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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
12章 七連合

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251 竹内とヘルミ

「長い一日だったな」


「よくあることだろ」


 佐々木と竹内は空から駐屯地を俯瞰しながら、そう言った。軍師ヘルミが逃げ込んだ場所だ。


 ここは海岸に近い。湿り気のある潮風が吹き抜けていく。夕日が沈む空はオレンジ色に染まり、駐屯地の建物や空艇(くうてい)が赤く染まる。


 周りには緑の草原と赤い屋根の民家が散らばり、漁港も見えた。海は穏やかで、波が岸に寄せては引いていく。水平線の向こうには流刑島の影がぼんやりと浮かんでいた。


 そんな風景を眺めながら佐々木は口を開いた。


「スターダスト商会みたいに、雑に攻められないね」


 佐々木の言葉に当然だという顔で竹内は答えた。


「駐屯地のニンゲンはティアラ社とグラック商会の私兵だからな。周辺には民間人も住んでいる。ヘルミはよく考えて逃げ込んだものだ。――――さすが俺の元軍師だ」


 神の目(ディンバインアイ)とグランウォールが封じられてしまった。彼らは苦笑しながらも、デーモンやバンパイア以外に被害が及ばないようにと、留意しているのだ。


 ふたりは顔を見合わせて、地上へ降下していった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「おいっ! 何だキサマらは!」


 駐屯地の兵のひとりが、敷地内に降り立った佐々木と竹内に警告する。すると他の兵士も声を上げた。


「あの装備見たことがある! あいつらデレノア王国軍の勇者だっ!!」

「片方はダンジョンから出てきて暴れてたやつだぞ!!」


 白銀の鎧に、黒髪のヒト族。彼らは一目で勇者だと気付いた。


 駐屯地の兵たちは物資の搬入で大忙しだったが、外敵の侵入に即応した。警報が鳴り響くと、フル装備の兵たちが大勢集まってきた。


「勇者が敵対視されてるねぇ……」


 佐々木はジト目で竹内を見た。


「ははっ、たぶんヘルミの〝精神誘導(サイコドライブ)〟で操られてるとき、俺たちもこんな感じだったんだろうよ」


 覚えてません、と言いたげな竹内を見て、佐々木はため息をつきながら言った。


「んじゃ始めようか」


 佐々木が魔導銃を構えると、青い稲妻がほとばしった。その光は不規則に動きながら、枝分かれし、兵士たちを感電させる。彼の攻撃は、一瞬で数十名の兵の意識を奪い去った。


 竹内は戦鎚を使わず、衝撃波を放っている。それも兵士たちの意識を奪うだけのレベルで留めているようだ。


 ふたりとも兵からの攻撃は、障壁で防いでいく。彼らは長年デーモンと戦ってきた勇者たちだ。商人に毛が生えたような民兵など、赤子の手をひねるようなものだった。


 佐々木と竹内は次々と現われる兵士の意識を奪いつつ、建物の中へ入ってゆく。すると佐々木が立ち止まり、メガネ(魔道具)を操作した。


「あのライフル、何だろう。データベースにないけど」


 飾り気のない事務的なエントランスホールで、大勢の兵士がライフルを構えていた。狙いはもちろん佐々木と竹内だ。


「あのライフルからは魔力じゃなくて、冥導(めいどう)を感じるな」


 竹内も立ち止まって首を傾げた。


「あれには冥導(めいどう)結晶が使われてる! 竹内くん、いったん退避するぞ!」


 佐々木の忠告と同時に、兵士の構えたライフルから、光を吸収する真っ黒な線が発射された。


 勇者のふたりは障壁を張って素早く外へ脱出する。彼らは転がりながら物陰へ姿を隠した。


「ぐっ……」


 竹内は被弾していた。障壁には穴が空いていて、竹内の腹部と背中から大量に出血している。彼はすぐにヒュギエイアの水を取りだして、一気に飲み干す。


 すぐに回復した竹内は愚痴る。


「なんだよ冥導(めいどう)結晶って。神威(かむい)結晶なら知ってるが、そんなの聞いたことねえぞ」


「高位のデーモンが創り出せるやつさ。竹内くん、これで魔法を使うんだ」


 佐々木は手のひらを上に向け、スキル〝創造(クレアチオ)〟を発動させた。瞬く間にビー玉大の冥導(めいどう)結晶が現れる。真っ黒すぎて球体には見えず円に見えるほどだ。

 ふたりはいったん障壁を解除し、竹内は冥導(めいどう)結晶を受け取った。


「お前なー、こういうの創れるなら、先に言うなり渡すなり、なんかあるだろうが」


 竹内は佐々木を軽く睨んだ。


「その黒いビー玉で、僕らの魔力総量を上回るんだ。神威(かむい)結晶も似たようなもんだけど、そうそう簡単に拡散するわけにもいかないからね」


 しれっと言い放つ佐々木。それを聞いた竹内は、またかという顔をする。


 佐々木は眉間にしわを寄せ、何かを思案しているようだった。スキル〝創造(クレアチオ)〟は、佐々木の想像(・・)したものが創造(・・)できるという、ぶっ壊れスキルだ。


