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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
12章 七連合

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242 捕虜救出

 執拗に繰り返される神の目(ディンバインアイ)の攻撃は、ハマン大陸のデーモン討伐を彷彿させるものがあった。スターダスト商会本社は、そのような苛烈な攻撃を想定していなかった。ゆえに簡単に壊滅した。


 暴れ回っていた捕虜たちが木製ゴーレムを破壊し終わるころ、彼らは基地の入り口にふたりの人影がいることに気づく。


「あのメガネ……。やっぱ勇者佐々木か。でもよ、竹内はどの面下げて来てんだ?」

「あいつが勝手に軍を解散して逃げたってマジか?」

「噂だからなぁ……」


 捕虜たちが集まってきて、ボソボソと囁く。


 佐々木と竹内は集まってきた彼らの前で、無言のまま立ち止まった。基地の周りに配置されている捕虜たちも、木製ゴーレムを制圧して駆け寄ってきている。

 しばらくすると佐々木と竹内の前に、二千名近い捕虜が集まった。


 そうなっても話さない勇者のふたりを見て、捕虜たちの声が大きくなっていく。


「さっきの神の目(ディンバインアイ)は、対デーモン用の出力で使った。全員点呼しろ。減っていたら、そいつはデーモンかバンパイアだから気にするな!」


 佐々木の拡声魔法が響き渡る。それは軍人に対する命令だ。元軍人たちはゆっくりと確認を始めた。


 しばらくすると、年輩の男が歩み出て報告した。


「大丈夫です。捕虜になったものは全員無事です」


 未だやまぬ熱気の中、今度は勇者竹内が大声を出した。


「この基地までどうやって来たのか覚えている奴はいるか!! 覚えてない奴は、軍師ヘルミからスキル〝精神誘導(サイコドライブ)〟で操られていたはずだ」


 そこまで言って竹内は言葉を切る。元兵士たちを見回して、彼らの様子を確かめているのだ。


 佐々木の言葉を聞いてしばらくすると、元兵士たちから声が上がり始めた。


「ダンジョンから出て、どうやってここまで来たのか覚えてねえ」


 彼らは口々にそう言い始めた。


「スキル〝精神誘導(サイコドライブ)〟は対象の人物を意のままに操る厄介なものだが、気づけば効果が解ける。記憶が飛んでると気づいたやつら、全員挙手しろ」


 なんと、元兵士たち全員が手を挙げた。


 そんな彼らをみて、竹内と佐々木は驚きを隠せないでいた。


 元兵士たちも、記憶が丸っと無いことで困惑している。


 軍師ヘルミのスキル〝精神誘導(サイコドライブ)〟は、非常に強力なものだと分かった。そこで佐々木が話し始めた。


「この場所は僕たちも知らなかった。けれど、神の目(ディンバインアイ)で首都トレビ付近を探していたとき、偶然見つけたんだ。君たち元兵士がいると分かって救出を優先した」


「いやいや……。俺たちが全員外にいたからよかったものの、そうじゃなかったら死人が出てましたよ?」


 真っ赤に溶けた元砦を見ながら、先ほど報告した元兵士が抗議する。


「はは。神の目(ディンバインアイ)を舐めてもらっちゃ困るね。魔力をいっさい感じないのは、ソータくん、あるいはヴェネノルンの血を飲んだデーモンかバンパイアだよ。君たちからは魔力を感知できるからね。間違うわけがない」


 ソータって誰よ、などと聞こえてきたが、佐々木の神の目(ディンバインアイ)で、ちゃんと確認して攻撃していたことが分かって、元兵士たちはホッとしていた。


 それに、竹内だけでなく、元兵士たちも操られていたと分かった。彼らは昨日より晴れやかな顔になっている。そこに竹内の大声が響く。


「勇者岡田には連絡済みだ。デレノア王国軍として復帰するもよし、別の仕事を始めるもよし、とにかく家族や友人に、お前たちの顔を見せてやれ。ゲートを開くから今すぐ退避しろ!!」


 その声と同時に、巨大なゲートが開いた。その先には、王都ハイラムのエルミナス城が見えていた。ここからデレノア王国まで相当な距離があるにもかかわらず、平気な顔でゲートを開いた竹内。元兵士たちはお礼を言いながら敬礼し、駆け足でゲートをくぐっていった。


