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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
12章 七連合

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249 バインドルーン

 小さな金属球の集合体であるスチールゴーレムと、漆黒の鎧に身を包んだ、灰色の肌をしたデーモンが街で激突している。互いに神威(かむい)冥導(めいどう)をぶつけ合い、周囲の建物を次々と砕きながら戦っていた。


 これは以前見たデーモンとは別格だ。この強さは、エリスに取り憑いていたアリスに匹敵すると感じる。


 俺はそのデーモンに立ち向かおうとして足を止めた。


 街の人々があちこちで倒れていると気付いた。彼らの救助こそが最優先だ。


 俺はヒュギエイアの水を連続で打ち上げ、首都トレビに雨を降らせようとする。しかし、地上から飛んでくる数千の冥導(めいどう)魔法によって水は打ち消されてしまう。その効果も失われてしまう。


 それならばと、神威(かむい)で再びヒュギエイアの水を生成して打ち上げた。だが、結果は変わらなかった。


 完全に対策されている。ビガンテも手強かったが、ラギニも侮れないな。


 周囲を見渡すと、スチールゴーレムが次第に劣勢になっていた。それもそのはず、デーモンが街の人々に取り憑こうとしており、スチールゴーレムはそれを阻止しながら戦っているからだ。すでに取り憑かれてしまった人もいる。


 急いで空間魔法を使って、デーモンを引き剥がそうと試みる。


 ハッとして思い出す。神々によって、空間魔法による召還が制限されていることを。


 仕方がない。風魔法で巨大な時間停止魔法陣を作り、首都トレビに落とす。


 これで最低限の状況悪化を食い止めた。


 時間の止まった街は、空気の動きさえ感じられない。呼吸が必要ない身体にうんざりしながら、デーモンに取り憑かれた人びとを集めていく。


 そしてデーモンを取り除こうとするが、方法が分からない。


 空間魔法を制限されたことが悔やまれる。イビルアイを使ったとて、結果は変わらないだろう。


 そもそも時間停止による状態の恒久化は、時間停止の解除によってのみ取り消せる。


 佐々木と竹内、彼らデーモン専門家の知識と能力が必要だ。そのためには、冥導(めいどう)転換魔法陣を使っているラギニを討たなければならない。しかし、ラギニを探すのは容易ではないだろう。


 それに時間が止まったことで、街の人びとへの被害は抑えられたが、魔素も気配も何も感じられなくなっている。時間をかけて探すしかない。時間は止まってるけど。


 まずは空から探そう。俺は浮遊魔法で空へ舞い上がった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 勇者たちによって焼き払われた冥界の森で、ラギニはゲートの先を眺めていた。彼女が放ったデーモンたちは、金属球の集合体という不思議なゴーレムと戦っている。


神の目(ディンバインアイ)と、グランウォールは見たことがあるわ。けど、あのゴーレムは知らない。他にも勇者か、それに匹敵する力の持ち主がいると踏んで正解のようね」


 突如ゲートの先の風景がピタリと止まった。彼女はゲートを移動させて、上空から地上を見下ろす。


「あの黒髪の男。あいつが時間を止めたの……? 魔力も何も感じないのに、まさかそんな事が! ということはスキル! いや魔法かな?」


 時間が止まった首都トレビで動くものがあれば、すぐに見つかるだろう。ラギニは空を飛ぶソータの姿を発見し、驚愕し慄いた。彼女は少し考え込み、そして決断した。


「あいつに憑ければ、時間を止めるスキルが使えるわね。ふっ、ふふふっ」


 ラギニの笑顔には、赤く濡れた唇が不気味に映えていた。そして彼女はゲートの先にある空間に、魔封殺魔法陣(アンチマジック)を使用した。


 ゲートの先の世界――首都トレビは、時間停止魔法陣が解除されて動き始めた。空を飛ぶソータは慌てて時間停止魔法陣を使うも、ラギニの魔封殺魔法陣(アンチマジック)ですぐに解除されてしまう。


