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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
10章 大陸横断

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213 リリス再び

 佐々木との魔導通信を切ったあと、最初に入った倉庫へ戻った。ここは荷物が積み上げられて通路のようになっているため、見通しが悪い。


 ミッシーとファーギ、三人で気配を探りながら進んでいると、突如として天井を突き破った神の目(ディンバインアイ)の光が降り注いだ。


 天井は穴だらけだ。俺もたいがいだと思うが、佐々木ももう少し自重した方がいいのではないだろうか。


 同じようにミッシーとファーギも、呆れた表情で光の柱を見つめている。


「何かあったのかな? 同じ倉庫内にいるみたいだけど」


 俺の声に答えたのはミッシーだった。


「急ごう、何かあったに決まってるだろ。……いや待て」


 走り出そうとしたミッシーは慌てて立ち止まり、祓魔弓(ふつまきゅう)ルーグを構えた。


「ふたり、いや小さいのがもうひとつか?」


 ファーギは魔導ショットガンを構える。


 俺も警戒する。不定型な闇脈(あんみゃく)を感じたからだ。


 バンパイアだとは思うが、凄く慌てている気配、苦しんでいる気配、そして悲嘆(ひたん)


 三つの気配が近づいてきている。バンパイアになりたてなのか、ニンゲンっぽい感情が溢れていた。


 両脇は壁のように積み上げられた商品で、一本道のようになっている。その先にある角から、白い霧の固まりが現れた。やはりバンパイアだ。


 ミッシーは迷わず光の矢を放ち、同時にファーギの魔導ショットガンが火を吹いた。


 俺は万が一討ち漏らしがあった場合に備える。


「ぐあああっ!?」

「ぎゃああああっ!!」


 矢と一粒弾(スラッグショット)が霧に当たると同時に、ふたりのバンパイアが姿を現した。


 それを見たミッシーは慌てて叫んだ。


「ヴィスコンティ伯爵!? エリザ!?」


 彼女は、まだ滅んでいないふたりのバンパイアに慌てて駆け寄っていった。もうひとつの霧は、空気に溶けるように薄まり、悲嘆の気配と共に消え去った。


 俺とファーギは立ち止まったままで、バンパイアに近づいていない。


「どういうこと……?」


 俺の疑問の声にファーギが応じた。


「ミッシーは、ヴィスコンティ伯爵家の者を知っていた。その家族がバンパイアになっていた。そんなとこだろうな……」


 なるほどねえ……。ミッシーの呼び方からして、ヴィスコンティ伯爵家の当主、グウィリム・アン・ヴィスコンティと、長女のエリザ・アン・ヴィスコンティだと推測できる。


 ミッシーは慌てて駆け寄ったものの、噛み付かれそうになって飛び退いている。彼女は攻撃をせず、ふたりのバンパイアへ向けてに必死に話しかけた。


「私だ。ミッシーだ! 落ち着いてくれっ、覚えてないのか!?」


 ミッシーはバンパイアを説得し始めてしまった。


 それを見たファーギは、困惑した表情で口を開く。


「どうする……」


 ファーギの「どうする」は、ミッシーを助けるかどうかではない。


 俺たちふたりで、さっさとバンパイアを滅ぼすかと、彼はそう言っているのだ。


「ミッシーに任せよう」


 個人的な事情があるかもしれないし。


「そうするか……」


 ファーギは渋々同意してくれた。

 ミッシーはバンパイアごときに後れを取ることはない。彼女はふたりのバンパイアを必死に説得し続けた。


 しかし、傷を負って血が足りないからなのか、ふたりのバンパイアは腹を空かした獣のようにうなり声を上げ、全く話を聞かない。ミッシーに噛み付こうとして、何度も何度も飛びかかっていく。


 ミッシーはしばらくすると、説得が無理だと悟ったようだ。腰に差したレイピア(刺突用片手剣)を一閃させると、一瞬でふたりのバンパイアの額を貫いた。


 そのときだ。ふたりのバンパイアは、ニンゲンの表情へ戻った。ふたりとも悲しげでいて、安堵したような表情を浮かべ、そして、灰になって崩れていった。


 ……今の現象は何だ。今わの際でニンゲンの思考へ戻る?


