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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
11章 北極圏

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226 蝕

 テセウスに倒された牛頭人(ミノタウロス)と、目の前のスロー・ベルは、同一個体だと分かった。

 スロー・ベルは迷宮に放置され、死を待つだけの状態。そこに現われたのは、迷宮の制作者、名工のダイダロス。スロー・ベルは彼に助け出されて生き延びていたそうだ。

 嘘か本当かは分からないが、スロー・ベルが生に対して執着が強いことは分かった。

 本人が同一個体というなら、そうなのだろう。その本人という前提が間違っている可能性もあるけど、考えすぎると思考の渦にはまるだけだ。

 ひとまずスロー・ベルの話を全て聞いてから判断しよう。


「俺のじーちゃんはどこにいる。まだ生きているのか?」

「ぐぅぅぅ……。もう少し緩めてくれないか」


 障壁内はヒッグス場になっていて、俺は魔法でその場の強さを操作できる。ヒッグス場が弱くなれば、スロー・ベルは質量を失って浮き上がる。ヒッグス場が強くなればスロー・ベルは重くなって動けなくなる。

 このままだと話が長引くので、ヒッグス場を少し弱めた。


「ふはは。ヒョータ(板垣兵太)は生きている。我々の協力者として」


 急に何なんだ、こいつは。緩めた途端に立ち上がって高笑いか。おまけにじーちゃんが協力者だと? そんなハッタリで動揺するとでも思ってんのか?


「はいはい、分かったから、さっさと居場所を言え」

「スタイン王国」

「……ここには居ないのか」

「そうだ――」


 スタイン王国は、確かサンルカル王国の南に位置する国だったな。テッド・サンルカルと佐山(さやま)弘樹(ひろき)から、両国は戦争中だと聞いている。


「そんなところに俺のじーちゃんは何をしに?」

「そりゃあ、人類を迎え入れるためさ」


 ……このニヤけ面がいまいち信用できない。ドラコ・アンド・クラウンで見たときは、礼儀正しい客思いのマスターだと感じたんだけどな。


「んじゃ次だ。魔女(カヴン)マリア・フリーマンはどこにいる」

「このダンジョン、(イクリプス)の中に隠れてるな」

「……(イクリプス)? まあいい。それはこの世界の神々に見つからないようにか」

「そうだ。よく知ってるな。彼女はこの世界の神を討とうと考えているからな。見つかるわけにもいかないだろ?」

「ほーん。んじゃ次だ――」


 牛頭人(ミノタウロス)スロー・ベルが神話の時代から生きてこられたのは、こういう所なのかもしれない。味方を裏切ってでも、生き延びる。スロー・ベルがべらべら喋っている内容は、マリア・フリーマンの不利になる情報ばかりだ。

 ただし、色々と話を聞き終えて、結局スロー・ベルの言葉は真偽不明。

 全て嘘、全て本当、あるいは真実の中に嘘を混ぜ込んでいる。どれも可能性のある話だった。確かめようがないからな。仕方ないっちゃ仕方ない。

 後は俺自身で検証していくしかない。


「よーし。んじゃ解放するからな。暴れるなよ?」

「本当か!?」


 スロー・ベルは俺の言葉に目を輝かせる。


「ぐはっ!? 何をするっ!!」


 障壁を解く前にヒッグス場を強くして動けなくさせる。


「そりゃあ、障壁解いた瞬間、またぶん殴られたら敵わないからな」


 言い終わって障壁を解除する。と同時に、時間遅延魔法陣を飛ばした。

 スロー・ベルのヒッグス粒子が消え、感じていた重みも消えたはず。しかし彼にはすでに時間遅延魔法陣が張り付いている。

 スロー・ベルはゆーっくりと笑顔になり、スキル〝牛神の加護(ブル・ゴッド)〟を使用。ゆーっくりと腰を落として、俺に殴りかかってきた。


 魔法陣には強めの魔力を込めたので、いくら素早かろうとも、こうなるのも納得だ。

 時間を止めてもよかったけれど。スロー・ベルがどうするか知りたかった。予想通りの動きになったけど。こうせざるを得ない理由もあるのだ。


 スローベルの背後に回り込み、首の後ろを触って出っ張りを確認する。量子(クオンタム)(ブレイン)だ。そこはハリガネのように固い毛で覆われた、ブリキのように硬い肌だった。


