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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
13章 デモネクトス

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267 地球人の影

 デーモンを次々と滅ぼしていたテイマーズの三人は、マールアの街で、貫通能力の高い黒線の攻撃から辛うじて逃れていた。


『ヤバいヤバい。オッサンが残してった影魔法、全部やられちまった』

『それえっ! おまけにめちゃくちゃ速いし、でかい!』

『けど、残り一体だけだよ。なんとか頑張ってみる?』


 アイミー、ハスミン、ジェスの三人は、デーモンの放つ黒線に追い詰められていても、戦う意欲は失わなかった。身にまとったスライムの力を借りて、反撃に転ずる。


 三人に張り付いているダイヤモンドスライムが、いくつもの幻影を生み出す。それはテイマーズ三人の姿で、見分けがつかないほどそっくりだ。その幻影は、巨大なデーモンへ襲いかかっていく。


「俺はカール・フォン・ヴァイセンブルク辺境伯。幻影ごときで騙されると思うな!」


 巨大なデーモン――カール卿――はゴロゴロとした声で叫び、一歩も動こうとしない。ダイヤモンドスライムの幻影だと、最初から見抜かれていた。


 テイマーズは幻影に紛れ、爆裂火球(エクスプロージョン)を放つ。これは身体に張り付いているルビースライムの力である。


 だが、カール卿が手を振ると、突風が発生し、爆裂火球(エクスプロージョン)は方向を変えて空で大爆発を起こした。


 その爆風はテイマーズの三人をも吹き飛ばす。


『きゃっ!?』『ぴゃっ!?』『うひっ!?』


 いつも口の悪いテイマーズだが、かわいらしい悲鳴を上げて、遠くへ飛ばされていった。


 だが、彼女たちに張り付いているオパールスライムが力を発揮し、クルクルと空を舞う彼女たちの体勢を風魔法で整えた。


 空中に浮かぶ三人。


 それは絶好の標的になってしまったことを意味していた。


 デーモンはニヤリとする。その顔はデーモンではなく、元のカール卿の顔に変化していた。


「色物ドワーフよ。残念だったな」


 流暢に喋り始めたデーモンは、テイマーズに手をかざす。


 それは黒線を放つ前の動作だ。


 テイマーズの三人は、それを見た瞬間、ガーネットスライムに命じた。


「ぐああっ!?」


 デーモンの周囲に球状の電場が発生し、その中に紫電が走る。バリバリと音を立て、デーモンのあらゆる部位に、小さな雷が落ちている。筋収縮を起こしたカール卿は、仰け反って四肢が動かせなくなっていた。