 ふたりのバンパイアは、明らかにヴェネノルンの血を摂取していた。そこらにいるバンパイアと一線を画す動きをしていたから間違いない。

 ただ、いまのような現象は初めて見た。これはヴェネノルンをちゃんと調べる必要がありそうだ。運良く確保できたし。


クロノス(汎用人工知能)さん、頼みます!』


 こういうのは丸投げしよう。


『うむ、よかろう』


 クロノス(汎用人工知能)から、いい返事をもらえて満足だ。俺と一体化した汎用人工知能とはいえ、別々の個性を持っているからな。ちゃんとゴマすりしとかないと。


 ――もしかすると、俺は二重人格?


『そんなことありません。ソータと私は、別々の人格を持っています』


 また思考を読んでやがる。


『それ二重人格だよね……? 俺の脳内にふたりの人格が存在するんだからさ』


『違います。アイテールをもっと理解してください』


『そう言われましても……』


 アイテールが神の世界のものだとは理解しているし、俺はそのアイテールで構成されたニンゲンモドキだ。それくらいの認識で構わないだろう。


「――おいっ! ソータ!」


 あ、また考え込んでしまった。目の前に、本当に目の前にミッシーの顔があって驚いた。


「……」


「なんで顔を赤くする? 勇者ササキたちと合流したぞ」


「へ? マジで?」


 俺の視界には近すぎるミッシーしかいない。身体を傾けて、彼女の後ろを見ると、佐々木、竹内、軍師ヘルミがいた。

 こちらへ向かってきているが、三人とも相当疲れた表情をしていた。


「お疲れっ!」


 元気は無さそうだが元気を振り絞った竹内は、歪な笑顔で手を振ってきた。


 佐々木と軍師ヘルミは、浮かない表情のまま眼を合わせない。


「お疲れ様です。場所があれなんで、いったんバンダースナッチへ行きましょう。そこで少し情報の擦り合わせをして、休憩しましょう」


 三人とも休憩してもらった方が良さそうだ。


 俺は返事を待たずに、バンダースナッチとゲートを繋げた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 地上から約二百キロメートル離れた空。バンダースナッチは、本来なら人工衛星が飛ぶ低軌道を周回していた。この惑星の重力に引かれて自由落下状態にあり、内部は擬似的な無重力状態だ。


 そのせいでさっき、キッチンの方で悲鳴が聞こえてきた。たくさん作っていたスープストックがぶちまけられてしまったようだ。俺は掃除に狩り出されてようやく一段落ついたところだ。


「ふいー、やっと終わったっす」


 この高度まで上昇させた張本人――リアムが操縦室に戻ってきた。ふわふわ浮かびながら器用に席について、パネルを操作し始めた。



 こうなる前に、佐々木、竹内、軍師ヘルミ、それと俺たちで、情報の擦り合わせと、今後の方針が決まった。


 俺たちのパーティーは引き続き、女帝フラウィアからの依頼、子爵(ヴィカウント)エミリア・スターダストを見つけて滅ぼすことを目指す。それに加え、ルイーズ・アン・ヴィスコンティ、つまりユハ・トルバネンの目的を探る。出来ればふたりとも討伐する、という事になった。


 佐々木は中村を殺害した張本人、山田(やまだ)奈津子(なつこ)を今すぐ殺すと言い張った。だから俺は、彼女たち勇者の時間停止魔法陣を解除しなかった(・・・・・・・)


