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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
11章 北極圏

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222 冒険者ギルド、ハイド・パーク支所

 俺は冒険者ギルドに到着したら、ヒューとお別れしようと思っていた。けれど、スキルを付与して、放り出すのも無責任だ。試験の結果くらいは見ておこう。


 ロンドン冒険者ギルド、ハイド・パーク支所。外観は古風なレンガ造りの建物で、屋根には煙突が立っていた。しかし、窓には近代的なガラスがはめ込まれており、冒険者ギルドの看板がネオンサインになっている。異世界感は無く、まさにロンドンだった。


 支所の中に入ると、まず目に飛び込んでくるのは、カウンターの横に掲げられた大きな掲示板だ。そこには、様々な依頼や情報が貼り出されており、冒険者たちは興味を持ったものを手に取って確認している。掲示板の横には、冒険者たちの名前やランク、実績などが記された名簿がかけられていた。すごく活気のある支所だ。


 ということは、そこまで怪しくはないのか。


 カウンターの向かい側には、広々としたラウンジがあり、冒険者たちがくつろいだり、仲間と話したり、計画を立てたりしていた。

 また、ラウンジには小さなキッチンもある。そこでは、冒険者たちが自由に飲み食いできるように、専属のシェフが配置されていた。至れり尽くせりとはこのことだ。


 獣人もエルフもドワーフもいない、全員地球人だ。彼らの魔力が少ないことで、だいたい分かる。


 カウンターから見える奥の部屋には、強者の気配を放つ黒髪の男性が事務仕事をこなしている。あの人がギルマスかな?


 俺とヒューはカウンターへ歩み寄り、受付嬢に声をかけた。


「冒険者証の試験を受けに来ました」


 そう言ったのはもちろんヒューだ。


「あれ? ソータくん受けないの?」


「うん。実は俺、冒険者証持ってるんだ。それよりほら、お姉さんが……」


 ヒューは受付嬢に話しかけておきながら、俺と話そうとしたので、さりげなく注意する。受付嬢は特に気にしてなさそうだけど、俺が冒険者証を持っている話になると「見せてくれ」と言われるのは明々白々。


 この世界の冒険者証とハイド・パーク支所の冒険者証が同じかどうかまだ分からないし、違ってたら誰だお前、と問われる可能性もある。


 ……それに、この受付嬢、ここにいる冒険者と比べてはるかに大きい魔力を持っている。察するに、彼女は魔術結社実在する死神(ソリッドリーパー)の一員だろう。


「学課は済んでますので、本日は実技ですね」


 ヒューが受付用紙を書き込むと、すぐに奥へ通された。廊下を歩いていると、ヒューはやっぱり聞いてきた。


「まさかソータくんが冒険者証持ってたとはねー。ということはもう、依頼を受けたことがあるの?」


「ほら、ヒュー。呼んでるよ」


 呼んでないけど、呼んでる風に言って話を逸らす。実際、実技室と書かれた部屋の前に、教官らしき人物が立っていた。中からは、かけ声や衝突音などが漏れ聞こえてくる。


「あっ、昨日はどうも!」


 ヒューはその人物を知っていたようだ。姿を確認してすぐに駆け寄っていった。


 ……うーむ。教官の魔力も多いな。冒険者ギルドの職員は、魔術結社実在する死神(ソリッドリーパー)の一員で固められているのかもしれない。


 ヒューと教官は話しながら実技室へ入っていく。俺もしれっと後に続いた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 実技室の中央にオクタゴン(八角形のリング)があった。金網で囲まれた本格仕様だ。そこでスパーリングをやっている冒険者がいる。周囲には筋トレ用施設や魔術(・・)の射撃場があった。


 訓練している冒険者、結構多いな。スポーツ系の部活を思い出す暑苦しさだ。


 そういうこともあって、ここは異世界の冒険者ギルドと随分雰囲気が違う。そもそも室内で実技を行なうことがあまりないからな。それはたぶん、この街の住人への配慮だろう。


「着替えなくていいのか」


「はい! もう準備してきたんで!」


 ヒューは教官の問いに元気よく返事をし、実技試験の申込書を手渡した。


「よし、ストレッチで身体を温めたら、知らせてくれ。俺が相手してやる」


「わかりましたっ!」


 へえ。個別で試験やるんだ。大勢集めてやるものだと思ってたけど、違っていたようだ。


「ソータくん! 一緒にストレッチやらない?」


「あー、うん。いいよ」


 実技室内のストレッチ用マットへ移動し、そこで一緒に身体をほぐす。ヒューは俺の知らない動きをしている。真似てみると、筋肉がぐいーんと伸ばされていく。


 正直言って、初めての経験だ。ふはは。俺はストレッチも筋トレもやったこと無い。でも、これで筋を違えたり肉離れになったりという、怪我の防止になる。俺とヒューは、三十分ほど時間をかけて丁寧にストレッチを済ませた。


