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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
12章 七連合

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252 カースリフレクター

 首都トレビを制圧したドワーフ軍は、住民からほぼ一様に好意的な歓迎を受けていた。デーモンによる家族を人質にした支配が終焉を迎え、その手先であった三大商会も打倒されたためだ。


 しかし俺は、旗艦イノセントヴィクティムから一歩も出られなかった。佐々木と竹内から、ルイーズ(ユハ・トルバネン)とエミリアを追うようにと言われていたからではない。


 俺の行動ひとつでミッシーたちが苦しみ、そして命を落とすかもしれない。そう考えると、足がすくんで身動きが取れなくなる。


 最悪の事態に備え、ミッシーたちを何としても蘇らせる覚悟をしていた。たとえそれが冥界の神、ディース・パテルの怒りを買うことになろうとも。


 そう考えていたのだが、夜も更けた頃、四人は何事もなかったかのように目覚めた。


 その直後、竹内から魔導通信が入り、軍師ヘルミを討ち取ったと伝えられた。彼は、俺の仲間に迷惑をかけたと幾度も謝罪していた。だが、その謝罪は俺に向けるものではない。次に会う際、ミッシーたちに直接謝るようにと告げておいた。


 勇者のふたりは首都トレビからかなり遠くまでヘルミを追跡したらしく、一度デレノア王国へ戻るとのこと。自力でゲートを開いて戻るそうだ。何とも呆気ない別れとなってしまった。


「いやー、一時はどうなるかと思ったっす」


 外は暗いのに、リアムは明るい。ここはバンダースナッチの操縦室なので、周りを気にしなくて済む。ミッシーたち四人は経過観察のため、イノセントヴィクティムの医務室で一泊することになっていた。


「いつどこで呪われるのか分からないんだよな。そもそも何なんだよ、呪いって」


「ソータさん、そろそろ学校に通うっすよ。ルーン魔術のあんな強力な呪いは、簡単に乱発できないっす。それなりの対価が必要だと知らないっすか?」


 財産、生け贄、精神や感情、記憶、寿命、自身の魂など、呪いの対価にするものは多岐にわたる。リアムによると、今回のような呪いは、寿命の大半を対価にしなければ実現不可能だという。


 竹内によると、軍師ヘルミはヴェネノルンの血を飲んで、バンパイア化していたらしい。不死の存在だからそんな真似が出来たのか?


 彼女はそこまでして、一体何を成し遂げようとしていたのか。


 どんな理由があろうとも、こっちは迷惑この上ない。しかしもう、ヘルミの真意を知るすべはない。済んだ話だ。今後は呪いに細心の注意を払わねばならない。


「呪いって、どんな風に使うの?」


「魔力や神威(かむい)に頼らず、儀式で行なうんです。標的の持ち物や髪の毛、そんなもんを触媒にして呪うっす」


「防ぎようがないってことか」


「そっす。けど、呪いはカヴンやハッグの得意分野なんで、いまは使い手がほとんど居ないっす。逆説的に言えば、軍師ヘルミは、カヴンかハッグの血を引いていたと分かるくらいっすね」


 軍師ヘルミの行動には謎が多かったが、魔女(カヴン)マリア・フリーマンの影響下にあった人物という線も浮上してきたな。


 魔素、神威(かむい)冥導(めいどう)闇脈(あんみゃく)、こういった素粒子は検知できたけど、呪いという不明確な事象にどう対処する。リアムは学校に行けと言うけど、防ぎようがないと分かれば十分だ。


「そういえばさ、お守りで防げるんじゃね? 護符ってあるよな」


「そうですけど、防げるのは簡単な呪いだけっす」


 そこでリアムはトイレに立った。


 操縦室にひとり残され考え込む。


 ルーン魔術のバインドルーンだっけ。


クロノス(汎用人工知能)、何かいい案ない?』


『呪詛返しのルーンを作成しましょうか? 呪いをかけた人物へ、呪いをお返しするだけですが』


『……そんなのできるの?』


『ルーン魔術に関しての知識は、この世界へ来る前に学習済みです』


 そんなことまで学習してたの? なんて思っていると、脳内に呪詛返しのバインドルーンが浮かび上がる。


 防御のルーン、反撃のルーン、調和のルーン、循環のルーン、四つの組み合わせでバインドルーンをイメージして、神威(かむい)結晶に刻む。


 これで何かの呪いをかけられたら、そのまま跳ね返すことができるはずだ。……たぶん。


「たぶんじゃ心もとないよなあ」


「それ何やってるっすか?」


 リアムが戻ってることに気づいてなかった。神威(かむい)結晶を創った場面を見られたけど、操縦室にはふたりしか居ないから問題ないか。


「呪詛返しのバインドルーンを創って指輪にしてみた。呪詛返しリング(カースリフレクター)とでも名付けようか」


 神威(かむい)結晶で創った指輪を見せる。全部で五個。神威が漏れ出ないように、リングが自らを神威障壁でコーティングする仕様だ。


「……勇者佐々木のスキル〝創造(クレアチオ)〟を素でやってしまうなんて」


 リアムは呆れた顔をしているが、そろそろ慣れてくれ。


「これをリアムたちに渡したいんだけど、まだ効果が不明だ。ちょっと実験してくる」


「えっ、ああ、いってらっしゃいっす。早めに戻ってきてください」


 リアムに頷いてゲートをくぐった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 魔女(ハッグ)シビル・ゴードンの月面基地へやってきた。