 好機到来とばかりにテイマーズは、追撃をかけようとして踏みとどまる。慌てて風魔法で移動すると、いまいた場所を黒線が薙ぎ払った。


 カール卿は筋収縮に逆らい、無理矢理身体を動かしている。メリメリと音を立てるデーモンの身体。それは様々な箇所の筋繊維が断裂している音だ。


「この身体の使い方が分かってきた。冥導(めいどう)の流れもよく感じられる。さすがだな、チキュウ( 地球 )イデンシギジュツ( 遺伝子技術 )とやらは」


 電場の中で自身の手を見つめるカール卿。ふと顔を上げ、テイマーズが視界から消えていることに気付く。


「なんとも心地よい身体だな」


 カール卿もまた、息子のハインリヒと同様に、憑いたデーモンを従えてしまったらしい。彼から冥導(めいどう)が吹き出し、球状の電場を吹き飛ばした。


『ヤバいね』

『せっかく、色んなスライム呼べるようになったのに、全然歯が立たないじゃん』

『どうしよう……。あのデーモン、放っておけば何するか分かんないし』


 アイミー、ハスミン、ジェスは、離れて瓦礫に隠れ、カール卿の動きを見守っていた。三人は念話で話し合うも、結論は出ない。


『お前たち、いったんバンダースナッチへ戻れ。こっちから見ているが、相手が手強すぎる。メリルもやられたからな』


 そこへファーギからの念話が届く。


『メリルがやられたって、どういうこと?』

『それだけこのデーモンが強いってこと?』

『何にせよ、おいらたちは、逃げることで生き延びてきた。じじいの言うとおり、さっさと逃げよう』


 ジェスが結論を下すと、彼女たち三人の姿が消えた。転移リング(トランスポーター)を使ったのだ。


 隠れて姿の見えなくなったテイマーズを探し、瓦礫を探し回るカール卿。彼の姿はすでにニンゲンの姿で、大きさも変わらない。ただし、デーモンに変化したとき、服がはじけ飛んでいるため、カール卿は裸で動き回っていた。


『出てこい。俺の軍を壊滅させた色物ドワーフ』


 瓦礫をどかすカール卿は、頭上から聞こえる異音に空を見上げた。青く澄み切った朝の空に、小さな点が見えている。それはみるみるうちに大きくなっていく。


「ぬう……」


 彼はニンゲンが落ちてきていると気付いた。


 ――――ズドン


 間一髪それを避けたカール卿は、巻き上がる粉塵の中に動く影を見た。素っ裸のカール卿は、つばを飛ばしながら、影に向かって叫んだ。


「貴様はソータ・イタガキッ! どこから現われた!!」


「空からだよ、クソボケが」


 ソータはバンダースナッチから飛び降りてきた。彼に表情は無く、ニンゲンとは思えないほど声に抑揚がなかった。


「それくらい見れば分かる。では質問を変えよう。俺の兵を壊滅させた色物ドワーフはどこへ行った。素直に言えば、楽に殺してやる」


「断る。それと、あんたヴェネノルンの血を飲んでるみたいだが、何でヒト族の姿に戻ってる」


「そうか。……では死ね」


 カール卿はソータに向けて手をかざし、そこで表情が変わった。慌てるような、まごつくような、そんな顔だ。


「貴様っ!! 何をした!!」


 黒線の攻撃ができないと分かり、カール卿は激昂する。


 そして彼は腰を落とし、ソータに向かって駆け出した。


 拳を握りしめ、振りかぶる。


「身体能力も、大きく上がるんだ」


 ソータはそう言いながら、突っ込んできたカール卿をひょいと躱して、足をかける。


「ぐあっ!?」


 カール卿はバランスを崩し、地面に顔面から叩きつけられ、勢いよく地面を滑っていった。彼は悲鳴を上げて、血まみれになった顔を上げる。何が起こったのか理解できていないようだ。


「頭は良くならないんだな」


 そう言ったソータは、うずくまるカール卿の顔を蹴り上げる。


 縦回転したカール卿は白目を剥いて再び地面に叩きつけられた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 俺のサッカーボールキックで、意識を飛ばしたカール卿。スキル〝魔封殺(アンチマジック)〟と〝能封殺(アンチスキル)〟を使って、身体能力を見ていたのだが……。素手の格闘技大会では簡単に優勝できるだろう。もちろん異世界基準だが。


 いま分かっているのは、カール卿の姿がヒト族であること、デーモン憑きであること、ヴェネノルンの血を飲んでいること、この三つだ。


 上空から見ていた限り、テイマーズの三人はデーモンを軽々と滅ぼしていたが、こいつは違う。ヴェネノルンの血を飲んだとしても、皮を脱ぎ捨ててデーモン化すれば、ニンゲンへ戻ることはできないはずだ。


 しかし実際はどうだ。目の前で意識を失っているカール卿は、ニンゲンの姿へ戻っている。


「がはあっ!?」


 カール卿の横腹を蹴り飛ばして起こす。肋骨は折れず、鉄の固まりでも蹴ったような感覚だ。つまりニンゲンの姿のまま、デーモンに変化した。……あるいは、ニンゲンの意識を持ったまま、デーモンを従えた。


