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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
11章 北極圏

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234 ふははははは

 アスタロトはスーツ姿から炎の姿へと変貌を遂げ、ハイド・パーク支所へと疾駆した。距離は相当あったが、その速さは驚異的だった。


(イクリプス)。ハイド・パーク支所で一体何が起きているんだ』


『え、アスタロトに聞かなかったの?』


『なんも聞いてない』


『あーもう、あのポンコツ悪魔め! ソータくん、君はハイド・パーク支所にマリア・フリーマンの配下が潜伏していることを知っているよね。その配下たちが事件を引き起こした――』


 (イクリプス)はアスタロトに事情を説明し、俺と共に鎮圧に赴くよう指示していたらしい。


 いやいや、アスタロトは「ふははははははは!」しか言ってねえぞ。


「ヒュー、エリー」


「また念話を交わしていたのかい?」

「念話が多いね」


「ああ、ごめんごめん。たったいま(イクリプス)から連絡があって、ハイド・パーク支所でマリア・フリーマン一派が問題を引き起こしているらしい。危険だから、ヒューとエリーはここに残って――」


「それはないよ、ソータくん。僕は冒険者なんだ」

「そうそう。それって、私にも関わりのある話でしょ」


 二人とも目を輝かせ、事件現場への同行を望んでいる。アスタロトを目の当たりにして震え上がったというのに、なんでだろ。好奇心は猫を殺すって、イギリスのことわざだろ。


「……」

「……」


 目がキラキラしてる。ついてくんなと言ってもついてくるだろう。


「ふたりには明かしておく。俺は生まれも育ちも日本。ここ最近、こっちの世界で冒険者として活動してる」


 冒険者証を取りだしてふたりに見せる。ヒューもエリーも、俺がSランク冒険者だと分かって、目をむいて驚いた。


「んでさ、ヒューは昨日冒険者になったばかり。エリーはバンパイアゆえに身体能力は高いけど、冒険者ではない。ハイド・パーク支所は危険すぎるから、ここで待機していてくれ」


「おー、やっぱりそうだったんだね!」

「ソータくんがあれだけのことができる魔術師だから、Sランクだと思ってた!」


「そうじゃない。俺は待機してろって言ってる。返事は」


「了解!」

「りょーかい!」


 めっちゃ笑顔で返事してきやがった。本当に理解しているのだろうか。先輩風を吹かせてみたが、俺だって冒険者としてのキャリアはまだ三ヶ月程度だ。それに、ハイド・パーク支所は、地球の人々が中心となる冒険者ギルドゆえに、ルールが微妙に異なるかもしれない。


 ヒューとエリーの安全を最優先に考えよう。コソコソついてきてるし。



 ハイド・パーク支所の近くには人だかりができていた。一部の天井が崩れ落ち、そこから炎が燃え盛り、黒煙が立ち昇っている。サイレンが鳴り響いているから、すでに通報済み。


 次々と勃発する事件にウンザリしつつ、様子を見るために眺めていると、誰かがハイド・パーク支所の壁を突き破って飛び出してきた。その人物は地面に落ちる前に、灰と化した。バンパイアだ。地面はまだヒュギエイアの水で濡れているので、蘇ることはないだろう。


 ヒューはその光景を目にして、驚きながら口を開いた。


「アスタロトが戦っているのかな?」


「おそらくな」


「ソータくん、行かないの?」


「その前にひとつ聞きたいんだけど、この街の法律はどうなっているの?」


 この街が地球のロンドンと同様の法律であれば、俺たち民間人が介入すれば罪に問われる可能性もある。


 俺の問いにエリーが答えた。


「行かないつもり? 依頼を受けてれば、冒険者はその件に関して異世界のルールが適用されるの。それ以外は、イギリスの法律と同じよ」


「だとしたら、俺たちは手を出さない方が賢明だ」


「えーっ!」


 何でそこまでやる気満々なのか理解に苦しむ。依頼を受けていなければ犯罪者になるって自分で言ったばかりじゃないか。そんなリスクを冒すわけにはいかない。


 消防車が到着した。隊員たちが手際よく準備を進め、ハイド・パーク支所に放水を開始する。大きな物音は聞こえなくなっているので、中にいた冒険者たちは避難済みだろう。野次馬たちは、同じく到着した警察に追い払われていった。