「……なんだろう、この感覚。あ、ソータくん、付き合ってもらってありがとね」


 そこそこ汗をかいたヒューはそう言って教官の元へ走っていった。


『スキルが発現したようですね』


『あー、そういうことか』


 クロノス(汎用人工知能)の言葉で気付いた。ヒューが言った「なんだろうこの感覚」って言ったとき、何となくスキルの存在に気づいたのだろう。


「よーしっ! 実技試験やるから、お前らもちょっと見学しとけ! 基礎ができているかどうかの確認だから、武器は無し。オープンフィンガーグローブで殴り合い。蹴りも関節技もありだが、急所攻撃は禁止だ!」


 教官はパンパンと手を叩いて、そう言った。つまり総合格闘技で基礎を見るという、とんでもないルールだ。ヒューは身長が高いけど、身体は細い。あまり強そうには見えない。しかしスキルがあるから平気だろう。


 教官とヒューは、オクタゴン(八角形のリング)へ登って相対した。レフリーなんていないので、教官が兼任するのだろう。


「……どうした? いつでもいいぞ。かかってこい」


 教官は首を傾げながらヒューに問いかける。そのヒューは何か戸惑っている様子が窺える。彼はリングの上で軽くステップを踏みながら、何のスキルなのか確認しているのだ。


「それじゃあ、いきます!」


 ヒューの言葉と同時に、俺はこの建物の時間を止めた。床に時間停止魔法陣を貼り付けたのだ。


 確認のため周囲を見わたすと、実技室に居るニンゲンは全て動きが止まっている。建物自体の時間を止めたから、内部の時間も止まったのだ。


『やりすぎって言ったでしょ~?』


『確かにそうだ。しかし困ったな……』


 ヒューのスキル〝身体強化〟と〝超加速(アクセラレーション)〟が発動し、彼の拳は教官の顔面を捕らえる寸前で止まっている。


 スキル〝剛力(ストレングス)〟も発動してそうなので、あの拳が当たったら、教官はまず無事で済まないだろう。


『ヒューにこれを付与してください。私がいつも行なっている事をスキル化しました』


 クロノス(汎用人工知能)の言葉と共に、スキル名が思い浮かんだ。


 スキル〝スキル認知〟と、スキル〝スキル制御〟のふたつ。効果は言葉通りで、自身のスキルを認知して制御できるものだ。


『いつも大変だったんだな、クロノス(汎用人工知能)……。俺の無茶に付き合ってくれてありがとな』


『どういたしまして。ソータも使えるようになったので、これからは自分で制御してくださいね。それより早くしないと、建物の周りの人びとが不審に思いますよ?』


 確かにそうだ。この建物の時間を止めてるので、外から入れなくなっているはず。長引かせると確実に騒ぎになる。〝スキル認知〟と、〝スキル制御〟をヒューに付与して、時間停止を解除。同時に、念動力(サイコキネシス)で、ヒューの拳の軌道をずらす。


 ――ズドン


 ヒューは勢い余ってリングのマットを叩き、すっ転んでしまった。


「……」


 教官のビックリした顔は、やがて笑顔に変わった。


 周りの冒険者たちは驚きすぎて言葉が出ないようだ。


「いてて。おっかしいな~。顔面捕らえたと思ったんだけど……」


 ヒューは、失敗したと言わんばかりの表情で起き上がる。そして、俺が付与したスキルに気付いたようだ。ちいさく「なるほど」と呟きながら頷いている。


「ヒュー。スキルを聞くのはマナー違反だ。よってこの場では聞かないが、俺は今の一撃で死んだと思ったぞ? 今聞けるのは、ヒューに格闘技の経験はあるのか? という事だ」


