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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
12章 七連合

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244 総崩れ

 奥さんから詳しい話を聞いて、タウンハウスを後にした。ただ、タウンハウスの構造上、隣の部屋に別の家庭が住んでいる。そこにもデーモンがいると聞いているので、俺は策をめぐらせた。


 姿を消してタウンハウスの屋根に移動し、適当な出っ張りに腰をかける。そこで目を閉じて気配を探ってゆく。半径十キロメートルほどの範囲を探れば十分だろう。やはり五割ほどがデーモンだ。つまり、首都トレビで考えると、五十万のデーモンが地上に現れていることになる。


 空間魔法でデーモンを引っこ抜こうと思って気づく。


 ブライアンに憑いているデーモンは、召喚できなかった。それはこの世界の神々が俺の魔法を制限しているかもしれないと、クロノス(汎用人工知能)が言っていた。危険人物としてマークされているかもしれないとも。


 神々はこの地のデーモンを放置する気なのか。それ以前に気づいてない可能性だってあるな。冥導(めいどう)が漏れてないし。


 そんなことを考えながら、空間魔法を使った。


 結果は失敗に終わった。デーモンを召喚することは叶わなかった。


 やはり魔法が制限されているようだ。


 それならばと、ヒュギエイアの水を打ち上げて雨を降らせてみたけど、これも失敗に終わった。デーモン家の中にいるし。


 そもそもヴェネノルンの血を飲んでいれば、ヒュギエイアの水は効かない。デーモンでもバンパイアでも。


 うーむ。あれを使ってみるか……。ちょっと抵抗あるけど。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 首都トレビ最大の軍事施設では、宣戦布告をしてきたミゼルファート帝国へ対抗するため、兵士たちが慌ただしく動き回っていた。内陸部にあるこの街は、他国との国境線が遠い。ゆえに兵力もそこまで充実しているわけではなかった。


 発着場には巨大空艇(くうてい)が三隻のみ。小型空艇(くうてい)が五十機。多脚ゴーレムに関しては、物資搬入用のものしかなかった。


 しかしそこに明らかに軍人とは違う服装の者たちが姿を現した。巨大空艇(くうてい)の格納庫に連れてこられた、民間人である。


 正規兵たちは彼らを見て頷いた。先頭を歩いているのがレブラン十二柱の序列八位のラギニだったからだ。彼女はまたホムンクルスの身体を得たのか、妖艶な笑みを浮かべながら進んできた。


 彼女の後ろには長い列が続き、しばらくすると格納庫を埋め尽くすほどの民間人が集まった。


「デーモンの諸君! 今こそこの世界を奪うときだ。列強の一角、ミゼルファート帝国が、この国を落としにかかっている」


 ラギニはそこで言葉を句切り、集まった民間人(デーモン)を見渡す。彼らはまだ、現世に現れて間もなく、戸惑いの表情を隠せないようだった。ホムンクルスの身体にも慣れていないことが見て取れる。


 ラギニはそれを見て少し顔をしかめる。


「本来なら、数年かけて身体を慣らしていかねばならないが、緊急事態である。この国にあるホムンクルス工場を死守せねば、我らデーモンの地上進出は泡沫の夢と化するであろう! ここは踏ん張りどころだ。なに、そう恐れるでない。接近すればドワーフなんぞ、取り憑いて食い殺せばいい」


 発破をかけるラギニは、明らかに表情を作っている。厳しい顔で、そして優しく問いかける。緩急を交え、彼女の演説は続き、終わる頃には自然と拍手が起こった。

 正規兵(デーモン)たちも、感動して涙を流すものまでいる名演説だった。


 ろくな装備もせず、巨大空艇(くうてい)に乗り込んでいく民間人(デーモン)を見送り、ラギニはその場を離れた。


 もう一度冥界へ赴いて、デーモンを集める気のようだ。


 彼女がゲートを開こうとすると、突然サイレンが鳴り響く。


「なっ!? この魔法は!!」


 同時に彼女は身体に異変を感じ、ゲートを開いて逃げるように冥界へ戻っていった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 アルフェイ商会、ティアラ社、グラック商会の合同社屋でも警報が鳴り響いていた。アルフェイ商会代表のアルバート・アルフェイは、社長室で呆然としながら、窓の外を眺めている。


