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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
10章 大陸横断

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217 スキル〝鑑定〟

 領主マリーナ・アクアリウスは城の本館の一室に入った。そこには、ふたりの男性が鎖で繋がれ、椅子に座っていた。彼らは昨夜、アトレイアの街で殺人事件を起こした容疑者として捕縛されたのだ。


「あなたたちは、デレノア王国の勇者、ササキとタケウチだと聞いています。私はマリーナ・アクアリウス。このアトレイアの領主であり、マラフ共和国の議員でもあります」


 マリーナは言葉を一旦止め、ふたりの顔をじっと見つめた。


「あなたたちがマラフ共和国へ侵攻してきた件は、現在国同士で話し合い中なので心配しないでください。今回わたしが聞きたいのは、昨夜起きた殺人事件のことです」


 マリーナは金髪に緑色の瞳を持つ、美しいマーメイド族の女性である。彼女は白いワンピースに珊瑚や貝殻のアクセサリーを身につけていた。その声は優しく温厚だったが、容疑者に向ける視線は冷静で鋭かった。


 マラフ共和国は七つの巨大貿易商が取り仕切る都市国家だ。貴族という概念はなく、商店が国家運営を行っている希有な形態である。アトレイアの街を治めるのはマリーナ・アクアリウス議員。七つの巨大貿易商の一つ、マーメイド商店の代表者である。


「僕たちは殺人などしていません」


 佐々木は、きっぱりと言い切った。


「そう。俺たちは無実だ。何でここにいるのかすら分かってねえし」


 竹内も、自信を持って言いきった。


「たくさんの目撃者がいるのです。彼らはあなたたちが、冒険者四人を殺害したと証言しています」


 マリーナは、ふたりの名前や能力、それに昨晩の行動を、スキル〝鑑定〟で調べた。しばらく無言の時間が流れると、彼女は眉をひそめた。彼らが言っていることが本当だと分かったからだ。


 彼女はマーメイド商会のトップ。これまで数多のものを調べてきた、スキル〝鑑定〟には自信があった。


「どういう事でしょう……?」


 マリーナの困惑した表情をみて気づいたのか、竹内がなれなれしく話しかける。


「お、珍しいな。あんた鑑定持ちか? 実は俺、今回の件と似たようなことを何度か経験してるんだ。もっと深く鑑定してくれないか? 何か分かるかもしれない」


 アキラがいればすぐに分かるんだけどな。と竹内は小さい声で呟いた。


 マリーナはさらに困惑する。スキル〝鑑定〟を持っていることを見破られたばかりでなく、竹内はもう一度鑑定してくれと頼んだ。鑑定で分かるのは物の価値だけではなく、その人物の価値まで分かってしまうからだ。


 とはいえ、鑑定はゲームのように数値化されるわけではなく「対象の過去を見ることができる」というものだ。物であれば誰がどうやって作った。さらには原材料の場所まで分かってしまう。


 ニンゲンであれば、その人物の過去に何があったのか分かる。何を成し遂げ、何を残したのか、そういったことが分かるのだ。もちろん全ては分からない。それに、鑑定スキルの威力や精度には、練度が大きく関わってくる。


 アキラのように、勇者としての力を持つ者の鑑定は非常に強力だ。

 しかし、マリーナはこの世界で生まれたマーメイド族。優秀な鑑定スキルがあったとしても、彼女には自信が無かった。


 ――勇者を鑑定することに。


「どれくらいの強度で鑑定しましょうか……?」


 マリーナは、竹内の無礼な口調など気にならないくらい緊張していた。


「うーん、そうだな……。ここ二十日間くらい遡って鑑定してくれないか?」


「……わかりました」


 マリーナはそう言って、竹内の前で目を閉じた。この部屋の外に衛兵が待機しているが、ここには三人しかいない。佐々木と竹内は、マリーナの不用心さに苦笑していた。


 当の本人はそれどころではない。勇者竹内のここ二十日間を鑑定するために、全力を振り絞っていた。額に汗が滲み、呼吸が荒くなる。足と手が震え、ふらつき始めた。マリーナはそこで目を開けた。


「勇者タケウチ!」


「お? おお」


「あなたにはヘルミ・ラックという軍師がついていますね?」


「ああ。優秀な奴だぞ?」


「……あなたは軍師ヘルミの魔法やスキルを知っていて、そんな事を言っているのですか?」


「あいつは回復系魔法が得意な奴だ。あとは頭脳労働かな? 作戦の立案や補給物資の手配、そんなのはヘルミがひとりでやってのける優秀な軍師だ」


 脳天気に答える竹内を見て、マリーナは頭を抱える。


「ヘルミは、自分の能力を隠しています。彼女は精神系の魔法と、精神系のスキルを取得しています。それを使って、勇者タケウチ、勇者ササキ、あなたたちは昨晩操られていたのです」


