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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
11章 北極圏

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235 アスタロトの息がくさい

 上空へ転移して浮遊魔法を使う。街の形はニューロンドンと同じで、冥界の特徴である冥導(めいどう)に満ちた世界だった。

 地上ではアスタロトが、メフィストが入った障壁をボコボコに殴りつけている。おそらく割れないだろうから、少しこのままにしておこう。


 俺はもう一度転移して、地上から三十キロメートルほどの空で静止する。ここから地上を見ると、巨大なニューロンドンは、ナノマテリアルのせいで視覚的には見えなくなる。ボロボロなのに、ちゃんと稼働しているとは驚きだ。


 ゲートを開いて、異世界と冥界の形を見比べる。


 眼下に広がる冥界の海岸線、ゲートから見る異世界の海岸線、全く同じものだ。


 エリス・バークワースは、この世界――冥界で戦力を集めていると聞いている。それなら、デーモンが暮らす国や街もあるはずだ。そこを探せばいいということか。

 今はそれくらい分かれば十分だ。目下の目標はメフィストからの情報を得ること。


 俺は地上に向けて転移した。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 黒い巨大なドラゴンが火を吹き、障壁を攻撃していた。さっきアスタロトと一緒に現れ、透明になって消えたやつだ。冥界にも呼べるということは、アスタロトは召喚魔法を使っているのだろう。


 当の悪魔(デーモン)アスタロトは腕を組んで仁王立ち。球状の障壁がいつ壊れるのか見守っていた。


「アスタロト」


「遅かったな。何をやっていた」


「うん。異世界と冥界の地形の違いを見てきたんだ」


「ほう……。それでどうだった?」


「異世界と冥界は、ほぼ同じ地形だったよ」


 そう言うと、アスタロトはスーツ姿の紳士へ戻り、首を傾げる。少し先では黒いドラゴンが大暴れしているというのに。


「ここは地球の冥界とは別物、ということか?」


 地球の冥界は、地球と同じ地形だった。アラスカで確認済みだ。


「たぶんね。異世界と、この冥界の地形が同じというだけで、確証はないけど」


「ふははははははは!! この冥界では暴れ放題だということか!!」


 アスタロトの姿がまた炎の状態へ変化し、魔力の炎が噴き上がった。俺は瞬間移動(テレポーテーション)でアスタロトから距離を取る。あの場に留まれば、焼け死んでしまう。


 アスタロトの近くに、人の形をした黒い物体が八体現れた。


『ソータ、お前は、メフィストを逃さないように、強固な障壁を張っているのだな? 解除すれば逃げられると思って』


 お、念話も使えるのか。割と器用だ。


『そうだよ。てか、八体のデーモン(地球の悪魔)は何だ? 事と次第によっちゃ滅ぼすことになるけど――』


『まあ、そう焦るな。これは我の部下たちで、メフィストを制圧するためとか、もろもろで呼び出したのだ。ちょっと障壁を解除してくれ』


 部下? 八体のデーモン(地球の悪魔)で、メフィストを制圧できるということか。どっちにしてもこのままじゃ、メフィストと話せないし、アスタロトの提案に乗ってみよう。


 アスタロトがあごをしゃくると、黒いドラゴンが消えた。そのあと八体の悪魔(デーモン)が障壁を取り囲んだ。


 万が一にでも、逃さないようにしなければ。俺も魔法が使えるように構え、障壁を解除した。


「本当にバカだねぇ。俺をどうにかできるとでも思ってんの――――」


 ――――ズドン


 ゆらゆら揺れる不定形の影。メフィストは何かに押し潰されるように、地面に叩きつけられた。その衝撃で、石畳がめくり上がって飛び散る。

 周囲の黒いデーモン(地球の悪魔)は、器用に石塊を避けていた。


 今感じたのは、冥導(めいどう)だ。八体のデーモン(地球の悪魔)の誰かが冥導(めいどう)魔法を使ったのだ。


 ヒッグス粒子を操るメフィストを魔法で押し潰すとは……。実はすごいデーモン(地球の悪魔)かな?


『異世界のデーモンは大したことないな。ソータ、これでメフィストから話が聞けるぞ』


 アスタロトはスーツ姿の紳士に戻って、何事もなかったかのように話しかけてきた。自信満々の態度。大悪魔と呼ばれるだけの風格を感じる。脳筋だけど。メフィストは地面に押さえつけられて動けないでいる。何か魔法を使おうとしても、取り囲んだ八体のデーモン(地球の悪魔)によって全て遮られていた。


