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量子脳で覚醒、銀の血脈、異世界のデーモン狩り尽くす ~すべて解析し、異世界と地球に変革をもたらせ~  作者: 藍沢 理
10章 大陸横断

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212 レオン・アン・ヴィスコンティ

 佐々木、竹内、軍師ヘルミ、そして先行していたスターダスト商会の冒険者たち。彼らは神威神柱(グローイングピラー)の大爆発後、倉庫内を再度徹底的に捜索していた。


 佐々木たちは山田(やまだ)奈津子(なつこ)たち勇者を探し、冒険者たちは黒髪のバンパイアを探していた。目指す目標は異なるように見えるが、同一人物を追っている。


 彼らは個々に散って捜索するのではなく、安全を確保するため集団で行動していた。全員が黒い目出し帽とゴーグルを装着しており、その見た目は異様な集団となっていた。


 先頭を歩くレイブン・ハートが停止の合図を出すと、全員が音も立てずその場に留まった。


 倉庫内の作業員は全員避難が完了して、人影は一切ない。


 しかし、そこにいる勇者と冒険者たちは確かに感じていた。


 何かが近づいていると。


 緊張が高まる中、佐々木の持つ魔導通信機が振動した。


「やあ、ソータくん。そっちはどう? ……ああ、わかった。後で合流しよう」


 佐々木はリラックスした口調で応答し、通信を切った。ソータからの連絡内容は、もちろん山田(やまだ)奈津子(なつこ)を見つけたというものだ。佐々木は今回、殺害された中村の復讐を成し遂げるためにソータと共に行動している。それゆえに彼から連絡があったのだ。


 佐々木はすぐにソータと合流するために前を向いたが、突如として動きを止めた。目の前に予想外の人物が現れたのだ。


「その声はササキさんですね。お久しぶりでございます。しかしながら、こんな状況で通話するなんて、さすがは勇者。なかなか余裕でございますね」


 佐々木の前方、荷物が山積みになっている場所の上に、グウィリム・アン・ヴィスコンティ伯爵(・・)が立っていた。彼は顔を見ずとも、声で佐々木だと確信したようだ。


「ヴィスコンティ伯爵……」


 佐々木の声には驚きと警戒心が混ざっていた。二人の間には何か因縁があるようだ。


「なんだ、ヴィスコンティ伯爵家の全員がバンパイアかよ!」


 先頭に立つレイブンが呆れた声をあげると同時に、魔導ライフルを構えた。他の冒険者も、魔導銃や弓などの飛び道具を構える。


「ニンゲンの世界での伯爵は、もう退くことにしました。現在の私は、子爵(ヴィカウント)グウィリム・アン・ヴィスコンティと申します」


 彼は黒髪を後ろで纏め、黒い瞳は鋭い光を放っていた。白い肌には一切の皺がなく、年齢を感じさせない。本来の伯爵は元から高貴な雰囲気を纏っていた。そこに違和感はないが、いまは若々しくなり唇から鋭い牙が見えていた。


 伯爵でないと言っておきながら、彼はデレノア王国伯爵の正装を身にまとっている。紺色の上着に金の縁取り、胸元にはヴィスコンティ家の紋章が刺繍され、腰には銀色の剣を携えていた。


「そんな口上はいらねぇんだよ。撃てっ!」


 レイブンの声を合図に冒険者たちは一斉に攻撃を開始した。しかし、それらはヴィスコンティ伯爵が霧に変わったことで、全て空振りに終わった。


「ちっ! そんなことしても無駄だっ!!」


 レイブンは佐々木からもらった、閃光発音筒(スタングレネード)催涙手榴弾(カプサイシン入り)のピンをぬいて投げた。他の冒険者もそれに続く。


 ――ドドドドン


 ヴィスコンティ伯爵の霧周辺で、神威(かむい)の閃光と爆音、そして唐辛子成分がまき散らされた。


「ぎゃああああっ!!」


 霧から飛び出してきたヴィスコンティ伯爵は、神威(かむい)の閃光で肌と目をやられ、爆音で耳も聞こえなくなっている。それに、目に入った唐辛子の成分で激痛を感じているのだろう。通路に落ちて転げ回りながら苦しんでいた。