 竹内も殺すと言い張ったが、俺は無視した。


 私刑(・・)なんて、とんでもない。


 デレノア王国の法で裁けと突っぱねた。


 佐々木がグチグチ文句を言うので、苦し紛れに風呂に入ってくればと言ったら、目を丸くして驚いていた。


 バンダースナッチはそれほど大きな空艇(くうてい)ではない。ただ、空間が拡張されているから、中はかなり広く使える。

 空艇(くうてい)に空間拡張魔法陣を施すなんて、珍しいことらしい。維持するための魔石代がばかにならないからだ。


 皇帝エグバート・バン・スミスからバンダースナッチを下賜(かし)されたときには、すでに空間拡張されていたんだ。だから別に気にも留めなかった。その上いまは改造されて、動力源は神威結晶に変わってるから魔石の補充は必要ない。


 お風呂は広々として、湯船には温めたヒュギエイアの水を入れていると伝えると、喜んで風呂に向かってくれた。勇者の二人と軍師は、今風呂に浸かっているところだ。もちろん男女別の風呂場だ。


 これで少しは落ち着いてくれればいいんだけど。


 考え事にふけっていると、リアムが独り言を言っているのか、それとも俺に話しかけているのかわからない声が耳に入った。


「絶景っすねー」


 ここは高度二百キロ。窓の外に広がる景色は、オレンジ色に染まった幻想的な世界だった。太陽が沈みかけて、地平線にかかる雲を燃えるように照らしている。ここから見下ろす光景は、地上で起きている騒動など忘れてしまうくらい心を清めてくれた。


「リアムの悪ノリのおかげだけどな」


「ひどいっす! オレは地上から狙われない高さを維持してただけっす!!」


「高度まで指定してなかったしな……」


 この高度から落とした神威神柱(グローイングピラー)で、ブライアン(デーモン憑き)を狙ったが、どうなったのか分からない。ただ、咄嗟に張った障壁のおかげで、軽い怪我人しか出ていない。不幸中の幸いだった。


 絶景に見入っていると、操縦室にマイアが入ってきた。


「ソータさん。さっきはすみませんでした」


 ぺこりと頭を下げるマイア。さっきとは、マイアが神威神柱(グローイングピラー)を落とした件だ。


「あー、気にしないで……、と言っても無理か。次からは冷静に判断してくれたら大丈夫」


「はいっ! 気を付けます! ……それと」


「……テイマーズの三人?」


「そうです……。ダンピールになったから大丈夫だと言って、話を聞きません」


「うーん……。俺が確認してみるか。どっちにしても、アトレイアの冒険者ギルドに行かなきゃだし」


「ありがとうございます。……あたしとニーナはどうしましょう? 同行した方がいいですか?」


「うん? せっかくだし、アトレイアの街で買い物するとか? 単独行動じゃなきゃ大丈夫だと思う。俺がテイマーズとメリルを見ておくからさ」


「……はあ、そうですか」


 マイアは歯切れの悪い声のまま操縦室を出て行った。


「はぁ……」


 リアムのため息が聞こえてきた。妙にわざとらしい。分かってるよ。マイアは俺と一緒に外出したがっていた。それをはぐらかした俺に、リアムは不満を示したのだ。


「そんなんだから女っ気がないんっすよ」


 直接言って来やがった。


「やること多すぎて、今は時間がないんだ」


「そっすかー? ソータさん忙しそうにしてるっすけど、女子とデートくらいできるんじゃ?」


「……かもな」


 確かに忙しい。地球の人びとにこの世界へ移住してもらうためには、安全で快適でなければならない。そのために頑張っているんだ。


 だけど、地球の様々な国、様々な組織、様々な個人、それらを全て満足させることは出来ない。だから強制するわけではない。


 そういうの諸々ひっくるめて、今回一番のネックになっているのは、魔女(カヴン)マリア・フリーマンの存在だ。


 実在しているのか疑いたくなるほど、存在が確認できないからな。ハセさん(汎用人工知能)が見つけられないって、今の地球上であり得ない――。


 やはりこっち(異世界)へ来ていると考えて動いた方がいいな。


 そうなるとやはり、マリア・フリーマンの部下、ルイーズ(ユハ・トルバネン)をとっ捕まえることが優先になってくる。ただ、ルイーズ(ユハ・トルバネン)の行方は、完全に分からなくなってしまった。