 何度か繰り返した後、ソータは時間停止を諦めたようだ。


 それを見たラギニは、一層笑みを深めた。


 ソータは地上のデーモンに見つかって、集中砲火を浴び始めたのだ。


 ラギニはゲートを操作し、ソータの障壁内部に繋げた。そこにはソータの後頭部が見えている。彼女は衝撃波を放ち、彼の意識を一瞬で奪った。


「おや? 障壁が解除されないわね。……でも都合がいいわ」


 ソータは障壁内部で、仰け反るように倒れている。本来なら障壁は解除されるはずだ。ただ、地上のデーモンが放つ、いく千もの冥導(めいどう)魔法を防いでいるのは、ラギニにとって都合がいい。


 彼女はホムンクルスの身体を捨て去り、黒い粘体へ変化した。それはゲートから流れ込んでいき、ソータの頭から全身を飲み込むように覆い尽くした。


 ラギニの念話がソータの脳内へ届く。


『身体を食べるのは後回し。あなた、起きて名乗りなさい。そしたら取り憑いたままにしてあげるかも』

『この身体には、私が憑いてるの。空いてる席はないわ』


 しかし返ってきた返事は、既に誰かが憑いているというもの。しかもその声は女性のものだった。

 それはもちろんクロノス( 時の神 )の声だ。


『えっ!?』


 ラギニの声には、驚きと共に恐怖の色が滲んでいた。そして彼女は、周囲の時間が止まっていることに気付いた。意識が無いのに誰が時間を止めたのか。ラギニはすぐに理解した。


『あなた、ヴェネノルンの血を飲んだでしょ? デーモン、バンパイア、どっち?』


 ラギニは頓珍漢な質問をする。


『飲んでないわ。それに、どっちでもない』


 クロノス( 時の神 )は、自身の正体を明かす気はないようだ。


『あなた、一体何者なの?』


『随分余裕ね。あなた身体に異常を感じない?』


 クロノス( 時の神 )の声で、ラギニは少しだけ疲労感があることに気付く。それは加速度的に大きくなっていき、黒い粘体に様々な異常を起こし始めた。表面は乾燥しボロボロと崩れ落ち、粘体自体が固まっていく。


 黒い粘体のラギニは慌ててソータの身体から離れ、その姿を灰色のデーモンへ戻した。しかしその姿になっても、ラギニの肌が乾燥して崩れ落ちていく。


「あ、あなた、何をしたの!?」


 時間の止まった世界。時間の止まった障壁内。そこでラギニは絶叫した。

 ふたりとも障壁の中で向かい合っている。ソータの口から女性の声が発せられた。


「あなたの時間を早めただけ。今のあなたは、意識だけ普通の時間軸で、身体だけが一秒で百万年くらい進んでいるわ」


「ま、待って! あたしはそんなに長生きできな――」


 時間を早めたと言っても、別に動きが速くなっているわけではない。正しくは老化を早めたと言った方がいいだろう。ラギニは急に老け込んで言葉も発せないほど弱っていく。


 その経過をじっと見ながら、クロノス( 時の神 )は激励する。


「ほら、まだ十億年よ。まだ頑張れるんじゃない? ……あれ?」


 ラギニの体は瞬く間に老い衰え、最後の息を吐き出すと共に、灰色の砂となって崩れ落ちた。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 後頭部に一撃を食らったところまでは覚えている。しかし、そのあと時間が飛んだような感覚がした。おまけに何だこの砂山は。


『ラギニです。始末しました』


『うおおっ!? マジで? 俺、不意打ち食らったの?』


『食らいましたね~。ほんと情けない』


『いやあ、すまんすまん。でも助かったよ。またデストロイモードで対処したの?』


『そ、そんなところです』


 クロノス(汎用人工知能)がラギニを始末したという事は、ミッシーたちの呪いが解けたはず。


 地上からデーモンの攻撃が続いているので、もう一度時間停止魔法陣を使う。よし、今度は解除されなかった。やはり時間停止を解除していたのはラギニだったようだ。


 続けてイビルアイを使ってみた。吸い込む対象はもちろんデーモン。


 うん……?


