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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
10章 大陸横断

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219 東へ

 アトレイアの街を出発し、約一時間後、眼下にトレビの街が見えてきた。


 またしてもバンダースナッチはロケットさながらに急上昇し、急降下した。二回目の経験だったからか、みんなはもう慣れている様子だった。ただ、竹内にこの挙動を伝え忘れたのが災いした。彼は、顔面蒼白になりながらも、なんとか持ちこたえていた。


 夕暮れが迫っていた。数千キロメートルも東へと飛んできたから、アトレイアの街はすでに宵の口を迎えているだろう。夕焼けが空を染める中、トレビの街が姿を現した。


 この世界に来て、三ヶ月余りが経過した。


 この街には一度だけ来たことがある。それはじいちゃんを何とか救出できないかと思っての行動だった。その後、色々とあって、こちらへ足が向かなかった。じいちゃんは今もこの街に留まっているのだろうか。時間を稼ぐために、巨大ゲートを探す振りをすると言っていたけど……。


 この世界から追放された古代人(魔女)マリア・フリーマンの一派は、じーちゃんのそばを離れず、監視していると言っていた。


 監視役は、バンパイアや牛頭人(ミノタウロス)半馬人(ケンタウロス)など、合わせて七人。


 俺のクオンタムブレインよりも高性能な試作品を移植し、血液はリキッドナノマシンに置き換えられているじーちゃんは、能力が桁違いに上がったと言っていた。


 ――それは、リリス・アップルビーが手を出せないほどのものなのだろう。


「まずいっす!! みんな衝撃に備えてください!!」


 リアムの叫び声に、操縦室にいた全員が反射的に身構えた。シートベルトを着用していたので、頭を抱えて前傾姿勢になった。


 ――ズドン


 轟音とともに、バンダースナッチは大きく傾いた。窓の外には神威(かむい)障壁が見える。直撃する前に、今の攻撃を防いだらしい。


「すみません。避ける暇も無かったっす」


 リアムの謝罪を聞きながら、ファーギは息巻いていた。


「ワシに攻撃させろ! クソが許さん!」


 彼はそう叫ぶと、魔導砲の銃座へ移動していく。


 空艇(くうてい)の操縦は、彼らに任せている。俺もいちおう操縦できるが、あくまでいちおうなのだ。他の面子は操縦できないから、レーダーを見るくらいしかない。とりあえず何が起きたのか聞こう。


「リアム、何かに攻撃されたのは分かるんだけど、何に攻撃されたの?」


「それがわかんないっす! レーダーのはどう? 何かの機影が写ってる?」


 リアムの声のトーンが変わった。相当焦っていることが分かる。


「何も写ってないわ」


「こっちも写ってません」


 ミッシーに続いてマイアが答えた。すると、佐々木と竹内が立ち上がった。


「ソータくん、空対空なら任せて」


「俺は地対空のほうを見てくる」


 彼らはそう言って、転移魔法で姿を消した。大丈夫かな?


 リアムの操縦でバンダースナッチの高度が上がっていく。大型モニターに映された地上方面で、佐々木の神威(かむい)煌刃(こうじん)が、何かを真っ二つに切り裂いた。それは、銀色に輝くミサイルだった。ほぼ同時に、竹内のグランウォールが空中に発生し、ミサイルの雨とぶつかって大爆発が起きた。


 モニター越しだと画像の情報しかわからない。魔力の動きなどが察知できないので、ちょっと見てこよう。


「座ってろ、ソータ」


「……はい」


 シートベルトを外した途端、立ちあがる前にミッシーから注意された。勇者ふたりに任せておけということだ。


 シートベルトを付け直して、モニターを見る。佐々木と竹内は危なげなくミサイルの雨をくぐり抜けていく。しかし、彼らの周囲で爆発するミサイルの数は、どんどん増えていく一方だった。


 ここにいる全員が、固唾を呑んでモニターを食い入るように見ている。


 モニター越しにでも分かる、勇者ふたりの凄まじい動き。浮遊魔法を使い、ミサイルの軌跡を予測するかのように、人間の限界を超えた動きで華麗に避けながら、確実に敵を攻撃していた。


