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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
13章 デモネクトス

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258 サンルカル王国駐屯地

 佐山(さやま)弘樹(ひろき)は、毎朝恒例となったスタイン王国軍との戦闘を終え、砦へ帰還する。身に纏うは、勇者佐々木たちが着用していた白銀の鎧と同じもの。出どころが同じようだ。


 弥山(ややま)明日香(あすか)伊差川(いさかわ)すずめ、鳥垣(とりがき)紀彦(としひこ)の三人も同じ装備を身につけている。


 この砦は平原のど真ん中に建てられているので、どこからでも狙い撃ちにされる。そのせいで、砦の周りには障壁が張りっぱなしになっている。


 これは佐山が単独で張った障壁で、スタイン王国からの攻撃を全て跳ね返している。彼らの周りには、慌ただしく動き回る修道騎士団クインテットの者たちがいた。


 四人で砦の入り口へ向かっていると、彼らは声をかけられた。


ヒロキ(佐山)アスカ(弥山)スズメ(伊差川)トシヒコ(鳥垣)、お疲れさん。第二波に備えて休んでくれ」


 サンルカル王国の、テッド・サンルカル第二王子だ。修道騎士団クインテットの序列一位にして、この戦線の指揮官である。その隣には、ハーフエルフのアイヴィー・デュアメルが立っていた。


 四人ともテッドたちに軽く頭を下げ、砦の奥へ進んでいく。しばらく石造りの通路を進んでいると、念話でのやり取りが始まった。


『あー、クソだるい。あのメタルハウンド、いつまで経っても尽きねえな。毎日どこから持ってきてんだ。日米合作の製品じゃねえ事は確かだが』


 本当にだるそうなヒロキ(佐山)の念話である。


ヒロキ(佐山)、いまは耐えるしかないわ。ここを突破されたら、王都パラメダまで滅ぼされちゃう』


 それに応じるアスカ(弥山)。そのふたりの後ろを歩くスズメ(伊差川)トシヒコ(鳥垣)は、疲れた表情のまま会話に参加していない。


『板垣教授が、この世界の北極圏で巨大ゲートを見つけたって聞いたか?』


『聞いてるわ。第二王子とアイヴィーの会話が聞こえてきたもの。最近ソータ君が北極圏まで行ったらしいってこともね』


 ヒロキとアスカの会話は続く。彼らはソータの動きを把握しているようだ。しかしそれは、いつまでも合流しないソータへの愚痴のようなもの。


 獣人自治区、流刑島、デレノア王国、ルーベス帝国、マラフ共和国、ニューロンドンと、ソータの足跡を辿るように念話が続く。


『お腹すいた』

『朝ごはん食べよう』


 いつまでも終わらない愚痴念話に、スズメとトシヒコが割って入る。食堂は正面に見えていたので、彼らは自然と中へ入っていった。


 そこでは大勢の兵士たちが食事を摂っていた。ほとんどヒト族だが、ドワーフやエルフ、オークやゴブリンの冒険者もチラホラ見える。彼らは王都パラメダの冒険者ギルドで依頼を受け、傭兵として参加してきた者たちだ。


 冒険者のひとりがヒロキたちへ向き直り、つばを吐き捨てた。


「異世界人のくせに、でけえ面しやがって」


 その様子を見て、ざわつく冒険者たち。彼らからみて、ヒロキたちの異様な強さが気に入らないのだろう。


 ただ、四人とも相手にしていない。目も合わせずカウンターに並び、食事を取り分けに向かった。


 この食堂には、修道騎士団クインテットの者たちもいる。彼らも冒険者の挑発に注意することはない。いつもの光景なのだろう。


 その中にルー・ガルー( 人狼 )のエマ・ランペールとナブー・クドゥリ・ウスルも紛れ込んでいる。ふたりともミゼルファート帝国軍の間者(・・)として潜入しているはずだが、随分と馴染んでいた。


 ヒロキたちはお盆に食事を乗せて、空いている席に座った。


「誰だか知らねえけど、この世界にカツカレー持ち込んだヒトに感謝だ」


 鎧を身に纏ったまま、ヒロキはガツガツと食事に興じていた。そのスリムな体躯に対して、驚くほどの量をおかわりし続ける。彼の顔には、満ち足りた表情が浮かんでいた。


 他の三人はヒロキの食べっぷりを見て驚きもしない。どうやらこれはいつもの光景のようだ。


「そろそろ第二波がくる。行くかっ!!」


 カツカレーを食べ終わり、ヒロキは元気よく立ち上がる。他の三人も朝食とは思えない量を食べ終わっていた。


 そこで警報が鳴り始めた。やっぱりか、そんな顔で彼ら四人は食堂を出て行った。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 砦を背にして南方を凝視するヒロキたち。遙か遠くに堅固な砦が威風堂々とそびえ立っている。ヒロキ以外の三人は顔を見合わせ、黙って左右に散開していく。そしてヒロキから約一キロメートル離れた位置で待機した。