 それでも二千人近い人数だ。元兵士たちが全員退避するまで、しばらく行列が続いた。


「さて、最低でも三体は生き延びているね。どっちを追う?」


 元兵士たちがゲートをくぐり終えると、佐々木はいつもの雰囲気とは違う声を発した。佐々木は魔道具のメガネで、何か操作している。


 佐々木の魔道具の性能に少々呆れつつ、竹内は確認する。


神の目(ディンバインアイ)で直接見てんのか?」


「そうそう。二体はだいぶん遠くまで逃げてるけど、あとの一体はまだこの敷地内にいるよ」


「んじゃ近い方からやるか。場所はどの辺だ?」


「あの辺りかな。だいぶん弱ってるから、もう一発神の目(ディンバインアイ)を喰らわせようか」


 佐々木が指さしたのは元砦。今は赤黒い溶岩に変わっている。そこにヒトの形をした何かが緩慢に動いていた。


「あの状態でよく生き残ってんな……。上位のデーモンかバンパイアだな。軍師ヘルミの情報を知ってるかも」


「そうだね。それと山田(やまだ)奈津子(なつこ)子爵(ヴィカウント)にした情報屋のルイーズ・アン・ヴィスコンティ伯爵夫人のことも知っているかも」


 佐々木は親友の中村を、山田(やまだ)奈津子(なつこ)に殺害されている。その山田はソータが時間停止させたままで手が出せない。それならばと、佐々木は山田をバンパイアにしたルイーズを討つ気でいるのだ。


「うおっと!?」


 竹内は土魔法グランウォールを使った。透明なアクリル板のような大きな壁が現われると、そこで何かが爆発した。


「今のは冥導(めいどう)魔法だね。使ったのはあれかな」


 驚きもせずにグランウォールの先を見つめている佐々木。その視線は、ヒトの形をした溶岩へ向いている。


「あいつから魔力も冥導(めいどう)も感じないよな」


 同じく驚きもせず返事をする竹内。


「ヴェネノルンの血を飲んだデーモンってことだね。弱ってるうちに叩いて、情報を聞き出そう」


 佐々木はそう結論を出した。悠長の話しているふたりだが、グランウォールで何度も爆発が起きている。ヒト型の溶岩の放つ冥導(めいどう)魔法は、尽きることなく続いていた。


 竹内はグランウォールを維持したまま、水魔法を曲射した。大きな水の塊がグランウォールを飛び越え、ヒト型の溶岩に命中した。その瞬間ものすごい蒸気が噴き上がって湯気が立ち込めた。


 元砦周辺は真っ白な湯気に覆われ、視界が数メートル先まで遮られた。


「竹内くん……」


「いやあ、すまん」


 視界が悪くなりすぎだと佐々木が咎めると、竹内は頭をかいて謝った。


 そのときだ。人成らざるものの咆哮が響き渡った。その咆哮はスキルだったのか、佐々木と竹内の身体が硬直して動かなくなった。


「なん……だ……これ」


 竹内は困惑した声を出す。


「たぶん……咆哮系の……スキル」


 佐々木は知っていたようだ。


 そして彼らの視線の先に、大きな翼で湯気を吹き飛ばした真っ黒なドラゴンが姿を現した。


 佐々木と竹内は、全身に鉛を詰められたかのように身体を動かせなかった。しかし佐々木の眼球は目まぐるしく動き始めた。


 次の瞬間、神の目(ディンバインアイ)の光の柱が、黒いドラゴンを貫いた。


 絶叫をあげるドラゴンに、追い打ちとばかりに、竹内のグランウォールが落ちてきた。それは、これまでのものとは違う形で、とてつもなく長い円柱だった。


 黒いドラゴンの身体は、グランウォールの円柱によって完全に押しつぶされた。

 神の目(ディンバインアイ)で大地が融解し、そこに透明な円柱が突き刺さった。まるで天変地異のような光景だ。


 佐々木と竹内は顔を見合わせ、しかめっ面を浮かべた。


「とっさに滅ぼしちゃったね」


 佐々木のガッカリした声に、竹内がもっとしかめっ面になって応じる。


「そう簡単には終わらなさそうだぞ」


 その声でハッとする佐々木。融解した大地に、何者かの気配がすると気づいたのだ。


 佐々木と竹内は、溶けた大地の方へ目をやって息を呑む。


 円柱型のグランウォールと融解した大地の間から、黒いタール状のものが滲み出てくるところだった。それはあっという間にヒトの形へ変化し、狂ったように笑いはじめた。


「ぎゃははははははははは!!」


 佐々木たちからみて正面にいる黒いタール。間には竹内のグランウォールあるにもかかわらず、その笑い声は全方位から聞こえていた。


「うっ……」

「また……か」


 佐々木と竹内の身体が硬直する。


 動けなくなったふたりのそばに、黒いタール状のデーモンが突然現われた。


「ふふふ……。かわいいわね。あたしはレブラン十二柱の序列八位、ラギニよ。よろしくねぇ」


 ラギニはそう言って、佐々木に覆い被さった。


「にげろ……佐々木」


 竹内がそう言っても、遅かった。彼らの硬直した身体は、思うように動かない。彼は佐々木を助けようとしたが、足がもつれて転倒してしまった。


 ラギニはデーモン特有の憑依を行なっている。ドロドロに溶けた黒いタール状のものが佐々木の表面を覆っていく。


「く……そが」


 竹内は倒れたまま動けなくなり、悔しそうな声を出した。もう佐々木は助からない。彼がそう思ったとき、ラギニが風船のように膨らんではじけ飛んだ。


 そこには障壁を張った佐々木が立っていた。彼はゆっくりと動いて、魔導バッグからヒュギエイアの水の入った小瓶を取り出す。ゆっくりとそれを飲み干したところで、身体の硬直が治ったようだ。