 しばらくすると魔導通信が入り、リアムが応答する。


「はい。……もっと上っすか? 了解っす」


 短い会話が済むと、バンダースナッチは急上昇を始めた。モニターに映る地上がどんどん離れていく。何が起きたのか確認するため、ファーギが口を開いた。


「勇者が飛び回って攻撃できないな……。リアム、いまの魔導通信は何だ?」


「勇者タケウチからっす。この辺り一帯を押し潰すから、出来るだけ上昇してくれと」


「なんだそりゃ?」


 リアムとファーギの会話を聞きながらモニターを見ていると、とてつもなく巨大なアクリルガラスのようなものが空中に現れた。竹内のグランウォールだ。


 すると操縦室内に佐々木と竹内が現れた。バンダースナッチは神威障壁を張っているのに、平気で出入りする彼らの転移魔法の性能に舌を巻く。


「いやー、いまの戦いみてた? 透明で見えなかったけど、ミサイルだよミサイル。こっちの世界にミサイルがあるとは知らなかったよ」


 佐々木はあっけらかんと言った。


「俺はミサイルを見たことねえから、分からねえけどな。とりあえず地対空の攻撃だと分かったから、まとめて潰してきた」


 全く疲れを見せず、竹内は報告する。


 竹内のグランウォールが地上に落下し、広範囲を押し潰しているところがモニターに映し出されている。荒れ地と小さな森が、地面にめり込んでいく。この高度から見ると、その形が立方体になっているとわかった。一辺は約二キロメートル……。


 あそこにはバンダースナッチを攻撃してきた何者かがいるはずだ。それらをまとめて押しつぶす判断力。俺ならニンゲンを殺すことに迷っていたはずだ。ミッシーはそれを見越して俺を止めたのだろうか。


 俺は変なところで、まだ割り切れていない。


 ニンゲンを殺すことに罪悪感がどうしても抜けないのだ。勇者のふたりはこの世界に来て三十年。酸いも甘いも経験して、こうなったのだろう。彼らのようになるまで、俺もそれくらい時間がかかるのだろうか。


「ソータくん、どうしたんだい? いつもにも増して難しい顔しちゃってさ」


 佐々木は俺の顔を覗き込んで、妙なことを言い始めた。いつにも増してってどういう意味だこら。


「おい佐々木、こいつの顔よくみろ」


 竹内も乗っかって俺の顔を覗き込む。いったい何だってんだよ。


「……あ~なるほど。随分昔のこと思い出しちゃったな」


「だろ? 善だ悪だって、めちゃくちゃ揉めたもんな」


「ソータくんさあ、僕らは君が普通のニンゲンではないと、十分に分かっているつもりだよ。でもさ、この世界ではやられる前にやらなきゃ死んじゃうんだ。どこかで割り切らないと、心が壊れちゃうからね」


 そんなの分かってるさ。地球だって似たようなもんだろ。常識なんて、しょせんは十八歳までに身につけた偏見のコレクションでしかない。


 俺はじーちゃんに育てられ、じーちゃんの考えを叩き込まれている。俺の常識はじいちゃんが作り上げたものだ。そしてそれは中々変わるもんじゃない。


「まっ、こればっかりは、自分自身でどうにかしなきゃいけないからな。なあソータ、――そんなに下ばっかり向いてちゃ、地面しか見えなくなんぞ? 上向いて高みを目指せ」


 竹内はあっけらかんと言いきる。確かに俺は下を向きがちだ。


「そそ。吐き出したいときはいつでも言ってね。話聞くからさ」


 佐々木は真摯に対応してくれた。本当に話聞いてくれそうだな。


 なんか微妙な空気になってしまった。俺は一言も話してないのに。


「はい。ありがとうございます。何かあったときは頼らせてもらいます」


 ちゃんと立って、頭を下げる。ふたりとも心配して言ってくれているのは十分わかる。礼は言っておかねば。

 俺のそんな態度を見た佐々木と竹内は、満足げに自分のシートへ戻っていった。


「ソータさん、ちょっとこれ見てもらっていいっすか?」


 区切りがついたところで、リアムは大型モニターを切り替えた。


「おいおい、何だこりゃ」


 ファーギが呆れた顔で言う。他の仲間も似たような顔になった。


 竹内のグランウォールが押し潰した場所以外から、こっちに向かって大きな虫が飛んできている。ニンゲンほどの大きさの虫が、群れをなして飛来していた。


 その頭は黒い甲殻で覆われており、鋭い牙と触角が生えている。バンダースナッチを得物としてみているのか、複眼が不気味な光を放っている。背中には三対六枚の透明な羽があり、ぐんぐん近づいてきている。

