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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
14章 デーモンの国王

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271 ヒューマノイド

 ドラゴニュートの里へ転移し、神官長のモーガン・ヴェダと面会した。彼からはレオ・ミラーが本物であるとお墨付きをもらった。ただ、神殿で飲んだくれていた竜神オルズが、興味本位で俺についてきた。


 今はシュヴァルツに戻り、じーちゃんの部屋で三人が向かい合っている。

 俺、竜神オルズ、そしてレオ・ミラーだ。


「面倒くさいから帰れ」

「面白そうだから断る」


 オルズはこの調子でカウチに座っている。見た目は金髪に無精髭を蓄えた魅力的な中年男性だ。黙っていればその青い瞳の輝きで、わんさか女性が集まってきそうだ。


 力ずくで追い返すのも面倒だ。仕方なく、ドラゴニュートのレオ・ミラーとの話を再開することにした。


「あんたが敵じゃないと分かった。おまけにさ、モーガン・ヴェダ神官長も、レオ・ミラー、あんたのスパイ活動を知っていた」


「ああ、そうだ。里のニンゲンは全員知っている。知らなかったのは、そこに御座(おわ)す竜神様だけだ」


 レオの言葉で、俺はオルズへ顔を向ける。


「興味があるって言っただろ」


 なるほど。今回の件は、オルズの知らない話だったのか。それで首を突っ込んできたのだろう。


 俺はレオに顔を移して口を開く。


「俺のじーちゃんと魔女(カヴン)マリア・フリーマン、このふたりの目的と行動について教えてくれ」


 その言葉で俺の目を見つめ返す金色の瞳。そこには諦めの感情が見てとれた。


 するとレオ・ミラーがおもむろにペンを取った。何をするのかと見ていると、メモ用紙に「テーブルの裏に盗聴器がある。ここまでの情報をエミリア・スターダストへ流したから、何かアクションを起こすはずだ」と書いた。


 はあ。


 ため息が出そうになってしまった。


 今までの話を聞かれていたのなら、何するか分かんねえぞ、あのクソバンパイアは。オルズへ目をやると、彼も渋い表情。


 盗聴器は、とりあえず念動力(サイコキネシス)で潰しておく。他にもないか、念動力(サイコキネシス)で部屋全体を調べると、やはりあった。それらを全て潰してゆく。俺は素知らぬ顔でレオ・ミラーへ顔を向けると、彼は相も変わらずチンピラのような口調で話し始めた。


「まずは魔王(カオスブレイカー)ヒョータ・イタガキからだ――――」


 じーちゃんは今、地球へ戻っているそうだ。目的は魔術結社実在する死神(ソリッドリーパー)の手伝いの振りをした情報収集。


 探っている情報は、神界に関するもので、こっち(異世界)あっち(地球)で情報の擦り合わせが必要だという。


「そんなことして何がしたいの?」


「神界へ行く方法を探してんだよ。それくらい分かんだろボケ」


 最後の一言はスルーしておこう。こいつの口調は荒っぽいから、いちいち腹を立ててたらダルいし。


「神界なら、俺が――――」


 連れて行けるよ、と言う前に、オルズの大声に遮られた。


「おい、ソータ」


 その青い瞳は「それ以上は言うな」と語りかけている。そういえばオルズも神の一柱。ただ遊惰(ゆうだ)に飲んだくれる人畜無害なイケオジではないのだ。


『そりゃ言い過ぎだ』


 突如オルズから念話が届く。


『……忘れてたよ。神々が俺たちの心を読むって』


『ふはは。そりゃいいけど、神界へ行けるのかお前』


『試したことはないけど、この前の裁判で座標が分かった。ゲートを開けばいけると思うよ?』


『……マジか。それ、誰にも言うなよ。それとヒョータ(板垣兵太)を神界に連れてくるのも止めてくれ。彼が来たら、今の戦争がこじれる』


『あー、やっぱ神界で戦争やってるのね』


『そうだ。これも他のニンゲンに漏らすなよ。お前はもう神の一柱だ。責任を以て行動しろ』


『責任ねえ……。右も左も分からないのに、どうしろってんだよ。神界の法律や規律が分かればいいんだけどさ』


『お前にはお前の正義があるだろ。それに従え』


『法律ないんかい! あと、正義って言葉はあまり好きじゃない』


『まあ、正確には法律ではなく、戒律がある。お前は問題ないから、好きにしろって事だ。ただし、神でないものが神界へ来ることは裁判以外では許されていない。ソータなら来てもいいが、祖父だろうと友人だろうと、絶対に連れてくるなよ?』


 お、振りか? これは振りだな?