「おいこらおっさん!」


 いきなり操縦室に入ってきて開口一番、アイミーに睨まれる。


「どうした?」


「そいつのせいで、夕ご飯がない。アトレイアの街に食べに行ってもいいか?」


 やさぐれちびっ子金髪ドワーフの女の子。相変わらずの喋り方で将来が心配になる。アイミーがそいつと言っているのは、バンダースナッチを高高度に上昇させたリアムのことだ。スープストックがなくなって、作り直す時間がないのだろう。


「ああ、いいよ――」

「やった!」

「――俺も一緒に行くけどね」


「げっ!? まだ経過観察する気なの?」


「そうだ。ダンピールになって、まだ一日半くらいしか経ってないだろ? 最低でも一年は経過観察だ」


「うぇぇぇ。マジで?」


「誰か同行すればいいんだ。我慢しろ。それはそうと、アトレイアに行くんじゃないの? 行くなら着替えてこい」


「おっ! やった! 着替えてくる!!」


「ハスミンとジェス、メリルにも伝えておけよー」


「わかったー!」


 アイミーは全力で廊下を走り去っていった。現金な奴だ。



 周回軌道をはずれ、バンダースナッチはアトレイア上空へ移動した。こんなことが出来るのも、神威結晶が動力源になっているおかげだ。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 いやー、大変だった。


 メリル、アイミー、ハスミン、ジェス、四人のドワーフと、アトレイアの店で夕食を摂っていると、マイアとニーナが駆け込んできた。そのあとミッシーとファーギが来て、佐々木と竹内、それに軍師ヘルミまでと勢ぞろいした。


 あ、リアムは、バンダースナッチの整備でお留守番だ。


 大人数での食事となり、とても賑やかな時間だった。色々な話題が飛び交ったあと、亡くなった冒険者たちやヴィスコンティ伯爵家に黙祷を捧げてお開きとなった。


 俺は冒険者ギルドのマスター、ジョセフに報告をしに行こうと思っていたが、パーティーの仲間に止められた。頼むから休んでくれと言って。

 またか、という思いもあったけど、気遣ってくれているのを無碍にも出来ない。


 それでいま、ひとりでアトレイアの街を散策中なのだ。


 ダンピールの四人は、ファーギが面倒を見ている。


 酒場や飲食店、ぽつぽつと並ぶ屋台、人びとの行き交うこの街は活気に満ちている。繁華街を抜けると、大きな川が目に入った。この川は運河として利用されており、港から遡上した船が荷物を内陸部へ運んでいく。


 今も巨大な船が、川を力強く進んでいる。川辺の街灯の下では、ベンチに座ったカップルがたくさん見られた。もしヒト族だけだったら、地球にあるどこかのデートスポットと見まごうばかりだろう。しかし様々な種族が入り混じるこの街では、ヒト族は少数派だった。


 街灯の下に空いているベンチがひとつあった。


 そこに腰掛けて月明かりに照らされる水面を眺めていると、俺の前に一人の女性が立ち止まった。


「いつになったら話しかけてくるのかと思ってたよ」


「デートでもしようと思って、機を見ていたのだが?」


「冗談はやめてくれ……で、何の用だ、リリス・アップルビー」


 彼女は天使のように清らかで、悪魔のように妖艶だった。青い瞳は知性と冷徹さを湛え、金色の髪は月の光を反射して揺れた。白いブラウスに黒いスカート。シンプルな服装で目立たないようにしたつもりだろうが、そんなものは無駄だった。


 カップルの男たちは彼女の方を見やって、目を奪われている。絶世の美貌は彼らの目の前の彼女たちを軽くあしらって、男性陣の心を掴んで離さなかった。


「……話がある」


「座って話す?」


 俺はさりげなくベンチに目をやると、リリスはそこに座って話し始めた。

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