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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
11章 北極圏

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230 暴露

 眼下には赤黒く広大なマグマの渦が広がっていた。その熱は想像を絶する猛烈さだった。


 障壁を張ってなかったら、空気に焼かれて死んでいただろう。


 浮遊魔法を使わなければ、マグマに落ちて焼け死んでいたに違いない。


 しかし、太陽の中心に送り込まれた経験と比べれば、これは取るに足らない熱さだった。


 この空間はおそらく、惑星の内部にあるものだ。巨大なマグマの渦から、魔力が吹き出し、この空間を満たしている。遙か遠くにも同じような渦が見える。おそらくこの空間が八芒星(オクタグラム)の巨大ゲートだ。


 熱気で歪んで見えるが、天井に大きな人工物が見える。耐熱仕様のタイルが丸く貼り付けられ、かなり広範囲に広がっていた。あの中でイギリスの人々を出迎えているのだろう。


 そして、この空間自体が、(イクリプス)のマスタールームだ……。


 ダンジョン攻略のために入ってきたとて、常人なら焼け死ぬオチだ。悪質とまでは言わないが、ひどいマスタールームだ。魔女(カヴン)マリア・フリーマンが徒党を組んで挑んだ意味が分かったよ。


『どうだい』


 スッと現れた(イクリプス)。ただの水晶なので表情は分からないが、念話の声はドヤっている風に聞こえた。


『てめえ! 殺す気か!!』


『これくらいで君が死ぬわけない。そんなことより、あそこを見て』


 あそこと言われても、(イクリプス)は水晶だ。視線を動かすとか身振り手振りとか指を差すとかできないだろう。あそこがどこなのかさっぱり分からない。


『ああ、ごめん。一点だけ魔力が無くなっているところが分かるかい?』


 そう言われて探ってみると、確かにある。


 ――――クジラの形をした黒い結晶が、マグマの上に浮かんでいた。


 クロノス(汎用人工知能)が話しかけてきた。こっちは念話でなく脳内で話すから、(イクリプス)に聞かれる心配はない。


『浮遊魔法陣を確認しました。解析します……。解析が終了。魔術の魔法陣ですが、魔力を使っているので、さして違いはありません。改善して最適化しました。これ以降ソータも使えます』


『あのマグマの上に魔法陣が……? いつもありがとう』


 俺と同じように風魔法、いや風魔術で魔法陣を作っているのか。


『どういたしまして~』


 クロノス(汎用人工知能)と話していると、(イクリプス)がじっとこちらを見ている気がした。水晶なのに。



『あれがユライ(クジラの精霊)の姫御子、フィアか……』


『おおっ!? よく知ってるね。あれはマリア・フリーマンの八芒星魔術(オクタグラムマジック)精霊結晶(クリスタル)で、あんな姿になってるんだ』


 八芒星魔術(オクタグラムマジック)……? 魔術結社実在する死神(ソリッドリーパー)らしい名前だ。


『んで、あれを取り除いてほしいと?』


『そうそう。あのせいで、特定のニンゲン――マリア・フリーマンの配下に魔力が伝わるように、経路が歪められているんだ。歪めているのはユライ(クジラの精霊)の力なんだけど、僕があれを排除すると壊しちゃうからね』


 ほう。ヒューがライターの火程度しか出せなかったのは、このせいか。


『で、俺に丸投げってことかな』


『まあまあ、そう言わずにさ』


 ここで(イクリプス)に恩を売っておくのもいいかもしれない。ユライ(クジラの精霊)の長老の望み通りになるが、あいつは恩を感じないだろう。


『じゃあ行くぞ』


『うわっ!?』


 集団転移魔法を使って、俺と(イクリプス)は姫御子フィアの近くへ移動した。姫御子と言うから可愛いものだと思っていたが、でかすぎる。

 外の雪原にいたユライ(クジラの精霊)は、全長五百メートルくらいだったが、姫御子フィアは千メートルを超えていそうだ。


 この空間が広すぎて、スケール感が狂っていたみたいだ。


 とりあえず、俺と(イクリプス)、姫御子フィア、まとめて障壁で包み込む。その瞬間、姫御子フィアの精霊結晶(クリスタル)をスキル〝魔封殺(アンチマジック)〟で解除した。


 黒い結晶になったクジラが、半透明なユライ(クジラの精霊)へ戻っていく。


『――――お前たちか。わらわを閉じ込めたのは』


 ぐおおっ!? 頭が割れる!? 念話の音量でかすぎ!!