 もうここはロンドンの法執行機関に任せるとしよう。アスタロトは……、頑張ってくれ。


「あー、この辺りに、冒険者のソータ・イタガキくんはいるかな?」


 警察の拡声器がそんなことを告げた。両脇のヒューとエリーは、すぐさま俺の顔を見つめる。


「グレーター・ロンドンの市長から指名依頼が届いている。ロンドン冒険者ギルドハイド・パーク支所の鎮圧を頼む」


 グレーター・ロンドンの市長? 東京なら都知事から指名依頼がきたことになる。そんな人がなぜ俺に指名依頼を。…………ああ、なるほど。


『おいこらいい加減にしろよ?』


 (イクリプス)に念話を送る。


『動きやすくなったでしょ? ちゃんと話は通してあるし、報酬も破格だよ』


 動くつもりはないし、報酬も必要ない。だが指名依頼となると、信用問題に発展するのでそう簡単には断れない。ぐぬぬ。(イクリプス)にしてやられた感が拭えない……。


 装甲車で駆けつけている警察の元へ向かい、冒険者証を提示する。


「おおっ! Sランク冒険者は初めて見た! さすが市長の推薦だ!」


 警官が驚愕の声を上げた。


「ちょっと……」


 俺の抗議の声は、野次馬の驚きの声に掻き消された。


 あまりおおっぴらにしてほしくなかったんだけどな。

 大声を上げた警官は自らのミスに気づいたのだろう。大勢集まってきた人々に下がるよう命じた。他の警官たちも集まってきて、ヒューとエリーもろとも、俺から引き離されていった。


「済まないことをした。申し訳ない」


「気にしないでください。それより依頼書はありますか?」


「ああ、これだ」


 警官が差し出した依頼書は、こっち(異世界)の書式ではなく、英語で記されていた。豪華な紙ではなく普通のコピー用紙だ。俺が持つ分と冒険者ギルドの分、二つにサインして契約完了。注意事項とかこっち(異世界)準拠だったので特に問題はない。


 先に大悪魔アスタロトが突入しているので、俺がやることはないとはずだ。しかし、依頼受けちゃったから一応確認しに行こう。


「では、行ってまいります」


 警官に礼を述べ、ヒューとエリーに手を振った。



 ハイド・パーク支所には、今も消防が放水を続けている。大きな物音は聞こえなくなっているので、中にいた冒険者たちは避難済み。


 現在進行形の火災現場に入るとか、あり得ねえ。


 俺は衆目を集めながら、ひとりで中へと足を踏み入れた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ハイド・パーク支所は、割と大きな建物だ。屋内に訓練場があるので、敷地面積は体育館三個分ほどもある。おかげで入り口付近はまだ延焼していなかった。


 とはいえ天井を這うように煙が広がっている。一酸化炭素などの毒ガスの危険があるので、障壁を張っておく。そういえば俺って、呼吸が必要ないんだった。


 まあいいやと思いながら、どんどん先に進んでいく。一階の天井に煙があるので、火災現場は上階だけではない。上は消防隊に任せて、一階の消火に努めよう。


 全員避難済みだから、屋内に残る気配はない。


 アスタロトがいるはずだけど、やつの気配もない。おかしい。


 煙を辿っていくと、ガラス越しに赤い炎が見えてきた。


 ヒューが試験を受けた実技室だ。中を覗いてみると火の海だった。かなり高熱な状態で、廊下と分けているガラス窓が割れるのは時間の問題だ。


 そこに人の気配が無いことを確認し、実技室全体を障壁で囲む。すると酸欠になってすぐに火が消えた。そこへ水球を飛ばし、熱を下げていく。ダメだな。水球を氷に変えて、実技室の中に連射していく。


 内部は蒸気で真っ白になり、障壁の内側に結露する。黒焦げになった実技室が姿を現すと、オクタゴン(八角形のリング)の中央が歪んで見えた。


 ゲートだ。


 おそらくアスタロトが作ったものだろう。なんで開けっぱなしにしていくんだ。不注意すぎる。アホか。なんて思いながら、俺はゲートをくぐった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 暫く暗闇の中を落下すると、ボロボロのオクタゴン(八角形のリング)に着地した。ここに誤ってヒトが入ってこないようゲートを閉じておく。


 邪悪な気配。またしても冥界に来てしまった。


「ぶおっ!?」


 突如として熱風が吹き付けられ、慌てて障壁を張った。しかしその勢いが強く、俺は障壁を張ったまま吹き飛ばされてしまった。


「ふははははははは!! 来たかソータ!! 我はメフィストを名乗るデーモンと戦っている。お前も加勢せい!」


 今の熱風は攻撃されたのではなく、超高速で移動してきた火の玉、アスタロトの衝撃波だった。


「加勢するのはいいけどさ。その前にちょっと確認。アスさんと、メフィストはどんな関係なんだ?」


「知らんデーモンだ。(イクリプス)が、ハイド・パーク支所のギルマスがデーモンだから、倒せるもんなら倒して見ろと言うから来たのだ」


 メフィストはこの世界(異世界)のデーモンで、かつて戦ったやつだ。ヒッグス粒子を使って俺を押し潰そうとしたが、液状(リキッド)生体分子(ナノマシン)を噴霧して撃退した。