「はあ? バカなこと言ってんじゃねえよ。俺とヘルミは、もう長い付き合いで……、あれ? 何年の付き合いだっけ?」


 竹内の記憶力が怪しい。それを見た佐々木が口を開く。


「竹内くん、さすがに忘れた、は無いんじゃないかな? ほら、あのときから竹内くんと……。えっ? あのときっていつだっけ……?」


 竹内も佐々木も、軍師ヘルミに関しての記憶がないのか、鎖に繋がれたまま慌て始めた。


「ササキ、タケウチ、ふたりとも落ち着いてください。私は先ほど二回の鑑定を行ないました。一度目の鑑定では、ふたりとも軍師ヘルミによって、スキル〝精神誘導(サイコドライブ)〟を使用されていました。珍しいスキルですが、その効果は対象の人物を意のままに操れるというものです」


「くっ……。あり得ねえ! 何なんだそのスキルは! ヘルミがそんな事するわけがないだろっ!」


 竹内はくくりつけられた椅子の肘置きを握り潰す。


「竹内くん。ちょっと静かに。話を聞いてみよう」


 佐々木が止めに入った。彼らは鎖で繋がれていても、簡単に断ち切って脱出できる力を持っている。おとなしくしているのは、ここが異国の地であることと、昨晩の記憶が無くて、様子を見ているからである。


「……続けますね。スキル〝精神誘導(サイコドライブ)〟は気付けばその効果が無くなるので、おふたりはもう大丈夫です」


 マリーナは昨晩以前に起きたこと、つまり鑑定して見えたものを語っていく。それは、勇者竹内がこの二週間ずっとスキル〝精神誘導(サイコドライブ)〟で操られていたというものだった。


 竹内はそれでも納得しない。歯をむき出しにして怒りを露にし、マリーナを睨み付ける。


 マリーナは続ける。ササキが操られたのは昨晩だと。


 威嚇し続ける竹内に向き直り、マリーナは言った。


「我々マラフ共和国は、あなた方がダンジョンを利用して攻め込んでくることを察知していました。兵站線が途切れたことも知っています。あなたが将軍であるのなら、その時点で部下を率いてデレノア王国へ帰還するのが任務ではありませんか? ――あなたは何故、軍を解散したのですか? あなたは何故、転移魔法で帰らなかったのですか?」


「そりゃ、みんな家に帰さないといけない……から……。いや、あり得ねえ。解散なんてしちゃ、ひとりずつ始末される……。転移魔法も使えるが……、何で俺はそれに気づかなかったんだ」


 そう言って竹内はガックリとうな垂れた。


「はい! ふたりともしっかりしてください!!」


 マリーナは手を叩いて、力なくうつむいたふたりを振り向かせた。


「スキル〝精神誘導(サイコドライブ)〟は、知っていれば防御は簡単です。それは、目を合わせないことです」


 簡単すぎる対処法だが、知らなければ防ぎようのないスキルだ。マリーナは続ける。


「あなたたちは、それと知らずにスキルを使われ、操られていた。昨晩の殺人を覚えてない事も、それで筋が通ります」


 それを聞いたふたりは、少しだけ安堵の表情を浮かべる。


「だけど、殺人は『知りませんでした』で済む話ではありません。ですので、あなた方デレノア王国の勇者は、マラフ共和国において殺人を犯した実行犯として裁かれます」


「……」

「……」


 言い逃れは出来ない。勇者のふたりは唇を一文字にして、マリーナの話を聞いていく。


「亡くなった四人の冒険者にも家族がいるのです。分かりますよね」


「……」

「……」


「分かりますよね?」


「……な、何を言いたいんですか?」

「……遺族に保証金を支払えってことだろ? こいつマーメイド商会の経営者だし、がめついよな」


 困惑した佐々木の声に竹内がザックリと説明する。


「タケウチ。あなたの返事は勇者として及第点。しかし将軍としては落第点です。あなた方デレノア王国軍は、マラフ共和国へ侵攻してきました。何を言おうと、私の裁量一つで、あなた方を戦犯として裁くことが出来ます。デレノア王国が支払う戦争賠償金に色をつけて下さい。あなた方が自由になれる道はそれしかありません」


 マリーナは怒り散らして話し終え、二人の返事を待たずに部屋からでていった。


 部屋に残されたふたりは顔を見合わせる。


「はあ~、困ったことになったね……。国に迷惑かけることになるとは……」


「……いまだに信じられない。ヘルミが裏切っていたなんて」


 鎖で椅子にくくりつけられた勇者ふたりは、途方に暮れるしかなかった。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 城門で領主に会いたいと言ったら、すぐに案内された。佐々木や竹内と顔が似ているからというわけではなさそうだ。まるで俺が来ることを予想していたかのような対応で、少し不安になった。衛兵や城内の人々からの視線も非常に冷たくて、敵意を感じる。


 この街の領主が住まうアクアリウス城は、海の真珠と呼ばれている。その評判に違わずふるほどに美しく輝いていた。その姿は、水瓶から溢れ出る水でできた橋と、青空を映す四つの塔と、真珠のように白く輝く本館からなっていた。城は海と一体となり、波の音や風の香りを楽しむことが出来た。