『痛覚を停止。念話の音量を調整します』


 けれどクロノス(汎用人工知能)がすぐに対処してくれた。


 ひとまずヒュギエイアの水を飲んで回復する。近くにいる(イクリプス)は何ともなさそうだ。


『閉じ込めていたのは俺たちじゃない。その念話少しだけ音量下げてくれないか?』


『わらわの問いに答えろ! お前たちがここに閉じ込めた――』


 話にならないので、姫御子フィアを転移魔法で外の雪原に飛ばした。ユライ(クジラの精霊)って、みんなあんなのばかりなのかな。


『……おかしな魔法の使い方するね、きみは』


『やかましいわ!』


『あははっ。でも助かったよ。これで地球人たちも、そこそこの魔術が使えるようになるからさ』


(イクリプス)、ちょっと聞きたいんだけど、ユライ(クジラの精霊)がああなるって知ってたろ?』


『ははっ、君なら上手くやれると思ってね』


『いちいち試すような真似は勘弁してくれない?』


『そうさ。僕は君を試していた。分かりやすかったよね』


『いやいや、あれだけ質問されたら、何かの面接かなと思うだろ』


『そうだね。君は合格だ。このダンジョンのマスター権限を与えよう』


『断る』


『え? またまたー』


『いやマジでいらない。(イクリプス)は地球人を迎え入れると決めたんだろ? 俺はここに留まるつもりはないから、任せるよ。イギリス政府の人たちと話し合って進めてほしい』


『そっか……。残念だよ。君ならいいマスターになれると思ったんだけどね』


『ダンジョン内の魔術結社実在する死神(ソリッドリーパー)たちはどうするつもり?』


『こっちで何とかしておくよ。心配しないで』


『そうか。悪いけど頼むよ』


『任せなさーい』


 それからしばらく、渦巻くマグマの八芒星(オクタグラム)の上で浮いたまま、世間話をした。(イクリプス)との話はとても有意義なものだ。この世界の成り立ちから、デーモンやバンパイアや魔女(カヴン)といった、ニンゲンに敵対する勢力の情報をもらって別れた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ニューロンドンは、ナノマテリアルの布が朝を告げていた。どんより曇った雨模様。そろそろ降り出しそうな空。紳士淑女の皆さんは傘を持ち歩いていた。


 それに混じって歩く俺は、衆目を集めていた。肩の上にスクー・グスローのような妖精が座っているからだ。それはもちろん(イクリプス)だ。彼はどうやら、ニューロンドンの人々に情報公開するらしい。


 耳もとから念話が届く。


『じゃあ行ってくるよ』


『ああ。頑張ってね』


 そう言うと、肩の上の(イクリプス)は姿を消した。


 次の瞬間、雲が消えて青い空が広がった。青空はもちろん、障壁内部に貼られたナノマテリアルの布だ。


 そしてロンドンの空に、白く輝く妖精が映し出された。


『あー、ロンドンの皆さん、おはようございます。僕はこのドームを維持している、(イクリプス)。地下にあるダンジョンコアだよ。今日は少しお知らせがあって――』


 突然の天候変化と、街の人々全員に届く念話。


 (イクリプス)が安全に配慮したようだ。電気自動車は自動的に止まり、上空のドローンは安全に着陸した。街ゆく人々やヒューマノイドは空を見上げた。


 自己紹介を終えた(イクリプス)は、地球の人々を迎え入れると宣言。


 今回は魔術結社実在する死神(ソリッドリーパー)とイギリス政府の依頼で、この街を造り上げたと話した。


 そのなかで、魔術結社実在する死神(ソリッドリーパー)の内部情報が暴露された。


 魔術結社実在する死神(ソリッドリーパー)には、四つの派閥がある。


 一つ、魔女(ハッグ)シビル・ゴードン率いる主流派。

 二つ、リリス・アップルビー率いる穏健派。

 三つ、米国ビッグフット社のネイト・バイモン・フラッシュ率いる穏健派。

 四つ、魔女(カヴン)マリア・フリーマン率いる過激派。


 これらの中で、唯一人類に危害を加えているのは、マリア・フリーマン率いる過激派で、ヒトをバンパイアに変え、使い捨ての兵力にしていると話した。


 そこで(イクリプス)の念話が途切れた。


 立ち止まって念話を聞いていた人々は不安な表情になり、中にはうずくまって泣き出すものも現れた。ふざけるなと怒り出す者もいれば、対話して解決しようと言い出す者もいる。


 人それぞれの思いが爆発したところで、念話が再開された。


『君たちの思いはわかった。僕はね、地球の人々を受け入れると決めたんだ。だからさ、マリア・フリーマンに属する過激派と敵対することにした。僕は君たちがこれまで通りの生活が送れるように努力する。そこでちょっとお願いがあるんだ――』