『振りじゃねえ。試すようなまねすんな』


 試しに心の中で煽ってみたら、すかさずツッコまれた。


『ああ、分かったよ』


 現世に君臨する神々が戦争やってるなんて知られたくない。そういう事かな。どうでもいいけど、オルズがマジ顔でダメって言うくらいだ。黙って従っておいた方が良さそうだ。


「途中で話すのを止めて、竜神様と見つめ合うな」


 レオ・ミラーからもツッコミが入った。


「すまん。じーちゃんは神界へ行って何をするつもりなの」


「冥界の神、ディース・パテル、死者の都(ネクロポリス)の神、アダム・ハーディング、この二柱を討つ。そう聞いている」


「なぜ神を討つ。その理由は?」


 アダム・ハーディングは、真祖(オリジン)リリス・アップルビーからも狙われている。なんつーか、神々って嫌われ者が多いな。


ヒョータ(板垣兵太)はよく、女神アスクレピウスと戦ったのは失敗だったと言っているが、詳細は知らん。俺はあくまで、ヒョータ(板垣兵太)の信念に共感して協力しているだけの部下だ」


「信念?」


「お前さあ、ヒョータ(板垣兵太)の孫だろ? あの人が何も伝えてないなんて、あり得ない。テメエの人生の中で、ヒントが残されていると思うんだが? 俺の口から聞きてえのか? お?」


「……」


 ムカつく言い方だけど、納得できる側面がある。俺はそもそも、じーちゃんが殺されたと思って、復讐のためにこの世界へ来た。しかしそれは、俺たち研究室のメンバーを呼び寄せるための、周到に計画されたものだった。


 じーちゃんは完成品ではなく、わざわざ試作型量子(クオンタム)(ブレイン)を使用し、俺たちを異世界へ誘った。本来なら国防大臣の指示に従って、日本と異世界を繋ぐ大規模ゲートの発見、及び移住候補地の選定をやっているはずだったが……。


 弥山(ややま)明日香(あすか)が俺に見せた指示書は本物。だけど、じーちゃんはそれに従っていない。


 あー、俺はなんてバカなんだ。


 巨大ゲートの発見に実在する死神(ソリッドリーパー)が付き添っているのなら、大臣の指示通りに動けないと考えるよな。


 しかし、この世界の北極圏にあった巨大ゲートは、ニューロンドンというドーム型の大都市になっていた。


 じーちゃんは、はなから日本と異世界を繋ぐゲート探しなんてやってない。最初から実在する死神(ソリッドリーパー)に協力していたんだ。


 ではなぜ協力するんだ。


 簡単だ。魔女(カヴン)マリア・フリーマンも、神界へ行きたがっている。神への復讐のために。


 じーちゃんのことだ。それに便乗して神界へ行こうとしているのだろう。ディース・パテルとアダム・ハーディングを討つために。


 そうなるとじーちゃんは、冥界の神と死者の都(ネクロポリス)の神を倒そうとする理由があるはず。


「オルズ」


「……な、なんだ」


 名を呼んだだけでたじろぐオルズ。


「ソータ貴様! 様を付けろ、様を!」


 レオ・ミラーはドラゴニュートなので、竜神様に対しての喋り方に文句を付けてきた。


 面倒なので念話に切り替える。


『オルズ。俺の思考、読んでたよな。じーちゃんが千年前、魔王(カオスブレイカー)ヒョータ・イタガキと呼ばれていたことは知っている。そのとき女神アスクレピウスと戦ったことも。んで今回はディース・パテルとアダム・ハーディングに挑むみたいだ。理由を教えてくれ』


『……俺たちはそのふたつの陣営と戦争してるだけだ。だからヒョータ(板垣兵太)の行動理由を聞かれても、はっきり分からん』


『へぇ、じーちゃんのこと知ってたんだ』


『おまっ! 引っかけたな!』


『千年前の禁書を読んだ。竜神オルズは女神アスクレピウスと共に、俺のじーちゃんと戦っていたってさ。脇役だったけどね。推測でいいから、じーちゃんが何したいのか理由を教えてくれ』


