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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
13章 デモネクトス

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259 四本脚

 ヒロキが倒れた頃、砦の近くに三人の美しい女性が姿を現した。ミッシーとマイアとニーナである。彼女たちは黒いサングラスのように変化した南側の障壁を見据えながら、駐屯地へ入ってきた。


 すでに戦闘は終結している。彼女たちは、後始末のために駆け回っている兵士から見られても、注意されずにいた。マイアとニーナの存在があるからだ。


 彼女たちは修道騎士団クインテット。兵士の中には知っているものも多数いるのだろう。


「よお、姉ちゃん。あんたたち、王都パラメダから来たんだろ。俺たちのパーティーと組んで、一儲けしないか?」


 三人とも革の鎧に外套を羽織って、冒険者らしい格好をしている。修道騎士団クインテットのように派手な装備ではない。


 そのせいで冒険者は勘違いしたのだろう。気安く話しかけてくるヒト族の男は欲望にまみれ、彼女たちを上から下まで舐め回すように見つめていた。


「あはは。初めて会った冒険者とすぐにパーティーを組むわけないでしょ」


 そう言ったのはニーナ。彼女の瞳から殺気が放たれる。


「おおー怖い怖い。でもさあオレ、気が強い女、大好きなんだよね」


 冒険者は下卑た笑顔でニーナへ手を伸ばす。彼女の美しい赤毛に触れようとしているのだ。


「はいそこまで」


 冒険者の手は、誰かの手に掴まれた。それはニーナの髪の毛に触れる寸前だった。


「あ?」


 冒険者は怒気を含む声で、手を掴んだ人物を睨みつける。


「俺はナブー・クドゥリ・ウスル。修道騎士団クインテットとして、風紀の乱れは許せないな。いまはナンパしてる場合じゃねえだろ」


 ナブーはフランス生まれのルー・ガルー( 人狼 )。返信してないので、普段のイケメンである。彼は数奇な運命を辿り、今ここに立っている。獣人自治区でソータと争い、その後ミゼルファート帝国軍の間者(かんじゃ)として働いているのだ。


 近くにはナブーの恋人、エマ・ランペールと共に、修道騎士団クインテットの一団が控えていた。


 それを見た冒険者はさすがに分が悪いと感じたのだろう。ばつの悪そうな顔でゴニョゴニョ言い訳しながら、立ち去っていく。


 ナブーもニーナも、大したことないと思っているのだろう。追いかける素振りは見せなかった。


 ナブーはニーナへ目を向けて頷いた。彼は黒髪のショートカットと、青い目が魅力的なイケメンだ。しかも、二メートル近い長身でスリムな筋肉質。


 彼はニーナの前にひざまずき、手を取った。


「済まなかった。いまの冒険者にはしっかり罰を与えておく」


 それはまるで、プロポーズするかのような光景だった。


「いたっ!?」


 後頭部を剣の柄で小突かれたナブー。振り向くと、青筋を立てたエマが笑顔で立っていた。


「あんたこそナンパしてんじゃないわよ! まったくもう、美人を見かけるとすぐそうなるんだから!」


「い、いや、これはだな……」


「やかましいわ!」


 エマは割とマジギレしているみたいだ。ナブーの胸ぐらを掴んで、彼を持ち上げた。周囲の修道騎士団クインテットは、ナブーとエマの部下なのか、口出しもせずにおどおどしている。


「エ、エマ、そんなに怒らなくても……」


 ナブーのひと言は、エマを怒らせるだけだった。


「あんた、このふたりが修道騎士団クインテットの序列四位と五位だって知らないの? バカなんじゃないの? ねえ、マジでバカなんじゃないの?」


 その言葉を聞いたナブーは、エマに持ち上げられたままサッと顔が青ざめる。周囲の修道騎士団クインテットたちは新人なのか、その事実を知らなかったのだろう。


 彼女たち修道騎士団クインテットは、すぐに膝をついて臣下の礼をとる。もちろんマイアとニーナに対してだ。


「エマ、その辺にしてあげて」


 声をかけたのはニーナだ。彼女たちはエマと顔を合わせたことがある。ソータから事情も聞いているので、エマとナブーが間者(かんじゃ)だとも知っていた。


 ミゼルファート帝国は、修道騎士団クインテットに間者(スパイ)が紛れ込んでいるという事になる。しかし修道騎士団クインテットもまた、ミゼルファート帝国へ間者(スパイ)を送り込んでいる。


 お互い様なのでマイアもニーナも気にしていない。


「テッドに会いに来たんだが……」


 やっと口を開いたミッシー。彼女は目の前の出来事にあまり興味を示しておらず、先を急ぐ様子だった。


「はっ、はいっ!」


 元気よく返事するエマ。彼女はミッシーの母親、エレノア・デシルバ・エリオットから事情聴取を受けている。ミッシーが娘だということも知っている。エマは緊張した面持ちで敬礼をしていた。