 対して勇者や冒険者たちは、黒い目出し帽とゴーグルで完全防備。光も音も唐辛子も、全て防御できていた。


「高位のバンパイアは、霧になったら捕まえようがないからな。ササキ、おまえのこれ、助かったぜ!」


 レイブンは振り返り、佐々木に向かって親指を立てた。そして再びヴィスコンティ伯爵へ向き直り、銀色に輝く魔導ライフルを構えた。


子爵(ヴィカウント)いただき――」


 ――ドン


 銀色の魔導ライフルから、強力な発光弾が発射された。


 ――死んだはずの冒険者のリーダーによって。


 次の瞬間、レイブン・ハートの頭部が吹き飛んだ。


 騒然となる一同。レイブンの首から上は消え去り、噴水のように血を噴き上げている。彼はそのまま力なく倒れた。


「くっ……」


 リーダーの口から堪えられない笑い声が漏れた。


 冒険者たちは一瞬何が起きたのか解らず呆けてしまったが、リーダーの取った行動は誤射ではなく、明らかにレイブンを狙っていた。


 それに気づいた瞬間、冒険者たちはリーダーから距離を取る。後方にいる佐々木、竹内、軍師ヘルミ、三人も後ろに飛び退いていた。


「リーダーがさっき死んでることに気づけないくらい、スキル〝魂の鎖(ソウル・ジャック)〟が超強力になってるし! ヴェネノルンの血ってすげぇな……。僕の闇脈(あんみゃく)に誰も気付けなかったねっ! あ、あと、お父様は殺させないよ?」


 勇者を含めた冒険者たち全員が、暗示にかけられていた。


 がたいのいいリーダーの姿は、小柄な少年の姿へと変わった。闇脈(あんみゃく)に気付けない。つまりそれは、ソータと同じで、闇脈(あんみゃく)の使用効率が百パーセントだと示している。


 その少年は、子爵(ヴィカウント)レオン・アン・ヴィスコンティだった。彼はスキル〝変貌術(シェイプシフト)〟でリーダーの姿へ変貌していたのだ。ニンマリと笑みを浮かべ、冒険者たちをねめつけるように見回す。


「いつの間にっ! くそっ、リーダーはどうしたああ……ぁ……」


 冒険者のひとりが、剣でレオンに斬りかかった。しかし、途中で目がトロントなり、振りかぶった剣を下げてしまった。他の冒険者も同じように武器を下げていく。


「スキル〝魂の鎖(ソウル・ジャック)〟すごいなあ……」


 レオンは自分で使ったスキルに感心し、その効果を楽しんでいるかのようだった。強力な暗示にかかった冒険者たちは、剣や短剣で自害していく。自分自身で喉をかききり、腹を切り裂く。激痛を感じているはずなのに、彼らは笑顔のまま死んでいった。


 狂気の現場は血の臭いが立ち込め、レオンはさらにスキルを使う。顔を動かし、後方へ逃げている勇者たちへ視線を向けた。


「おっ? さすが勇者」


 レオンと佐々木たちの間に、突如として壁が出現した。これは竹内の土魔法、グランウォールの仕業だ。レオンの視界を遮るために使われたのだ。


「お父様、大丈夫ですか?」


 レオンはヴィスコンティ伯爵のもとへと駆け寄り、彼の背中を優しくさすり始めた。ヴェネノルンの血で強化されたバンパイアにとって、閃光発音筒(スタングレネード)催涙手榴弾(カプサイシン入り)の効果は強烈すぎたのだ。


 うめき声を上げながら苦しむヴィスコンティ伯爵に回復の兆しはない。それをとても心配しているレオン。バンパイア化しても、ヴェネノルンの血を飲んでも、親子の関係性は変わらないのだろうか。


