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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
11章 北極圏

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236 冥界のダンジョンコア

 アスタロトと八体のデーモン(地球の悪魔)は、冥界の(イクリプス)が作り出した漆黒の大地で猛り狂っていた。そのおかげで、攻撃を受けている大地に、大きなヒビ割れが生じた。


 大地に降り立ち、気配を探るために目を閉じる。


 デーモン(地球の悪魔)の気配を排除し、それ以外の気配を探っていく。半径百メートルでは何も感じない。半径千メートルでも同様だった。


 (イクリプス)は、もっと深いところにいる。俺は一気に気配を探る範囲を広げた。


 ざらりとする不快な気配。これは冥界の魔力の渦だろう。これで異世界と冥界がほぼ同じ造りだと確信した。


「おーい、アスタロト! ちょっと行ってくる!」


「よーし、お前が(イクリプス)を倒して戻ったら、宴会だ! 生きて帰ってこい、楽しみにしてるぞ!!」


 余計なフラグ立てやがって。そう心の中で呟きながら、魔力の渦が渦巻く空間――ダンジョンマスタールームへと転移した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 転移するとすぐクロノス(汎用人工知能)の声がした。


『デストロイモードへ変更します』


 真っ暗で灼熱の空間だ。焼け死ぬ前に障壁を張り、周囲の気配を探る。異世界の方で見たマスタールームは、溶岩の明かりで視界が確保できていたが、ここは違っていた。


 デストロイモードになっているからなのか、暗闇でも何とか視界が確保できる。眼下に見えるのは、黒いマグマ。超巨大な渦が冥導(めいどう)を吹き出している。


 察するに、ここの渦も八芒星(オクタグラム)になっているはずだ。


『色々仕掛けを用意してたんだけど、全部すっ飛ばしてマスタールームへ来るとはね。君は何者なんだい?』


 冥界の(イクリプス)から念話が届く。それと同時に目の前に黒いヒト型の物体が現れた。ニューロンドンで見た白いヒト型の(イクリプス)とは真逆の姿だ。


『俺はソータ・イタガキ。ちょっと訳ありでね。(イクリプス)、お前を攻略させてもらうよ』


(イクリプス)? 君は何を言っているんだい? 僕の名は(アビス)だよ? というか僕を攻略するって、なかなか笑わせてくれるね』


 あー、勘違いしてた。名前が違って当然だよな。


 すると突然背後に冥導(めいどう)を感じた。


 それは俺の後頭部を狙って飛来してきた。お辞儀するようにしてかわす。


 ――ズドン


 俺の前に浮かんでいた(アビス)に、黒い炎が当たって爆発した。アホだなーこいつ。木っ端微塵になって、黒い破片が落ちていく。


冥導(めいどう)魔法を確認しました。解析中……。これは魔力のファイアボールが冥導(めいどう)に置き換わっただけのものです。ソータなら既に使用可能です』


『あんがとね』


『どういたしまして~』


 そうなるとこいつには神威(かむい)が有効だな。ただ、今ので(アビス)の気配が消えた。この空間は真っ暗で見通しが悪い上に、広大な地下空間だ。一度見失うと探すのが大変だ。


 いつもは魔力を可視化しているけど、今回は冥導(めいどう)を可視化してみる。


 お……?


 かすんだように見えるのは、この空間の冥導(めいどう)が濃いせいだ。だが、前よりよく見える。眼下に渦巻くマグマから吹き出す冥導(めいどう)や、遥か遠くで吹き出す冥導(めいどう)などがよく見える。


 しかし注目すべきはそこではない。渦巻く黒いマグマの下に、大きな冥導(めいどう)の塊があった。この空間はダンジョンマスタールームだが、あの冥導(めいどう)の塊は、さしずめダンジョンコアの定位置と言ったところか。


 俺は魔力、神威(かむい)冥導(めいどう)闇脈(あんみゃく)、四種の素粒子で障壁を張って、転移した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 転移した先は、身動きすら困難なほど濃密な闇脈(あんみゃく)に満ちていた。視界は霞み、まるで真っ白な世界に放り込まれたかのようだった。


 視力をいったん普段のものへ切り替えると、部屋の内部がどうなっているのか分かった。そんなに広くない。六畳一間くらいの空間で、床も天井も壁も、全て黒光りするダンジョンの素材だ。部屋の中心には、真っ黒な八芒星(オクタグラム)が浮かんでいた。