「……敬礼などするな。私はただの冒険者だ」


「り、了解しました! こちらへどうぞ」


 エマの元気のいい声で、移動を始めるミッシーたち三人。その後ろからナブーたち修道騎士団クインテットの面々が隊列を組んで続いていた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 砦の三階にて、テッド・サンルカルはミッシーたち三人と膝をつき合わせていた。カウチに座る彼の背後には、アイヴィー・デュアメルが控えている。

 テーブルにはティーカップが四つ並び、部屋全体は紅茶の豊かな香りに包まれていた。


「久しぶりだな、マイア、ニーナ。そして、エリオット様もお久しぶりです」


 テッドにとって、修道騎士団クインテットのふたりは部下である。彼は彼女たちふたりに軽く挨拶をし、ミッシーには深く頭を下げた。


「……敬語はやめてくれ。私は冒険者だ」


 ミッシーがエルフの王族であることは、この部屋にいる人たちはすべて知っている。


 マイアとニーナはミッシーと仲がいい。普段は友人同士のように話しているのだが、テッドが彼女に会った回数は片手の指で足りる程度。そのため、ついつい他国の王族として敬ってしまっていたのだ。ミッシーに注意され、テッドは恥ずかしそうに顔を赤らめた。


 そんなテッドを見て、ミッシーは素知らぬ顔で言葉を続ける。


「私から見れば他国の戦争だが、あまりにも長引いている。今日はその件について提案をしに来た」


 ミッシーは冒険者であると言いつつ、エルフの国、ルンドストロム王国の存在を匂わせた。


「提案……とは?」


 面食らったテッドは、オウム返しのようにその言葉を繰り返した。


「その前に確認したい」


「はい、何でしょうか」


「スタイン王国は、デーモンの傀儡(くぐつ)国家に落ちたと聞いたが、間違いないか?」


「そうですねえ……。いま分かっているのは、前線の兵士は、間違いなくデーモンに乗っ取られてるってこと。マルーアの住民は避難しているようですが、全員ではないようです。王都ランダルに到っては、王族が全てデーモン化したという噂があります。あくまで噂程度ですが」


 テッドは知りうる情報を素直に話す。


「そうか、噂か……。スタイン王国の南方、海を挟んだ先にルンドストロム王国があるのは知ってるな」


「はい」


「ルンドストロム王国も、スタイン王国と交易があるのだが……。実は先日、港でデーモンが見つかって騒ぎになっていた。調べた結果、スタイン王国から来た船の乗組員がデーモンだと分かったのだ」


「……デーモンが勢力を広げていると?」


「そうだ。エルフの軍部は、デーモンがどこから出現しているのか調査していた。そして、スタイン王国の王都ランダルがその場所だと突き止めた。私の母はインビンシブル艦隊の指揮官として、王都ランダルに対する総攻撃のために出発したところだ」


「……」


 え、聞いてないよそんな話、みたいな顔で固まるテッド。その背後のアイヴィーや、ミッシーの左右に座るマイアとニーナも絶句していた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 佐山(さやま)弘樹(ひろき)は、砦の医務室へ運び込まれていた。彼は魔力の枯渇による意識障害で、死んだように眠っている。


 運び込んだのは伊差川(いさかわ)すずめで、彼女はヒロキ(佐山)の容態を心配そうに見守っていた。


「心配しなくて大丈夫ですよ」


 そう言った修道騎士団の女医は、ヒロキの顔にヒュギエイアの水をぶっかける。


 修道騎士団クインテットは、ミゼルファート帝国のエグバート・バン・スミス皇帝からヒュギエイアの杯を下賜(かし)されている。そのためヒュギエイアの水は、多く出まわっていた。


 ただし、一般の流通には乗っていない。その理由は、医療関係者の仕事を奪わないよう配慮されているからだ。ヒュギエイアの杯は国が管理しており、雑貨店などに出回ることはない。代わりに、錬金術師や病院には格安で供給され、軍部には無償で提供されていた。


「ぶはっ!?」


 ベッドから飛び起きたヒロキ。ヒュギエイアの水が鼻に入ったようだ。

 そこに飛びついてくるスズメ。彼女は元気になったヒロキの唇を奪い、涙を流す。


「うぐっ!?」


 ヒロキは苦しそうな顔で、もう一度息を吐き出す。突然のキスで驚いたのだろう。スズメは、そんなヒロキを見つめて笑みを浮かべた。


「ふふっ。ああ、よかったああ!」


 泣き笑いとなったスズメ。彼女はヒロキに抱きついたまま、離れようとしない。そんな彼らを診ていた女医は咳払いをした。


 それで我に返るスズメ。自分の世界に没頭しすぎていて、周りが見えていなかったようだ。周りには女医だけではなく、看護師たちや他のベッドで横になっている者もいるというのに。