 通路を歩いていると、ニンゲンに戻った十二刃(トニハ)たちと出くわす。彼らは俺に敵意を向けることもなく、軽く頷いてくれた。もう敵対視されていないのだろう。


「すみません。シビルはどこにいますか?」


 声をかけてみると、金髪のイケメン男性は通信機を取り出して応対してくれた。


「少々お待ちください……。あ、シビル様、ソータ・イタガキさんがお越しになりました。……はい。了解しました」


 シビルはどうやら研究棟にいるみたいだ。そこまでの行き方は知ってるけど、金髪イケメンが案内するらしい。一応俺は部外者だからな。そうするのも仕方がないだろう。


 気になるものがあるので、イケメンに聞いてみた。


 窓の外に広がる発着場には、様々な形状の宇宙船が無数に並んでいた。その光景は、まるで未来の空港のようだった。


 それらは、地球からやって来た富裕層のものだという。お金持ちは異世界へ移住するだけでなく、第二の選択肢も選べるわけだ。

 この宇宙船はシビルが展開する富裕層向けの有料サービスらしい。もちろん、とんでもない金額が必要だ。


「お久しぶりですね、ソータさん」


 研究室へ入ると、シビルは笑顔で迎えてくれた。


 しかし俺は、目の前の光景に背筋が凍る思いをした。その部屋、というかホールには、アクリルの円柱が所狭しと並んでいる。その中には溶液に浸されたホムンクルスが入っている。機器はアルフェイ商会の工場と同じものだ。


 案内役がシビルに変わり、ホールの奥へ案内されていく。研究員たちがたくさんいるので、彼らがホムンクルスを創っているのだろう。


 シビルの執務室へ入ると、彼女はすぐに謝罪の言葉を述べた。


「ソータさん、申し訳ありませんでした。マラフ共和国での出来事は、ある程度把握しています。アルフェイ商会のホムンクルス工場は、魔術結社実在する死神(ソリッドリーパー)の技術で建てられたものです」


 頭を下げるどころじゃない。シビルは前屈するかのように、深く頭を下げている。


「初耳だ……」


「申し訳ありません。マリア・フリーマンが独断で行なったようです。それと、ニューロンドン、マラフ共和国の件がこちらで発覚したあと、マリア・フリーマンの派閥が姿を消しました」


 ここへ来たのは、呪詛返しリング(カースリフレクター)の効果を検証するためだったが、それより重大な件が発覚した。


 シビルに呪詛返しリング(カースリフレクター)を見せると、軽く「それで大丈夫です」と返事されて、話が続いた。


 彼女がニューロンドンとマラフ共和国の件を知ったのは、ここ数時間のことで、現在マリア・フリーマンの行方を捜索中だという。


「完全に裏切られました!」


 シビルは憤りを隠せない様子で続けた。魔術結社実在する死神(ソリッドリーパー)内部で対立はあったものの、マリアとは長年連れ添って協力してきた仲間だと認識していた。


 しかし今回のニューロンドンのバンパイア化病棟と、首都トレビにおけるホムンクルス工場の件は、一線を越えた反逆だと、彼女は断言した。


 ニューロンドンの件、ルイーズ(ユハ・トルバネン)の件、スターダスト商会の件、スタイン王国の件、彼女は様々な情報を収集していた。それで大活躍しているのが、ハセさん(汎用人工知能)らしい。


 ハセさんはここで創られたホムンクルスを遠隔操作し、異世界で稼働させているみたいだ。


「ソータさん、あなたは人類全体を助けるつもりがありますか?」


「は? 俺はそんな大風呂敷広げてないよ? 手の届く範囲でしかやってないからね」


「いえいえ、ドラゴン大陸と大魔大陸がどうなっているのかご存知ないんですか?」


「……今? 知らないな。あれからどうなってるんだろ」


 大魔大陸はこの前リリスと一緒にチラッと見たけど、順調に街づくりが進んでいた。というか街ができていた。ビッグフットのCEO、悪魔(デーモン)ネイト・バイモン・フラッシュが仕切っているので、問題はなさそうだったし。


 ただ、ドラゴン大陸は、街を造るように指示を出して放置したままだ。あれから二十日と少し経過している。


「ソータさんのスチールゴーレムは、日本と同じ建物やインフラを造り上げています。しかし、それだけでは飽き足らず、ゴーレムがゴーレムを創り出し、ドラゴン大陸をまるごと開拓しています」