 土火風水、四つの属性魔法において、土と水は実質、物質を創造していることと同義である。ロックバレット、ウオーターボール、基本の魔法からしてそうである。


 佐々木のスキル〝創造(クレアチオ)〟は、これらの物質創造系における、最上位のもの。


 その佐々木は、親友の中村を殺害された。今回は竹内に危害を加えられた。彼の目は激しい怒りに燃えていた。


 ――――ドスン


 駐屯地の入り口付近に、巨大な自動追尾連射砲(セントリーガン)が出現した。砲台の上に、ガトリングガンのような砲身がある。各種センサーは建物内の兵を捕らえ、連続で火を吹いた。


 動力源はどうやら神威(かむい)結晶のようである。白く発光するエネルギー弾が、一本のロープのように繋がって飛来してゆく。建物内の兵士たちはひとたまりもなかった。


 私兵たちを数秒のうちに全滅させ、それでも足りないのか、自動追尾連射砲(セントリーガン)は建物に向けて発砲し始めた。


 神威(かむい)の砲弾は、建物を穴だらけにし容赦なく破壊していく。


 その弾道は少し上を向いている。たまに建物を貫通していくエネルギー弾は、全て空へ向かっていた。佐々木は、周囲への影響がないように配慮しているのだ。


 そんな佐々木を見て、竹内も能力を解放した。流れ弾ひとつ外へ漏らさないように、駐屯地をすべてグランウォールで囲ってしまう。ついでとばかりに、ぶ厚い板状のグランウォールが、駐屯地の上に覆い被さった。空艇(くうてい)で逃げることを防ぐためだ。


 透明なグランウォールを使用しているため、外からの夕日が差し込んでいて視界に問題はない。そこでふたりは一息ついた。


 駐屯地の建物は半壊し、発着場の空艇(くうてい)も全て破壊されていた。大きな格納庫では火災が発生している。


「あーあ。みーんな死んじゃったかな」


 自分でやっておきながら、佐々木は呆れ声を出す。自動追尾連射砲(セントリーガン)は光の粒になって消えていった。


「そうでも無さそうだ」


 グランウォールを維持したまま、竹内は視線を移した。その先にはスーツ姿の男が、ふたり立っていた。彼らは半壊した建物を背にして、口の端から牙が覗く獰猛な笑みを浮かべている。


 すると彼らの背後の建物が激しく燃え上がった。石造りの建物が真っ赤に染まっていき、あっという間に溶け始めるほどの高温だ。


 佐々木はそれを見て、ウンザリした顔で言った。


「こいつらって、ティアラ社とグラック商会の代表かなあ?」


 竹内もウンザリ顔で応じた。


「さあな。でも、とんでもなく強そうだとは分かる。ヘルミを追ってる場合じゃねえな」


 勇者のふたりは、身構えながらバンパイアのふたりと向き合った。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「冗談じゃないわ! 佐々木がキレるなんて」


 軍師ヘルミはスキル〝霧散(ミストディ)遁甲(スパーサル)〟で、グランウォールの外へ脱出していた。


 彼女は実体化し、透明なグランウォールで囲まれた駐屯地へ目をやった。広大な敷地を囲って蓋をした密閉空間では、炎が嵐のように吹き荒れていた。そんな状態で酸素が持つわけも無く、炎は徐々に収まっていく。


 駐屯地はいま一酸化炭素など有毒ガスが発生して、ニンゲンが生きていける状態ではないだろう。


 ヘルミは状況を見極めながら、次の一手を迷っていた。


「このまま逃走すると、また追い付かれてしまうわ」


 地獄のような駐屯地の状況を見て、逆に好機だと思ったのだろう。ヘルミはもう一度霧と化して、グランウォールをすり抜けて駐屯地へ舞い戻った。


 その中は熱風が吹き荒れ、天井の方で炎が渦巻いている。


「こんなことするのは、クリストファーかグラックのどちらかよね」


 彼らはヴェネノルンの血を飲んだバンパイアである。ヘルミと同じく、通常の肺呼吸は必要としない。故に、闇脈(あんみゃく)を使って火を起したのだろう。


 ヘルミは霧のまま駐屯地を移動していく。すると驚愕の光景が目に飛び込んできた。


 クリストファーとグラック、ふたりのバンパイアが勇者ふたりを圧倒していたのだ。司令室があった建物は炎に包まれ、いまにも崩れ落ちそうになっている。しかしその建物から、赤黒い溶岩が連続で射出されている。それらは全て、勇者のふたりを狙っていた。