「キックボクシングをやってます」


 あっけらかんと答えるヒュー。その表情は自信に満ちあふれている。己に備わったスキルを認知して制御できるようになったからだ。


「ヒュー・ストローマ。実技試験は合格だ。有望株が現われたなおい!」


 教官が満面の笑みで周囲を見渡す。周りの冒険者たちはヒューを見て、あからさまにライバル心をむき出しにしていた。


 ……ああ、面倒だ。


 優秀な者に嫉妬心を覚えるのは仕方がない。これがいじめとかに繋がるのが人の性だ。ヒューによかれと思ってスキルを付与したけれども、あちらを立てればこちらが立たず、といった感じになってしまった。


「ソータくんやったよ、合格できた!!」


 リングから降りてきて喜ぶヒュー。済まないことをしてしまったと思いつつ、彼がこれから先、長生きできることを祈る。


「おーい、ヒュー。受付にこれ持っていきな」


 教官が駆け寄ってきて、ヒューにサインの書かれた申込書を渡してきた。そこには合格とも書かれていた。


「ありがとうございます」


 ヒューは丁寧にお辞儀をして、実技室を後にした。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ヒューは急いでカウンターに駆け寄り、受付嬢に申込書を渡した。しばらく待ってくれと言われたので、俺とヒューはラウンジへ移動し、実技試験の内容を検証していた。備わったスキル名を言いそうになるヒューを何とか押し止めていると、声が掛かった。


「番号札七番の方」


 受付嬢の声と共に、電光掲示板に七番が表示された。


「はいはーい。僕です」


 よほど嬉しいのか、ヒューは大声で返事してカウンターへ走っていった。受付嬢から冒険者証をもらったヒューは、しばらくの間注意事項を聞いていた。内容は知っているものばかり。この世界の冒険者ギルドのルールと同じだ。


「ほら、ソータくん、これが僕の冒険者証だよ!」


 ヒューは戻ってきて、キラキラ輝く笑顔で冒険者証を見せる。喜びを抑えきれない様子だった。


 それは、この世界の冒険者証と同じものだった。


 なるほど。色々考えなきゃいけないことが増えたぞ。


 ニューロンドンは、地球の技術と正体不明の技術で作られた街である。魔力が異常に濃いなんて、その一端だけかもしれないし。


 その技術には、魔術結社実在する死神(ソリッドリーパー)のマリア・フリーマンが関与している。


 この街にある冒険者ギルドの職員は、魔力が多く、魔術結社実在する死神(ソリッドリーパー)の一員である可能性が高い。


 つまり、この冒険者ギルドは、マリア・フリーマンの配下であり、その目的や背景は不明であるとも言える。


 そうなると、この世界の冒険者ギルドに精通した人物が、魔術結社実在する死神(ソリッドリーパー)に存在し、ギルド内部にいることになる。


 あるいは、この世界の冒険者が、ロンドン冒険者ギルドの立ち上げに関わっている可能性もある。

 もしもそうならば、冒険者ギルドが正当な組織であると信じていた人々にとって、信頼性が揺らぐ事態だ。


 だって、マリア・フリーマンが冒険者ギルドに関与していることに繋がってくるし。


 巨大ゲートと、じいちゃん。このふたつの件を調べると、何かが分かると思う。ヒューとはここでお別れして、ニューロンドンを調べよう。


 そう考えて立ち上がる。


「ヒュー。おめでとう!」


「うわー! ありがとう!」


 ヒューは満面の笑みで、俺にハグしてきた。めちゃくちゃ嬉しそうだ。この感じだと実技には自信が無かったのかもな。


 それはいいとして、ヒューの騒ぎ方はさすがにうるさい。ラウンジの冒険者たちは、ちょっと迷惑そうな顔でこちらを見ていた。


「よし、俺はこれから散歩に――――」

「何言ってるのさー! 打ち上げでしょ打ち上げ! いいパブ知ってるんだからさ!」


 あれ? ヒューって成人してるんだっけ? いやいや、そうじゃない。これ以上時間を割くわけにはいかない。そう思ってヒューを引き剥がす。


「いや、俺は俺でやることが――――いや、やっぱ打ち上げ行こうか」


「やった! んじゃ早速いこう!」


 急に意見を変えたのには訳がある。このラウンジ内の誰かが、俺にスキル〝鑑定〟を使った。


 それを、常時発動型のスキル〝能無効(ヴォイド)〟が無効化したって訳だ。

 スキル〝鑑定〟を使った本人は、俺のことが鑑定できずに焦っているはず。必ず追ってくると思うので、ヒューが行き先をハッキリ言っているパブへ誘き寄せようと考えた。


 ヒュー、もう少し付き合ってくれ。


 俺は心の中で両手を合わせ、ヒューに侘びといた。

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