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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
13章 デモネクトス

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264 シスコン

「ふはははっ!! 撃て、撃て、皆殺しにしろ!!」


 カール卿は、マールアの街が砲撃によって破壊されていく様子を楽しんでいた。その愉悦に歪んだ顔から、灰色のデーモンが時折姿を現す。


「城壁に常駐のメタルハウンドと四本脚、出撃準備が完了いたしました!」


 兵のひとりがカール卿に進言する。


「全機出撃せよ。領民であれバンパイアであれ、関係ない。ソータ・イタガキのパーティーもろとも殺せ」


 カール卿は冷酷な笑みを浮かべながら命令を下した。城壁に等間隔で並ぶトーチカから、高出力の魔石砲が放たれる。本来守るべき対象を攻撃しているのだ。民家や商店、広場の噴水や教会、様々な建築物が次々と破壊される。それには遠く離れたフリードリヒ・フォン・ローゼンバッハ辺境伯の城も含まれていた。


「カール卿! お願いがございます!」


 側仕(そばづか)えのデーモンが片ひざをついた。


「なんだ。……言ってみよ」


 返事をするカール卿の顔には、せっかくの楽しみを邪魔するなと書き記されている。その表情を見ても側仕えの男は怯まずに進言を続ける。


「城にはソフィアがおります! これより救出に参りますので、許可をお願いしたく」


 側仕えは片ひざから土下座に変わり、額を床にこすり付けた。


「……この俺、カール・フォン・ヴァイセンブルクの息子、ハインリヒよ。俺も貴様も、すでに中身はデーモン。貴様の妹、ソフィアもデーモンだ。やつが生きようが死のうが関係あるまい」


「しかし、それでもっ!!」


 カール卿と、彼の側で仕える息子ハインリヒ、そしてその妹ソフィア。彼らはデーモンに取り憑かれる前は、一つの家族であった。だが、今はそうではない。


 それにも関わらず、ハインリヒは、妹ソフィアを救いたいと願う。


 カール卿はそれに違和感を持ちつつも、ソフィア救出の嘆願を許可した。


「興が削がれた。勝手にしろ」


 面倒くさげな表情で、カール卿は側仕え――ハインリヒ――を送り出した。


「はっ! ありがとうございます!!」


 デーモンが憑依しているのに、ハインリヒはあまりにもニンゲン臭い表情でトーチカを飛び出していった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 どこに隠れていたのだろうか。疎開せずに残っていた街の住民たちが、慌てて避難を始めていた。しかしそんな彼らの背中を撃つものがいる。


 メタルハウンドと四本脚だ。


 それらは逃げまどう住民を執拗に追いかけ、殺害してゆく。


 マールアの街は、地獄と化していた。


 トーチカ内の兵たちは、高笑いを続けるカール卿を見て共に笑い始めた。


 デーモンたちは、憑依している身体の形を変えてゆく。背中が曲がり、腕が伸びる。身体が不自然に膨張し、防具がはじけ飛ぶ。そして彼らの肌が裂け、中から灰色のデーモンが姿を現した。


 その現象はカール卿のトーチカだけではなく、城壁の兵士にも伝播していく。

 ただし、全ての兵士がデーモンというわけではなく、中には元々マールアの街を守っていたニンゲンの兵士たちもいる。彼らは仲間だと思っていた者たちがデーモンへ変化して、慌てて逃げ出していった。


 そんな兵士たちを追いかけ、食らいつくデーモン。兵士たちが魔導銃や剣で反撃しても、全く効いていない。時を経ずして、ニンゲンの兵士はデーモンによって食い尽くされてしまった。


 自国の街を攻撃する魔導砲が沈黙した。すでに見える範囲の建物は全て灰燼と化し、一面の瓦礫が広がっている。無事なのはフリードリヒ・フォン・ローゼンバッハ辺境伯の城のみ。