 瞬間移動(テレポーテーション)でアスタロトの傍らに立つ。


「あの八体のデーモン(地球の悪魔)はなに? 部下とか言ってたけど」


 メフィストに話を聞くのが先だが、アスタロトの部下についても知っておいた方がいい。簡単には教えてくれないだろうけど。


「ああ、彼らは我が束ねる四十の軍団の長たちだ。それぞれが強い力を持つデーモン(地球の悪魔)だから、……安心しろ」


 安心できるわけがないだろ! とは突っ込まないでおく。教えてくれると言うので聞いてみる。


 第一軍団の、ウンブラエ。四十の軍団をまとめている。

 影を操り、影から物体を生成する。


 第二十七軍団のヴォラトゥス。

 重力を操作する魔法を使う。メフィストを地面に押しつけているのは、このデーモン(地球の悪魔)らしい。


 第四十軍団のヴォルテクス。

 空間そのものを歪ませ、ポータルを作成して瞬時に場所を移動する。また、敵を別の次元に閉じ込めることもできるそうだ。これはメフィストを始末するために呼んだらしい。


 第三軍団アエテリス。

 空気の流れを制御し、窒息や圧力変化を引き起こす。


 第四軍団イグニスス。

 火を操り、熱エネルギーを吸収または放出する。


 第五軍団アクアエット。

 水の状態を変え、水圧を制御する。


 第六軍団テラモール。

 磁場を操り、地震で地形を変える。


 第七軍団ヴェントゥルス。

 風を操り、気象を制御する。


 それぞれに特化した能力を持ち、彼らは軍団長として部下を持っているそうだ。


 メフィストから話を聞くだけなら、第二十七軍団のヴォラトゥスだけでいい。そのあと始末するなら、第四十軍団のヴォルテクスが必要だ。他の六体は、何で呼んだんだと聞くと、この冥界の環境を作り変えると言う。


 ただの脳筋悪魔かと思っていたが、ちゃんと先のこと考えていてビックリした。


「ふははははははは!! メフィストよ、貴様の命は風前の灯だ。我の問いに答えたら解放してやろう!!」


 何でそこで笑うんだよ。と思っていたら、スタスタとメフィストの元へ歩み寄り、声をかけた。急に真面目な声を出すアスタロト。低く響くその声は、地獄の底から聞こえる怨嗟のようであった。


「おいメフィスト」


「……」


 緩急の激しいアスタロトを見て、メフィストのチャラい声は途絶えた。透明な何かに抑えつけられて、ゆらゆら動く影――メフィストから恐れの感情が見て取れる。


「お前は、こっち(異世界)のデーモンだよな」


「……」


「……な?」


「……は、はい」


 おおー。やるなアスタロト。怖い雰囲気を出しただけで、メフィストの口調が変わった。


 メフィストはアスタロトに対し、完全に怖じ気づいてしまったようだ。



 アスタロトは質問を続ける。

 デーモンなのに何故、冒険者ギルドの責任者として、ニンゲンの振りをしていたのか。どうやって冥導(めいどう)を隠していたのか。彼はこの二点を聞いた。


 メフィストは素直に答えていく。


 この世界(異世界)では、大物のデーモンが現れると、神々によって討たれる。ニンゲンを喰らいつくし、滅ぼしてしまうからだ。それでも肉を喰らう衝動に抗えず、デーモンは基本的に冥界から異世界へ出たがっている。これが大前提としてある。


 数十日前、マリア・フリーマンが冥界へ訪れ、メフィストに接触してきたそうだ。聖獣ヴェネノルンの血を飲めば、溢れる冥導(めいどう)が隠せると言って。


 それは異世界の神々に見つからないことを意味する。メフィストはその話に飛びついた。彼は冥界で自由に過ごしていたが、暗くて陰気臭い世界が嫌いだったのだ。


 メフィストは、ヴェネノルンの血を飲んだあと、しばらく冒険者ギルドに務めて、ニンゲンの振る舞いを身につけろと指示を受けた。ヴェネノルンの血の効果は凄まじく、冥導(めいどう)が漏れ出ることが無くなり、冒険者ギルドのニンゲンに疑われることもなく、彼は無難に過ごしていた。


 しかし先ほど、マリア・フリーマンから念話が入って、メフィストはもう神々に見付かることは無くなった。これからは自由にしてもいい、そう言われたそうだ。


 そのときメフィストは、何かが消えてなくなった気がしたという。それが何かは分からないが、これで自由にニンゲンを喰らうことができる。そう思ったらしい。


 そこからまず、近くにいた冒険者ギルドの職員を丸呑みにした。その状況を見たギルド職員はメフィストを討ち滅ぼそうとした。しかし冒険者ギルド職員は全て地球から来たニンゲンである。バンパイアに変貌していたとしても。


