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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
13章 デモネクトス

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268 マールア解放

 たった今会った貴族三人の話を、俺はすぐには信じない。そんなお人好しではない。


 ミッシーたちから話を聞いたあと、念話を飛ばしてバンダースナッチに戻っていたテイマーズやメリルにも確認した。メリルは落ち込んでいたが、体に異常はなさそうで一安心した。


 瓦礫と化したマールアの街で、俺は立ち尽くす。真偽はどうあれ、事態を把握するために、貴族三人の話を整理しよう。


 この街の領主だったフリードリヒ・フォン・ローゼンバッハ辺境伯は、目の前で拘束しているハインリヒによって殺害された。


 地下の広場で肉塊になっていたものは、やはりフリードリヒ卿だった。


 ハインリヒは、カール・フォン・ヴァイセンブルク辺境伯の息子である。

 この二人は、デモネクトスを飲んだデーモンだった。


 マールアの街では、他にデモネクトスを飲んだデーモンがいなかったため、俺たちのパーティーが容易に勝利を収めた。あと数体でもデモネクトスを飲んだデーモンがいれば、メリル以外にも犠牲者が出ていたかもしれない。


 彼女がダンピールになって、本当に良かったと思う。ドワーフではなくなったことを嘆く彼女には申し訳ないが、そのおかげで死なずにすんだ。


 新たな問題、デモネクトス。これがどんなものなのか調べなければならない。放置すればこの世界全体によくない影響が出る。デーモンやバンパイアが神の目に触れることなく跋扈(ばっこ)する。そんな未来は何としても食い止めなければならない。


 そのデモネクトスを飲んだデーモンのふたりは、意識も振る舞いもニンゲンのままだ。だから親子の情愛があってもおかしくはない。


 デモネクトスはカール卿の物言いから、存在が確定している。出処はどこだ。


 考えに没頭していると、カール卿の諦念に満ちた声が響く。


「ジェイソン・マッカーシー」


「誰それ?」


「ソータ・イタガキ、貴様の言う魔術結社実在する死神(ソリッドリーパー)の一員で、スターダスト商会の幹部だ」


「ほぉん……。つまり、ジェイソン・マッカーシーという人物が、デモネクトスを地球から運び込んでいると」


「その通り」


 息子のハインリヒが喋った情報を否定したくせに、急に態度を変えてきやがった。


 カール卿と息子のハインリヒ、双方共に念動力(サイコキネシス)で拘束中だ。魔法もスキルも封じているので、いつでも握りつぶせる。それで観念したのだろうか。カール卿は憑き物が落ちたような、すっきりとした表情になっている。デーモン憑きには変わりないけど。


「そのジェイソンが、レオンハルト・フォン・スタイン国王と懇意にしている。それで間違いないか」


「そうだ」


「エミリア・スターダストは?」


「ほとんど見たことがない」


「では、ヨーロッパから運び込まれている物資とは何だ?」


「メタルハウンドと四本脚、デモネクトス、様々な機器、そして大勢の移民だ」


「移民……? それはデーモン憑きなのか?」


「地球に住む一般的なヒト族だ。彼らにデモネクトスを飲ませたあと、この世界のデーモンを憑かせている」


「移民全てにか?」


「……そうだ。初めはデーモンの能力だけを感じられるが、いずれデーモンに変化する」


 この状況に頭を悩ませる……。ミッシーたちの方を見ると、悲痛な面持ちで話を聞いている。彼女たちは地球の現状を知り、地球人がこの世界へ逃げ込んでいることも知っている。


 新天地だと思って異世界へ来て、デーモンに憑かれるとはなんという皮肉だ。デモネクトスを飲んで、ハインリヒやカール卿のような強力なデーモンへ変化するのだ。



 ……いやまてよ。


「カール卿、あんたもヒト族だよな。デーモンが憑いてるのに、何で意識を保っていられるんだ?」


「デモネクトスの効果だ。ヴェネノルンの血をチキュウ(地球)イデンシギジュツ(遺伝子技術)で、作り変えてると聞いている」


「へぇ……。遺伝子組み換えか」


 地球の遺伝子組み換え技術は、温暖化が進むにつれ、規制が緩和された。世界中で気温が摂氏六十度を超す地域が増え、農作物の栽培が不可能となる地域も増加したためだ。それゆえ遺伝子組み換え技術を利用して、高温でも健全に育つ農作物が開発された。


 遺伝子組み換えの反対運動も起こったが、飢えに勝る道理はない。そうした運動は迅速に消滅した。


 それは飢えを凌ぐため、という大義名分を与える結果となった。遺伝子組み換え技術は、家畜にも応用されていったのだ。

 今や元の遺伝子を持つ家畜は、希少種と言われる始末である。


 現在の地球なら、聖獣ヴェネノルンの遺伝子を組み換え、新たな種を作り出すことなど朝飯前だ。


 そんな事をするのは、やはり実在する死神(ソリッドリーパー)の仕業だろう。仮に製造していなくても、地球からデモネクトス運び込み、スターダスト商会が取り扱っていればアウトだ。