 色々と疑問点がある。デーモンならあの邪悪な気配でだいたい察知できるはずなのに、何故分からなかったのだろう。まず聞いてみよう。


「メフィストってデーモンは、どんな格好で、どんな能力を使ってきましたか?」


「ふむ……。ヒトの姿から不定形の影に変わった。そのうえ魔法ではない別の力を使ってきたな。なんだ、お前はメフィストを知っているのか?」


「ええ、たぶん――」


 紳士の姿へ戻ったアスタロトと話していると、俺の言葉を遮る別の人物が現れた。その人物は、冒険者ギルドのカウンター奥で事務作業をしていた黒髪の男性だ。


「おおぉ? ソータ・イタガキ、久し振りだねぇ。どうしたぁ? てめぇ俺のこと覚えてねぇのか?」


 そう言った男は黒い不定形の影へと変貌を遂げた。それと同時にヒッグス場が発生し、俺の質量が急激に増大した。


 しかしそれは前に経験済みだ。俺は神威(かむい)を放出して、ヒッグス粒子を対消滅させていく。アスタロトも質量が増加して苦しそうにしていたので、ついでにヒッグス粒子を対消滅させた。


「助かる」


 そう言ったアスタロトは、口を大きく開いて突風のような息を吐き出した。吐息がメフィストに触れると、不定形の黒い影が紫色に変色していく。そして、何か腐ったような悪臭が漂い始めた。


 アスタロトの攻撃に違いない。あの吐息に何が含まれているのかは分からないが、影さえ腐らせるとんでもねえものだと理解した。


 俺は前回の教訓を生かし、メフィストを逃さないための手段を講じる。神威(かむい)結晶に閉じ込めても、時間を止めても話ができなくなるので、魔力、神威(かむい)冥導(めいどう)闇脈(あんみゃく)、四つの素粒子で障壁を使った。


 今度は上手くいった。メフィストは障壁の中に閉じ込められ、慌てて逃げようとする。しかし彼は障壁を透過できない。スキル〝能封殺(アンチスキル)〟〝魔封殺(アンチマジック)〟を使ったから転移も出来ない。ただ障壁の中で暴れるだけだった。


「ふははははははは! 何だこの障壁は。ソータがやったのか?」


 アスタロトが、なんでいちいち笑うのか分からない。


「そうですよ。あの障壁はメフィストには破れないはず。とりあえずやつから話を聞いて事情を把握しましょ――」


 ――――ズドン


 話している途中でアスタロトは、スーツ姿から炎の塊へ変貌。すざまじい勢いで障壁を殴りつけた。


 障壁がボロボロの冒険者ギルドの壁を突き破って外へすっ飛んでいく。


「話を聞いてくれよ……」


 思わず敬語を忘れてしまった。俺の言葉でもう一度紳士の姿へ戻る悪魔(デーモン)アスタロト。


「今のデーモンが逃げる前に滅ぼす。単純な話だろう?」


 敬語はもういいや。


「せっかくなら、この冥界がどうなっているのか聞いた方がよくないか? ニューロンドンと同じ造りで、まるで百年後の世界だ。ニンゲンはいるのか、この街には他にもデーモンが居るのか、支配者はいるのか。俺は色々と知りたいことだらけなんだ」


「……何だお前。結構面倒くさいやつだな?」


「お前は脳筋だろ」


「ふははははははは!! ソータ・イタガキ、我の秘密をなぜ知っている!!」


 え……? マジで脳みそが筋肉なの? ……悪魔(デーモン)だから、それもアリなのか?


「脳筋ってのは慣用句(かんようく)だ。最近の言葉だから、気にしないでくれ」


 慣用句じゃないけど、本当の意味を知ったら面倒くさそうなので適当に誤魔化しておく。


「まあいい。メフィストを捜しに行こう。我に付いて来い」


 アスタロトはまたヒト型の炎へ変化し、パチンと音を残して姿を消した。ボロボロの冒険者ギルドから外に出ていったのだ。


 大悪魔アスタロト。やつの竹を割ったような性格は好きだけど、行動原理が読めなさ過ぎて困る。


 俺はそんなことを考えながら、上空へと転移した。

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