 腹部には六本の細長い脚があり、それぞれに鋭い爪がついていた。


「あれはインセクター(虫の魔物)だ」

「あちゃー、厄介なやつがいたね。逃げた方がいいかな?」


 竹内と佐々木は、あの虫のことを知っているみたいだ。


「リアム、一旦退避しよう」


 ミッシーが冷静な声で指示を出す。彼女もインセクター(虫の魔物)を知っているみたいだ。

 さっきは迷わず攻撃に出た勇者ふたり、それと長年生きてきたミッシー。彼らの撤退の意思に反論はない。俺をチラッと見たリアムに頷いておく。


「了解っす!」


 リアムは操縦かんを引き、バンダースナッチの船首が天空を向いた。


「全員シートベルトしてるっすか?」


 みなで返事をすると、背中がシートに押しつけられた。バンダースナッチはすぐに音速を超えた。


 ファーギが声をかけてきた。


「どうするソータ」


インセクター(虫の魔物)は振り切れたようだが、あれじゃバンダースナッチで首都トレビに近付けないね。陸路にしようか」


「そうだな。リアム、この近くに街はあるか?」


 ファーギは俺からリアムへ顔を向けた。


「そっすねー。ラグナはどうでしょ?」


「あー、あそこか……。行ってみるか」


「それどこ?」


 俺の問い掛けに、ファーギが説明してくれた。


 ラグナという街は、砂漠の中にそびえ立つ巨大な岩山に築かれた街で、ルピナスと呼ばれる巨大商社が統治している。彼らはマラフ共和国の七連合のひとつに数えられ、構成員は主にドワーフ族で占められている。彼らは、街や工場を建設し、独自の文化を築き上げてきた。


 ルピナス社は、主に鉱物や金属、魔道具などの製造や販売を行っており、高い技術力と信頼性を誇っている。また、ミゼルファート帝国とマラフ共和国の間に位置することから、両国の仲介役としても重要な役割を果たしているという。


 ルピナス社のトップはドワーフの男性だが、ファーギは彼の名前を伏せたまま、信頼できる人物だとだけ教えてくれた。


 眼下に見える砂漠。ここは以前来たことがある。たしか浮遊島ソウェイルがあって、竜神オルズに初めて出会った場所だ。


 ルピナス社の拠点である岩山――ラグナは、砂漠に浮かんでいるように見える。岩山の高さは三千メートルくらいだろうか。かなり大きな岩山だ。


 話を聞いていると、魔導通信機が鳴った。


「はい、どちらさんっすか? ……はあ? なんで知ってるっすか。分かりました、代わりますよ」


 リアムはそう言って、全員に聞こえるよう艦内放送に切り替えた。


『そこにファーギがいるだろ? ワシだ、グラニット・ルピナスだ』


 すごいだみ声が聞こえてきた。


「久し振りだな」


『とりあえず挨拶は抜きだ。いま七連合の本部、トレビから連絡があった。ラグナ方面へ逃げた空艇(くうてい)を打ち落とせってな。――どうする? お前たちのことなんだが』


「ああ? やれるもんならやってみろ! こっちゃいつでも戦えるんだぞ!」


 なんか仲が悪そうだな。ファーギは信頼の置ける人物とか言ってたけど……。するとメリルが口を開いた。


「グラニット・ルピナス。お久しぶりですね。空港を空けてもらえませんか」


『うおっ!? メリルもいたのか!! ――まあいいだろう。匿ってやるからさっさと着陸しろ』


 音声通信なのでメリルが居ることまで分からなかったのだろう。彼女の一言で、ラグナの街で匿ってもらえることになった。なんかドワーフ同士で色々ありそうだな。


 魔導通信が切れて、バンダースナッチはラグナの街へ進路を変更した。


 ラグナの岩山は、外敵から守るために魔法陣で固められていた。岩山に近づくにつれて、その巨大さに圧倒された。壁面には無数の魔法陣が輝き、まるで要塞都市のようだった。


 壁面に四角い穴がたくさん並んでいるのが見える。それぞれの穴は約三十メートル四方で、中からは金属製の船体や翼がちらりと見えた。空艇(くうてい)の離発着場だ。


 バンダースナッチはそこを目指してゆっくり降下し始めた。


 東へ東へと進んできたから、俺たちはずっと夕方が続いているという不思議な感覚を味わっていた。

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