 この陣形は、繰り返し襲撃してくるメタルハウンドを一斉に撃退するためのもの。彼らの背後には巨大な板状の障壁がそびえ立ち、サンルカル王国軍を堅実に守っている。この障壁は、ヒロキたち四人が築き上げたものだ。


 彼らに前進する意志はない。同様に、サンルカル王国軍も動きを見せず、スタイン王国への侵攻の意志は感じられない。


 ハラスメント(いやがらせ)戦術を採用している理由は、地球から持ち込まれたと思われるメタルハウンドの数が圧倒的に多いからだ。一匹のメタルハウンドが防衛ラインを突破すると、通常の人間では手に負えない。反撃する暇もなく、魔導砲で撃ち抜かれてしまう。


 そうした危機を回避するため、ハラスメントを続ける。そうすれば、この戦線にメタルハウンドが集中するというわけだ。


 新造艦オプシディアンによる空爆も検討されたが、テッド・サンルカルはそれを即座に却下した。スタイン王国のマルーアには無関係な民間人もいるからだ。そして、現状の局地戦を拡大する意志も見受けられない。


『準備はいいか?』


 ヒロキの念話が飛ぶ。相手はもちろん、アスカ、スズメ、トシヒコの三人である。


 彼らから『準備完了』との返信が届き、ヒロキは前方に視線を定める。その瞬間、茶色い平原の先に土煙が立ち上がり始めた。懲りもせず、再び大量のメタルハウンドが侵攻してきているのだ。


 上空に浮かぶオプシディアンから虹色のエネルギー弾が発射されると、先ほどと同様の展開が繰り広げられる。大爆発が起こった後、衝撃波がヒロキを通り抜けていく。彼の瞳に映るのは、キノコ雲に混じって空を舞う、バラバラに破壊されたメタルハウンド。


 次も前回と同様に、ファイアボールの一斉射撃、のはずだ。


『あれ?』

『ファイアボールこないね』

『戦法変えてきたのかな』


 アスカ、スズメ、トシヒコと、次々と念話が届く。それを聞いたヒロキは、小さな違和感に気付いた。


『おいっ! メタルハウンドから魔力が消えてる。駆動させているのは魔石だからすぐ分かるってのに。それに、奴らから殺気を感じないか?』


『あ、ほんとだ』

『ねえ、どういうことー』


 アスカとスズメに続いて、トシヒコの念話が届く。


『あのメタルハウンドは、バッテリー代わりに魔石で稼働しているよね。魔力が感じられなくなるってあり得ないでしょ。それに、メタルハウンドは人工知能でシステム制御されてるんだから、殺気があるのも変だ。まさか新型メタルハウンドが導入されたとか……?』


 それにヒロキが応じた。


『そうかもな。三枚重ねの神威(・・)障壁で対応しよう』


『あたし心配だから、神威(かむい)障壁、十枚重ねでいく』

『私もー』


 アスカとスズメは、ヒロキの提案でも心配で、背後の板状障壁の枚数を増やした。


『念の為そうするか』


 ヒロキがそう言うと、黒い線が目に入った。


 ――――ドッ


 次の瞬間、ヒロキの背後の神威(かむい)障壁に穴が空いた。彼はその黒い線から邪悪なものを感じ取って念話を飛ばす。


『ちっ、冥導(めいどう)結晶を使った魔導砲だ。動かしてるのも、人工知能じゃねえ』


 それは他の三人も同じ意見だった。各々障壁に空いた穴を塞いで、ウインドカッターを飛ばす。彼らは見えない刃で、迫り来るメタルハウンドへ攻撃を仕掛けた。


 抵抗する間もなく、斬り飛ばされてゆくメタルハウンド。バラバラになった機体から、黒い冥導(めいどう)結晶と何者かの脳が飛び出した。


 一体だけではない。他のメタルハウンドからも同様だ。


『これってさ、報告書にあった件じゃない?』


 トシヒコは続ける。


『ほら、イオナ・ニコラスって、ドワーフのエンジニアがいたでしょ。彼女の研究は、ニンゲンの脳をゴーレムに移すこと。獣人自治区で実験機体が発見されたって書いてあったよね』