 どちらが身体の主導権を握っているにしろ、これは由々しき事態だ。


 冥導(めいどう)闇脈(あんみゃく)、これらでニンゲンでは無いと判断しなければならないのに、ヴェネノルンの血を飲んでいるため、どちらも察知できない。


 ファーギの改造ゴーグルで見ても、カール卿は黒く変わらない。


 判別不可能ということだ。


 おとなしい少女が、実はデーモンでした、なんて事態も起こりうるな。バンパイアであれば、スキル〝変貌術(シェイプシフト)〟を使われたら、もう探しようが無い。


「き、貴様っ! 俺はこの国の辺境伯だぞ!! ただで済むと思うなよ!!」


「あっそ。今の状況で威嚇しても意味ないって分かってる?」


 念動力(サイコキネシス)を使って、カール卿を持ち上げる。


「な、なんだこの力はっ!!」


「いちいちうるさい」


「があああっ!!」


 念動力(サイコキネシス)を少し強めて締めあげると、大人しくなった。


「ちょっと質問。スターダスト商会で、ヴェネノルンの血の新製品が販売されてると聞いたんだよね。入手先を教えて欲しい」


 そんな新製品、聞いたこともない。俺の作ったでっち上げの引っかけ問題だ。


「教えるわけが無いだろう……」


 あるんだ……。


「へぇ……。王都ランダルで販売してるって聞いたんだけど、カール卿の指示で買いに来たって言いふらせば、冒険者ギルドで教えてくれるかな……」


「そんなことをして、俺がデモネクトスの入手先を話すとでも? 辺境伯として、長年アルトン帝国との国境を守ってきた俺に! くはは、間抜けなやつだ」


 ……デモネクトス。ヴェネノルンの血には、デーモン化したニンゲンを元に戻すような効果はないから、新しい商品が出回っているということだ。出任せの引っかけだけど、間抜けはお前だよ。


『ソータ、大丈夫か? いま向かっている。この国のヴァルター・フォン・シュタインブルク子爵と一緒だ』


 丁度いいタイミングでミッシーからの念話だ。


『ああ、大丈夫。戦争の実行犯、カール卿を捕まえたところだ』


 駆け足でこっちへ向かってくるミッシーとマイアとニーナ。それに少し遅れて走っている中年男性。彼がシュタインブルク子爵だろう。


 ――だが。


『ミッシー、マイア、ニーナ、背後から追いかけてきているデーモンは何?』


 彼女たちのもっと後方、遠くに見える屋敷から一直線に駆けてくる灰色のデーモンがいる。それはまたたく間に裸の男性へ変わり、黒い剣を何処からともなく出現させた。


 俺の念話を聞いたミッシーたちは急停止。シュタインブルク子爵をこちらへ走らせ、デーモンを迎え撃つ構えを取る。


『あのデーモン、蘇ったのか』『でもどうやって……?』『また倒せばいいんでしょ』


 ミッシー、マイア、ニーナと念話が続く。蘇ったって何だ? 状況を聞きたいが、ミッシーたち三人とデーモンは、すでに戦闘を開始していた。


 というか、デーモンが蘇るって、ヒュギエイアの水をかけ忘れたって所か。いやいやまさか、あの三人がそんなミスするわけない。


 ……いや。ヴェネノルンの血――デモネクトスを飲んだデーモンなら、バンパイアの特性を引き継いでいるのかもしれない。魂の叫び(ソウルコール)って魔法があるくらいだし。


「どうした。デモネクトスの入手先は死んでも話さんぞ。スタイン王国の辺境伯を侮るな」


 カール卿がうるさい。彼は俺と向き合っているから、ミッシーたちを確認できないのだ。


「ほれ見てみ。デモネクトスを飲んでも、結局討伐されるんだよ。あの三人めちゃくちゃ強いからな?」


 念動力(サイコキネシス)を操作して、カール卿に何が起きているのか見せてやる。


「くっ!?」


 お? なんだなんだ。カール卿はこれまで余裕の表情を見せていたが、ミッシーたちを見た瞬間焦り出した。ぐっと引き寄せてカール卿の顔を覗き込む。しかし彼は俺の顔を見ようともせず、ミッシーたちの方へ顔を向けた。