 カール卿の言う、ジェイソン・マッカーシーなる人物を押さえなければならない。


 色々考えていると、ミッシーが何か言いたそうな顔で俺を見ていた。


「ソータ、シュタインブルク子爵から話があるそうだ」


「ソータ・イタガキ。今回は感謝する。ヴァルターと呼んでくれ」


 そういえば、挨拶もしてなかったな。ヴァルター卿は白人の男性で、五十代。白髪交じりだが金髪のせいでほとんど目立たない。疲れ果てた表情だが、目の奥には強い意志が見て取れる。


「ソータ・イタガキです。いまは冒険者として依頼を遂行中なんで、失礼があった点、お詫び申し上げます」


 握手をしながら、ヴァルター卿は話を続ける。


「そこで相談なのだが……。そこのふたりは討たないでほしい」


 彼は握手をしたまま、カール卿とハインリヒへ目をやる。


「はい?」


 このふたりはデーモンだぞ……。なにより、ここの領主を殺害し、街を壊滅させた主犯だ。


「言いたいことは分かる。しかし、彼らを見たところ、ニンゲンと変わりがないだろう? 今話していたデモネクトス、これは私が王都にいるときから効果を知っている」


「つまり、デーモンに取り憑かれていても、ニンゲンとしての意識が残っているから平気だ、そう言いたいんですか?」


「その通り。彼らがいなくなれば、マールアの街の再建もできなくなってしまうだろう」


 めちゃくちゃなこと言ってるなあ……。デーモン憑きだぞ? 中身はデーモンだぞ? 意識がニンゲンでも、デーモンの力を持ってるんだぞ? それも、そこら辺にいるデーモンと一線を画す強さだぞ? こんなのが十人暴れたら、街の一つや二つ簡単に壊滅させることができる。


「それがどういう意味か、分かって言っているんですか?」


「ああ、もちろん。チキュウからの移民も、とてつもない強さを見せていたが、意識はニンゲンのままだった。憑いたデーモンを完全に従えていたよ」


 楽観視しすぎでは、と思う。けれどヴァルター卿の目には、自信が満ちている。


「フリードリヒ・フォン・ローゼンバッハ辺境伯の死亡に関しては、どうお考えで?」


 そこのハインリヒが殺害したんだぞと、視線を飛ばす。


「死んでしまったものは仕方がありません。子爵とはいえ、私はスタイン王国の貴族です。国王陛下の命には背けません」


 何を言ってるんだこいつは。国王のレオンハルト・フォン・スタインもデーモンだろうが。


「ああ、そうか。ヴァルター卿も国王がデーモンだと知っているんですね」


「いかにも。陛下はデーモンを完全に従えています。チキュウからの移民も、みな喜んでデーモンの力を受け入れております」


「分かりました。では彼らを解放いたします」


 なーんか怪しいんだけど、相手はこの国の子爵。俺は一冒険者。やんわりと言っているけど、彼の発言には気を付けねばならない。変に背こうものなら、あらぬ罪を着せられかねない。


『これでいいよな?』

『ギリギリ及第点だ』


 ミッシーへ念話を飛ばすと、即座に返事が返ってきた。彼女はエルフの族長をやっていたし、母親のエレノアは艦隊司令をやっていたほどだ。こういった貴族の腹芸にも通じているのだ。


 マイアとニーナも、了承の意を伝えてきた。彼女たちも修道騎士団クインテットの一員。貴族関連にも詳しい。


 ゆっくりと念動力(サイコキネシス)を緩め、カール卿とハインリヒを解放する。暴れ出さないか確認したのち、スキル〝魔封殺(アンチマジック)〟と〝能封殺(アンチスキル)〟も解除した。


 ミッシー、マイア、ニーナ、三名はそれとなく後ろへ下がって、身構えている。いつ何があっても、対処できるように。


 しかし、ヴァルター卿、カール卿、ハインリヒの三名は、特に何をするでも無く、感謝の意を伝えてきた。


 これからどうするのかと聞いてみると、少しずつマールアの街を復興するという。王都ランダルから毎日兵が送られてくるので、人手は足りているそうだ。


 街を破壊したのはカール卿だけどなー。


 貴族って理不尽だよな。


 罪の意識とか感じないのかな。


 ……そうじゃないかも。デーモンを従えていると言っても、その性質が引き継がれるのかもしれない。現にカール卿を蹴ったとき、鉄の塊のような感触があった。肉体があれだけ強化されるのなら、精神にも影響が及んでいてもおかしくはない。