『あったあった! その技術が使われてるって事?』


 アスカの念話が届くと、さらにトシヒコは続ける。


『そうそう。それにさ、ヴェネノルンの血を飲むと、魔力の使用効率が上がって、微弱な魔力も漏れなくなるって報告書もあったよね』


『あったな……。て事はちとヤベえか――――』


 返事をするヒロキの声は、途中で途切れた。


 彼は腹部を貫いた黒い線をチラリと見て、口から銀色の液体を吐き出す。鎧は何の役にも立っていなかった。


『きゃああっ!?』


 スズメの叫び声が念話で届く。彼女からヒロキまで、一キロメートルも離れているのに。どうやら彼女からは見えていたようだ。


『スズメ、大丈夫だ』


 そう言ったヒロキの腹が、みるみるうちに塞がってゆく。流れでた液状(リキッド)生体分子(ナノマシン)も、彼の体に吸収されていった。


『そうは言っても、お腹に穴が空いたんだよ?』


 スズメの念話は、少し震え声だ。よほど驚いたのだろう。


『スズメはまだ、ニンゲンの感覚もってんだな。俺たちはもう、ヒトという枠からはずれてるだろ?』


『そうだけどさあ……』


『はいはい、ふたりでいちゃついてないで、メタルハウンドやるわよ』


 アスカの念話で、ヒロキとスズメは、ハッと我に返る。少し会話しただけなのに、メタルハウンドが目前にまで迫っていた。


 ――――ズドッ


 四人はほぼ同時に衝撃波を使い、メタルハウンドをはじき飛ばす。


 しかし前回のように、メタルハウンドを破壊することは叶わなかった。


『あれはもう、完全に新型だね』


 トシヒコの念話が届く。メタルハウンドの素材そのものが変更されているのか、衝撃波で破壊できていない。吹き飛ばされてはいるが、空中で器用に体勢を整え、猫のように着地している。


 そのメタルハウンドから、怒りの気配が伝わってくる。


 今の距離では、オプシディアンは攻撃できない。強力すぎて味方にも被害が出てしまう。そんな中、障壁の西端から六本脚の部隊が、十機も飛び出した。自動操縦ではなく、ニンゲンが操縦しているので、身体が丸見えの状態である。


『誰だっ!! ……てめえ、さっきつば吐いてきた奴か!! 危ねえから引っ込んでろっ!!』


 ヒロキが全方位へ念話を飛ばすも、時すでに遅し。


 六本脚に乗っていた冒険者たちは、攻撃を仕掛ける間もなく、メタルハウンドの黒い線で撃ち抜かれた。十名の冒険者は、声を上げることもできずに命を落としてゆく。


『クソがあっ!!』


 ヒロキは激怒して叫ぶ。不用意に飛び出してきた冒険者たち。それを容赦なく皆殺しにしたメタルハウンド。双方に向けての叫びだ。彼から爆発するように魔力が吹き出し、赤く染まってゆく。


 本来なら視認できない魔力が、誰にでも見えるほど濃くなっている。業火のように燃え上がる魔力の中に、小さな何かが姿を現した。


「火の精霊サラマンダー、前方のメタルハウンドを焼き尽くせ!」


『はいよー』


 ヒロキの頭上に浮かんでいるサラマンダー(小さなトカゲ)は、軽快な返事と共にメタルハウンドに向かって飛んでゆく。


 精霊の出現に驚いたのか、メタルハウンドたちは一斉に攻撃を開始。その狙いは、もちろん精霊サラマンダーだ。黒い線が多方向から集束してくる。

 それは神威(かむい)障壁を容易に貫通するほどの力を持つ黒い線だ。


 しかし、サラマンダーはその威力にも動じず、全て不自然にねじ曲げていた。黒い線は、着弾する前に空へ向かってゆく。サラマンダーはそんなこと気にせず、軽やかに進行を続ける。


 サラマンダーはヒロキたちから随分離れた場所に到達していた。当然のごとく周囲にメタルハウンドが集結し、魔導砲から黒い線が吐き出されていた。


『ふふっ、冥導(めいどう)なんてぬるいね』


 サラマンダーの念話がヒロキ(佐山)たちに聞こえる。


 その瞬間、周囲の光景は一変して真っ白になった。


 ヒロキたちはこの瞬間を予測していたのか、四人とも手で目を覆っている。背後の障壁が黒く変色し、サングラスのような役割を果たしていた。兵士たちの視覚が損なわれないように、障壁は保護機能を果たしているのだ。


 光が徐々に収まると、ヒロキたちは目から手を離す。


 そこに広がっていたのは、地面が溶けてガラス状に変わった平原だった。メタルハウンドは一体も残っていない。赤く溶けた金属が地面に薄く広がっているだけ。


 小さなサラマンダーが放った炎は、ヒロキたちやサンルカル王国軍に被害を与えず、前方の敵だけを焼き尽くしていた。


 その影響を受けたのはスタイン王国側である。超高熱の風が南下し、城壁に立つ兵士たちを焼いていた。しかし、戦時であるため、対処は早い。彼らは即座に水属性の魔法で消火作業を行っていた。


 その様子を見て、ヒロキ(佐山)はにっこりと笑みを浮かべた。


「へっ、舐めるなよ、クソロボットが」


 そう言ったヒロキ(佐山)は、魔力の使いすぎでふらついている。そして彼は意識を失い、パタリと倒れてしまった。

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