 ダンジョンコア、(アビス)本体だ。


 お? 鏡かと思ったらフェッチ(ドッペルゲンガー)が現れた。しかも三体も。全員俺と同じ姿格好だ。


 面倒だな。こいつらはダンジョン内部で使った俺の能力を模倣してくる。ファーギから聞いたとき、もし遭遇したら、俺ならどう対処するのか考えていた。


 ――パン


 両手を叩くと同時に、足元に時間遅延(・・)魔法陣を貼って、この部屋全体の時間の流れを遅くする。時間遅延の効果が及ぶのは、俺以外だ。


 (アビス)フェッチ(ドッペルゲンガー)からすれば、俺の動きが急に速くなったように見えるはず。


 さて、これが通用するかどうか。


 獄舎の炎(プリズンフレイム)で三体のフェッチ(ドッペルゲンガー)を焼き尽くす。


 次の瞬間、ゆっくりとフェッチ(ドッペルゲンガー)が現れる。


 ふたたび獄舎の炎(プリズンフレイム)で焼き尽くす。


 これを何度も何度も繰り返した。


 そしてとうとうフェッチ(ドッペルゲンガー)が現れなくなった。


 次はどう出る(アビス)


 ――ズドン


 突然衝撃を感じた。障壁にヒビが入ったので、もう一度張り直す。(アビス)冥導(めいどう)を百パーセントの効率で操っているのだろう。その攻撃は、前触れすら感じさせなかった。


『どうした(アビス)。さっきのおちょくるような喋り方で何か言ったらどうだ?』


 ――――ズドン


「ぶおっ!?」


 障壁ごと横に吹き飛ばされた。黒い壁にめり込み、転がり落ちる。


 数カ所骨折したけど、液状(リキッド)生体分子(ナノマシン)がすぐに治してくれた。ふむー。ヒュギエイアの水を出すまでもないってことか。デストロイモード、すごいな。


(アビス)、あんた俺と会話する気はないってのか?』


 ――ドン


 今度は攻撃を防いだ。こりゃ魔法じゃないな。どっちかというと、念動力(サイコキネシス)に近いものだ。


 今の攻撃は俺の念動力(サイコキネシス)で受け止めた。グイグイ押してくる(ちから)は、魔法では再現できない。手のひらで押されている感覚がする。


 念動力(サイコキネシス)を増強し、押し返す。同時に冥導(めいどう)の風魔法を駆使して魔封殺魔法陣(アンチマジック)能封殺魔法陣(アンチスキル)を放った。


 すると宙に浮いていた(アビス)は、糸が切れたように落下していく。俺はそれを滑り込んでキャッチした。


 ダンジョンコアを傷つけるのは、ダンジョン攻略の失敗を意味する。割ってしまったら、ダンジョンが崩壊してしまうからな。これでとりあえず一安心。


『ふふっ……。ようやく障壁の中に入れたよ。油断したね、ソータ・イタガキ』


 ようやく聞こえてきた(アビス)の念話は、俺を嘲笑うものだった。


 俺はダンジョンコアを割らないように、障壁を解除してキャッチしているからしょうがない。


『あ、あれ? ねえ君、僕に何かした?』


 (アビス)の動揺した念話が耳に飛び込んできた。


『さあ? どっちにしても(アビス)、あんたはもう詰みだ、俺はいつでもダンジョンコアを割ることができる』


 冥導(めいどう)魔封殺魔法陣(アンチマジック)能封殺魔法陣(アンチスキル)は、(アビス)の能力を封じることに成功していた。今はもう、ただの黒い水晶だ。喋るけど。


『くっ! どうして僕にちょっかいをかけるんだい? 君は冥界の住民ではないだろう?』


 はい、冥界に住民がいると分かった。


『それで? 何か問題があるのかな?』


『大ありさ! 僕が冥界の冥導(めいどう)を管理してるんだ。君のようなよそ者がダンジョンマスターになったら、何をされるか分かったもんじゃないからね!』


 はい、(イクリプス)と同じ役割だと分かった。


『では、負けを認めないってことか。俺に攻略されたことを受け入れず、割られてもいい。そういう事だな?』


『そんなことしたら、冥界の冥導(めいどう)が乱れてめちゃくちゃになる。デーモンたちの管理体制が揺らいでしまう。本当に困るから、僕を割るのはやめてくれないかな?』


 はい、新たな情報だ。これは聞いておかねば。


(アビス)が居なくなれば、冥界の冥導(めいどう)が乱れることは分かる。けど、管理体制ってなんだ?』


『冥界はレブラン十二柱によって統治されているんだけどさ、いまは代替わりして混乱中なんだ。それに加えて冥導(めいどう)が乱れたらこの世界がめちゃくちゃになる』


 レブラン十二柱はだいぶん倒したもんな。代替わりしたってことは、新しいデーモンが繰り上がったのだろうか。


『大変だな。俺がチャチャ入れなければ、冥界は安定するってことか?』


『そうさ。だからお願いだから、このままそっとしておいてくれないかな?』


『さて、どうしようかな。俺には俺の事情があるんだよ』


『な、なにさ』


『冥界のデーモンが、地上に現れている』


『えっ?』


 この反応は本当に知らなかったのか、知らなかった振りをしているのか。


『冥界を荒らさないでくれというのなら、地上を荒らすデーモンを引っ込めてくれないかな? こっちは既に迷惑してんだよ』


『それは本当かい?』


『さっきここの地上部分で戦いがあったの気づいてないのか? メフィストってデーモンは冥界の住人だろ? 地上で迷惑かけてたから冥界まで追いかけて滅ぼしたよ。やったの俺じゃないけどさ』