 足場の悪い中、メタルハウンドと四本脚は、いまだに獲物を探し求める。このような場所を想定して製造されているため、その動きは軽やかで素早い。


 生き残った者たちは、時折確認できる。だが、彼らの周りには、メタルハウンドや四本脚が砂糖に寄る蟻のように群れて、肉塊へと変えていた。


 次々と殺害されていく街の住人たち。逃げまどう人びとが諦め掛けたその時、マールアの街全域に、あり得ない数のスライムが現われた。


 地面を埋め尽くすスライムを見て、メタルハウンドと四本脚が驚く。こんな挙動をするのは、メタルハウンドに組み込まれた人工知能、四本脚に移植されたニンゲンの脳が危機を感じたからだ。


「なっ!? 冥導(めいどう)結晶で稼働しているメタルハウンドと四本脚が、一方的にやられるだと?」


 トーチカからその様子を見ていたカール卿は驚愕する。突如現われたスライムは一種類だけでは無い。アメジスト、ルビー、エメラルド、サファイア、ダイアモンド、オニキス、アンバー、オパール、ガーネット、ムーンストーン、プラチナ、様々な色を冠したスライムたちが暴れ回っている。


 カール卿が全機出撃させたメタルハウンドと四本脚は、あっという間に全滅してしまった。


 肩を震わすカール卿。彼の姿はすでに灰色のデーモンと化して、カール卿の面影は残っていない。醜悪な顔で分かりにくいが、彼は焦燥感に駆られていた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 城に到着したハインリヒは、フリードリヒ卿の部屋で黒く広がるタール状の液体を見つけた。そこにはソフィアが着ていた服も落ちている。天井にまで飛び散った黒い液体。それは明らかにデーモンの体液だった。


「……ソフィア」


 元々ハインリヒは強い兄妹錯綜(シスコン)状態にあり、デーモンに憑かれてもそれは変わらなかった。しかも、肉体を喰われる前にデーモンを従えてしまうほど、妹に対して変質的で強い愛情を抱いていた。


 そんな彼が見ているのは、変わり果てた妹の姿。その中身がデーモンであろうとも、ハインリヒの愛は変わらない。


 呆気に取られたハインリヒの表情が少しずつ変わってゆく。眉間にしわを寄せ、手のひらを固く握りしめる。そして腰に刺した剣を抜いて、フリードリヒ卿の机を真っ二つに斬った。


「おのれフリードリヒ。僕の妹を殺して、ただで済むと思うな!」


 そう叫んだハインリヒは、冥導(めいどう)爆裂火球(エクスプロージョン)を放ち、机を吹き飛ばす。その背後にある壁は破壊され、大きな穴が空いてしまった。


 冥導(めいどう)を使ってもハインリヒの姿に変化は無い。彼の偏執的な愛の力で、デーモンを抑えつけているのだ。城壁ではすでに、ニンゲンの姿をやめたデーモンで溢れかえっているというのに。


 そしてハインリヒは、穴が空いた壁から外を見て驚く。


「な、何だこのスライムは……」


 溢れかえる様々な色のスライム。彼はその光景を目の当たりにして、城の奥へ逃げてゆく。ハインリヒは隠れながら外を眺めて、あることに気付いた。


 スライムたちは、メタルハウンドと四本脚のみを狙っていると。


 そして、スライムは街に隠れていた住人たちに、回復魔法や治療魔法を使っている。あり得ない光景だ。そこでハインリヒは気付いた。あのスライムは魔物使い(モンスターテイマー)によって召喚されたのだと。


「広場で破壊された四本脚も、ソータ・イタガキのパーティーの魔物使い(モンスターテイマー)の仕業か。……そうなると、フリードリヒ卿とソータ・イタガキは繋がっている可能性が高い。ソフィアがこうも簡単に()られるはずがないからな」


 ハインリヒはその場で腕を組み、考え込む。しばらくの黙考ののち、城の中を移動してゆく。広い城内には誰も残っていない。


 フリードリヒ卿は屋敷を後にする際、執事やメイドに「湖畔の別邸へ避難するように」と命じていたのだ。


「ここか」


 ハインリヒは調理場へ入ってゆく。そこには調理場の他に、調理人たちが着替える小部屋があった。彼はその部屋を探して、調理人たちが残した普段着へ着替えた。


 貴族から町人の服装へ変わったハインリヒは、堂々と城を出て行く。ヴェネノルンの血を飲んでいるため、冥導(めいどう)の漏れはなく、その辺にいる人びとと見分けがつかない。