「ソータくんの障壁の張り方を真似てみたんだけど、上手く行ったみたいだね」


 佐々木はそう言いながら、ヒュギエイアの水を竹内にぶっ掛けた。


「サンキュー佐々木。というかお前ほんと器用だな。何をどうしたんだよ」


 ヒュギエイアの水のおかげで、竹内はすぐに回復して立ち上がった。


「神威結晶だよ。この結晶の力を、魔力のように使ってみて」


 佐々木が竹内にビー玉大の神威結晶を手渡した。


「スキル〝創造(クレアチオ)〟で創造したのか?」


 竹内の問いに佐々木は頷く。それを見た竹内は頷き、障壁を張った。


「それがソータくんの使う神威(かむい)障壁さ。バンダースナッチの障壁にも使われてるやつで、魔法にも応用できるからね」


「お前、ソータくんソータくん言ってるけど、神の目(ディンバインアイ)とか神威(かむい)煌刃(こうじん)神威(かむい)結晶使ってるだろ? 名前そのまんまだし」


「あちゃー、バレちゃった」


「いいおっさんが、そんな言い方してもかわいくねえんだよ。でも、まあ、その、助かったよ」


 ふたりして緩い会話をしているが、周囲の警戒は怠っていない。互いの死角を補い合い、鋭い視線を飛ばしている。


「おかしいね。レブラン十二柱はこれくらいでやられちゃう存在じゃないのに」


 そういった佐々木は、チラリと竹内をみた。


「ダメージは受けてるはずなんだよな……。お前の神の目(ディンバインアイ)を食らってるわけだし」


「そうだけどさ、なんか怪しくない?」


「だよな。いったん引くか。転移して距離を――――」


 竹内の言葉は途中で途切れ、ふたりとも落下する感覚がした。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 彼らふたりは浮遊魔法でふわりと降り立つ。そこは冥界だった。


「遅かったみたいだねえ……。油断した」


 頭をかく佐々木。竹内は周囲を見回して返事をする。


「前触れ無しで冥界に落ちたか。この世界、ダリいんだよな」


 周囲の光景は様変わりしていた。竹内のグランウォールは消えて、融解した大地は黒く冷え固まっている。周囲の森は枯れ果て、茶色く濁った空が広がっていた。


 もちろんはじけ飛んだ黒いタールはどこにもない。


「大丈夫か佐々木」


「何が?」


神の目(ディンバインアイ)はここじゃ使えないだろ?」


「そうだね。……でも」


 佐々木が魔導バッグを開くと、中から手のひら大のドローンが、わんさと飛び立っていく。その数は百を超えていた。


 王都ハイラムの上空を警戒するドローンと同じものだが、中身が少し変わっていた。動力源が全て神威(かむい)結晶に置き換えられている。


「やっぱ勇者の中で、お前が一番のチートだよ……」


 呆れた声を出す竹内。そんなの気にせず、メガネ(魔道具)を操作する佐々木。


「ふーん。やっぱアキラくんの言うとおりだったね」


 佐々木の目は、メガネ(魔道具)に焦点が合っている。


「何だよさっきから。何の話をしてんだ?」


「ねえ、アキラくんがね、冥界にはデーモンの街があるとか言っていたの、覚えてない?」


「覚えてねえ」


「……まあいいけどさ。いま飛ばしたドローンの映像でみると、ここから北に街があるとわかった。現世だと首都トレビ辺りかな。デーモンうじゃうじゃいるよ……」


「マジか……。刺激しないようにしないと。いや、その前に出るぞ佐々木」


 竹内は冥界から現世へ戻ろうと言っているのだ。


「ああ、分かった」


 佐々木の了承する返事と共に、別の声が聞こえてきた。


「逃げられるとでも思っているの? 甘いわね」


 転移してきたひとりの美女。黒髪に赤い瞳。黒と紫のローブを羽織ったラギニだ。


「さっきのデーモンと同じ気配。あんたラギニかい?」


 佐々木は緩い声で聞いているが、すでに彼らは神威(かむい)障壁を張っていた。


「面白いわね。さっきの攻撃は見たことがあるわ。あなたたち、デレノア王国の勇者でしょ。名乗りなさい」


「断る」


 そう言った竹内は、背中の戦鎚を引き抜いた。同じように佐々木も魔導銃を取りだした。


「障壁を張ったままじゃ攻撃できないわよ?」


 ラギニはクスクスと笑う。そして、彼女はまた狂ったように笑いはじめた。


 次の瞬間、佐々木と竹内の神威(かむい)障壁は、シャボン玉のように簡単に割れてしまった。

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