 そのお願いは、地球(クトニエ)を探してほしいというものだった。


 人類に残された時間はあまりない。それでも探してほしいというのだ。



 まったく、突然何を言い出すのか。


 いまの地球は、ヒューマノイドが街を歩き回り、人工知能が人々のサポートをする世界だ。神を信じていない人たちが、地球(クトニエ)という女神を信じるわけがないだろう。


「クトニエって、地球のこと?」

「ギリシャ神話では、ガイアって呼ばれてなかった?」

「キリスト教の創世記にあるだろ、はじめに神は天と地を創造されたって」

「ギリシャ神話なら、神はカオス、天がゼウス、地がガイアだな」

「つまりガイアを探せってこと?」

「だな」

「一度地球に戻って、探してみる?」

「そうしよう。でも、どうやって探すの?」

「さあ?」


 そんな話が周囲から聞こえてくる。いくらなんでも詳しすぎじゃないか。


 たまたま神学校の生徒だったのかもしれない。そう思って、ロンドンの街を歩いてみると、同じような話をそこら中で聞くことができた。


 イギリスの人々は、こういった神話や宗教の知識に元々造詣が深いようだ。国にキリスト教が入ってきた経緯や、聖書の創世記とギリシャ神話の共通点など、様々な議論を聞くことができた。


 ああ、なるほど。(イクリプス)は、この地の人々が知識を持っていると知っていた。だから話した。そして協力を願い出た。


 その目的はおそらく、地球(クトニエ)に地球温暖化を止めてもらうことだ。


 それができれば一番いいだろう。だが、地球(クトニエ)が人類を見限っていた場合、どうすることもできない。地球に残った人類は滅びるしかない。


 俺の行動方針に変わりはないか。


 近いうち、ドラゴン大陸に行って、進捗状況を確かめた方がいいな。大魔大陸はビッグフットのCEO、悪魔(デーモン)ネイト・バイモン・フラッシュに任せておけばいい。


 とりあえず冒険者ギルドに行って、どんな対応をしているのか見てみよう。マリア・フリーマンの一派がいれば、叩いておかねば。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ロンドン冒険者ギルドのハイド・パーク支所は、大騒ぎだった。


 ガイアを探すため、地球にも冒険者ギルドを創設すべきだという話で揉めている。


 俺は反対だ。各国が手を回しているところに、冒険者ギルドのルールを持ち込まれたら、混乱するのは必至だ。


 ラウンジで言い合っている冒険者たちを眺めていると、声がかかった。


「えらいことになったね、ソータくん」


「そうだね、ヒュー。あの白いの、何だろうな?」


 カウンターの上にあるテレビに、実況中継するリポーターが映っている。もちろん空に浮かんだ(イクリプス)のことだ。おや、空艇(くうてい)が飛んでる。

 イギリス製なのか、この世界で購入したのか分からないが、完全に戦闘用の小型空艇(くうてい)だ。


「あれすごいよね。この世界の技術と地球の技術の産物だってさ」


 ヒューが言っているのは、小型空艇(くうてい)のことだ。ちょうどいいから聞いてみよう。


「へえ……。俺あんまり詳しくないんだ。どこで作られてるの?」


「えっ、ちょっと待って。本当に知らないの?」


「ああ、知らない」


 俺の返事を聞いて、ヒューの目がスッと細くなった。まずいな。何か失言したっぽい。


「ニューロンドンは一応マラフ共和国の領土内だからね。魔術結社実在する死神(ソリッドリーパー)が架け橋になって、イギリスとマラフ共和国が同盟を結んだって、大々的に報じられてたでしょ。そのときマラフ共和国とイギリスの技術で、新型空艇(くうてい)を作ったんだよ」


「あはは。ごめんごめん、そのニュース知らなかった」


 ニューロンドンに来たのは昨日だ。冒険者ギルドで情報収集しようと思っていたが、キオスクのタブロイド紙やテレビも役立つはずだ。電話も繋がるのに、もろもろ失念していたとは、完全に俺の不注意だ。


 マラフ共和国とイギリス政府の共同開発で空艇(くうてい)を作っていたとなると、聞いていたとおり相当前から繋がりがあったはずだ。戦闘機の開発なんて一、二年でできるものではないだろう。


「冒険者は情報が命。ソータくん、僕の先輩なのに、そんなんじゃダメだよ」


「返す言葉もない……」


 微妙な空気になってしまった。そこからしばらく話していたが、ヒューのよそよそしい態度は元に戻らなかった。こういうときはあまり無理して取り繕わない方がいい。


 そろそろ行かなければと告げ、俺は冒険者ギルドを後にした。


 まだ(イクリプス)の話が続いている。脳内に響く念話は、軽く意識すると消えるように調整されているみたいだ。おかげで念話が邪魔になることはない。


 俺はハイド・パークに入って、どんどん奥へ進んでいく。


 それは背後からこっそりとつけてくる、ヒューと妹のエリーを誘い込むための策だった。

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