 故に、ハインリヒは溢れかえるスライムたちに敵対視されず、堂々と歩いて行く。スライムに守られ、百人ほど集まっていた街の人びとと合流しても、不審がられることもない。彼はこの街の貴族ではないので、顔を知られていないのだ。


「おーい、助けに来たぞ」


 溢れかえるスライムが二つに割れていくと、ヴァルター卿がその先から駆けてきた。到着した彼は息を切らしながら言った。


「地下道に避難できる。案内するからついてきてくれ」


 集まった人びとの中に、ヴァルター卿を知っているものが居たようだ。


「あ、あんた、ヴァルター・フォン・シュタインブルク子爵だよな。デーモンに憑かれてないのか?」


 平時なら罰を受けそうな物言いである。


「ああ、もちろんだ」


 ヴァルター卿は言葉遣いなど気にせず、断言する。だが、単なる言葉だけではデーモンを識別する方法は存在しない。人びとは、もしかしたら実はデーモンなのではないかと疑念を抱き始めた。


 ヴァルター卿は困った顔、意を決した顔、その二つが混じり合った微妙な顔で宣言する。


「よーし、見てろ」


 彼は取りだした短剣で、自分の腕を切り付けた。同時に溢れ出す真っ赤な血。ヴァルター卿がデーモンであれば、赤い血は流れずに黒い粘体が見えるだろう。彼は自分がデーモンではないと証明するために、自身を傷つけて示したのだ。


 それを見た住民たちは、ヴァルター卿がニンゲンであると信じざるを得ない。彼は素早くヒュギエイアの水を取りだして傷口にかける。するとみるみるうちに傷が塞がり、彼の腕は傷ひとつ無くなっていた。


「お、おい、何だその回復薬は!」


 彼が使ったヒュギエイアの水は、ミッシーたちからもらったものだ。そのとき、人前で使うなと注意されていたことを思い出し、バツの悪い顔になった。


「な、何でもいいだろ! とにかく俺がデーモンじゃないって分かっただろ? 地下通路に避難してもらうが、スライムだらけだ。驚かないようにしてくれ! 行き先はフリードリヒ卿が避難所として解放してる湖畔の別邸だ」


 話を強引に終わらせ、彼は人びとを先導していく。彼らを様々な色味のスライムが護衛するように取り囲んで、同じ速度で移動していく。ハインリヒはヴァルター卿や衛兵たちに悟られないよう、うつむき加減でついていくのだった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 地下道はアーチ状になったスライムが張り付いて補強されている。スライムは個々で光魔法を巧みに使い、地下道は適度な明るさに保たれていた。その狭い通路を、衛兵が百人近い民間人を引き連れて進んでいく。狭さゆえに、一行は長く伸びるしかない。


 最後尾のハインリヒは機を見計らい、脇道へ入った。


「……何だこの地下道は。情報にないということは、フリードリヒ卿が隠していたのか」


 足元の石畳以外、周囲はスライムだらけ。ハインリヒはデーモンが憑いていながら、自己の意識を保っているが、さすがにこの状況には肝を冷やしていた。しかし彼の意思はくじけなかった。歯を食いしばり拳を握りしめ、ソフィアの仇であるフリードリヒ卿の捜索を開始した。


 彼の手元には「万が一はぐれたときのため」と言って渡された地下道の地図がある。本来であればこの地図を持って、父カール卿の元へ帰還しなければならない。しかし彼の頭には、殺害された妹のかたき討ちしかなかった。


 幸いにも克明に描かれた地図に、ふたつの集結地点が描かれている。ひとつは住民の避難場所で、ここからかなり離れた湖畔近くにある屋敷。もうひとつは、カール卿に反旗を翻す兵たちの集結地点だった。ハインリヒは、迷うことなく地下道を進んでいき、兵の集結地点――フリードリヒ卿のいる場所に到着した。