 彼らはメフィストがデーモンだとは知らずに、次から次に襲いかかり、全て返り討ちに遭った。つまり全員喰われたのだ。


 それに気づいた冒険者たちが、魔術で攻撃を始めたが、メフィストクラスのデーモンにかなうわけがない。ほとんどの冒険者が喰われてしまった。


 その際、ファイアボールなどの魔術が内装に引火して火事が発生した。


 そんな流れだったようだ。


「ふははははははは!! お前は陽動のため、使い捨てのコマにされたな。マリア・フリーマンは、もうこの街にはいない!」


 アスタロトはそう言って、急に真面目な顔になる。それと同時に八体のデーモン(地球の悪魔)が各々で障壁を張ってその場から飛び退いた。


 アスタロトが口を大きく開けると、緑色の吐息が吹き出した。


「な、なんだそれは!?」


 それを見たメフィストが慌てふためく。緑色の吐息は、激しく揺らめく黒い影――メフィストへゆっくり近づいていく。


 何かヤバそうなので、俺も障壁を張っておこう。


 隣にいるアスタロトは、暴れるメフィストの声に答えるつもりはなさそうだ。


 緑色の吐息がメフィストに接触するや否や、黒い影が腐食したように崩れていく。絶叫をあげるメフィストは、いまだに抑えつけられて動けない。


『スキル〝腐敗の息〟を確認しました。解析します。……改善し最適化が完了しました。これ以降ソータにも使えます』


『……スキル名から何となく想像できるけど、どんなのか教えてくれない?』


『はい。スキル〝腐敗の息〟は、緑色の煙が噴出し、その煙に触れたものは急速に腐り始めます。例えば、人間や動物は皮膚がただれて内臓が溶け出す、木や草は枯れて黒くなる、金属は錆びて穴が開く、岩はぼろぼろに崩れるなどの効果があります。この能力は、口から出た煙が消えるまで持続します』


『おっかないわ! てかアスタロトの口がくさいのは、このスキルのせいかも……』


『多分そうですね。試しに使ってみますか?』


『メフィストに? するわけないだろ!』


 このスキルのせいで口がくさくなったらどうしてくれんだ。


 クロノス(汎用人工知能)と喋ってる間にもメフィストは腐っていく。もう声も出せないみたいだ。黒い影が液状に変化して、ボタボタと地面に落ちて白煙を上げる。それから少し経つと、地面に広がる黒いタールのようになってしまった。


 それで終わりではなかった。黒いタールの腐食反応は続いており、徐々に小さくなっていく。そしてそこには何もなかったかのように消え去ってしまった。


 メフィストから、もうちょっと話を聞きたかったが仕方がない。


「各軍団長に告ぐ。配下の軍団を呼び寄せ、この地を地球と同じ冥界に作り変えよ。この地をデーモン(地球の悪魔)(きょう)頭堡(とうほ)とする」


 アスタロトは堂々と宣言した。この地の環境を作り変えると。冥界も惑星だ。そう簡単に出来ないだろう。冥界には他のデーモンもいるのだから。


 冥導(めいどう)が渦巻き、突風が吹く。上空に巨大な雨雲が現れ、土砂降りになった。そんな中、廃墟の街中で、爆発したように炎が噴き上がった。そして、地震が起きた。


 八体のデーモン(地球の悪魔)がその能力を使っている。とは言っても冥導(めいどう)魔法だ。クロノス(汎用人工知能)が解析しないのはそのせいだ。


 地震が酷くなっていき、立っていられなくなる。浮遊魔法で上昇して、廃墟のロンドンがどうなるのか確かめよう。


 土砂降りのせいで、干からびたテムズ川に水が流れはじめた。廃墟の街から、川に水が流れ込んで、あっという間に増水してしまった。地震はまだ続いている。揺れが大きくなりあらゆる建物が倒壊していく。爆発もまだ続いていて、渦巻く冥導(めいどう)の風が強くなる。


 これが天変地異か。


 なんて思っていると、眼下に広がる街が突然陥没した。かなり広範囲だ。おそらくドーム内部全ての地盤が、数百メートル近く落下した。ニンゲンは誰もいないので、その点心配する必要はない。


 しかし、アスタロトと八体のデーモン(地球の悪魔)はどうなった。


 そう思って彼らを探していると、声が掛かった。


「我の仕事は済んだ。あとはお前の仕事だ」


 そう言ったのは、すぐ隣に現れたアスタロトだ。どうやら地上から転移してきたようだ。八体のデーモン(地球の悪魔)も近くに浮かんでいる。


「俺の仕事って? 何も聞いてないんだけど?」


「ふははははははは!! 眼下をよく見ろ! 冥界の(イクリプス)が怒ってるぞ! ふははははははは!!」


「はあ? ……ああ、そういうことか」


 こっち(異世界の冥界)あっち(異世界)が表裏一体の多世界だとすれば、冥界に(イクリプス)がいてもおかしくはない。


「ほれ、攻撃が始まったぞ」


 くさい息を吐きながら、のほほんというアスタロト。


 天変地異が収まり、一瞬で風景が変わった。黒くて光沢があり、凹凸のない地面に。


『やってくれたねぇ。お前たちは冥界を破壊する気かい?』


 聞こえてきた念話は、(イクリプス)と同じ声。つまり冥界の(イクリプス)からだった。


「ふははははははは!! こっちの(イクリプス)は、だいぶん怒っているな。さてソータ。これより我の力だけではどうにもならぬ。お前の仕事をしろ」


 そう言ったアスタロトは、配下のデーモン(地球の悪魔)を引き連れて、地上へ向けて急降下。スキル〝腐敗の息〟を使って、黒い地面を腐敗させはじめた。


 つまり冥界の(イクリプス)を攻略しろってことか。


 異世界の(イクリプス)と同じダンジョンコアなら、冥界の冥導を調整する古のダンジョン。まともに戦うなら手ごわいだろう。


 冥界を探るために、ここを橋頭堡にすると言ってたな。僭越ながら俺も介入させてもらおう。


 俺はアスタロトを追って急降下をはじめた。

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