『僕は寝てたからね。そんなこと知らないよ』


『寝てたから知らないとか、無責任すぎねえか? あと残念なお知らせだ。レブラン十二柱を倒しまくってるのは俺だ』


『……本当に?』


『証明する手段はない。だけどさ、(アビス)フェッチ(ドッペルゲンガー)を作り出していたのなら、俺にどれくらいの能力があるのか分かるだろ?』


『たしかにそうだ。……分かった。降参だ。――ただし! 冥導(めいどう)を乱さないこと。それと、地上へ行ってるデーモンを保護して――』


『あー、そこは俺が判断する。ニンゲンを喰うデーモンは全て滅ぼす。なんなら、冥界全てのデーモンを滅ぼしてもいい』


『くっ!』


『でもそれじゃ、いいデーモン(・・・・・・)も巻き添えになっちゃうよな。だから妥協案を出す』


『な、なに』


『このダンジョンの地上部分を、俺の世界――地球の悪魔(デーモン)に使わせろ』


『え、それだけ? ダンジョンマスターにならないの?』


『元からダンジョンの管理やってただろ? 俺は地球人だ。勝手の分からない世界で、俺のルールを押しつけてもいいの? 碌なことにならないぞ。それでもいいのか?』


『……』


『困るだろ? (アビス)は地球の悪魔(デーモン)を守ってくれるだけでいい。それでいいかな』


『うん! それでいいよ!』


 真っ黒で艶のない水晶から、ホッとしたような安心したような感情が伝わってきた。これ毎度ながらなんなんだろうな。(イクリプス)や流刑島のアビソルスからも、感情が伝わってきた。

 深く追究するようなことでもないし、彼らはそういう特殊な存在なのだと割り切ることにした。


『んじゃ、地上部分のドームを修繕して地上の街を造り直してくれ。あとはアスタロトってデーモン(地球の悪魔)と連絡取って、連携して動くようにな』


『うん、わかった!』


 ふう……。(アビス)の幼さが幸いして、何とか収まったというところか。こんな世界だから、北極圏まで訪れるデーモンもいないのだろう。(アビス)の返事は喜びの感情で満たされていた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 地上へ戻ると既に街ができていた。そのせいか、アスタロトたちの攻撃はやんでいた。街並みはニューロンドンと瓜二つだが、もちろんニンゲンはいない。


 ――――ドン


 炎の塊アスタロトが文字通り飛んできて、減速せずに着地した。めくれ上がった石畳は即座に元に戻っていく。(アビス)が仕事してくれている。


「早かったなソータ! さすが我の見込んだ男だ! ふははははははは!!」


「とりあえず攻略は済んだ。ダンジョンコアの名前は(アビス)だ。アスタロトに連絡が入るはずだ。後は上手くやってくれよ」


「ふははははははは!! 任せろ!!」


「なあ、アスタロト」


「なんだ」


「グレーター・ロンドン市長の指名依頼は、冒険者ギルドの制圧だった。結果的に冥界にまで来てしまったけど、何か聞いてる?」


「グレーターロンドン市長は、ニンゲンの振りした(イクリプス)だ。我はやつと会った瞬間気づいて、笑ってしまったぞ。ふははははははは!!」


「あー、そう……」


 (イクリプス)も北極圏のダンジョンで、ニンゲンとの接触は少なかったはず。静かな生活はマリア・フリーマンの攻略によって終わった。それからそんなに時間は経っていないはずだが、なんとまあずる賢くなっちゃって。


 (イクリプス)はおそらく、冥界のことも知っている。


 上手いこと利用された感が強いけど、俺にも得るものがあった。


 冥界には住人がいる。レブラン十二柱は再建中。枯れた世界に生きるデーモンたち。どうやって生きているのだろうか。エルフの里から冥界へ行ったときは、万単位のデーモンが襲ってきた。


 俺はいずれ、この世界でも動かなくてはならない。エリス・バークワースがこの世界にいるのなら。


 しかし今はまだだ。いったんニューロンドンへ戻ろう。


 アスタロトに後を任せて俺はゲートをくぐった。

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