「マールアの街の復興はどうされるつもりで?」


 俺の問いにカール卿が答えた。


「戦争どころじゃなくなったからな。まずは臨時で寝泊まりできるキャンプ地の選定、および食料と生活必需品の確保だ」


「サンルカル王国へは攻め込まないと?」


「王命であっても、出来ないことはある。この領都を再建する方が先だ」


 おいおい。真逆のことを言い始めたぞ。獰猛なデーモンの意識から、真面目なニンゲンに一変した。……うーん。今の段階ではこれが本物なのかハッキリと判断出来ないな。


「では、これで失礼します。色々とお世話になりました」


 違和感を抱えながらも、俺たちはヴァルター卿たち三人と別れた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 バンダースナッチへ戻り、パーティー面子全員の無事を確認。一時はどうなるかと焦ったが、メリルはいつもと変わらない様子で安堵した。


 いまは、今後の方針を話し合うため、ブリーフィングルームに集まっている。注目を浴びているので、簡潔に説明しよう。


「当初の目的だった、エミリア・スターダストは見つからず、俺のじーちゃんは探す暇もなかった。けど、ルイーズ(ユハ・トルバネン)を捕らえる事が出来たな」


 ルイーズは時間を止めたまま倉庫に押し込んでいる。


「デモネクトスを取り扱っているスターダスト商会。そこのジェイソン・マッカーシーってやつを捕まえれば、エミリア・スターダストの居場所も分かるだろ。とりあえず、全員無事で良かった。今はそれでよしとしようか」


 茶を飲みながらのほほんと言い放つファーギ。それを見たアイミーが噛み付いた。


「あ? こらクソジジイ、お前が謹慎してなかったら、もっと楽に戦えたんだぞ! メリルがやられるって、相当ヤバい相手だって分かってんだろうな! ダンピールじゃなかったら、死んでたんだぞ!」


「やめろって、アイミー」


 席を立ってファーギへ向かっていくアイミーを、ジェスが羽交い締めにして制した。アイミーは諦めずに足をばたつかせている。まあ、気持ちは分かる。けど、謹慎を言い渡したのは俺だ。


「アイミー。ファーギをバンダースナッチに留めたのは俺だ。メリルがやられた責任は俺にある。心置きなく殴ってく――――」


 ――――ゴッ


 言い終わる前に、アイミー、ハスミン、ジェス、三人のパンチが、俺の顔面を捉えた。気が早すぎるだろ。あと、本気で殴ってきやがった。久し振りの激痛に襲われながら、俺は頭を下げる。もちろんパーティーの面子全員に向けて。


「今回は済まなかった。変に分散させず、一カ所に集中して事に当たれば良かったと反省してる」


「けっ! 分かりゃいいんだよ」

「次はねえからな」

「さすがに今回は、僕も頭にきました」


 テイマーズの三人はそう言って椅子に座る。良くも悪くも、彼らの竹を割ったような性格は分かりやすくて好ましい。


「殴るのはやり過ぎだと思うが、けじめだ。黙って受け入れたのは、さすがだな」


 微妙な空気となったブリーフィングルームは、ミッシーの言葉で再び活気づいた。


 するとマイアとニーナが、テッドに連絡を取りたいと言い出した。断る理由もないので、操縦室へ送り出す。まだ戦争が終わったわけではないので、マールアの状況を伝えるそうだ。


「ソータはどうするつもりだ」


「へ? ……ああ、じいちゃんね。さっきまで王都ランダルの冒険者ギルドにいたんだけど、朝飯食ってるときに連絡来たからね。何も分かってないよ」


 まだ昼だ。今日はなんとも濃密な時間を過ごしているな。


「王都ランダルへ向かうか?」


 ミッシーの問いに俺は頷く。じーちゃんの件もそうだけど、ジェイソン・マッカーシーなる人物を捕らえなければ。こいつがスターダスト商会の幹部なら、デモネクトスの仕入れ先や製造元を知っている。ひいてはエミリア・スターダストの居場所も判明するだろう。


「国王のレオンハルト・フォン・スタインに会う。公式には無理だろうから、こっそり行ってくる」


 スターダスト商会と懇意にしているのなら、国王に聞くのが早道だ。デーモン化してニンゲンの意識を保っているのなら、という前提ありきだが。


 すると心配げな顔でミッシーが話しかけてきた。


「ひとりで行くつもりか?」


「ああ、ひとりで行く。ミッシーたちはサンルカル王国へ戻って、物資の補給を頼みたい。おそらく地球へ行くことになるから、食糧とか山盛り買い込んでおいて欲しい」


「……そうか。そうか?」


「なんで二回言うし」


「いや、何でもない」


「また連絡するから」


「あ、おい、もう行くのか」


「そそ。急いだ方がいいと思う」


「……分かった。気を付けていってこい」


 その言葉を聞いて、俺は転移した。

13章これにて閉幕。次話より14章デーモンの国王です。


ここまでお付き合いいただいてありがとうござます。

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