「先生、ご迷惑をおかけしました。それとスズメ……、戦線はどうなった?」


 ヒロキは半身を起し、辺りを見回しながら問いかける。


 女医は笑みを浮かべて頷き、スズメはハッとした顔になった。


「あ、いまはアスカ(弥山)トシヒコ(鳥垣)のふたりで障壁を維持しているわ。オプシディアンに援護要請出してるから、メタルハウンドの第三波が来ても平気――」


 ――――ズドン


 スズメの言葉は、大きな爆音で途絶えた。医務室の天井から魔石ランプが落ちてくるほどの振動だ。一度だけではなく、爆音が何度も続く。


 明らかに異常事態だ。ヒロキとスズメは顔を見合わせると、大慌てで医務室を飛び出した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ヒロキとスズメが抜けて、アスカとトシヒコのふたりで、砦の防御に努めていた。第二波の攻撃を凌ぎきって、敵の姿は見えない。


 そのときトシヒコの瞳が、一点を見つめた。彼らはソータと同じ手術をしているので、遠方でも双眼鏡のように見ることが出来る。


『アスカ、あの多脚ゴーレム、ヤバくね?』

『ヤバいどころじゃないわ。あれって、報告書にあった四本脚よ』


 ふたりから見て遙か遠く。地平線の辺りに、いつものメタルハウンドではない機体が見えている。獣人自治区でイオナ・ニコラス博士が作成していたゴーレムだ。その機体は誰かが乗っているわけではなく、完全に自動運転されていた。


 次の瞬間、極太の黒い線が走った。


 維持している障壁に大きな穴が開いた。


 空に浮かぶオプシディアンの一隻に、黒線が直撃。


 障壁を容易く貫通しただけでなく、オプシディアンにも大きな穴が開いた。


 そのオプシディアンは大爆発を起こして墜落していく。


 他のオプシディアンは、即座に神威(かむい)障壁を多重展開。次の攻撃を何とか攻撃を凌いでいた。


『くそっ! 塞いでも塞いでも穴を開けられる!!』

『耐えてトシヒコ! ったく、ヒロキとスズメは何やってんの!!』


 ガラスに変化した大地の向こうから、再び極太の黒線が放たれる。それは障壁を簡単に貫き、彼らの背後にある駐屯地の施設を破壊してゆく。四本脚の数もかなり多く、ふたりで障壁を張り直しても間に合っていない。


『仕方ねえ。精霊ノーム、手伝ってくれ!』


 トシヒコの声と共に土色の魔力が噴き上がる。その中に髭を生やした小人が現われた。


『なんじゃあれは? けったいなもんこさえとるのう。中にニンゲンの脳が入っておるようじゃが……』


 大地の精霊ノーム(髭を生やした小人)は、トシヒコの頭上に浮かんだまま、のんびりと尋ねる。


『新型のゴーレムだよ!』


『それくらい知っとるわい。なぜあのゴーレムから魔力を感じないのか、儂が言っておるのはそこじゃ』


 ノームの念話でハッとするトシヒコ。


『全軍に告ぐ! 敵軍の四本脚に、ヴェネノルンの血が投与されている! 全員衝撃に備えろ!! ノーム、頼む!!』


 トシヒコは全方位念話で注意喚起を行ない、精霊ノームを送り出した。


 しかし、トシヒコの注意喚起のタイミングで、四本脚から黒線が発射された。横方向に広がる四本脚から黒線が集まり、とてつもない太さに変わる。

 精霊ノームはそれを防ぐために巨大な岩山を出現させた。しかし、その岩山さえも簡単に貫通した黒線は、勢いを弱めることなく砦を貫いた。


『ぐああっ!?』


 トシヒコの叫び声が念話で響く。


『どうしたの!?』


 アスカは転移魔法でトシヒコのそばに現われた。


「ぐうぅ、がはっ!?」


 トシヒコは液状(リキッド)生体分子(ナノマシン)を吐き出して膝をつく。彼の身体の左部分は、半円状にえぐれて無くなっていた。四本脚は砦だけではなく、トシヒコをも狙っていたのだ。


「まって、回復魔法と治療魔法を――。違う、ヒュギエイアの水を!!」


 アスカは慌てふためきつつも、話すのを途中で止めた。


 トシヒコは力なく倒れてゆく。


 そしてアスカの使ったヒュギエイアの水は、心臓ごと(・・・・)半身を無くしたトシヒコに、何の効果も示さなかった。

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