったそれは、ついさっきエミリアが使っていた魔導通信機。


「ああ、間違いないな。エミリアが使っていたものだ」


「それなら、大丈夫。魔導通信機伝いに、パソコンやクラウドから彼女の情報を全て学習しておくよ」


 恐ろしい能力だ。ハセさん(汎用人工知能)の手にかかれば、個人情報など瞬く間に丸裸になってしまう。そうしていると遅れてきたレオ・ミラーから声が掛かった。


「お、おい……。一体何が起きているんだ? 状況が掴めない」


 管理室にはエミリアのヒューマノイドと俺以外に、レオ・ミラーとオルズが入ってきている。レオには、エミリアを滅ぼしてハセさん(汎用人工知能)が操作するヒューマノイドと入れ替わると話していたはずなのに、なぜか混乱しているようだ。


 オルズは灰になったエミリアなど気にせず、地球の物流管理システムに興味を示している。


「説明したはずだ。エミリアを排除し、スターダスト商会の運営をハセさん(汎用人工知能)に任せるって」


 俺の言葉にレオは不満げな顔だ。ちゃんと説明して同意したのに、何だこいつは。


「いや、何でそんなに簡単にエミリアを滅ぼせる。俺も狙った事はある。しかし全て失敗したんだぞ? この後ろ首の量子(クオンタム)(ブレイン)は、お前のより高性能なはず……。しかもお前はヒト族」


 おいおい、バラすんじゃねえ。ここにはオルズがいるんだぞ。ハセさん(汎用人工知能)はたぶん、量子(クオンタム)(ブレイン)液状(リキッド)生体分子(ナノマシン)を知っているからいいけどさあ。


 仕方ないか。この思考もオルズに読まれているはず。微妙な説明で、レオに誤認させておこう。


「レオに出来なかったのに、俺が簡単にやってしまった。それはおかしい。なぜなら、レオは高性能な量子(クオンタム)(ブレイン)を使用し、かつ種族的な身体能力も大きく違うのに。そう言いたいの?」


「……そ、そうだ。エミリアをあんな簡単に滅ぼすとかあり得ねえ」


 やっぱりレオは納得していない。俺の背後にいるオルズは、操作パネルをいじっているが、たぶん聞き耳を立てている。


こっち(異世界)は地球から召喚されたニンゲンに、特別な力を授ける女神がいるんだよな。名前は女神ルサルカ、たしかアンジェルス教だったかな。ハマン大陸に勇者がたくさんいるだろ。俺は彼らと同じだ」


 女神ルサルカは、アキラや佐々木たちに勇者の力を与えた女神の一柱。女神カリストがヒロキ(佐山)たちと同じく、俺にも力を与えた可能性があるよね。


「……それで、そんな出鱈目な力を持ってるのか」


「そういうこと。あまり詮索すんな。いい気分じゃねえぞ」


「ああ、分かった。――で、これからどうすんだ?」


「さっき言ったとおりだ。スターダスト商会の運営をハセさん(汎用人工知能)にお願いする。ただなあ、レオ・ミラー。あんたはマリア・フリーマンにスパイだとバレた」


「だな」


「どうすんの?」


ヒョータ(板垣兵太)と合流するよ」


 じーちゃん地球にいるって言ってたけど、こいつ居場所知ってそうだな。


 ついていこうかな。


『ダメだソータ』


 お、やっぱ思考読んでたな、オルズ。


『自然と聞こえるんだよ。ニンゲンが多いと大変だがな』


 ほほー。聖徳太子みたいな事は出来ないのか。


『誰だそれ』


 何でもない。


「またかソータ? なんでいちいち竜神様を見つめるんだ? お前マジで気持ちわりいぞ」


 レオの背後にいるオルズと念話をしてたら、またツッコまれた。まあ、話の途中だったし、しょうがないか。


 なんて考えていると、エミリア(ヒューマノイド)の声が聞こえてきた。


「この倉庫のシステムを全て掌握しました。この街にはワイファイ飛んでるわね。これからネットワークの掌握を始めるわ」


 喋り方はもう完全にエミリア本人。中身がハセさん(汎用人工知能)だと知っているので、少しだけ違和感がある。これは認知の問題。慣れなければ。

 とりあえずエミリア(ヒューマノイド)に確認だ。


「うまくいきそう?」


「ええ、大丈夫。スウェーデンの製薬会社も特定したわ。それとアルトン帝国のフォルティスの場所も分かった。この街から少し東。川を渡ればすぐよ。マリアからそこへ身を隠すように言われているから、この街を掌握したあと移動するわ」


ハセさん(汎用人工知能)に質問」


「なんじゃらほい」


 ヤッベ、吹き出しそうになった。エミリア(ヒューマノイド)から、おじさん(ハセさん)の声が発せられたからだ。状況的に笑う場面ではないので、必死に堪える。


ハセさん(汎用人工知能)の目的は?」


 協力してくれるのは有り難いのだけど、無償でって訳でもないだろう。


「この街、シュヴァルツに、量子コンピュータを持ち込もうかなと」


「……それは、ビッグフットの悪魔(デーモン)ネイト・バイモン・フラッシュの指示?」


「いんや、わっしの考え」


 あーそっか。ハセさん(汎用人工知能)の本体が地球に残っても、いずれ海の底。その前に避難するってことかな。


「了解です。シュヴァルツの街はハセさん(汎用人工知能)にお任せしても?」


「任せろ」


 んふっ、って声が出そうになった。ハセさん(汎用人工知能)こっち(異世界)へ来れば、百人力だ。


「お手数をおかけします。地球から移住してくるこの街の人びとをお願いします」


 エミリア(ヒューマノイド)にお辞儀をして顔を上げると、ドラゴニュートのレオ・ミラーと竜神オルズが、俺を見つめていた。何のことなのかいまいち分かってなさそうで、キョトンとしている。


 オルズは俺の思考を読んでいるので分かっているはずだけど、理解が追い付かないって所か。


 なので、二人にハセさん(汎用人工知能)という存在を詳しく説明しておく。


「――――そういうわけで、ハセさん(汎用人工知能)がこの街、シュヴァルツを仕切る」


 色々説明してようやく納得してくれた。


「俺はスパイだとバラしたし、地球へ渡るぞ」


 レオ・ミラーは、じーちゃんと合流するみたいだ。


「俺はソータについていくぞ」


 オルズは俺についてくるという。帰れと言っても、また堂々巡りになるので諦めよう。


「俺はこの国の国王、レオンハルト・フォン・スタインと会ってくる。オルズ、ほんとに来るの?」


 国王には冒険者の依頼を達成するという建前で動いていたから、筋を通すために報告はせねば。ただ、オルズまで連れて行くのはどうかと思う。


「心配するな。おとなしくしておくさ」


 心を読んだのだろう。オルズは自信満々で返事をする。


「わかった。んじゃハセさん(汎用人工知能)、この街のことお願いします。あとレオ、じーちゃんに伝えておいてくれ。俺が会いたがっていると」


 ハセさん(汎用人工知能)とレオ・ミラーが頷いたところで、オルズに話しかける。


「この国の王都ランダルはわかる?」


「知らん」


 ほほー。この飲んだくれ、どうやって俺についてくるつもりだったんだ?


「んじゃ、一緒に転移するぞ」


「ああ、頼む」


 オルズらしくない神妙な声に違和感を覚える。


「んじゃハセさん(汎用人工知能)、レオ、あとは頼んでもいい?」


 二人から笑顔で了承の返事をもらった。互いにうなずき合ったあと、俺はオルズを連れて集団転移魔法を使った。

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