「兄様、手こずってる? わっ! お父様っ!?」


 霧が人の形となり、現れたのは子爵(ヴィカウント)エリザ・アン・ヴィスコンティと、子爵(ヴィカウント)リリー・アン・ヴィスコンティのふたり。


 エリザのほうは父親が攻撃されて苦しんでいると理解しているようだが、リリーの方はまだ小さい。父が苦しんでいるのは理解しているが、何故苦しんでいるのか理解出来ていなかった。


「ううぅ……」


 そんな父を見て、とたんに涙ぐむリリー。彼女は父――ヴィスコンティ伯爵に覆い被さって泣き始めてしまった。


 しかしここは家ではない。ましてや、ゆっくり父を看病できるようなタイミングでもなかった。


「――っ!?」


 レオンは上を見上げて驚愕する。


 彼ら四人の上に、通路と同じ幅の物体が現れた。竹内のグランウォールだ。それはぶ厚いアクリル板のような形で、彼ら目がけて落ちてくるところだった。


「エリザ、お父様とリリーを頼む!」


「えっ!? 兄様、何をする気ですか?」


「お父様は動けない。すぐにここから離脱するんだ!」


「はっ、はいっ!!」


 レオンの判断は早かった。上から落ちてくる物体が何か分からない。けれど、あれが落ちれば父が滅んでしまう。そう思って、彼は妹のエリザに父を託した。


 エリザは言われてすぐに行動した。父の腕を引っぱり、リリーを小脇に抱えて走り出す。彼女の動きには躊躇いがなく、兄の指示に絶対的な信頼を寄せているようだった。


 ――ドスン


 倉庫の床が割れて、グランウォールがめり込む。相当な質量があったようだ。ただ、そこで灰になったバンパイアはひとりも居なかった。


「さすがに素早いな……」


 少し離れた場所で竹内が呟く。その声には僅かな苛立ちが混ざっていた。


「素早いな、じゃないでしょ? 端から無理だと分かってたくせに」


 佐々木から突っ込みが入る。彼らはたったいま仲間の冒険者たちを亡くしたばかり。しかしそれを悲しむ様子は無い。彼らはこの世界で幾度となく戦い、幾度となく仲間を亡くしてきた。こんな場面には慣れている。

 中村のように近しい者を亡くせば、さすがに悲しむようだが。


 余裕の態度を崩さない勇者ふたりを見て、レオンは激高した。その顔には怒りと憎しみが渦巻いていた。


 竹内の目の前に姿を現し、爪で斬りかかった。その動きは迅速で、人間の目では追いつけないほどだった。


「はっ、遅ぇ」


 その爪は簡単にはじき飛ばされた。目を閉じた竹内のグランウォールで。彼の反応速度は、レオンの予想をはるかに超えていた。


 レオンはすぐに霧と化し、竹内の背後に現れる。


 振り向いても間に合わないタイミングだ。


 レオンの爪は、竹内の首目がけて迫っていく。その瞬間、時間が止まったかのように感じられた。


「こっちは三人いるからね?」


 レオンの爪を斬り飛ばす佐々木。彼の手には魔導銃から伸びた神威(かむい)煌刃(こうじん)が煌めいていた。もちろん目を閉じている。佐々木の動きは流れるように滑らかで、まるで予測していたかのようだった。


「ほら、油断しちゃダメですよ」


 レオンが振り返ると、目を見開いた軍師ヘルミがいた。もちろん目出し帽とゴーグルで顔は見えない。しかし、その声には冷たさと決意が滲んでいた。


「ぐっ!? そのスキルはヘルミか! なんでお前がっ――」


 レオンのスキル〝魂の鎖(ソウル・ジャック)〟が効かない。彼はヘルミの正体を知っている。しかし体が硬直して言葉を続けられなかった。彼の顔には驚愕と恐怖が浮かんでいた。