「ほ、ほーん。そりゃいいことじゃないの? に、日本人の移住者も、楽なんじゃ?」


 神威(かむい)結晶入りのスチールゴーレムが四百七十体。彼らは魔石鉱山を発見し、新たなスチールゴーレムを百万体作り出していた。


「日本の国土面積を考えてください。ドラゴン大陸を日本だけで占有すると、地球の国々から反発されるでしょう」


「だよなあ……」


「現在日本政府は、日本各地の巨大ゲートを使わせろと言って、アジア各国からつるし上げられている状態です。そこでソータさん、お願いがあります」


「なに?」


神威(かむい)結晶を使ったスチールゴーレムを、百万体ほど作って下さい」


「スチールゴーレムかあ。それくらいなら――――は? 百万体?」


「そうです。このままでは、ソータさんの身も危なくなりますし。理由は――」


 スチールゴーレムを誰が作っているのか。その組織捜しが始まっているらしい。怪しまれているのは日本。理由は実在する死神(ソリッドリーパー)の力を借りず、独自に異世界移住計画を進めているからだそうだ。


 スチールゴーレムは俺が作ってるから、組織じゃないけど。


 そこで、魔女(ハッグ)シビル・ゴードン率いる実在する死神(ソリッドリーパー)が、世界各国にスチールゴーレムを提供するというかたちを取れば、色々丸く収まるそうだ。


 正直これは政治の話だもんな。俺は完全に門外漢。


「いいよ、分かった。神威(かむい)結晶入りのスチールゴーレム百万体を提供する。ただし、リバースエンジニアリングしないこと。それやると爆発するように仕込んでおくからね」


「はっ、はいっ! あ、ありがとうございます!」


「んじゃ行こうか」


「えっ、どこへ」


「アラスカだ。そこにある秘密基地に行こう」


 俺はシビルの肩に手を置いて、転移した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 第二十八特殊戦術飛行隊の秘密空軍基地へ到着。ちょっとした騒動のあと、俺とシビルは、基地司令のウォルター・ビショップ准将と面会していた。


 ウォルターは、俺のことを色々調べ上げていて、なんやかんやと質問が多かったが、メタルハウンドの件をバラすぞと言って黙らせた。


「で、何の用なんだ? 私は移住計画で忙しいんだが」


 アメリカとカナダは、大魔大陸へ移住を進めているようだ。ビッグフットの悪魔(デーモン)ネイト・バイモン・フラッシュと共に。サンルカル王国の南東、アルトン帝国と交渉するらしい。


 ただし、アメリカには多くの同盟国がある。そのため、これらの国々への支援も必要だが、まだ手が回っていないようだ。中米、南米、オセアニア、アフリカなどから支援要請が届いているという。


「スチールゴーレムを五百万体準備する。これらを使って各国を支援してほしい。同盟国ばかりではなく、政治的な対立も無く、まんべんなく支援するように」


「はあ? ソータくん、君は何を言ってるのかね?」


「ビショップ准将、これは実在する死神(ソリッドリーパー)からのお願いです」


 俺のあとにウォルターが怪訝な顔をしたところ、シビルは看板を使って黙らせた。


 今をときめく実在する死神(ソリッドリーパー)のトップからの言葉だ。いかに軍のお偉いさんとは言え、悪魔(デーモン)ネイト・バイモン・フラッシュの上司に当たる存在――魔女(ハッグ)シビル・ゴードンには逆らえなかったようだ。


 ウォルターの案内で、軍用機の格納庫へ移動した。


「ここにゴーレムを五百万体? 正直何を言っているのか、さっぱり分からないんだが」


「説明するより見てもらった方が分かりやすいでしょ」


 俺は普段より大きなスチールゴーレムを一体だけ創る。身長五メートルほどだ。


 突然現われた巨大な人型ゴーレム――金属球の固まり――を見て、兵士たちが銃を構える。


「な、何だこれは――」

「ビショップ准将、静かに」


 シビルが強めに言ったことで、ウォルター・ビショップ准将は手を挙げて、周囲の兵士に銃を下ろさせた。


 その間俺は、念話でスチールゴーレムへ指示を出した。


「空間魔法を使います。外から見た格納庫は変わりませんけど、中はとても広くなるんで驚かないでくださいね」


 空間魔法を使うのは、巨大ゴーレムだ。ボーリング玉くらいの神威(かむい)結晶を入れたので、彼に色々頑張ってもらうつもりだ。


 そして俺は、空間拡張した格納庫の中に五百万のスチールゴーレムを創りだした。


 俺がコソコソ動いてもどうせバレるからな。


 魔術結社実在する死神(ソリッドリーパー)とアメリカ軍、相互監視の下、スチールゴーレムをうまく使ってくれ。


 シビルとウォルターから呆れたような視線を浴びながら、俺はそう考えていた。

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