 彼の視線は、首都トレビの上空に現れた巨大な眼球に釘付けだった。


 それは冥導(めいどう)の固有魔法、イビルアイだ。


 以前ソータが吸い込まれたものより遙かに巨大で邪悪な気配をまき散らしている。


 そこへ吸い込まれていくデーモンたちは、街から吸い上げられる灰色の砂粒のように見えていた。


「い、いったい何が……」


 アルバートはこの状況に理解が追いついていない。灰色の砂粒がデーモンだと理解しているようだが、上空に浮かんだ網目状の眼球は完全に理解の範疇を超えていた。


 縦に裂けた猫の瞳のような黒い空間へ、デーモンたちが次々と吸い込まれていく。その範囲はとてつもなく広く、首都トレビ全てのデーモンを吸い尽くす勢いだった。


「ぷっ……」


 突然吹き出すアルバート。彼の顔は豹変し、笑いを堪えている。何が起こっているのか理解したのだろう。


「あの目玉は、デーモンだけ(・・)を吸い込んでるのか!」


 イビルアイは、冥導(めいどう)魔法の中でも大魔法に分類される。指定したものだけ(・・・・)を吸い込み、その範囲内ではスキルが使えなくなり、魔素の使用効率百パーセント未満の魔法も使えなくなる。


 この魔法が使えるのは、デーモンの中でも僅かしかいない。


「ラギニの横暴さに、レブラン十二柱の誰かが乗り出してきたのか。冥界の住人をかってに連れてきてるんだから、そうなっても仕方ないだろう」


 魔法を使っているのはソータだが、彼にとってそこは重要ではない。三大商会はこれまで、街の住人を対価にしてヴェネノルンの血を受け取っていた。


 それは最初だけ格安の取り引きで、徐々に要求される住人の人数が増えていった。ヴェネノルンの血が闇の者たちに高く売れるとはいえ、利益が大幅に少なくなっていたのだ。


 この街のデーモンが減ってしまえば、あるいは全ていなくなってしまえば、ラギニはどう動くだろうか。アルバートは頭の中で素早く損得勘定して結論を出した。


「脳神経模倣魔法陣で動くホムンクルスが残る。彼らは元の人物とほぼ同じだ。そいつらを対価にして、もう一度ヴェネノルンの血を仕入れることが出来る」


 アルバートは悪魔(デーモン)のような笑みを浮かべ、高笑いをはじめた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 俺は冥導(めいどう)魔法に対して強い抵抗を感じていた。デーモンが使う魔法だからだ。しかし思い切って使って良かったのかもしれない。まだ結果は分からないが、イビルアイは首都トレビのデーモンをどんどん吸い込んでいる。


 あの空間から転移すれば、脱出できる。しかし転移出来るデーモンは少ない。あの空間から脱出してきたデーモンは、俺の影魔法で片っ端から滅ぼしている最中だ。


 ただ、直径五十キロメートルのイビルアイと、一万の影魔法はさすがにしんどい。闇脈(あんみゃく)がゴリゴリ減っていくのが分かる。


 俺はタウンハウスの屋上で目を閉じたまま、動くことが出来ないでいた。


 ぐぬぬと声が漏れる。集中していないと気を失いそうになる。


『アイテールは使わないのですか?』


 クロノス(汎用人工知能)が急に話しかけてきて、集中が途切れそうになった。イビルアイと影魔法を維持しつつ返事をする。


『アイテールを使うと、一線を越えそうな気がしてるんだ』


『気にしないでいいですよ。ソータの身体は、アイテールになっているわけですし』


 気にするなと言われてもなあ。アイテールの使用は、神の御業を振るうことに他ならない。それはもう、完全にニンゲンでなくなってしまう事と同義だ。


『気にしないでいいのに~』


 心を読むなっての。


 気持ちを切り替えると、冥導(めいどう)の減少による頭痛を感じた。これこれ。こういう痛みがなければ、生きた実感がしない。……この考えはちょっとヤバいかも。痛みで喜ぶとか危ないな。


 いや今はそんなこと考えている場合じゃねえ。


 俺の影魔法に、何者かの強力な攻撃を受けたのだ。五感を共有しているので痛みも伝わってくる。


 その影魔法へ意識を向けて周囲を探る。確かこの影魔法は一体のデーモンを追いかけていたはず。


 ――見つけた。灰色の身体に、赤い顔。見たことがないデーモンだが、何者かすぐに分かった。俺の影魔法に冥導(めいどう)魔法の闇の矢をマシンガンのように連射している。


 ……レブラン十二柱の序列八位のビガンテ。


 時間停止魔法陣を貼り付けて、闇の牢獄へ突き落としたのに、何でだろう。


 あー、そういえばこいつ、同じ顔のホムンクルスへ乗り移ってたな。時間停止魔法陣は、ホムンクルスに貼り付けていた。つまり憑依していたビガンテにまで、その効果が及んでいなかったということか。