「黙りなさい。能力が高くても、使いこなせなければ無意味ね」


 軍師ヘルミ・ラックは、精神系の魔法やスキルを取得している。今回はレオンのスキルが発動する前に、スキル〝メンタルショック〟を使って、一時的に相手の動きを止めた。そして彼女の瞳は、哀しみに濡れていた。その表情には、かつての知己に対する複雑な感情が垣間見えた。


 竹内はその一瞬を見逃さなかった。閃光発音筒(スタングレネード)催涙手榴弾(カプサイシン入り)を使って追い打ちを掛ける。その動きは迅速かつ正確で、長年の戦闘経験が滲み出ていた。


「ぎゃああああっ!!」


 効果はばつぐんだ。ヴィスコンティ伯爵と同じように、レオンも悶え苦しむ。彼の悲鳴は倉庫内に響き渡り、その苦痛は想像を絶するものだった。


「レオンくん。きみが小さい頃、僕が抱っこしたこと……覚えてないよね――」


 佐々木は目出し帽とゴーグルをはずした。あらわになった悲しげな顔で、彼は神威(かむい)煌刃(こうじん)を振るった。その表情には、過去の記憶と現在の現実との狭間で揺れる感情が浮かんでいた。


 振り上げた白い刃は、レオンの股から頭まで一直線に斬った。その動きは躊躇いがなく、決意に満ちていた。


「……残念だ。レオンくん」


 佐々木は残心を解かず、レオンから視線を外さない。その眼差しには、悲しみと決意が混ざり合っていた。


 佐々木の顔を見たレオンは、彼のことを思い出したのか、少し笑顔を見せた。その表情には、かつての純真な少年の面影が垣間見えた。


 ごめんなさい。レオンの口はそう動いた。けれどレオンの顔に一筋の線が入り、真っ二つに裂けた。その瞬間、時間が止まったかのように感じられた。


 ふたつに分れたレオンの身体は、床に落ちる前に灰と化した。その光景は、残酷さと儚さを同時に帯びていた。灰となって舞い散る様子は、まるで悲しい舞踏のようだった。


 そして、倉庫は静まり返った。重苦しい沈黙が空間を支配し、先ほどまでの激しい戦いが嘘のようだった。


「残りのバンパイアはどこに……あとふたりいたはず」


 軍師ヘルミは油断せず周囲を見渡す。その眼差しは鋭く、わずかな動きも見逃すまいとしていた。しかしそこにはもう、彼ら三人の気配しか残っていなかった。


「どうする、佐々木。逃げたバンパイアのふたりを探すか?」


 竹内は床に転がった冒険者たちを見つめながら声をかけた。その声には疲労と迷いが混ざっていた。


「いや……ソータくんが山田を捕まえたみたい。だからここに用はない。けど、亡くなった冒険者を放っていけない――」


 佐々木は天井を見上げ、動かなくなる。メガネを操作した後、佐々木はスタスタと歩き始めた。その表情には決意と覚悟が浮かんでいた。


「――竹内くん、ヘルミさん、行こうか」


「お、おい、待てよ。こいつらそのままにしていく気かよ!」


 竹内とヘルミは佐々木を追いかけていく。竹内の声には驚きと戸惑いが混ざっていた。


 すると彼らの背後に、天井を突き破った真っ白な光の柱が降り注いだ。その光は、床に倒れた冒険者たちを一瞬で焼き尽くしていく。何発も何発も光の柱が天井を突き破り、死んだ冒険者の数だけ穴が開いたとき、ようやく光の柱は止まった。


 その光景は圧倒的で、三人は言葉を失った。まるで天からの裁きのようだった。


 佐々木は振り返ることなく、静かに言った。


「これで、彼らの魂は安らかに眠れる」


 その声には悲しみと安堵が混ざっていた。


 竹内とヘルミは無言で頷いた。彼らの表情には、複雑な感情が交錯していた。

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