 カール卿の視線を追うと、素っ裸の男――デーモンに視線が固定されていた。


『ソータ! 手伝ってくれ!!』


 何もしない俺に業を煮やして、ミッシーからお叱りを受ける。素っ裸の男の持つ黒い剣は異常に強く、マイアの収束魔導剣を受け止めているほどだ。


 背後から斬りかかるニーナのシヴ(神威の短剣)に反応し、振り返りざまにそれを弾き返す。おいおい、シヴ(神威の短剣)が折れたぞ……。


 ミッシーの祓魔弓(ふつまきゅう)ルーグも、魔力の白い矢が不自然に軌道を変えていた。


 突然現れたニンゲンの姿をしたデーモン。そんな相手にミッシーたち三人が苦戦するとは。


『ちょっと待ってね』


 あの黒い剣にまとわりつく何かの力場をよく見てみる。


 ……ふうん。あの力、俺の念動力(サイコキネシス)と同じだ。


 これまで似たような使い手が、バンパイアにひとりいたな。あれは俺の念動力(サイコキネシス)の劣化版みたいだったけど、素っ裸の男が使うものは完全なもの。


 俺は念動力(サイコキネシス)で素っ裸男を掴んで、引き寄せる。同時にスキル〝魔封殺(アンチマジック)〟と〝能封殺(アンチスキル)〟を使用して捕縛完了。


 これで念動力(サイコキネシス)も魔法も使えない、ただ力が強い裸の男となった。……いや、中身はデーモンか?


「ハインリヒ!」

「父上!」


 ん?


 素っ裸の男ふたりは、親子だったのか。その表情や仕草を見れば、中身がデーモンでも、意識はニンゲンだと言わざるを得ない。


 これはデモネクトスの効果なのか。すごい勢いでふたりは話している。戦況がどうだとか、フリードリヒ卿がどうだとか、まるでニンゲンじゃないか。


「ちょっと黙ってね――」

「ぐっ!?」

「がはっ!?」


 念動力(サイコキネシス)で締め上げて、問いかける。


「親子で歓談中のところ悪いんだけどさ、息子のハインリヒに聞きたいことがある。デモネクトスを販売している、エミリア・スターダストはどこにいる?」


 そう言って父親のカール卿を締めあげる。


「うがああっ!?」


「や、やめてくれっ! エミリア・スターダストとは会ったことがない。しかし聞いた話だと、スターダスト商会は、レオンハルト・フォン・スタイン国王と懇意にしているそうだ!」


 あれ? 簡単に吐いたな。あんなことやこんなことやるつもりだったのに。


「ヴァイセンブルク辺境伯。あんたの息子が言ったのは本当か?」


「そんなの嘘に決まっているだろ――うがあっ!?」


「ち、父上っ!! そこの冒険者の方、僕の言っていることは本当です!!」


 うーむ、分からん。親子間での愛情的なもの、あるいは保身で、本当のことを言っている可能性、その逆もまたあり得る。


 なんて拷問まがいのことをしていると、ミッシーたちが到着した。


「はぁはぁ、あなたがソータ・イタガキさんですね」


 ヴァルター・フォン・シュタインブルク子爵が、息を切らせながら話しかけてきた。俺が頷くと彼は怒濤の勢いで話し始めた。


 この街の領主、フリードリヒ・フォン・ローゼンバッハ辺境伯が、王命にて参じたカール・フォン・ヴァイセンブルク辺境伯によって街が占拠されていたとか。


 細かい状況まで話を聞いて、この街の状況がやっと理解できた。


 この国の国王、レオンハルト・フォン・スタインがデーモンであること。


 ハインリヒの言う、スターダスト商会と国王が懇意にしていること。


 これらはすべて事実だった。


 そして、王都ランダルには、ヨーロッパから大量の軍事物資が運び込まれていることも判明した。


 これにじーちゃんが関わってないことを祈ろう。


 とりあえず、もっと情報を聞き出した上で、王都ランダルへ向かおう。

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