 そこはスライムがいない大きな空洞になっており、様々な物資が集められていた。多脚ゴーレムなどはないが、魔石が大量に保管されている。魔道具も申し分ない量が確保されていた。


 明らかに、時間をかけて反旗を翻す準備を整えていたと分かる光景だった。


 兵士も大勢集まっている。百や二百ではきかない人数だ。見つかればあっという間に滅ぼされてしまうだろう。そう感じたハインリヒは、極度に緊張した面持ちで進んでいく。


「よっ、こっちに簡易式の魔導砲があるって聞いたんだが、どこにあるか知らねえか?」


 急に声をかけられたハインリヒは、飛び上がって驚く。悲鳴をあげなかったのが奇跡だ。声をかけたのは、マールアの領兵だった。


「あ、え、ええっと、僕も来たばかりで分かりません」


 ハインリヒは必死に平静を装いながら答えた。冷や汗が背中を伝う。


「そっかー。だよなー。この地下通路のことみんな知らなかったみてえだし」


 領兵は笑いながら離れていく。ハインリヒは、それを見て一安心。先へ進もうとしたその時、彼の耳にフリードリヒ卿の声が届いた。


 整然と積み上げられた物資には、隠れる場所が無数にある。ハインリヒはデーモンの脚力を使って、物資の上に駆け上がった。


「……」


 ハインリヒは荷物の上に伏せたまま、ニンゲンの集まる場所を覗き込む。その中心にフリードリヒ卿が確認できた。彼の声が聞こえたのは、演説が始まったからだった。


「ソフィアのかたきが、斬れる位置にいる……」


 憎悪に燃える瞳で、ハインリヒはフリードリヒ卿を見つめた。しかし、この空間は兵士で溢れている。ハインリヒが突撃しても、瞬く間に周囲の兵士たちに斬り刻まれる運命しかない。彼はここまで何も考えずに来てしまったことを後悔しながらも、瞳には新たな決意が灯った。


 ――――メリッ


 ハインリヒの背中から異音が発せられると、中から灰色のデーモンが立ち上がった。抜け殻となったハインリヒはずり落ちていき、荷物の上でベシャリと音を立てた。


「デーモンの力なら、ここから突撃して五秒、と言ったところか」


 ゴロゴロと鳴る声はすでにデーモンのもの、しかしその意識はハインリヒのままだった。彼の中で人間の意識とデーモンの力が融合し、新たな存在へと変貌を遂げていた。


「おっ、おいっ、あそこっ!!」


 ハインリヒはうずたかく積まれた荷物の上に立ち上がったので、彼はすぐに見つかった。荷物の集積所内にいる兵士たちが騒然となり、武器を構えてゆく。


 そんな彼らをゆっくりと見回し、灰色のデーモンは飛び降りる。そこへ兵士たちが殺到した。剣や斧、槍に鎚、様々な武器に加え、スキルと魔法を使った攻撃が加えられてゆく。


 ハインリヒ(・・・・・)の身体が貫かれ、斬られ、叩き潰されてゆく。数十名からの一斉攻撃で、ハインリヒは抵抗する間もなく斬り刻まれていった。


「おいおい、これ抜け殻だぞっ!?」


 ひとりの兵が声を上げた。攻撃を仕掛けたものは、ハインリヒの外側の部分。つい今しがた脱ぎ捨てた、がわの部分だったのだ。


 当のハインリヒは兵士たちの間をすり抜けて、フリードリヒ卿へ迫っていた。両手で振りかぶった剣は、あと数瞬でフリードリヒ卿の頭を真っ二つにするだろう。


 復讐の炎に燃えるハインリヒの目には、もはやフリードリヒ卿しか映っていない。


 ――――――――ギィン


 その剣を、黒い影が白い短剣ではじき返した。それは、フリードリヒ卿の影に潜んで、護衛していたメリル・レンドールであった。

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