 そう伝えると、オルズは恥ずかしそうに、それでいてキリッとした、そんな微妙な顔で見つめ返してきた。


魔王(カオスブレイカー)ヒョータ・イタガキの再降臨には、必ずや深い理由があるはずだ。それは簡単に推察できるさ。お前のじーちゃんは、地球にいる全てのニンゲンを救いたいんだよ』


 それを聞いて少しホッとした。禁書にはなぜ女神アスクレピウスと戦ったのか、信念とかいうフワッとした理由しか書かれていなかったし。


『女神アスクレピウスと、竜神オルズ。二柱の神が、この件を俺に話さなかったのは何でだ?』


『まさか、あの魔王(カオスブレイカー)に孫がいるとは知らなかっただけだ……。それに、前あったときこんな話しして、お前が信じたと思うか?』


『……信じないだろうね』


 弥山(ややま)明日香(あすか)や、じーちゃんから直接聞いた話では、この結論に辿り着けない。そのあと色々経験して初めて、じーちゃんのやりたいことが見えてきた。それは朧げながらも、ニンゲン(・・・・)を救おうとしていると理解出来る。


『追うのは止めておけ。魔王(カオスブレイカー)ヒョータ・イタガキの深謀遠慮(しんぼうえんりょ)は、俺たち神々ですら読み切れないほどだ。ただしこれだけは言える。彼は俺たちと違い、ニンゲンを救おうとしている』


『俺までオルズの仲間みたいに言うな』


『では聞くが、お前はニンゲンを救おうとしているか?』


『……してないね。ある程度の地ならしをして、あとは丸投げだ。何でもかんでも自分でやっちゃ、身が持たないだろ? それより俺には優先事項がある。魔女(カヴン)マリア・フリーマンと、召喚師悪魔を支配するもの( デーモンルーラー )エリス・バークワースを倒すという目標が』


『それでいい。お前は魔王(カオスブレイカー)ヒョータ・イタガキに関わるな』


 おん? なんかうまく誘導された気がする。だけど、それでいいのかも。じーちゃんがニンゲンを救おうとしているのなら、わざわざ探し出す必要はない。魔王(カオスブレイカー)と呼ばれているくらいだ。そんじょそこらの困難は跳ね返してくれるだろう。


『ああ、分かったよ。じーちゃんの計画に口を挟むのは控えておくさ』


『すまんな、これまで黙ってて』


『いいさ。あの当時、いまの話を聞いても混乱してただけだろうし、気遣いに感謝したいくらいだよ』


 オルズは俺の念話を受け取って苦笑い。


 話は終わりだ。さっさと帰れ。


『断る』


 うむー。思考はずっと読み続けられている。やりにくいから帰って欲しいんだけどな。


『いいだろ、たまには』


『たまにでも、心を読まれるのは嫌なんだよ。神様ハラスメントで訴えるぞ』


『しょうがないだろ。俺たちは元からそうやってコミュニケーションとってるんだから』


『嘘が通じないってことか』


『だな。しかし、ディース・パテルとアダム・ハーディングは別。奴らの配下も同じで、心が読めない。そのせいで戦争になったんだがな』


『ほーん。読心術をブロックする方法もあるんだな』


『……失言だ。黙ってろよ?』


『ああ、分かってる。あと、さっさと帰れ』


『断る』


 話にならん。まあ、邪魔にならないならいいけどさ。



「ソータ・イタガキ、お前いい加減、気持ちわりいぞ? いつまで竜神様を見つめてんだ?」


 ああ、レオ・ミラーが居たんだった。こいつは念話できないのかな? いや、確かめるのは止めておこう。オルズと割と大事な話してたし、それを聞かれちゃ困る。


「というわけで、レオ・ミラー、あんたエミリア・スターダストがどこに居るか知ってるか?」


「……居場所なら知ってるぜ? いまは港の倉庫で、デモネクトスの検品やってるはずだ。というか、何するつもりだ?」


「とっ捕まえて滅ぼす」


「はあ?」


「依頼を受けてるんだよ、冒険者として」


「誰に?」


「依頼主を言うわけ無いだろ」


 エミリア・スターダストは、女帝フラウィア・ドミティラ・ネロの治める、ルーベス帝国の件からずっと追っている。マラフ共和国、北極圏のニューロンドン、スタイン王国と。


 魔女(カヴン)マリア・フリーマンにちょっかいを出すと、じーちゃんに迷惑がかかりそうなので、当面は放置しよう。


 悪魔を支配するもの( デーモンルーラー )エリス・バークワースは、冥界にいると聞いただけで、探しようが無い。


「エミリア・スターダストを滅ぼすのは、待ってくれないか?」


「……理由は?」


「デモネクトスは、デーモンが憑いてもバンパイア化しても、ニンゲンの意識を保てるし、その能力を引き継げる、いいとこ取りの薬だ。スターダスト商会は、それを一手に担ってるからな。代表のエミリアが倒れたら困る。それくらい分からねえのかボケが」