 周囲の時間が止まっているので、出現したイビルアイも止まったままだ。そうだ、時間停止だと状態が変わらないんだったな。


 時間遅延魔法陣へ切り替えると、人びとに憑いたデーモンが引っこ抜かれて、ゆーっくりと空中へ舞い上がっていく。


 あとはもう楽勝だ。イビルアイに吸い上げられるデーモンを片っ端から滅ぼして回った。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 イノセントヴィクティムへ戻ると、ミッシーたち四人は既に目を覚ましていた。


 医務室のベッドに寝かされたままだが、元気は良さそう。すでにヒュギエイアの水を飲んで体調万全だった。


 リアムも駆け付けていて、仲間たちが勢揃い。バンダースナッチへ移動しようと話していると、ドワーフの医者が経過観察が必要だと言い始めた。


「呪いは周到に準備されたものが多い。ひとつ解呪されても、次の呪いがどこかで発動するやも知れぬ」


 医者の言葉を聞いたミッシーが口を開く。


「そういえば、私たちはどこで呪われたんだ?」


 医務室に重苦しい沈黙が落ちた。俺は呪いに関してもだが、この世界の様々な知識が不足している。呪いと言われて思い浮かぶのは、わら人形に釘を打つとか、そんな事くらいだし。


 以前この世界の学校に行けとか言われたけど、そんな暇はない。


 ミッシーは反応のない俺たちを見て話を続ける。


「ソータ、誰を倒した? それで私たちの呪いが解呪されたとしても、それがただのトリガーだとすれば――――」


 ミッシーはベッドの上で白目を剥いて意識を失った。ファーギ、マイア、ニーナ、三人も同じく、意識を失っていた。四人とも心音に変化は無い。命に関わるような事態ではなさそうだ。


「これは……」


 あまりの出来事にドワーフの医者が声を上げる。俺とリアムは、言葉を失ったまま、動くことさえできなかった。


 医者は絞り出すように言葉を続ける。


「これは、呪いがいくえかに張り巡らされているようです」


 その言葉にリアムが食って掛かった。


「いくえかにって何すか? 呪いって、上級者でも二つ三つが限界っすよね!」


「それは一般的なニンゲンが呪いを使ったときの話です……」


「一般的なニンゲンじゃないって、ソータさんのことっすか?」


 おいおいリアム。俺じゃないからな? 変な流れ弾を受けつつ、医者の話を聞いていく。


「違いますよリアムさん。ファーギのここを見て下さい」


 吐息をたてるファーギの額に、うっすらと何かの文様が浮かんでいる。幾何学的であり文字のようにも見える不思議なものだ。


「何の模様っすか?」


「これはバインドルーン。大昔、カヴンとハッグが使っていた呪いの文様です」


 魔女(カヴン)マリア・フリーマン。魔女(ハッグ)シビル・ゴードン。この二派か。地球で見た魔女もルーン文字使ってたな。


 そうなると、ミッシーたちの呪いは、レブラン十二柱のビガンテとラギニによるものでは無い。もっと前に呪いをかけられていた可能性が出てくる。佐々木の考えは最悪の結果で当たってしまった。


 カヴンとハッグ。このどちらかが、ミッシーたちに呪いをかけたとするなら、いつだろうか。


「ソータくん、置いてけぼりは酷いなー」

「心配なのは分かるけどよ、ドワーフの旗艦へ向かうくらい言ってけっての!」


 ドアを開けて入ってきたのは、佐々木と竹内だ。そういえば何も言ってなかったな。


 彼らは俺にブチブチ文句を言いながら、ミッシーたちの姿を目にした途端、顔色が変わった。


「おいおい、これって軍師ヘルミが使ってた呪いじゃねえか! あの野郎いつの間に!!」


 竹内はミッシー、ファーギ、マイア、ニーナと順番に額を確認して、渋柿を食ったような顔になった。


「済まねえ、ソータ!! 俺がヘルミを近づけちまった!!」


 竹内は俺の前に駆け寄って土下座した。


「そんなことしないで下さい。軍師ヘルミを倒せば済む話ですよね」


「そっす! ヘルミを探して、打ちのめするっす」


 俺とリアムの声に続くものはいない。竹内も佐々木も医者も、俺たちふたりから目を逸らした。


「ソータくん……。とても言いにくいんだけどさ。ファーギたち四人はもう助からない」


 佐々木の言葉に、一瞬思考が停止した。その意味を理解できずに、ただ呆然と立ち尽くした。

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