 城の中は、水の王国と呼ばれるほどに清涼感や爽快感に満ちていた。その空間は、水色や白色の壁や床で統一されており、珊瑚や貝殻のアクセサリーがあちこちに飾られていた。城の中には水路や噴水が多くあり、水の音や光が心地よく響いていた。


 ひとりで行動したことで仲間から責められたのに、何故かひとりで行動している俺。佐々木と竹内を助けに行くなら、顔の作りが似ている俺が適任ってことになったのだ。と言っても、話し合いでの交渉だ。


「こちらです」


 衛兵は執務室のドアをノックして開いた。潮騒が聞こえてきた。変わった執務室だ。窓というか、海側の壁がない。そこから出るとすぐ泳げるようになっていた。


 衛兵がでていくと、金髪緑眼の領主、マリーナ・アクアリウスは、俺に座るようにとすすめてきた。


「ソータ・イタガキですね。どうぞおかけになってください」


「……はい」


「ではさっそくですが、あなたに選択肢を与えます。勇者二名が殺人罪で処刑される。または、私の依頼をソータ・イタガキが受けたため、勇者二名が無罪になる。他に選択肢は存在しません。どちらにしますか?」


 話が早いな……。でも、これだからお偉いさんは嫌なんだよ。こういうのって()前提(ぜんてい)暗示(あんじ)だよな。いわゆる二択を提示して「どっちか選ぶしかないよ」と思わせるやり方だ。ああもう、クソダリい。


「いま依頼を受けている最中なんで、そのあとになりますけどいいですか?」


「まあっ! 決断力のある方ですね。ありがとうございます。では簡単に申し上げますね」


「はい。どうぞ何なりと」


「スターダスト商会を潰してください。我ら七連合の邪魔になっています」


 七連合か。たしかこの国を仕切ってる大商会の集まりだっけ。いいね。マリーナからの依頼を受ければ、スターダスト商会の情報を詳しく得ることが出来る。七連合からのバックアップも期待できる。

 つまり、女帝フラウィアからの依頼を達成しやすくなるってことだ。


 子爵(ヴィカウント)エミリア・スターダストの情報。ついでにルイーズ・アン・ヴィスコンティ伯爵夫人の情報も持ってないかな?


 俺は思わず知らず笑みを浮かべていたようだ。


「その不敵な笑み、さすが獣人自治区を大爆発から守り、王都ハイラムのバンパイア騒動を治めた冒険者ですね。帝都ドミティラの件は残念でしたが」


 やっぱり調べはついていたか。帝都ドミティラの件は、スターダスト商会を中心に起きた爆発で、大勢の死傷者が出た。魔石電子励起(れいき)爆薬の流通経路を知っている可能性まで見えてきた。


「では、依頼遂行のため、こちらの条件を提示します。スターダスト商会の詳細な情報と、エミリア・スターダストの逃走先を教えて下さい。ついでにルイーズ・アン・ヴィスコンティ伯爵夫人が密入国しているはずなんですが、所在を知りませんか?」


「もちろん情報は差し上げます。ですが、エミリア・スターダストとルイーズ・アン・ヴィスコンティ伯爵夫人、ふたりの所在はこちらでも掴めておりません。スターダスト商会の情報だけになりますが、よろしいですか?」


「ええ、十分です。それと七連合も協力してくれるんですよね?」


 マリーナは七連合という言葉に反応し、顔をひくつかせた。何か不都合なことでもあるのか?

 彼女は七連合の一角、マーメイド商会の代表者だ。マラフ共和国は七連合が動かしていることくらい、こっちも調べはついてんだ。


 ミッシー、ファーギ、マイア、ニーナ、四人から聞いただけ、ともいうけど。


「え、ええ……も、もちろんです」


 どうしたんだろ……? マリーナは、急に滝汗をかき始めてしまった。七連合の件ではなさそうだな……。


『スキル〝鑑定〟の使用を確認しました。解析します……。改良と改善が完了しました。……おや? 再度改善を試みます。……ソータごめんなさい。鑑定の最適化が出来ません』


 あー、マリーナは俺を鑑定して、ニンゲンじゃないと分かって動揺したんだ……。それよりクロノス(汎用人工知能)のほうだ。


『最適化できないなんて珍しいな。スキルの名前から、効果は何となく想像できるけどさ』


『……そうですね。なんとか頑張ってみますが、あまり期待しないでください』


『無理しなくていいからね。いまでも過剰なくらい魔法とスキルがあるし』


『……はい。すみません』


 クロノス(汎用人工知能)との会話を終え、マリーナへ目を向ける。彼女の顔は見る見るうちに血の気を失い、蒼白となっていった。その姿は、まるで海の深みに沈んでいくかのようだった。震える手で机の端を掴み、よろよろと立ち上がる。


 マリーナの緑の瞳には、恐怖と戸惑いが混ざり合っていた。彼女は一瞬ためらったように見えたが、すぐに決意を固めたかのように俺に向き直った。


 そして、彼女は深々と頭を下げ、優雅な仕草でひざまずいた。その姿は、高貴な身分でありながら、何か重大なことを懇願しようとしているようにも見えた。

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