 うーむ。最後の一言は流しておこう。


 しかし面倒だな。悪逆非道の行いをするエミリア・スターダストが、ニンゲンを救うためのデモネクトスを扱っているとはね。まあ、魔女(カヴン)マリア・フリーマンの指示だろうけど。


「エミリアの行動には、何か裏があると考えてるんだけど、その辺どうなの?」


「そりゃ当然調べたさ。舐めんなよボケが。やつはスウェーデンの製薬会社を買い取って、デモネクトスを生産している。ヴェネノルンを遺伝子組み換えし、その血液からデモネクトスを生産する国際特許まで取ってんぞ」


「認可されているってことか。てか、レオ・ミラー、あんた地球にも行ってんの?」


「ああもちろん。魔王(カオスブレイカー)ヒョータ・イタガキ様から下賜された量子(クオンタム)(ブレイン)液状(リキッド)生体分子(ナノマシン)を移植してるからな。自分でゲート開けるぜ?」


「そうかよ」


 俺たちの研究成果なんだけど、黙っておこう。


「で、エミリア・スターダストに関しては、納得したかボケ」


「理解したけど納得はしてない」


「……へえ。じゃあ、どうするつもりだ」


「代役を立てたあと、滅ぼす……つもりだ」


「どういうことだ?」


「まあ、その人物(人工知能)に聞いてみないと分からん。その答え次第で、エミリアには退場してもらって、ヒューマノイドに後を継がせる」


「ヒューマノイドに、エミリアの代役が務まるわけないだろボケが」


「まあ、そう言うな。ちょっと待ってね」


 そう言うと、疑いの眼差しを向けるレオ・ミラー。金色の瞳で俺を射殺すかのように。それをシカトして念話を飛ばす。


ハセさーん(汎用人工知能)


『なんじゃろか』


 このレスポンスの早さは相変わらず。


『ちょっとお願いがあるんですけど、ハセさん(汎用人工知能)って、いろんなヒューマノイドやホムンクルスを制御してますよね。一体借りることは可能ですか?』


『使い道にもよるかな。ソータくん、いまスタイン王国のシュヴァルツにいる?』


 うお。いきなり場所特定された。


『ええ、シュヴァルツにいます』


『スターダスト商会の代表エミリア・スターダストを排除するんだね。その代役のヒューマノイドが必要になった。これであってるかい?』


 久し振りに背筋が寒くなる思いをした。今のは察するどころの話じゃないぞ。元々この状況を把握していたとしか考えられない推論能力。ハセさん(汎用人工知能)の能力はどこまで伸びるのだろうか。


『ええ、あってます! エミリア・スターダストを排除したあと、スターダスト商会を任せられるヒューマノイドが必要なんです』


『わかった。至急送るよ』


『送る?』


 念話でオウム返しに聞き返すと、背後に突然なに者かの気配(・・)を感じた。


「こんばんは、エミリア・スターダストです。指示を与えて下さい」


 振り返るとそこには、エミリア・スターダストと寸分変わらないヒューマノイドが立っていた。送るって、物体を転移させるって意味だと分かって、もう一度背筋が寒くなる。


 ハセさん(汎用人工知能)が魔法まで操れるようになったのなら、世界征服さえ容易いだろうね。この事態を予見し、ヒューマノイドまで準備していたということだし。その先見の明に恐れ入ります。


 そんな思いが頭をよぎる中、オルズとレオ・ミラーの様子を窺うと、目を見開いてあんぐりと口を開け、呆けた表情のまま固まっていた。


 ふははは。ハセさん(汎用人工知能)の能力に驚嘆せざるを得ないだろ!


 窓の外からは月明かりが差し込んでいた。


 さて、エミリアを殺しに行こう。

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