 おばあさんも身体(ホムンクルス)がふたつに割れて、中からデーモンが姿を現していたから、別なんだろう。


 闇の牢獄を彷徨っていたビガンテは、イビルアイの入り口を見つけて、転移魔法で戻ってきたってことか。


 つまり、闇の牢獄とイビルアイの中は同じ空間。


 あ……。闇の矢の連射に耐えられず、影魔法が消えた。


 まずいな。手が回らない。一万の影魔法はさすがにやり過ぎたかもしれない。頭痛が酷くなって頭が重く感じるし熱っぽくなってきた。


『アイテールを使えば――』

『デストロイモードに変更』

『了解しました』


 スッと頭がクリアになる。しかし熱っぽいことに変わりはない。早めに決着をつけた方が良さそうだ。


 俺はさらに一万の影魔法を街の中へ送り出した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 首都トレビの上空に浮かぶ佐々木と竹内。彼らふたりの装備が様変わりしている。白銀の鎧に白いマント。佐々木の魔導銃は白銀のライフルに変わり、竹内が装備する鋼鉄製の戦鎚は白銀のものに変わっていた。


「この装備に着替えることは、もうないと思ってたのにね」

「この装備じゃないと魔法もスキルも使えねえからな。ガチでいかないと危ねえだろ」


 佐々木と竹内は軽い口調で話している。そもそも彼らは、ハマン大陸でデーモンと戦ってきた勇者たちだ。眼下の光景など何度も見たことがあるのだろう。


「あれはデーモンが使うイビルアイだよね。見たこともないでかさだし、何でデーモン吸い込んでるんだろ?」


 イビルアイの効果範囲では、魔法とスキルが使えなくなる。


「それな」


「かなりの大物デーモンがイカれて、イビルアイを使った。もしくは――ソータくんが使っている。どっちだと思う?」


「ソータだろうよ。こんな出鱈目なことするのは」


「だよねえ……」


 ふたりとも上空に浮かぶイビルアイを見つめ、そのように結論を出した。街の中を縦横無尽に動き、デーモンを滅ぼしている影魔法を見つけ、彼らはそれもソータの魔法だと当たりを付ける。


「ちょっと心配になってくるねぇ。彼はこっち(異世界)に来て三ヶ月だっけ?」


 佐々木は呆れ声を出す。


「もう少し経ってるんじゃね? 裁判(・・)はもうすぐだろうよ。しかし、あの影魔法、万は出してんな。お、苦戦してることがある」


 竹内は裁判(・・)という言葉を発した後、影魔法が次々に消し飛ばされている箇所を見つけた。


「どこどこ?」


 佐々木の声で、竹内はその場を指さす。


「あそこだ」


「あれかあ。レブラン十二柱クラスだね」


 そういった佐々木の目がクルクルと動き始めた。次の瞬間、神の目(ディンバインアイ)が天から落ちてきて、ビガンテを一瞬で滅ぼした。この光は神威(かむい)を使っているので、蘇ることはない。


 彼らが仕留め損なったラギニは、熱で攻撃したため甦ることが出来た。ケアレスミスである。


 そんな事に気づいていない彼らは、次の獲物を探しながら移動を始めた。


「うーん。竹内くんさ、この街の形、既視感を覚えない?」


「よく見る石造りの街だろ? 既視感も何もありゃしねえよ」


「だよねぇ……。でもなあ……」


 佐々木は首を傾げながらも、次の神の目(ディンバインアイ)を発射した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 俺はビガンテに苦戦していた。影魔法だとどうしても反応が遅れる。闇の矢の連射で、影魔法が次々にやられていたのだ。場所は分かっているので、転移して直接叩こうかと思っていると、ビガンテと戦っている影魔法が丸ごと消えてしまった。


 何ごとかと思って目を開けると、佐々木の神の目(ディンバインアイ)が降り注いでいるところだった。


 佐々木と竹内が到着したらしい。彼らは首都トレビの南部に向かっていたはず。片をつけて戻ってきたのだろう。


 ひとりでデーモンの相手をするのはしんどいと思っていたところだ。デーモンの専門家が到着して、俺は胸のつかえが少し取れた気がした。

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