 俺は指先から細い火魔法を吹き出し、量子(クオンタム)(ブレイン)を傷つけないように切り取った。液状(リキッド)生体分子(ナノマシン)は諦めよう。複製はできないはずだし。


 ようやくひとつ目の試作型量子(クオンタム)(ブレイン)が回収できた。時間停止すると、何も出来なくなるからな。


 よかった。時間遅延魔法陣を使って、本当によかった。これでもう、こいつを心置きなく殺せる。


 スロー・ベル目がけて空間圧縮魔法を使うと、彼の身体は瞬時に縮んでしまい、黒い点になった。それも一瞬だけで、すぐに何もなかったように消え去ってしまった。


 この魔法は、スロー・ベルの質量を一時的に極端に圧縮する効果がある。しかし、彼の質量はチャンドラセカール限界に遠く及ばないため、超新星爆発やブラックホールの生成は起きない。この限界は、白色矮星の質量の上限で、太陽のくらいの質量で核融合反応が始まり、超新星爆発に至るとされているからだ。


 それでも、このような極端な状態変化には未知のリスクが伴う。だから、クロノス(汎用人工知能)に魔法の制御を頼んでおいて正解だ。失敗しましたご免なさいで済む魔法じゃないし。

 それでも失敗する可能性は否めない。そのため無限空間魔法陣を使っておいた。


「ちょっと疲れたな」


 久々に感じる疲労感。俺はヒュギエイアの水を作って、一息に飲み干した。


『なかなかやるね、君』


 スッキリしたところで、脳内に響く念話。必ず接触があると思っていたダンジョンコア。スロー・ベルは(イクリプス)と言っていたな。


『まあね。さっきボコボコにやられたし。あと、盗まれたものも取り返せた』


 俺の手は真っ赤に染まっていて、そこに小さなチップ――量子(クオンタム)(ブレイン)が乗っている。


『君はソータくん、それともクロノス、どっちかな?』

『何を言ってるのかな?』


 ぬおおっ!? なんで知ってんだ、このダンジョンコア。

 驚きを顔に出さないよう、必死に表情を作る。


『そんなに驚いたら、バレバレだね。君はソータくんだ。芝居が下手すぎる』

『やかましいわっ!!』


 ……しまった。思わずツッコんでしまった。

 無限に広がる空間の中でさえ、ダンジョンコア(イクリプス)は俺の居場所を特定できた。

 これは予想通りだ。規模からしてSランクダンジョンだと踏んでいたから。


『僕はね、君がこの街に入ったときからずっと見てたんだ』

『ほーん……。(イクリプス)は、マリア・フリーマンに攻略されたダンジョンコアだろ? ここで俺とちんたら話すなんて、マリア・フリーマン――ダンジョンマスターに反旗を翻す行為じゃないの?』

『そんなことないさ。僕は自由だからね』


 おかしいな……。ダンジョンコアが俺を排除しに来る前提で、無限空間魔法陣を使ったというのに。ここならクロノス(汎用人工知能)が魔法の制御に失敗しても、無限に拡張する空間がなんとかしてくれる。


 思う存分ここで戦って、ダンジョンコア(イクリプス)を従わせる。割るとダンジョンが崩壊するから、それは避けなければならない。そう考えていた。

 だけど、(イクリプス)は攻撃してくるどころか、会話を望んでいるように感じる。


『どうした。フェッチ(ドッペルゲンガー)は出さないのか?』


 煽ってみると、(イクリプス)は妙なことを口走り始めた。


『言ったでしょ。僕は君を見ていたんだって。それでさ、この無限の空間を見て確信したよ。原初の神カオスから生まれ――――』

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