 溶岩の大きさはニンゲンと同じくらいの縦長で、粘性のあるもの。勇者ふたりは器用に避けているが、ふたりのバンパイアに近付けないでいた。


『どお? いけそう?』


 ヘルミの念話が、クリストファーとグラックへ届く。


『何としても勇者のふたりを倒します』


 クリストファーの返事を聞いて、ヘルミは満足げな顔で姿を現した。彼らは、スキル〝魂の鎖(ソウル・ジャック)〟で完全に支配されている。ヘルミの言いなりになっている状態だ。


『お逃げになってください、ヘルミ様』


 グラックの念話にヘルミが応じた。


『少し加勢するわ』


 彼らの戦いを上空から見下ろすヘルミに念話が届く。とはいえグランウォールで囲まれた閉鎖空間だ。そんなに高い位置にいるわけではない。


 佐々木と竹内はヘルミの気配を察知して顔を向けた。


「らしくないわね、勇者竹内」


 その言葉と同時にヘルミはスキル〝メンタルショック〟を使用した。彼女の瞳が赤く染まると、佐々木と竹内、両名の動きが一瞬だけ止まる。


 そのスキルは、対象人物に過去の辛い記憶を見せるというものだ。効果時間は相手の力量によって変わる。歴戦の強者である勇者たちには、一瞬だけしか効果がなかった。


 しかしヘルミはニヤリと笑みを浮かべた。その一瞬を突いて、クリストファーとグラックが左右へ回り込んだ。彼らは勇者ふたりを闇脈(あんみゃく)魔法で挟撃し始める。


 溶けた建物からはいまだに溶岩が飛来している。


 三方向からの攻撃で防戦一方となる勇者のふたり。竹内はグランウォールを使用し、正面からの溶岩を防ぐことで精一杯だ。佐々木は左右から飛来する闇脈(あんみゃく)のファイアボールを障壁で防ぐだけとなっていた。


 空に浮かぶヘルミへ意識を向けている暇もないようだ。彼女はそんな勇者たちを見て目を閉じた。闇脈(あんみゃく)に集中しているようだ。


 しばらくすると彼女は目を開き、地上で防戦中の勇者へ語りかける。


「さようなら、勇者竹内」


 ヘルミは少しばかり悲しげな顔で、闇脈(あんみゃく)魔法を使った。その魔法は広範囲に渡って深い穴を出現させた。底は暗闇になっており、どれだけ深いのか分からない。


 佐々木も竹内も急に足場がなくなったことで、浮遊魔法を使うタイミングが遅れた。彼らが穴に落ちた次の瞬間、地面は元の姿へ戻る。そして、元から何もなかったように静けさを取り戻した。


 そこには佐々木も竹内もいない。クリストファーとグラック、ふたりのバンパイアの姿も暗い穴に呑み込まれた。


 しばらくすると融解した建物から発射される溶岩がとまり、竹内のグランウォールが解除された。駐屯地に渦巻いていた黒煙や有毒ガスは、風に吹かれて流されてゆく。


「大地の深い場所にはマグマが流れているわ。これで完璧ね」


 ヘルミは自分の作戦に満足げな表情を浮かべ、ホッと一息ついた。


 奈落(ならく)は、広範囲の地形変化を引き起こし、対象を深い穴に落とす。

 穴に何かが落ちた瞬間、地面は元の姿に戻る。これにより、落ちた者は穴から脱出できない。

 対象物は穴の底は大地の深く、マグマが流れる危険な場所へ落とされてしまう。勇者だろうがバンパイアだろうが、生きて帰ることは難しいだろう。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ヘルミはその場を後にし、スキル〝影渡り(シャドウシフト)〟で海岸沿いを東へ移動していった。

 日が沈んで辺りが暗くなってゆくと、ヘルミの姿も見えなくなる。


 駐屯地から遙か遠くへ逃げ切ったところで、ヘルミはようやく姿を現した。


「ここから先は砂漠。ドワーフ軍に見つからないようにしなきゃ……」


 月明かりが照らす砂漠は、砂の一粒まで柔らかい光を跳ね返している。そこを黒い影が移動していけば目立つことこの上ない。マラフ共和国から陸路でスタイン王国を目指すなら、ミゼルファート帝国を通り抜ける必要がある。


 ヘルミは眉間にしわを寄せ、決意に満ちた表情でスキル〝影渡り(シャドウシフト)〟を発動した。


 そこに突然、暗い影が落ちてきた。


 ヘルミは直感的に危険を察知した。夜空から落ちてくる巨大な黒い立方体が、闇脈(あんみゃく)魔法で形成されたグランウォールだと。


 彼女はスキル〝霧散(ミストディ)遁甲(スパーサル)〟を使って逃げようと試みる。


「ああ……さすがね、勇者竹内。闇脈(あんみゃく)のグランウォールだと避けきれないわ」


 空から落下してくる闇脈(あんみゃく)のグランウォールは、あまりにも巨大であった。その身を霧に変えても関係無いとばかりにヘルミを押し潰した。

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